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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への扉

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スカウト ⑤

 外から相撲場の様子を窺う朋美。稲倉映見と稽古している人物は正直誰だか分からないが体格的には稲倉にひけはとらないぐらいに如何にも相撲やっていると云うか下半身はよく鍛えられ体重は100㎏とはいかないまでもそれに近いかと云ってパワー重視かと云えばそうでもなく立ち合いからのスピードがもそれなりにある。


(中学生なんだろうけど・・・・)


 朋美自身は有力選手を探して明星に入れようとか云う事は殆どおこなったことがない。公立と云うこともありスカウト活動には消極的だった。


(西経だったら欲しいでしょうねぇ・・・もちろん西経以外も・・・)


 そして視線はずらすと男子を指導している大人の男性が目に入る。歳は50代半ばと云うところか


(あの人が監督の元旦那?)と凝視してしまったら思わず目が合ってしまった。


(えっ・・・)その男性は朋美に近づいてきた。

(まずい・・)と思ったところで急に逃げるのも逆に怪し過ぎるしどうすれば

その男性は相撲場の入り口の引き戸を開けると

「もし宜しければ中で見学しませんか外は寒いですしどうぞ」と

「えっ・・・あぁーでも稽古の邪魔になるでしょうから」

「大丈夫ですよ。うちは見学自由ですからどうぞ


 朋美は男性にそこまで云われて断るのもと想い相撲場へ。靴を脱ぎソックスを脱ごうとしたら

「あっそこに下駄箱がありますからそこからスリッパ―を履いてください」

「あっどうも・・・」とスリッパ―に履き替える。朋美は高校の相撲場ではいつも素足になっているので習慣でソックスを脱ごうとしてしまったのだ。

「いや相撲場に入るときソックス脱いで素足になる女性ってほとんどいないんで・・・もしかして相撲とかやられてました?」

「えっ・・・あぁーまぁ」としどろもどろの朋美。

「へぇーそうですか・・・それでどちらで?」

「えっ」


 朋美は一瞬迷った。正直に西経と云うべきなのかそれとも他校の名前を云うべきか・・・。ところが


「西経です」と云ってしまった。

「西経ですか・・・」その男性は考え込むような素振りを見せて

「西経だと大学の女子相撲部出身ですか?」


今更嘘を云ってもしょうがない。朋美は正直に・・・。


「はい、そうです」

「そうですか・・・倉橋監督の教え子さんなんですか・・・」とその男性

「倉橋監督をご存じで」と朋美は知らぬふりをして

「まぁー倉橋さんはアマチュア相撲を特に女子相撲をやっている人なら知らない人はいないでしょ?」

「あのー代表の方で宜しいですか?」と朋美

「あぁーすいません。私、濱田光と云います。この相撲クラブを引き継いで十年近くになります」と軽く一礼する。

「私、岐阜の明星高校で相撲部の監督をしている島尾朋美と云います。今日は別に偵察とかそんなのでわなく・・・」

「偵察?」

「あっいゃ・・・有力選手を捜しとかスカウトとかそんな話じゃなくて・・・」と自分で何を云っているのかわからない

「岐阜の明星って云うと石川さくらを指導されていると・・・」

「あっっはい」


 意外だった。瞬時に明星と聞いて石川さくらの名前が出てくるとは、子供達に相撲を教えているのだから教え子達がどこの高校に行くのかは気になるだろうしもし相撲を続けるのならアドバイスもするのだろうか?


「明星の監督さんならあの右側の女性わかりますよね?」と濱田

「西経の稲倉映見ですよね」

「なんでこんなところで稲倉映見がと想っているでしょ?」

「えぇー」

「この前西経大で石川さくらと稽古したそうで」

「はい」

「あなただから云うけど映見、さくらさんに悪いことをしてしまったと云っていましたよ」

「えっ」

「全く稽古もしないで高校女王のさくらさんと稽古とは云え真剣勝負してまったこと・・・そんな自分と稽古をさせってしまって申し訳ないことをしたと・・・」

「・・・・」

「ちょっと今の稲倉映見は色々あって精神的に疲れてるんでしょ」と濱田

「・・・・・」

「島尾さんは稲倉映見と面識は?」

「いえないです」

「そうですかあったら映見が気づくでしょうから」


 濱田は部員達に厳し視線を向ける。そして自ら稽古相手になり鍛えていく。怒号も飛ぶがそれはけして脅しではない。危険なことをすれば手も出る。ある意味今どきの指導者ではないかもしれない。稲倉映見はと云えばもう一人の少女と稽古を散々した後、今度は男子の小・中学生相手に稽古をつけている。しかし、朋美からすればとても大学横綱としての稽古としたら全くの不足。いや西経だったらお話にならないレベルである。ただ映見の顔は生き生きとしていた。稽古が楽だからとかそんな話ではなく小・中学生相手に稽古をつけ技も実戦で教えながらも口頭でも理論的に説明して相手に理解させる。一種の講習会みたいなことをやっているのだ。


 朋美自身は稲倉映見は試合会場などで見るぐらいであり話したことも一切ない。ただ西経の医学部に通っているぐらいだから頭はいいのだろうぐらいの人物像しか想像できなかった。


