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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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321/325

偉大なる横綱から今を生きる女力士への伝言 ②

 絶対横綱【妙義山】の優勝で幕を閉じた名古屋場所。今年の名古屋場所は女子大相撲界にとっては、新しい息吹が感じられた場所でありながらも頂点に君臨する者はまだまだ揺るがないことを見せつけた場所でもあった。妙義山の表彰式も一通り終わり観客達は口々に今日の相撲を振り返りながら館内を出て行く。そんなかの一角の升席に動こうとしない二人は土俵を見ながら相撲の話ではなく駄話?。


「葉月山も桃の山も強かった。二人のこれからの活躍は期待以外ないですね、真奈美さんからすれば感無量でしょうけど」と葉月


「そうね、二人の選択は間違っていなかった。少なくとも私が二人に関われたことは色々な意味で感無量であることは間違いない。それとあなたと関われたことも、あなたのファンだった私があの大会に一緒に関われたことも忘れられない思い出になったのに、今度は相撲ではなく競馬の世界で付き合うことになれることになったのは想定外だったけど」と真奈美


「私もそれは想定外ですけど、まぁ真奈美さんの旦那さん絡みですけどね」とにこやかな表情を見せる


「何、なんかうれしそうね?うん?」と詰め寄る真奈美


「えっ?なっなんですか!?」と何故か慌てる素振りを見せる葉月


「なに慌ててんのよ、さては?」


「はぁ?」


「まぁーね、もてない男よりももてるぐらいの男のほうがいいんだけどさぁー」


「何気に自慢してるし」


「当たり前でしょ何言ってるのよまたっく」


「まったくって、でもこの前の京都競馬のあと祇園でごちそうに・・・あっ」


「祇園?私にはそんなところ連れってってもらったこともないのになにそれ!」


「えっ、あぁぁ・・・・」


 どうでもいい話で盛り上がっていると後ろから一花が声を掛けてきた。


「あぁいらしたんですね」と一花


「いらしたんですねって、あなたが待ってろと言うからいるんじゃない何言ってるのよ!」と真奈美


「なんか機嫌が、更年期?」といらん事を云う一花


「あなたもそうなるのよ」


「まだまだ先ですから」と言いながらも一花の肩は震えている。真奈美はその様子を見逃さなかったが『ぐっと』堪える。


「で、いつまで待たせるのよ!?」


「真奈美さんも葉月さんもすいませんお待たせして、本当は力士控え部屋の方にご案内したいのですが、マスコミや相撲関係者でごった返してまして、本当は葉月山と桃の山に会って頂こうと思っていたんですが、ちょっと無理そうなので」


「それで待たしたの?」と真奈美


「すいません。妙義山関が葉月山と桃の山が揃った力士姿ををお二人に見せてやってくれと言われたんですが、ちょっと今日は無理そうなので」と一花


「私は構わないけど・・・」と真奈美はちらっと葉月の方を見る。


「私はいいわよ、今日二人の優勝争いの一番を見られただけで、それに真奈美さんは別として私が控え部屋に行くのも色々ね」と葉月は真奈美の視線を感じながら一花に応える。


「待たせておいてすいませんでした」と二人に頭を下げる一花。


「さすがに千秋楽だし気持ちだけで十分よ、まぁ私は来るつもりでいたんだけどまさかの葉月さんから誘われてね、一花に手配お願いしようと思ったんだけど」


「葉月さんから?」


「よっぽど来たかったんでしょね?」と真奈美は皮肉を込めて


「別に私は・・・」


 館内は葉月と真奈美以外の観客達はすでに退館しあの熱狂が嘘のように静まり静寂の空間に土俵はひときわ輝きを増す。そんな土俵を見ながら葉月はある事を思い出した。


 男子大相撲の土俵の直径4.55m(十五尺)にたいして女子大相撲は5.151m(17尺)で力士は勝負する。女子大相撲も最初の頃は男子と同じ十五尺だったが、現役当時の初代妙義山が二尺広げることを提案しそれが実現した。しかしそのことが絶対横綱【妙義山】の引退を早めその原因が土俵を広げたことにあると、雑誌【女子相撲】で元横綱三神櫻(遠藤美香)の連載で寄稿していた。


 将来、海外勢との対決を考えた場合、このサイズ感は体格の大きい海外勢には有利である。男子大相撲が最近面白くない一因に、取り口が単調で限られたものになってしまっていることが一因にあげられる。体格がでかいものが小兵力士相手に一気にドンとあたればそこで勝負がつく、実際に前に落ちる相撲が増えたことやはたき込みで手をつく力士が増えたことで短時間勝負で決してしまう。もし、これが広い土俵ならそれを生かし小兵は動く相撲で相手を翻弄できる。そのことで相撲が長引くことが多くなり力士にとって、特に体重が重い大柄な力士は動かざるをえないそのことで消耗ははげしくなり、体格の有利不利の差が縮小される。


