邂逅、そして、月光下の土俵へ・・・
「どう前袋、もう少しきつく締めこむ?」と映見は和樹の後ろに立ち廻しを持つ。
「大丈夫」と云うと和樹は立て廻しを左手に持ち右手で横廻しを引っ張りながら締めこんでいく。
そのあと何工程があり最後は最後尾部分を強く結び目を作ってもらい引き出した最後部の廻しの端を下から右斜め上に差し込み完成。
ただ廻しを締めてるだけなのになぜか気は落ち着いているなのに心奥底ではなぜか興奮しているような気がしてならない。
「やっぱり和樹の廻し姿はかっこいいねえ。凛々しくて何か戦闘的な・・・根本的にやっぱり女子とは違う」
映見は久しぶりに和樹の廻し姿を見た。小学生の時はどちらかと云うとあんこ型に近かったのがだんだん筋肉がついてきて中三の頃にはソップ型になっていた。
「本当に相撲やめてしまったの?」
「やめたよ本当に・・・。本当は高校で最後にしようと思ったけどなんかずるずる大学も相撲部を選んでしまった。強いて言えば一般入試で入ったのは救いだったかな・・・スポーツ推薦なんかで入っていたらなかなかやめる決断はできなかった」とサバサバした表情を見せているが心中は悔しいのだろう。
「でもここのガレージ懐かしいなここで廻し締めてあってここから裏山に上がる。なんか秘密の相撲養成施設にへ行くみたいで」
「相変わらず・・・なんと云うかそんなこと普通思う?」
「いいんだよ男のロマンなんだよ女にはわからんのだよ」と何か得意げに云ってはいるが
「なんか勘違いしてるよね里山に土俵を作ろうと云ったのは私であってそれを使わせて貰っていたのは和樹であって・・・何が女にはわからんってどんな口が云ってるのよ」
「こんな口です」と口を尖らせながら・・・。
呆れた表情の映見ではあったがこんな子供じみた会話も今の映見には楽しいというよりも嬉しかった。
「じゃー私の廻しも締めるの手伝って」
「えっ・・・」
「えっ・・・って何?」
「いやなんか映見の廻し締めるのはなんかこう久しぶりで・・・・」とまるで中学生みたいなことを云い出したのだ
「何を云ってるのよ本当にまったく。私の廻し締めるのがどうのってあなた誰の廻し締めてるのよ」
「えっ・・・」
「私の廻し締めてるくせに・・・・変態」
「へへ変態っておい」
「どうでもいいから早く締めるの手伝って」
「あっはいわかりました」
和樹は適度に廻しを張るように持つ。映見はスパッツの上から廻しを締めていく。上半身はスポーツブラ。廻しを締めていく二人。和樹はその廻しに若干の違和感を感じていた。
「和樹もう少しきつめに締めこんで」と映見。
「映見、ちょっとこの廻し長くないか?」と和樹
「ここ何ヶ月も相撲してないし体重もだいぶ落ちてしまったしそのせいよ」と淡々と喋る映見。
「稽古してないって・・・・だって今日大学の稽古の帰りだったんじゃ?」
「今日は偶々。どうしても行かなければ行けない事情があって・・・ただそれだけ」
映見の体には張りと云うか大学横綱のイメージからすると何か貧弱に見えるのだ。もちろん中学卒業後は生の映見を見ていないのだけどそれでも中学時代と比べてもとても世界で戦ってきた相撲選手には見えないのだ。
「稽古をしないだけで一気に体力も筋力も精神力も衰退するものなのねぇ。正直、私も限界なのかなぁって・・・今日、沙羅の前でポロっと云ってしまったのそんなこと絶体云わないのに・・・沙羅のどうしてもわたしに勝ちたいと云う気迫に打ちのめされて・・・・」
「映見、今日はそんなこと考えないで純粋に相撲を楽しもうぜなぁ。映見と初めて対戦したあの時のようにと云っても俺にとってはある意味生きた心地がしなかったけど・・・」
「私は絶対勝てると思ってたけどねぇ」
「はぁー冗談はやめてくれよ全く」
「もう相撲やめます・もう相撲はしたくないですとか云って泣いてたのはどこの誰?」
「・・・・・・」和樹は映見を睨みつける目は笑っていない。
「御免、そんなつもりじゃ・・・・あぁーもう」と頭をかきむしる映見。
「本気で投げ飛ばしてやるからなぁこの糞女」と冗談ではなく本気モードの和樹
「ほぉー本気になったってことでいいかしら元相撲クラブの横綱」
「上等だよ映見。お前の吠え面拝ましてもらうわ覚悟しろよ」
「おっほほほ、その言葉云わなかったとかなしだからねぇ」
と云いながらガレージを出る二人。外の気温はせいぜい10度ぐらいか?風は吹いていないがそんな夜に相撲をする二人。人がやっと通れるぐらいの道を上るとそこには木々に囲まれた中に半径7-8mの空間がぽっかりと開いている。そしてそこにはあの中学当時そのままの土俵がある。
