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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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320/324

偉大なる横綱から今を生きる女力士への伝言 ①

『はっけよいっ!』


「どんっすん!」と激しいあたりは男子大相撲にも劣らない力と力の勝負!


 女子大相撲 名古屋場所千秋楽。(東)絶対横綱【妙義山】対(西)横綱【十和田富士】の全勝対決はこれでこその女子大相撲の華と言うべき取り組みであり、二世対決それも母と同じ四股名をでの対決はいやが上にも盛り上がる。オールランドの妙義山に対しパワー勝負の十和田富士。絶対横綱【妙義山】にとっては桃の山時代から色々な意味で苦戦してきた力士である【十和田富士】。それでも【妙義山】に改名してから苦戦を強いられている場面は多いそれでも辛勝にせよ勝ってきた。前回の名古屋場所は同じく全勝対決で迎えた千秋楽の一番は、海外ツアーの疲れからか精彩を欠き一気にパワー攻撃で押し出され完敗。その意味で名古屋場所は【妙義山】にとって鬼門であると同時に、ここへきて【十和田富士】も相撲に安定感が出てきてけしてパワー勝負一辺倒ではなくなってきたことで総合力で【妙義山】が一つ抜けているとも言えなくなってきた。そのことにおいて、この名古屋場所はファンや女子大相撲関係者達の間で二人の力関係が入れ替わる場所になるのではないかと見ているのだ。横綱に昇進してからの快進撃!そして絶対横綱の称号。母である【妙義山】を彷彿とさせる圧倒的強さは留まる事を知らないかのように、しかし、そこへ遅れてやってきたライバルであり因縁の力士【十和田富士】の台頭は女子大相撲を盛り上げる意味では、善の【妙義山】悪の【十和田富士】とまるで女子プロレスのレッテル張りをされてしまうほどにファンを熱くしている。


(くっ、うまくあたったのにいまいち手応えが薄い!うまく力が伝わらない!)と十和田富士。


 パワーで一気に押し込んでいったものの妙義山は腰を気持ち低くし下から押し上げるかのようにしてあたりの力はを分散していく、それでも押し込まれてはいるが妙義山自身の体勢にはけして影響せず。そのことにめげずに再度あたりにいく十和田富士だが何度ぶち込んでも結果は同じ、それでも妙義山を土俵際まで追い込んで傍目には十和田富士が優勢に見えるも、升席から見ている葉月からは追い込まれているのは【十和田富士】の方だと見ていた。


(傍目には十和田富士が優勢に見えるけど、それは違う!これは十和田富士が優勢ではなく妙義山が誘い込んでるんだわ。再度押し込んだら十和田富士はやられる!)と葉月は【妙義山】が意図的に妙義山を何かしらの策略に誘い込んでいると確信していたのだ。


(うまく私の力をいなすのはさすが絶対横綱だけどだったら何度でもぶちあてるだけよ!)と十和田富士はあくまでも力勝負に拘る。


(あくまでもあたって来るのね、あなたとまともな力勝負はさすがに厳しいわ。それに横綱に上がって来てから得意の右差しからの寄りもますます冴えわたって絶対の必勝パターン!波に乗せたら止められないけどあなたには最大の弱点がある。それは勝ち急ぐことよ!)


 十和田富士は再度ぶちかましてきた。妙義山はすーっと左に半歩移動すると十和田富士の右肩を鋭く叩きいなすと十和田富士自身の、強烈なぶちかましの勢いを止められない。


(くぅっ!裏をかかれた)


自身の勢いをなんとか踏み込んだ左足で止めようとしたが、そこへ妙義山があたりにいき十和田富士の体勢を崩しにかかる!


(くぅっ!ここで崩れたら負ける!なんとか!)


 十和田富士は必死に腰を落とし、右腕で廻しを取られるのを防ごうとする。しかし、妙義山はすでに十和田富士の動きを予測していた。取られたのは左の上手。間髪入れずに妙義山が攻めてくる。


(くぅっ!負けるか!)


 廻しは許したものの、十和田富士はかろうじて右腕を妙義山の左脇へ突っ込む。ここぞと前に攻めてくる十和田富士は右腕を思いきり振り抜く強引極まりない掬い投げ。妙義山も上手投げを打ち返してくる。


(横綱の投げに力がない!)


