偉大なる横綱から今を生きる女力士への伝言 ⑤
----東京 品川区 西大井------
東京駅に到着した女子大相撲幕内力士の面々は迎えの車で一旦所属する部屋へ帰っていく。天津風と葉月山も迎えの車で市川の小田代ヶ原部屋に、そんななか、絶対横綱【妙義山】は、他の力士は部屋の車で部屋に帰るも、【妙義山】は用意されたアルファードのハイヤーに乗り、JR横須賀線西大井駅近くにある小田代ヶ原部屋の親方の夫である瀬島隆一が経営している整形外科医院に、【葉月山】である稲倉映見が親方を通じ紹介したのだ。
駅から少し離れた住宅地にある瀬島整形外科医院。日本の多くのアスリートがお忍びではないものの通っている。元レスリングの日本代表戦選手である隆一は異色の医師ではありそのことが、アスリートとして患者としての両方の気持ちを理解しながら治療にあたることが隆一の信条であり心情なのだ。時にはバチバチの言い争いも・・・それでも最後は患者達が信頼して通ってくることが瀬島隆一という人物を物語る。
----診察室----
ひととおりの問診と検査・診察を終え。診察室で再度の隆一との面談へ・・・。
「映見の言うように『鎖関節脱臼』ですね、早めに来ていただいてよかった。言い方は悪いが千秋楽でよかった。これが中日だったらあなたは無理してでも出場していたでしょうからね、診断結果はまず一か月の絶対安静です!いいですね!」
「一か月!?」
「一か月です。そのあとはリハビリも兼ねて三か月ぐらいゆっくりとやりましょうか、ご不満ではあるでしょうがそれが私の治療方針です。納得できないのなら他の医院にいってください。よろしいですか?」
「そんな言い方・・・」と困惑とイラっとした表情をあらわにする妙義山。その表情をまるで予見していかのようにおもわずニヤリとしてしまう隆一。そのことにますますイラつく妙義山。
「何がおかしいんですか!」
「そんなことやってられるかって顔ですね?」
「世界ツアー後半戦も始まるんです!」
「選択するしないは、妙義山ご自身ですから私はそれ以上言いません。どうしてもやると言うのなら、他の先生に痛み止めの注射でも打ってもらってください。私は一切物言いはつけませんから、それはあなたの自由ですから」と隆一はきっぱりと言い放つ。
「・・・・・」
「千秋楽いい相撲でしたね。素人女子大相撲ファンの私でもわかります。今回の名古屋場所においてあなたは衰えていくであろう自分の相撲に新たな新境地を開こうと模索している。あの相撲はそれの一つだと想いましたよ、この力士は自分のことをちゃんと理解しているんだなって」
「先生・・・」
「なんてね」
「はぁ?」
「妻の受け売りです」
「小田代親方の?」
「親方と一緒に住んでるとね、自分の妻を親方と言うのもね、普段は小百合って言いますけど」と照れ笑いの隆一
「小百合さん。いや小田代親方の引退を早めてしまったのは私・・・・いまでもあの日の事は・・・」
「あの大会は小百合にとって最後になってもいいと思っていたんです。怪我は不測の事態だったけどそれを抜きにしても、本音では体はボロボロだったんです、おこるべきして起こった怪我、そう言ってました。あなたのせいで無理をしたのかもしれませんが、どのみちあの大会が限界だったんです。ただそれでも辞めなかったのは、あなたにたいする想いと女子大相撲力士というか横綱としての責務があると自覚がそうさせた。結果的には本人にしてみれば、あの大会以降怪我の治療もあって七場所出場して一場所しか優勝できなかったことは、不甲斐なかったでしょうが・・・」
「横綱としての責務・・・・」
「妙義山を一人横綱にさせるわけにはいかないって、その想いが引退を遅らせた。ただ本人からするとあなたに申し訳ないと言う気持ちが強かったんです」
「私に?」
「万全な状態で【妙義山】の壁になってやれなかったって」
「えっ?・・・・百合の花さんが・・・・そんなことを?」
あの大会での怪我以降、百合の花に腰と足首の治療を任された隆一。そこで芽生えたお互いの恋愛感情は、あきらかに医師と患者との関係は出会った時からすでにお互いの将来は決まっていたのだ。百合は華やかで大きな花を咲かせることが特徴である。東の【葉月山】西の【百合の花】女子大相撲の歴史において、この対決はひときわファン達を魅了した。どこか気品のある雰囲気を醸し出しながら勝負となれば日本刀の切れ味の如く相手の力士を仕留めていく。鍛錬される程に強靭な鉄へそして刀になるように常に葉月山は鍛錬を欠かさず常に磨かれ力士を極めてきた。
