前哨戦②
視聴覚ルームにさくらと朋美。相撲記者の中島とカメラマン二人。
「それじゃ始めさしてもらいます。さくらさんよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
中島京子は、まずわ当たり障りのないの質問からはじめ相撲をやる気っかけ、ここまでのさくらの相撲成績などを織り交ぜながら話を進めていく。
「さくらさんは日本の女子相撲のホープと云われて久しいんだけど目標としている選手って誰かいます?」
「はい、西経の稲倉恵美選手です」
「稲倉選手のどんなところが?」
「受けの相撲でがっぷり四つの相撲から圧倒的なパワーを生かした寄り、豪快な投げ技はいかにも横綱と云う感じでいつも威風堂々としてそれは勝っても負けても・・・私の目標とする選手です」
「さくらさんは稲倉選手を目標としているのねぇなるほど・・・」
「それと・・・吉瀬瞳さんもです」
その名前を聞いた朋美は一瞬反応してしまった。
「吉瀬さんはいつも冷静でものすごく頭脳的で・・・この前相撲を取ったらいつの間にか土俵を割らされていて・・・あの時からもっと考えて相撲を取らなきゃと思いました」
「吉瀬瞳かぁ彼女は派手さはないけど玄人ぽっい相撲をするよねぇわかる人にはわかると云うか・・・なるほどねぇ」と京子は云いながら・・・。
「今日、枇杷の島関と稽古したけど印象はどうだった」と京子はあえて触れることはやめようと思ったことをあえて投げてきた。
(ちょっと京子さんそれはないんじゃないの)と島尾は声を上げそうになったが
「やっぱり女子大相撲の力士は凄いと思いました。レベルが違うと正直に思いました。」
「個人的にはいい勝負していたと思うけど・・・・」
「たとえできたとしてもそれを継続してできるのは無理だと・・・」
「それはプロとアマチュアの差と云うことかしら?」
「勝負への執念というか勝ち負けが絶対のプロとそうでないアマチュアは全く違う世界だと感じたし私にプロの非情さはとても今は持てません」とさくら
「うーん・・・そうすると女子大相撲は行かない?」
「私は女子大相撲に憧れもあるし行けたら行きたいですけどまだそこまでの覚悟がないので今は・・・」
「そうか・・・ちょっと残念と云うか私的にはプロ入り宣言でもしてくれたらとか思ったけどでも期待はしていいのかなぁ?」
「頑張ります・・・」と笑うさくら
「なんか上手く逃げられたと云うか・・・女子大相撲で目標としている力士とかは?」
「はい。引退されましたけど葉月山さんです。小学生の時から憧れてます」
「絶対横綱か・・・そう考えるとさくらさんも稲倉も葉月山の相撲に似ているところがあるわねぇ」
「稲倉さんも葉月山は目標だって云ってました」
「へぇー、さくらさんって稲倉選手とはだいぶ前から親交があるの?」
「中一の時に・・・」
「中一って云うと・・・さくらさんはそのころそんなに大会って出ていないわよねぇ?」
「家を探しまくってやっと見つけたら映見さんに見つかって・・・」
「どいう事?」
さくらは相撲を本格的に始めた中学の時にすでに西経付属でエース的存在の映見に憧れていて家をまで会いに行った話をしたのだ。
「へぇーそんなことがあったの・・・でもそれってストーカーよねぇ」
「・・・・・」
と色々話しながら
「ちよっと余計な話色々話してしまったけど最後に高大校の意気込みをお願いします」
「なんとしても決勝に行って優勝したいです」
「多分、決勝は西経大だと思うけどもしそうなると稲倉さんや吉瀬さんとやれるかも知れないわねぇ」
「はい」と笑顔で答えるさくら
「女子相撲ファンもその対決は望んでいるはずなんで・・・・今日は長い間ありがとうございました」
「ありがとうございました」
さくらとのインタビューは予定していた時間30分より遥かにオーバーしてしまったがそれでも足りないぐらい濃密な話の連続だった。女子大相撲ができる前から取材している中島京子にとっても石川さくらの取材は色々考えさせられた。
石川さくらは中島京子に一礼して部屋を出て行った。京子も一礼して・・・・。
取材クルーが片付けをし始めると島尾朋美が京子に詰め寄ってきた。
「なんで枇杷の島関と稽古のことをさくらに振ったんですか!さくらから何を云わせたかったんですか!」と朋美は怒り気味で・・・。
「振るつもりはなかったけど石川さくらさんならそつなく答えてくれると思ったからよ。彼女の言葉聞いたでしょ・・・。彼女が枇杷の島関を罵倒するような発言したら私はその部分は削除すれば良いと思ってたからでもその必要ないなぁとそれより問題は島尾監督じゃないかしら」
「私ですか!?」