 廻しの位置が浅いせいか。苦し紛れの投げが思ったよりも効いている。いずれにしても、ここがチャンスと反射的に右の下手を掴んで引きつける。


「くぅっ!」


妙義山が脇を締めて下手を殺しにくる。しかし、十和田富士は構わず前に出る。十和田富士の勢いを踏ん張ってこらえようとした妙義山の廻しが近くなる。


「もらったっ!」


十和田富士はさらに左の上手を掴み、横綱も右の下手を引き体制は右四つ。十和田富士としては悪く無い形。ただし、妙義山にとっても悪く無い形だ。だからこそ、一気に攻めたい十和田富士。四つに組んで、時間をかけていたら有利になるのは妙義山であることは十和田富士は重々承知している。自分の体勢を作り、相手の体勢を崩すための技術にはことかかないのが妙義山である絶対横綱たる所以である。


両廻しを引きつけて攻める十和田富士!妙義山の両足が土俵の土の上を一気に滑り俵にかかる。しかし、俵に足がかかった妙義山が異様に重くびくともしない。少しずつ押し込んではいるものの、それほど大きくないはずの横綱の身体が、びたりと止まって動かない。


(もう少し右が深く差せてればっ!)


 このまま身体を預けて懸命に寄る十和田富士だが、横綱が重い。必死になって寄り立てるが、だんだんと息があがり苦しくなってくる。追い込まれる十和田富士。


「く、あっ」と十和田富士の口が開き思わず息が漏れ力が緩んだ。その瞬間、妙義山に身体を土俵中央に戻されてしまった。(くそっやられた)心の中で舌打ちをする十和田富士たが、妙義山の息も上がっている。体格的には十和田富士の方が一回り大きく当然に力も強い、少し前まではそれでも真っ向勝負で受けて立つ相撲を信条としてきたが、それに妙義山自身が限界を感じていたそのことはさらに技術的なものを磨くことになった。力勝負で勝てない以上ある意味自分が信条としていたものを捨てなければ道はないと悟ったのだ。


短い攻防だが、お互いに息が切れている。早く攻めたい十和田富士だが、身体が重く完全に息があがり次の動きがだせない。


(まずい!早く攻めないと)


息を整えないと、そう思いながら息を吸ったその瞬間、妙義山が動きさっと下手を離した妙義山が十和田富士の左肩を叩く。


 十和田富士が一瞬怯むまもなく間も無く廻しが切られた。同時に妙義山が左の胸を下から押し上げるように寄ってくる。こらえようとするものの、下からの圧力に身体が浮き上がる。


「くぁ、ぁぁぁっ…!」


土俵の土の上を足が滑り、あっという間に土俵際へ追い込まれた。、足の裏がザラついた俵に触れる。下から下から攻めてくる横綱の圧力に身体が浮き上がる。必死に腰を落としながら、右へ右へと回り込む。

右の下手は深く差せず、左は下からの強烈なおっつけで上手に届かない。


横綱にぴたりと寄せられ徳俵に詰まった十和田富士。妙義山が一気に身体を寄せてくる。左の廻しをぎっちりと引きつけ、右のおっつけで左胸を下から押し上げる。なんとか右の下手を引いている十和田富士は死に物狂いでがっちり掴み、左で横綱の腕を抱え込む。妙義山も勝負所と思っているのだろう。そのまま全力で寄ってくる。十和田富士も弓なりになって懸命にこらえる。寄る妙義山に持ちこたえられるか十和田富士。


『のこぉぉぉった、のこぉぉぉった、のこぉおった!』


 十和田富士にもう余力がなく耐えるしかない。激しい引きつけと、胸を押し上げる下からの力、そして寄り切ろうとする横綱の圧力を必死にこらえる。


(堪えるしかないここであきらめたら!)


 そんな十和田富士の耳に妙義山の激しい息遣い、妙義山もここまでの攻防で消耗していないわけがなかった。妙義山が寄ってくるのをなんとかこらえた十和田富士だったが、とてもじゃないが息がもたない。それは妙義山も同じだがそこは絶対横綱としてのプライドがある。土俵際から逃がしてくれるわけがなく両者の動きが止まるも追い詰められているのは十和田富士であり背中に俵を背負ったままだ。


 再度横綱が寄ってきた時、十和田富士に打つ手はあるのか?