たいして百合の花は葉月山のような気品とか女性らしさよりもどこか野草のように誰もいない草原や荒れ地にひっそりと淡い花を咲かすように、でも厳しい環境で生きてきた野草は百合の花の相撲そのものだったのだ。玄人には評価が高くとも華が薄いと揶揄されることもしばしば、それでも横綱の地位まで上がってきた。相撲に情熱がありながらどこか器用貧乏な気持ちで相撲を取る百合の花と相撲道すべてに完璧を求める葉月山。陰と陽・光と影と言われてきた二人が横綱として相まみえる。葉月山の引き立て役と言われた百合の花が開花!常に千秋楽では優勝を争ってきた二人。
しかし、それも長くは続かなかった。【葉月山】の引退である。光を失った百合の花はまるで萎れていくかのように、新たに横綱に昇進した【桃の山】。生粋のサラブレット!父に大相撲元大関【鷹の里】母に女子大相撲初代絶対横綱【妙義山】の間に生まれた。まさしく華麗なる相撲の申し子と言いても過言ではないほどに、当然に女子大相撲ファンは百合の花との対決に心動かすのは当然の流れであり、それは百合の花自身も葉月山と言う偉大なるライバルが現役を引退してしまった喪失感を高揚感に変えてくれると・・・。しかし、そうはならなかった。お互い苦しい家庭環境を経験し家族もいないなかで自分の居場所を大相撲に求めていたのだ。多少の入門のずれはあるにせよお互い口は聞かずとも切磋琢磨し女子大相撲を盛り上げてきたのだ。
華麗なる横綱【桃の山】の成り立ちからすれば、それに対しての反骨進が湧いてきてもいいものだがそうはならなかった。なにか心に火がつかなかった。湿気たマッチを何度も擦ったところで火がつかないように、マッチ箱のやすりに擦り痕だけが残るだけ・・・・。
『華が薄い力士』と言う言葉がまたぞろ女子大相撲ファンから出てくるとまさしく【桃の山】の引き立て役になってしまった。「もはや【桃の山】の噛ませ犬」などと言う者さえも・・・。気持ちで相撲をとるタイプであり感情的な面もある【百合の花】からしてみれば看過できないはずなのだが、葉月山が現役引退後の百合の花はまるで抜け殻のように、バチバチだった葉月山VS百合の花、美女VS悪女、女子大相撲からすれば女子プロレス張りの最高のコンテンツでありエンターテインメントそのものであった。当の本人達はいたってまじめであり常にガチンコだったのだ。そんな標的であり尊敬するライバルの引退、そして、自身の肉体的衰えと怪我、そして、勝負への執念と拘りもいつの間にか薄れていった。
そんな状況での女子プロアマ混合団体世界大会。日本の若きアマチュアのWエースと葉月山の次の日本の若き総大将【桃の山】。注目はこの三人に集まり、ここでも影の薄い存在に成り下がっていた【百合の花】であったが、日本チーム監督 椎名葉月(元葉月山)は全く違う想いを抱いていた。
>「私の中では絶対横綱の称号は百合の花が継承してくれているって想っているのよお世辞でなくあなたとは日本ではライバルだったけど海外では頼れる同士。海外ではあなたには助けられた」
大会前に訪れた葉月の自宅。相撲関係者はおろか同じ力士でさえも入れることがなかった葉月が百合の花を入れた意味は初めて理解したのだ。
>「今日はあなたと二人で話がしたかったのだから・・・悪いけどこれからは桃の山の子守はあなたに任すわ」
「桃の山は葉月山の後継だと・・・」
「まだそんな事云ってそんな気持ちじゃ・・・」
あの大会での怪我以降、怪我の治療のなかで育んだ瀬島隆一と愛は開花し結婚。女子大相撲復帰戦は二代目妙義山との優勝決定戦。三分を超える大相撲!結果は残念ながら最後は押し出されて負けてはしまったが、ファン達にはあの葉月山VS百合の花の黄金の取り組みを彷彿させるのには十分な内容であった。それから引退まで残念ながら優勝争いに常に絡みながらも身体の衰えと度重なる小さな怪我は、ここ一番の相撲で力を発揮できず、女子相撲界から去り親方修行ののち、現在の住まいである元葉月山の自宅近くに小田代ヶ原部屋を開設し今に至る。