 体格で劣る日本の力士を有利にするための策略ではないが国際的にこの規格で統一させた女子大相撲協会の政治力は冴えていたし、提唱者である妙義山の先見性には頭が下がる。ただ皮肉なもので言った本人がそのことで体格のよさが仇になり相手に動かされる危うい相撲が増えたのが引退を早めたひとつの一因であるのではないかと思う。女子大相撲は取り組みが長引く傾向であるが、それも観客からすればそれだけ相撲が楽しめる。スピード勝負もそれはそれだが立ち合いの「はたきこみ」で勝負が決まるような相撲ばかりでは単調で面白みにかけるし、小兵が技で対抗するという場面も作りにくいであろうことは想像できる。女子相撲の国際化を視野に入れていたかどうかは定かでないが、現理事長の元絶対横綱【妙義山】の先見性には頭が下がる。


 そんなことを思いだしながらながら土俵を見つめる葉月。女子大相撲力士も海外での戦いがあたり前になり世界ツアーなるものも開催されるまでになった。葉月の頃から比べたら女子大相撲は認知されると同時に、日本はおろか世界とも相撲で勝負をしなければならない、それは女子力士達にとっては男子力士以上に過酷な世界になってしまった。真っ当な力勝負では海外勢に劣勢状態になることを予見し、土俵の大きさまで先の未来を予見し【妙義山】は行動していたのだ。女子プロアマ混合団体世界大会 で優勝できたことで、日本は女子相撲はルール作りやその他において主導権を握ることができた。あの時、負けていれば相撲はSumouになっていただろう?


 葉月はあの大会を最後に相撲界から決別し一切もう関わらないと胸の内に決めたのに・・・。


「お二人このあとは?」と一花


「二人でどっか食事でもしてセントレアから東京に」と真奈美


「東京?」


「午前中仕事があってね、その後ぶらぶらして福井に帰ろうかな」


「葉月さんは?」


「牧場の東京事務所で馬主さんと商談でもないけど、その後午後の便で北海道に帰ろうかなって」


「そうですか」と一花が答えると後ろに大柄な女性が


「どうも・・・」とにこやかな雰囲気で先ほどまで相撲解説をしていた遠藤美香が現れた。


「先日は色々ありがとうございました」と真奈美


「いや、【葉月山】の優勝おめでとうと言うべきか?【桃の山】もあなたの教え子だからね、いい相撲だったよ二人とも、次世代の横綱候補二人が前評判通りの相撲で終えたわけだから、まぁ真奈美さんには協会も感謝しないといけないんじゃないか?なぁ一花、ところで紗理奈どうした上に居なかったけど?」


「あぁいらっしゃらないんで捜したんですがいなくて駐車場に行ったら車がなかったのでもう帰られたのかと」


「帰った!?何考えてんだ彼奴は!?」


--------豊田市 野見神社------


 紗理奈の運転するアルピナグリーンのBMWアルピナD4 Sグランクーペは伊勢・第二東海道と走り抜ける。妙義山と十和田富士の大一番での決着を目に焼き付けると同時に館内の大歓声が紗理奈の胸の内を騒がしくするも、紗理奈はその渦の中には加わらず静かに会場を後にしたのだ。本来であるのなら海王部屋での祝勝会に参加してもおかしくないのだが、桃の山の時代から一切そのような席に顔を出すことはしなかった。妙義山に改名して以降は優勝するたびに、理事長として表彰式には出なくてはならずせいぜいそのくらい。理事長を退任し顧問として協会に残るも運営自体にはほとんどタッチせずここまできた。場所も見に来ることはほとんどないのだが、今回はどうしても見たかったというか、この場所が妙義山の試金石になると思ったから・・・・。


「ガラスの二代目」そう言われた【桃の山】の時代、強いことは誰も認めるも肝心なところで優勝を逃がす。心技体の心の部分でそれがそう言われた所以であった。しかし、女子プロアマ混合団体世界大会での優勝と母の四股名【妙義山】への改名は力士として覚醒するきっかけに、女子大相撲での数知れずの優勝、世界ツアーも体格的に不利と言われるも総合優勝連覇など輝かしい成績で相撲道を邁進するも、女子大相撲と世界との戦いは妙義山を疲弊させていった。真っ向勝負を信条にしてきた妙義山にとっては休むことはおろか手を抜く相撲は一切しない。それは、母である妙義山と言うより葉月山に近く妙義山にとってそれが理想とする力士なのだ。しかし、ここ一年ライバル十和田富士が初めて横綱として臨んできた昨年の名古屋場所での敗北は、けして、絶対横綱【妙義山】が盤石ではないと言う印象を強くファンに植え付けた。その後の場所も優勝争いから脱落したり相撲自体に精彩を欠きひと場所で金星を2つ与える場面も、以前なら考えられないことであるがそれは、絶対横綱【妙義山】の衰えが着実に近づいているのは確かなのだ。