和樹はその土俵を見て懐かしさと同時に驚きを感じてしまった。
「映見、これってずっと手入れしていたのか?」
「やり始めたのは世界大会で負けた後かな・・・それまで記憶の中から飛んでた。ふと思い出してねぇ。当然ここは藪みたいなになっていた。そこであきらめればいいものを急に鎌とか持ってきて刈りだして・・・そうしたら発泡スチロールで作って埋めた仕切り線が出てきて・・・ちよっと泣いちゃってさぁそこから毎日、藪刈って雑草とって桑で土掘り起こして藁貰ってと徳俵作って・・・なんってやっていたらいつのまにかできてて」
「映見・・・」
高い天井にはちょうど満月の月が土俵を照らし浮かびあがらせている。映見は横廻しを叩き土俵に入るとスポーツブラを外した。
(何やってるんだよ映見)和樹は声に出したかったがそれ以上に月明かりに照らされた映見の女体はあまりにも美しく・・・。(覚悟を決めた。映見がそこまでするのなら恥をかかすわけにはいかない)と和樹も土俵に上がる。
「まいったと云うまで相撲を続けるそれでいい和樹」
「勿論」
二人は蹲踞、四股と流れを進めると仕切り線に手をつき、お互いを見据える。そしてお互いの呼吸が合った瞬間両者一気にぶつかり合う。そして迷うことなく両者は相手の横廻しを取りがっぷり四つの状態になる。真向の力勝負の二人。足を踏ん張りながらも足の指先は土のめり込むような音をたててズルズルと押され押し返す。誰もみていないであろうこの勝負。月は雲の切れ端が通るたびに点いたり消えたりを繰り返す。この状態がもう十分続いているのではないだろうか・・・。体は熱を帯び赤みかがる。汗は体を濡らし月明かりがそれを照らすと実に艶めく体からは湯気のようなものが・・・。女とか男とかの次元ではなく。相撲を愛してやまない二人のブライト゛・意地・そしてお互いに対する想い・・・。しかしもう決着はついていた。和樹は最後の力を振り絞り映見を一気に土俵際まで持っていく。必死に抵抗する映見。そして最後は和樹が押し倒して決着。背中から落ちるように倒れる映見。そしてその上に正面から落ちた和樹。
そのままの姿勢でしばらく見つめ会うがごとく動かずに・・・・すると映見の方から和樹の背中に手を回すと軽く和樹の唇にキスをした。そしてまわしていた手を解くと映見は立ち上がる。和樹も同じく。映見は体を反転させて和樹に廻しを解くように催促するが和樹は躊躇してしまった。すると映見は小さな声で・・・・
「私に恥かかすなよ」とか細い声で・・・・
和樹は自分の頬を叩くとゆっくりと廻しを解いていく。廻しは汗で少し色が変わっていた。廻しを解きスパッツを下ろす。そこには映見のありのままの姿があった。今度は和樹が反転し映見に背中を向けると映見も和樹の廻しを解いていく・・・そしてボクサーパンツを下ろし同じ姿に・・・・。
その間二人は一言も喋らなかった。いや喋る必要はないのだ。お互い正面を向き合うと自然と抱き合いお互いの体と気持ちを感じ取る。
お互い口には出さなかったが知らぬ間に想いは募っていたのかもしれない。今日、もし会っていなかったらこの日は永遠に来なかったかもしれない。汗で濡れていた体は乾きそのことで完全に冷え切っているのにそれは全く感じないどころか逆に熱いくらいに・・・・。
木々の中から月明かりに照らされた動物であろう二つの目がキラッと光る。フクロウは「ホッホ ゴロスケホッホ」と低音で鳴いている。風が木々を揺らし月は早い風の流れに乗ってやってくる雲の切れ端のようなもので点滅を繰り返すように・・・。
「和樹、私・・・」
「今日は喋らなくていい。映見と抱き合っているだけで・・・それでいい」と和樹はゆっくりと映見を真綿でくるむようにでも力強く抱きしめる。
お互いに心奥深くで傷ついてたものが一気に癒されていくように体が軽くなっていく。二人とも相手に対しての感情表現は不器用なのだ。それでいながら想いは強いから始末が悪いとでもいうべきなのだ。
もう前戯も愛撫も必要ないほどにお互いは濡れていた。和樹は自然と映見の森の中に自分を入れていく。お互い声にならないような声で・・・。
動物達の鳴き声が里山の中で響き渡る。それは二人を祝福でもしているかのように・・・。
お互い20歳を迎えて初めて知った愛の意味。
(和樹なら私の想い安心してさらけ出せるから)
(映見ならば俺の想いを受け止めてくれるよな)