その間に、桃の山は母の四股名【妙義山】に改名し、女子大相撲では快進撃、各種世界大会では日本の総大将として、女子大相撲の牽引役に成長し、過去の危うい桃の山の像は完全に消え失せた。女子大相撲力士として、日本はおろか世界とも戦う絶対横綱【妙義山】。男子大相撲よりはるかに過酷な戦いの連続は、絶対横綱【妙義山】を否応なく消耗させていた。そんな時に入門してきた稲倉映見と石川さくらは、妙義山世代の次を担うべき逸材であるのだ。石川さくらは【妙義山】が所属する海王部屋へ、稲倉映見は元百合の花である小田代親方の小田代ヶ原部屋に入門し、初土俵である名古屋場所最終日で幕下全勝優勝を賭けた大一番は往年の名四股名である葉月山と桃の山の対決に、結果は葉月山が辛勝し新たなる幕を開けた。
「小百合に一回聞いたことがあってね、なんで百合の花を稲倉映見につけなかったんだって?」
「えっ?」
「そうしたら、映見は葉月山さんが育てた女子大相撲への最初で最後の愛弟子だってそれは私への挑戦状であり私への信頼である以上、葉月山以外の選択はないんだって」
「小田代親方・・・」
「私も余計なこと言ったなって、葉月さんは小百合にとってかけがえのない力士であり女性だったわけだし、その愛弟子を預かる仁義があるんだって!珍しく激昂してね」
「あっ、実は私も同じことを言ってしまって、映見には【百合の花】を継がせるべきだと・・・・その問いに答えてはくれなかったですけど」
「そうですか・・・」
「あなたも【葉月山】に拘りがあった・・・」
「稲倉映見の女子大相撲入りを画策したのはうちの母ですから、母は葉月さんをいや【葉月山】を溺愛していましたから、葉月山の復活!それが母の願望だったのです。それに叶ったのが稲倉映見だったてことなんです。私は【葉月山】の四股名が復活したことに嫉妬していたんです」
「【妙義山】は不満ですか?」
「そう思っていました以前まで」
「【妙義山】はあなたにしか受け継げない一子相伝ではないけど、【妙義山】の四股名はあなたにしか宿らない!あなたに【葉月山】は相応しくない。それは百合の花も同じだったってことかな、葉月さんが百合の花にあの家も相撲部屋の土地も女子大相撲界の未来のために託した。妙義山のあなたに託せないでしょう?逆の意味で【妙義山】はあなたにしか継げないのだから・・・」
「・・・・」
「桃の山を石川さくらに授けたのと同じだと思いますよお母さまと同じで、あなたも・・・」
「・・・そうかもしれませんね」
お互い顔を見合わせる。
「それではいいですね、一か月は絶対安静!三か月はリハビリにあてる!いいですね?それは【妙義山】の使命です!女子相撲界にとっても」
「わかりました」
「じゃそう言うことで、ここは無理せずじっくりと行きいましょうか」と隆一はキーボドにカルテを打ち込む
「・・・・」妙義山はじっくりと隆一の顔を凝視するかのように
「なにか?」
「百合の花さんをそう言って口説いたんですか?」
「えっ!?いやえぇ・・・いや」
「相撲命で絶対恋愛なんかしないと思ったから・・・」
「あぁぁなほるほどね、でもそう言う女性に限って母性愛とかに飢えてるとか、彼女の過去からすればそうなるのは仕方がないし、その過去を私との愛で埋められるのなら私は本望だし、同じアスリートとして生きて偶然にも知り合えた。そこに運命的なものを感じましたし、彼女との愛は出会うべきしてであったと・・・」と何かご満悦な表情の隆一
「(*´Д`)それって何の話ですか?」
「あっ、えっ!?」と一気に赤面の隆一
「小田代親方が幸せならいいですけど、今度会ったら言っときますね」と妙義山は隆一をからかいだす
「やめてくださいよ!本当に、もう私なんかストレス発散にシングレット着せられて格闘技で使うダミー人形の如く投げられ締められ、あっ!?」
「フフッ・・・変態夫婦」
「えっ、いや、や、本当にやめてください!」と真顔かつ真剣な隆一
「でも、なんかそんな夫婦生活憧れるな・・・なんかいいな」
「・・・妙義山さんも相当に変態と言うか変態プレーとか・・・あっ!?」
「フフッ、変態プレーね・・・絶対に親方に言いますから」(`・ω・´)
「やめて!!!」




