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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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319/324

初土俵!そして・・・・⑩

 土俵では幕下以下優勝力士の表彰式が始まろうとしていた。東の花道から序の口・三段目・幕下の各優勝力士が入って来る。


 升席にいる真奈美は、葉月がいなくなったことを気にしつつも女子大相撲観戦を満喫中。そんななか手元に置いてある真奈美のスマホがバイブする。相手を確認し通話のボタンをタッチする。


「どうも・・・ちゃんとやることはやってるんでぇしょうね?」


「仕事は迅速かつ丁寧な対応で定評なんで」


「はぁ?まぁー良いけど電話してきたところ見ると映見の相撲見てた?」


「あぁ、なんか四股名に負けない相撲って感じで危なっかしく見えたけど土壇場で逆転するなんてほとんど見たことなかったけど新たに勝負強さを身に着けたって感じでまだまだ進化するな映見は」


「まぁねぇ、私からするとさくらとの対戦は痛し痒しというか複雑ではあったけどね」


「桃の山はまだ葉月山と差があるかなって見えたけど?」


「そう見えたか・・・まぁそこは先輩後輩の差なのかなとおもったりするけど・・・ところであんたどこにいるのよ!?」と真奈美はタブレットPCでロンドンのライブカメラにアクセスすると現地は快晴の青空、光は確かに仕事はできるものの終われば開放モード全開!ましてや海外に一人で行かすことは光にとって超パラダイスなのだ。しかし世界はあまりにも狭く手に取るように・・・・。


「どこって?ホテルだよ、ロンドンのパーク プラザ リバーバンクのラウンジで今コーヒー飲みながらテムズ川を眺めてるよ・・・なんで?」


「ほぉー」


「何?」


「今の天気どうよ?」


「天気!?・・・・あぁぁ曇り・・・かな?」


「曇りねぇ・・・・」


「えっ、何?なにガン詰めされてるの パワハラか!?」


「なんで天気を聞くのがパワハラなのよ?はぁはぁーんさてはロンドンにいないわね!?」


「・・・・」


「どこにいるんですか?真面目に答えてくださいよ!」


「あぁ・・・アムステルダムかな?」


「はぁ?アムステルダム!?」


 夫である光は、真奈美の代役としてイギリスに商談へ技術的な部分が多々ありその点で光はそこに長けてるし真奈美を女子大相撲観戦に行かせてあげたいと言う想いもあり光が単身志願して行くことに本来であるのなら営業部門も連れて行くのだが光が単身行くことに固執したのだ。単身なら仕事を片付ければというあとはと言う・・・・。それは営業部門も見透かしているのだがそこは目をつぶり任せたのだ。結論で言えば商談は成立し結果を出すあたりはさすがだが・・・。そのうえでついさっきまでアムステルダムで映見の彼氏であり相撲クラブのOBである甲斐和樹と会っていたことを話した。


「和樹君と会ってたの?光さん全然そんなこと言ってなかったじゃない」


「あぁぁ行く前に考えてはいたんだけど」


「俺が行くからとかおかしいとは思ったけど」


「まぁ会えるかどうかは賭けだったけどね、でも意外と元気だった。ふてくされて愚痴の一つか二つは言うかと思ったけど」


「映見との関係なんか言ってた?」


「連絡の一つもしてないってよ、お互い暗黙の了解らしいけど」


「なにそれ・・・」


「籍だけでも入れろって言ったんだけどなどうもな・・・」


「映見との関係が冷めた?」


「いや、そう言うことじゃなくて今は自分の事に集中するって事みたいだし」


「自分の事って・・・」


「三十歳で独立するとか区切りをつけるとか言ってるけど、そんな区切る必要なんかないんだよ!和樹には今の会社で学ぶべきことはまだまだある。ちょっとでかい仕事をしたかっらて勘違いしてるとおもったけど、オランダに左遷されて考える時間を作れたことは正解だな。それで本社に戻ってもういくつかでかい仕事してかだよ独立は」


「あなたらしからぬお言葉ですけど」


「なにが?まぁ俺の場合は組織で働くとかね性に合ってなかったし、ただ我慢も覚えるべきだったねそれともう少しでかい痺れる仕事をしていたら少し違ったかな?大企業じゃなきゃできない仕事ってあるからねそこでしか経験を積めない仕事ってあるから、和樹にはその経験を積んでほしいとは思っているんだけどね」