「貴女、あの時さくらさんに止められていなかったら枇杷の島関を殴っていたんじゃないの?」
「・・・・・」
「もしあの時、貴女が手を出していたらどうなったと思う?」
「でもあれは!」
「「明星高校女子相撲部監督。枇杷の島関を殴る」相撲部監督解任どころか相撲部廃部でしょうねぇそれを免れてもしばらくは活動停止でしょうね」
「それは・・・・」
「石川さくらはあんなに大人の対応をしたのに貴女のやろうとしていたことは中学生並みねぇ・・・」
「・・・・・」
「貴女は石川さくらに助けられたのよ・・・一生頭が上がらないんじゃないの?」と含み笑いで・・・
朋美はもう何も云えない中島京子の云う通りだ。もしあそこで殴っていたら格好の特ダネだった。ましてや教師がやったとなれば・・・。
「貴女の気持ちは私も同じよ。それ以上に部員も一緒の気持ちだったでしょ・・・・。だからと云って貴女が手を挙げてしまったら他所のスポーツ学校と同じじゃない」
「すいません」と朋美は小さな声で
「指導者が熱くなってしまったら間違いなく問題を起こすわ。指導の行きすぎも指導者が熱くなってそれが度か過ぎると体罰から暴力になるそしていつのまにかそれを容認する見たいな空気ができる。そんな高校や大学はいくらでもあるわ。貴女にはそんな指導者にはなってもらいたくないしそれは倉橋監督に泥を投げつけること同じ。私も女子相撲を取材して20年近くなるけど西経の文武両道は今でも変わっていない相撲も学業もできなければ試合はおろか稽古もさせない。一時西経一強が崩れかけた時、私に相談めいたことをしてきたときもあった。あの倉橋さんだって迷っていたわ」
「えっ」
「西経が文武両道をやめて相撲第一主義なったら相撲部も終わるし倉橋さんも終わりですねって・・・云ってやったわ。今思うと私も随分偉そうなことを云ったものだけど監督は怒らないどころか貴女に救われたわって云ったのよ。」
「・・・・」
「他の監督さんなら激昂されたでしょうねぇ。私はあの時から倉橋監督の人間性に惚れてしまったのよ。あれだけ厳しい方なのに現役部員もOGの方も監督の悪口を云う人には会ったことがない。本当に信頼されているんだなぁーとその代わり相撲関係者にはあまり評判は宜しく無いみたいだけど・・・」
「代表監督下ろされた一件ですか?」
「今度の世界大会団体戦はプロ・アマ混合だと云う事を考えれば興行的に云えば引退された葉月山か゛代表監督になるのは大きな意味を持つし葉月山にはその資格はあると思う。ただもうその流れになればアマチュアの立ち位置は微妙な位置と云うか特に大学相撲は単なる趣味のスポーツと云う位置づけで高校からプロへと云うのが本流になると思う。西経は大学相撲ではいまだにトップだけど西経出身からは幕内に入って活躍ができた力士はけして多くない。西経ですべて消耗しきってしまうからなんて揶揄する人もいるけど女性力士にとって4年間の時間差は大きいと思う。枇杷の島関の躍進を見ればわかるわまぁ今日のことはあれだけど・・・」
京子は一呼吸おいて
「もし倉橋さんが高校や大学の時に女子大相撲があったなら間違いなく行ったと思うし活躍できたと思う。ある意味運がなかった・・・・。でも行かなかったこそ倉橋さんは女子相撲に真剣に取り組んでいる者のために自分の人生を使った。でも私にしてみれば使ってしまったと云うのが本音だと思う。倉橋さんは女子大相撲に行ったものが力士を引退しても生きていける力をつけさせておきたいって常々云っていたわ。実際、西経出身で引退した力士達はその後でも社会で活躍してる。相撲しか関心がない指導者からすると無駄なことをとおもっているでしょうねその分学業より相撲優先って・・・。でもそれは彼女たちのことを考えていないから・・・・」
京子はテーブルに置いてあるペットボトルのお茶を一口。
「御免、何私一人で喋って・・・って何の話だったけ?」
「京子さん倉橋監督の事よくわかってらっしゃるんですね・・・私は偉大な指導者の弟子と思って頑張ります」
「倉橋さんは意外と寂しがり屋だから偶には連絡してあげてまぁ貴女の方が私より知っているでしょうけど」と笑いながら
「それじゃ今日は本当にありがとうございました。何か今日は久しぶりに感動したと云うか石川さくらと云う物凄い原石を見せてもらったわ。原稿とか写真・動画は編集できたら貴女に送るからクレームがあったらその時に云ってね。じゃー引き揚げましょうか」と云うとカメラマン二人と部屋を出て行った。
一人部屋に残る瞳。倉橋監督の下で指導を受けたことに感謝の念を改めて深く抱いた。そして今は指導者として倉橋と云う偉大な指導者に・・・。