 館内は興奮の坩堝と化していた。絶対横綱【妙義山】が昨年の名古屋場所のリベンジを図れるのか?たいして横綱【十和田富士】が妙義山をくだし東の正横綱を奪えるのか?それは絶対横綱【妙義山】を引退に追い込む足掛かりになる事を意味する。遅れてやってきた大器【十和田富士】にとって単なる横綱と絶対横綱は全くの別物。改名以降無双状態だった【妙義山】に僅かながら陰りが見えてきたと言われた昨年の名古屋場所での敗北は、心技体すべてにおいて衰えを感じさせた負けっぷりであったのだ。だからこそ妙義山はこの場所での優勝は是が非で獲りたいのだ。それは十和田富士も同じ。ここまでに来るのに妙義山との時の差ががあまりにもかかったのは自業自得であったとはいえ、遅まきながら横綱の地位まであがってきた。母である初代十和田富士が成しえなかった【横綱】。そして、ライバル初代【妙義山】との対決は娘達へ、観客達女子大相撲ファンはいやが上にも熱狂するのだ。そんななか葉月だけはあくまでもこの戦況を冷静に見ていた。


(冷静に見れば、ここから十和田富士が逆転するのはほぼほぼない。あるとすれば負け覚悟で投げに行くしかないけど、当然、妙義山はそれは頭のあるはず、だとしたらほぼほぼ十和田富士に勝ち目はない、僅かに妙義山に懸念材料があるとすれば、それに対応するの余力を残しているかどうか?ふん・・・あなたの事だから10のうち9までは使っても最後の1は使わない。この場所に賭けているあなたならその1を使わざる得ない時がこの取り組み。お母様ならその伝家の宝刀を抜くときは進退を賭けるとき、見せてもらうわあなたの伝家の宝刀を!)と葉月から笑みが零れる。葉月には妙義山の考えがまるで手に取るようにわかるかのように・・・。


(もう投げにいくしかない!普通なら勝ち目はないが妙義山の息の荒さから言えばもう余力はないはず!こっちにはまだ余力がある。早く投げにこい勝負だ!)


 十和田富士は意を決す。右の下手を握り直し妙義山が寄りにきたらそれにあわせぶん投げる。大博打ではあるがそれしかないのだ。十和田富士は妙義山が寄りに来るのは手ぐすねひいて待ち構える。 その時、妙義山が寄って来た。十和田富士の描いていた展開に!


(ここだ!)


 右からの渾身の下手投げ。横綱も同時に左の上手投げを打ち返してきた。


(なに!?)


 十和田富士とて、妙義山が寄りからの投げに打ってくるのは想定していた。しかし、そうだとしても投げの打ち合いなら力負けしない絶対的な自信があった。なのに!?投げの威力は十和田富士を超える威力で投げに打ってきたのだ。


(馬鹿な!?)


 十和田富士からすれば、序盤での投げの打ち合いで、妙義山の投げの威力が大したことがないことがわかり完全に見切っていたつもりだったのだ。しかし、今の妙義山の投げの威力は半端なく、土俵にがっちりと根を張った盤石な体勢からの投げはあまりにも強烈に十和田富士に襲いかかる。


「絶対横綱を・・・舐めるな!」とこの厳しい状態でありながら口走ったのだ。ただその言葉は十和田富士には空耳のようにしか聞こえないだろうが。

 

 十和田富士は気づかなかったが、十和田富士が下手を握り直すよりも前。妙義山の寄りを十和田富士がのこし動きが一度止まった時に、妙義山も上手廻しを深い位置に持ち替えていた。十和田富士が最後の一手に打ってくるであろう下手投げを打ち返すために、すでにシナリオを描いていたのだ。


必死になって堪えようとする渚丸だが、もうすでに勝負ありここであり!再度、妙義山が強烈な上手投げを打ち土俵に倒れ込む十和田富士。


『勝負ありっ!』軍配は東方、絶対横綱【妙義山】上がる!


 館内は大歓声と割れんばかりに拍手。土俵に倒れうなだれる十和田富士は悔し涙を浮かべているかのように見える。たいして勝った妙義山も激しい息遣いで腹部が激しく動くと同時にどこか放心状態に見える。まるですべての力を使い果たしたかのような妙義山の姿はどこかボロボロになりながらも勝った相撲の女神かのような神々しさを醸し出しているかのように・・・・。


 息を整え勝ち名乗りを受け土俵を下りると、妙義山と葉月の視線が交差する。


(強かったわ妙義山。もう私がどうのこうの言うこともできないくらいに、一皮むけたわねおめでとう)


(この名古屋は絶対に負けられなかった。この名古屋で負けたら引退も考えていました。弱気ではないつもりでいましたが、まさか葉月さんが来ていたとは、そのことが私の消えかかった勝負の炎にひをつけた。葉月さんの前で絶対に負けられないと・・・・でも、来ていただいたことには感謝です)と葉月に向かい軽く頭を下げると花道に消える。


 葉月の琴線に触れた名古屋場所、自然と涙がこぼれる。その意味は葉月にも理解できないのだ。

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