「なにそれは『自戒の念を込めて』ってことかしら?」と真奈美は微笑気味に


「はぁ?俺はほら、カリスマ的経営者だったからさぁ」


「お母様の事があったにせよ、それが自分で作った会社を後身に託してやめて相撲クラブだもんね、でもあなたがまた規模は小さいながらも企業経営に参画することになったことは私なりには嬉しいしそこに私も参加できたことに感謝してる。いぶし銀の光もいいなって」


「『いぶし銀』いいね!銀鮭の塩焼きみたいでなんと」


「・・・・・」真奈美は無言で電話を切る。調子に乗せると訳の分からない話が長くなるし、くどい!でもそれはそれで好きなのだが・・・。そんなことを想いながら土俵上では各力士の表彰式が始まろうとしていた。そこへすぅーっと現れ正座をする葉月。


「どこ行ってたんですか?急にいなくなるから」と真奈美


「トイレの後にちょっとプラプラっと」と葉月


「葉月山優勝しましたけど?」と真奈美はわざとらしく


「良い相撲でした」


「あれ?なんか意外とあっさりとした」


「本当の始まりはここからです。十両に上がって初めて女力士として認められるのですからやっと入り口の扉を開けたって感じです。桃の山も負けはしましたがまだまだこれからです。二人の師である真奈美さんは最後にいい仕事をされましたね」


「どうしたの?」


「私も力士を育てたっかたとふと想ったりして、力士が馬になっちゃったと言えなくもないですけど」


「葉月さん・・・」


「もう変に意固地になることはやめようかなって、さすがに女子大相撲の世界に戻るつもりはないですけど」とどこか笑みを浮かべて何かを誤魔化すような


「うん?どういうこと?」


「そう言うことです」と葉月はどこか吹っ切れった晴れ晴れとした表情を見せる。


 日高に戻り競走馬と共に自分の人生を生きていきたい!それは少女の頃からの夢。その夢は叶ったのだ。それでもけして道は順風満帆どころではなかった。経営難からの牧場の譲渡、それゆえの女子大相撲入門・そして家族との悲痛な別れ、あまりにも激動の葉月の人生はあの少女の頃の夢が現実となったことでひとつの完成をみた。けして今が終わりではなく次なる夢の起点として・・・・。


 少女であった椎名葉月とホースマンとなった中河部葉月。その間を繋いだ女力士【葉月山】と言う自分。ホースマンとして生きている自分にふと湧いた地元高校の女子相撲部のアドバイスと言うか指導の真似事、そして、稲倉映見との再会と四股名【葉月山】の継承。継承とはある意味おこがましいがそれは自分の人生のなかで葉月山、いや、絶対横綱【葉月山】として生きていた時代は華としてもっとも輝いていた。女相撲選手達には憧れであり女力士にとっては標的であれぞそれは力士の理想像であり目標であった。日本はおろか世界の女子相撲のアイコンとして愛された女力士であった。


 そんな葉月山も引退し大方の相撲ファンや女子大相撲関係者達が望んだ指導者としての期待を見事に裏切った。自分自身指導者としての道を志し力士の時から準備もしてきた。でもあぁーもあっさりと百合の花に譲るとは思わなかった。


(ホースマンとして生きている今、この選択が間違えていなかったと自信をもって言える。そして、最後に新たな【葉月山】を産めたのだからそれも自分で最後に仕上げをできたのだ。それは本当の意味での最後の女子大相撲へのご奉公として、ありがとう稲倉映見!そして・・・私を女子大相撲の世界に入れてくれた山下紗理奈さんに・・・)


 土俵上では表彰式が続く。


「幕下優勝 【葉月山】」


 審判部部長から賞状が渡されると一斉に拍手と【葉月山】の掛け声が乱舞する。伝説ここに新たに甦るかのように、そしてそれを升席から一人の相撲ファンとして二代目【葉月山】を見ていることに「胸あつ」の自分。観客達が新たな葉月山伝説の始まりにそれぞれの琴線に触れ刺激する。みながこの感動的シーンと偉大なる女力士【葉月山】の本当の意味での復活に・・・。