 そして最後は稲倉映見はあの少女と最後のぶつかり稽古お互い10本ずつ。お互い汗だくになりながら・・・。稽古を凝視していた朋美に濱田が話しかける。


「もう一人の彼女は中一なんですよ。見えないでしょ?まるで高校生か大学生かと思うぐらいに」

「気にはなっていましたが・・・」

「この前、映見にかち上げと云う名のエルボーをして血だらけにしましてねぇ映見の顔」と苦笑いしながら

「血だらけ?」

「映見は血だらけになりながらも四つの体制から時間はかかったが最後は土俵を割らせた」

「なぜそんなことに?」

「絶対に勝ちたかったそうです。相手が大学横綱であろうとも勝ちたかった。負けん気が強いんですがさすがに度を超えていましたけどねぇ。取り組みの後相当こっぴどく映見に怒られたようですが」

「でも、今はそんな雰囲気は・・・」

「彼女は沙羅と云うんですが今は彼女にとっては映見は先輩であり師匠だそうです。映見も沙羅のことは可愛い後輩として接しているようです」


濱田は全員を集合させ近々おこなわれる地区大会の伝達などをして稽古は終了。その後は相撲場の掃除を全員でやり解散となる。


「あのー」と朋美が濱田に

「どうでした稽古の様子は?」

「えっあぁーなんかみんな楽しそうだなーっと」

「相撲クラブなんかこれで良いんですよ。そこから優秀な奴は自主的に厳しい稽古を求めてきます」

「先生の話は同意します。確かに優秀な選手達はその上を自ら求めてきますからそれにアドバイスをするのが指導者だと・・・」


 相撲場の掃除が終わり生徒達は帰っていくと濱田は相撲場の明かりを消して鍵をかける。


「それじゃ私は鍵をセンターに置いてきますのでこの辺で失礼します」

「あのー」

「何か?」

「ちよっとお時間いただけませんか?」

「・・・・」


 濱田は彼女の言葉に若干当惑したような表情を見せたが


「わかりました。それじゃちよっとここで待っていてくれますか」と云うと濱田はセンターの方へ歩いて行った。


 朋美は相撲場の外に置いてある長椅子ベンチに座り待つことにした。濱田に時間を取らせて何を聞こうと云うのか?倉橋監督との今の関係?吉瀬瞳のこと?

単なる興味本位の実にくだらないことをよく本人に聞こうなどと・・・。相撲場で見た濱田の姿に朋美は嫌悪感どころか同じ相撲の指導者として同じような考えを持っていたことにある種の共感なようなものを抱いてしまった。

 

「倉橋監督と何故別れたのですか?」と聞いて何をしようと云うのかただ教頭の話では西経相撲部の監督になると云う事がきっかけだと・・・・。その時には女子大相撲の構想も具体化しようととていた時期であったことも倉橋監督の女子相撲の想いを募らしてしまったのかもともし学生選手として現役時代に女子相撲があったのなら倉橋監督は入っていただろうねぇ


 濱田さんは相撲をきっぱりやめて社会人として次の道にに行ったのに倉橋監督は女子相撲の想いを捨てきれなかった。朋美自身も英語の教師として邁進しようとしていたのにふとしたことで女子相撲部の監督になってしまった。別に断っても構わなかったのに・・・。


 そんなことを考えながらベンチに座っていると濱田がセンターから戻ってきた。


「すいませんロビーでもよかったんですが今日は土曜日で混んでいてもしよければ私の車のなかで外は寒いですからいいですかねぇ」

「私は構いません。おかしなことにならなければ」

「おかしなこと・・・なんかまるで」

「冗談です。すいません」

「なんか話しにくいなー」と笑いながら云うと駐車場に止めてあるミニバンの後席に乗り込む。エンジンをかけ暖房を入れる。


 オートエアコンのブロアーモーターから送り出される温風は最強モードで送り出されているそのせいでそれなりのモーター音。


 濱田は後ろからポットを取り出し朋美の前の前席後ろにあるテーブルを下げるとステンレスのマグカップを置きボットからコーヒーを注ぐ。


「コーヒーでいいですか?」

「はい」

「砂糖とかミルクは?」

「ナシで」

「わかりました」


 コーヒーから立ち上る湯気と香り。


「で、私に何か?」

「・・・・・・」

「何か云いにくいことですか?」と濱田は横目で朋美を見る。朋美は視線を合わせないように外に視線をずらしながら・・・。

「倉橋監督いや倉橋真奈美さんとご結婚されていたことがあったとつい聞いてしまいましてつい興味本位で・・・」

「偵察って私の事ですか?」

「いえっぇぇ本当にすいません。ただ」

「ただ?」

「監督は一切プライベートのことをお話にならなかったので・・・」

「だからと云ってこのようなことはどうかと思いますが」

「すいませんでした。私、これで」

「いいですよお話しても」

「いえ、自分でも非常識極まりないです」

「あなたと出会うことができたのも彼女のおかげてしょ・・・あなたのこれからにも参考になるかもしれないし・・・」


 濱田は何も足していないコーヒーを一口飲み喋り始める。


 微かに聞こえるエンジン音とテニスコートから聞こえる打ち合いのリズミカルの音。車の車外温度計は8°を指していた。

 









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