 アルピナは豊田松平ICを下り国道301号を走り野見山に向かう。矢作川沿いから細い屈曲した山道を登っていく。うっそうとした林を抜けると目の前が開け正面にDoCoMoの電波塔が目に入る。時刻は午後六時三十分、日没ギリギリの時間。野見神社参拝用駐車場にはシルバーのポルシェ911カレラ(991)が止められ沈みゆく夕日に照らされた911の車体から薄墨色の夕影をアスファルトの路面に筆を引いていた。駐車枠ひとマス開けてアルピナを寄せる紗理奈。すると同時に運転席のドアが開く、911から降りた大柄な男性は淡い水色に白の細いストライプが入ったダブルのスーツをボタンを掛けずさりげなく


「困るんだよね、気楽に呼び出してもらっちゃ」


「近くでしょ船に乗ってくれば?ちゃんと教えたでしょ?」


「船って・・・」


 相手は紗理奈の夫、秀男である。秀男は前日、三重の鳥羽に新規出店をしオープニングセレモニー及び手伝いを兼ね鳥羽にいたのだが、そこに紗理奈からの会わないかと言う連絡が当日の昼に連絡が、それもルートまで指定してきたのだ。


「まぁこのルートは走ったことなかったしね、それに船の中で女子大相撲も見れたし」


「見事だったけどね」と紗理奈


「優勝逃した方がよかったみたいだな」


「愛莉の疲弊していくのを見ていくのは辛くってね」


「初代絶対横綱たる者が言うべき言葉じゃないと思うがね、お前だって最後はボロボロだったろうに力士という生き方を選んだ以上それが使命だよ、ボロボロになる前に綺麗に辞めるのは俺は好かないね気持ち的にはやりきって辞める、それが俺の生き方であり、妙義山も同じだろう」


「鷹の里は?・・・鷹の里は私のせいで全うできなかった!私があなたの力士人生を全うさせられなかった。私があなたの力士人生を!」


「ここに俺を呼んだのも意味があるんだろう?野見宿禰(のみのすくね)日本書紀かなんかに出てくる、相撲の祖」


「秀男さん」


「俺は力士としては向いていなかった。大学相撲で相撲はやめるべきだった。人生の選択間違えた。どっかの女野見宿禰に恫喝されて大相撲に行ってしまった」


「・・・・」


「でもその女は俺に夢を見させたうえで現実化させてくれたんだ。到底自分ではできない決断をそれだけで十分すぎるほどに力士人生は真っ当できたし、横綱にはなれなかったがそれは俺の先を見据えてくれた神様の些細な試練だと想ってるよ、パテシェだぞ俺が?どうかしてるよな、俺自身そんなの夢にもでてこなかったよ、力士もパテシェも俺は凄く充実していたし今は最高に充実している最高にね」


「私は・・・・」


「愛莉がボロボロになるまで見届けてやろうや、自分で望んで入った相撲の世界。お前と一緒だよ血筋は争えねぇーなー」


 秀男は車にロックを掛けると神社へ、その後を追う形に紗理奈もついていく。神社に入ると真ん中に土俵のようなものがブルーシートを掛けられている。立派な神社の前に配置された狛犬が二人を睨みつけるように威圧するかのように。参拝をすませ離れたとこから神社を見ると玉垣の上に力士がちょこんと小さな力士が化粧まわしを締め出迎えて来るかのように鎮座している。月明かりに照らされた力士は可愛いながらもどこか神々しく。


 それを眺めている秀男の背中に身を寄せる紗理奈。秀男はその紗理奈の温もりを背中で感じながら自身の相撲人生を走馬灯のように振り返りながら・・・。


(紗理奈には感謝している。別にお前と女子大相撲を守るために力士を辞めたわけじゃない潮時だったんだ。あそこで辞めたのは自分が決めた決断で『お前と女子大相撲を守るため』なんて大そうな話ではないんだよ、俺は力士としてボロボロになるまでやる勇気がなかった。ただそれだけだよ、女は強し!愛莉も紗理奈に負けず劣らずの女『野見宿禰』だからなぁ)





 








 

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