 それは濱田真奈美(旧姓倉橋真奈美)にとっても同じく、女子大相撲への道は自分で閉ざしてしまったが、指導者として多くの女子相撲選手を育てアマチュア女子相撲においてはボス的存在であることは誰しもが認めている。そして西経大女子相撲部は完全たる地位を監督が代わってもその魂は引き継がれ、OGの濱田瞳に受け継がれ早くも大学リーグ制覇・大学選手権団体・日本選手権団体の三冠を制したことは名将【倉橋真奈美】も霞むほどになっていた。そのことに関して真奈美自身は嬉しいのだが、アマプロ問わず女子相撲関係者から好意的にすこぶる評価が高く。女子大相撲関係者との関係構築も積極的にどっかの誰かさんとは大違いというのが女子大相撲界の評価だとか・・・・もう相撲とは関係がないのだからどうでもいいのだが意外と気にしーなのだ。そんな真奈美は少し感傷に浸っているかのような葉月を「じーっ」と見ているのだ。それに気づく葉月


「なにか?」と葉月は率直に


「なんか胸糞悪い・・・」と真奈美


「胸糞?・・・私!?」


「さっきの話だけど」


「さっきの話?なんでしたっけ?」


「育てるとか言う話よ、なに相撲の指導でもするつもりなの!?」と何故か高圧的な言い方の真奈美


「あぁぁちょっとそんな気にもなったりして・・・」と少々恥ずかしいような表情を見せながら


「未練たらたらって感じ」


「・・・なんか感じ悪い。真奈美さんこそみれ・・・」と囁くような独り言で


「今なんてった?」


「えっ?凄い耳、てっイヤだな悪口なんて言ってませんからもう」


「言ってるも同然じゃない!」


「・・・・・」


 そんなお互い気まずいのかそれとも軽いジャブの打ち合いなのかわからない空気感漂うこの場に女子大相撲協会西日本支部広報 新崎一花が現れた。


「どうも、来るのであれば一声かけてくださいよ・・・」と二人に声をかける新崎一花


「あぁ、なんだ一花か」と真奈美


「別にあなたのこと呼んでないわよ」と葉月


 なんだか知らない塩対応!二人の頭には誰かしら関係者が来るような気はしたが一花が来たことにあまりにも普通過ぎて・・・。


「えっ?・・・なんか感じ悪い・・・・」と小声でささやく一花。


「はぁ!!!」と間髪入れず二人は同時反応し一花を睨みつける真奈美と葉月。


「えっえぇ・・・・なんで!」


そんな雑談だかコントなのか知らないが無駄な駄話をしながらも一花は二人を関係者通路入り口まで移動させ本題に入る。


「もしよろしければ、二人に会われてはいかがでしょうか?」


「・・・・・」葉月と真奈美は一瞬、顔を見わせる。


「私は遠慮しとくは、だいいちどこで会わせるのよ?」と葉月


「観客の皆様が帰られた後に館内で」


「退会した私にそんな待遇していいの?私は協会の人間ではないのよ!」


「葉月さん」


「会わせるのなら真奈美さんでしょ?今ならいいんじゃないの風呂上がりで帰る間際くらいに私はいいから」


「さっき、わざわざ桃の山を鼓舞しに行ったのはなんですか?海王親方から連絡があって」


「えっ?」と真奈美が声を上げてしまった。


「葉月山のライバルたる桃の山にどうしても一言いいたかったそれだけよ!」


「親方の皆様が驚いていました。相撲会場に来られたことを」


「話はそれだけなら戻っていいかしら」


「真奈美さんは?」


「えっ?でも・・・・」と真奈美は葉月を見る


「私はいいから、真奈美さんに会わしてあげて」と升席に戻ろうとする葉月


「逃げるんですか?」と一花


「・・・・!?」


「一花さん。私はいいからありがとう気持ちだけでいいわ。会う機会はいつでもあるから」と真奈美


「親方の皆さんが感激してましたよ、【葉月山】さんがこの会場に来てくれてことに」


「・・・・」


 葉月は一花を見る。その表情はさっきのどこか威圧的な顔とは違いどこか嬉しさを必死に隠しながら・・・。


「お二人とも最後まで館内に残ってください。必ずですよ!」と言うと一花は関係者専用通路に消えていく。葉月は無言のまま升席に戻っていくと真奈美もその後を追うように・・・・。









 


 


 


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