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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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初土俵!そして・・・・⑧

 土俵上では依然として膠着状態でありながらも両力士がっつり廻しを掴み力と力のバランスが妙に釣り合っているのだ。桃の山にとっては願ったりかなったりのはずなのに追い込まれている自分に腹が立ち頭に血が上るかのように、力勝負と持久戦には絶対の自信を持っていた。心技体で言えばここまでパーフェクトの状態で来ていたとある意味自画自賛をするほどに絶好調でこの一番に望んできたのだ。葉月山もここまで無敗で来ていたとはいえ、ここ二番は手こずり一分を超える大相撲で否が応でも体を消耗しているのは傍目からもわかるほどになっていたのだ。桃の山からすれば葉月山自ら四つ相撲を選択したことでどこか勝利を確信したのだが、それなのに今の状態はどうかと言えば最も得意の形で仕留められていないことを認めざる得ない。そのことで桃の山の精神を消耗させていたのだ。


「舐めるなよ桃の山!私は葉月山よ!」と息を切らしながら言うと、一気に葉月山は桃の山を吊り上げてきた。


「うっ、あぁぁぁっ!」と桃の山はおもわず声を漏らしてしまった。


 館内が一気に湧く。葉月山が桃の山を一気に土俵際までもっていく、それでも激しく抵抗する桃の山はなんとか両足の指先だけは土俵につけ葉月山の廻しを押し下げるも、それでもさらに激しく葉月山は桃の山を吊り上げるもさすがの葉月山も限界だったか大きく息を入れた瞬間に桃の山を下ろしてしまった瞬間に一気に押し返されてしまった。


「うっ、あぁぁぁっ!」と声を出してしまった。最後の詰めでの爆発力がなかったと言うかどうしても息を入れざる得なかったそこまで苦しかったのだ。


「先輩、舐めないでください!」


「くぅぅぅ・・・」


 最後の詰めで得意の上手投げを放つ力が出せなかった。息も絶え絶えどうして息を入れなければ持たなかったのだ。どうしても気力だけでは体がついてこなかったのだ。


(甘かった!ここぞと言う時に得意の上手を・・・くそ!)


 【葉月山】にしてみれば【桃の山】を土俵際まで追い込みながら伝家の宝刀である右上手投げで仕留める。それが映見のアマチュア時代からの必勝パターンなのだが、それがこの大一番で不発どころかそれを発動することもできなかった。葉月山はそのギリギリのチャンスを自ら失ったのだ。それは、劣勢だった桃の山の息を吹き返させるのにわ十分すぎるほどの自信と勇気を与えてしまった。


『はっけよい、よいはっけよい!』


(くぅぅぅ桃の山の引き付けが息を吹き返してきた) 


(私はこの勝負諦めてない!最後は力勝負で完膚なきほどに叩きのめす!)


劣勢だった桃の山が全身全霊で葉月山を押しこむ。両腕に力をこめ、胸を押し付け、再び廻しを引き付ける。『力勝負なら絶対の自信がある!』弱気になっていた自分に鞭を入れるかのように喝を入れる。


「おらぁぁぁっ!」「くぅぁぁっ!」桃の山は全身に力を漲らせ鼻息も荒くまるで猛牛の如く押し込む。


(攻撃だけに集中するんだ!映見さんの得意の投げを打たれる前に勝負をつける!これで投げを打たれて負けたとしてもそれならそれで納得もできる。今できる私の相撲をやりきる!それだけよ!)


 土俵上の葉月山を再度引き付け吊りに行く桃の山。珍しく額に滝のような汗を浮かべ顔は真っ赤に赤鬼か如く、すべてを賭ける桃の山の気迫は、今場所の取り組みで初めて見せた本気の相撲!相手が強くなければ本気の力は湧いてこない!稲倉映見だから【葉月山】だからこそ!


(あきらめが悪いと言うか、さくらの本能がそれなのね!だったらこっちも負けられない!)


 さくらが怒涛の勢いで葉月山を引き付け吊り上げてくるさくらはまるで疲れを知らぬかのように攻め立てて来る。葉月山負けじとさくらを引き付け吊り上げに行く!お互いの激しい引き付けての吊り上げの応酬!


「くぁぁっ!」「くぅぅぅ」「はぁぁぁあー」


そこで根負けしたのは【葉月山】の方だった。またもや土俵際まで追い込まれていく。


「同じ轍は踏まない!今度こそ葉月山を仕留める!」


「くぅぅぅ・・・ふざけないでよ!くぁぁっ!」


 館内が一気に湧く。葉月山が一気に土俵際まで追い込み勝負を決めると思いきや土壇場の桃の山の粘りは驚異的でありその粘りに根負けした葉月山が再度追い込まれてしまった。


(くぅ、なんてしつこいのよ!くぅ、くっそう!)と苛立ちを隠せない葉月山


(これで・・・・これで終わりです!)と絶対的自信に自分を奮い立たせる桃の山


 葉月山の右足のかかとの角が俵にかかる。まさしく絶体絶命!桃の山が再度吊りに掛かると僅かに右足は浮き気味に、左足の指先を土俵にくい込ますかのように指先の砂土が彫られていくがその左足も接地感を失いかけもはや主導権は【桃の山】へいよいよ最終局面。館内はこの大相撲に歓喜が湧く。幕下とは言え【葉月山】と【桃の山】の相撲は両力士とも四股名の恥じずまるで幕内の千秋楽大一番かのように・・・。


 升席から声援を送る倉橋真奈美。映見とさくらを育てた偉大なる初代西経女子相撲部監督からしたらなかなか胸中は複雑な想いもあるがそこは両力士に声援を送ることが素直な自分の想いであることに嘘偽りはないことは確かである。すでに二分以上経過し膠着状態ながら緊張感高まる静寂のなかでも観客のボルテージ最高潮!【葉月山】【桃の山】の声援が飛ぶ中で・・・・!?


「映見!さくら!本気の相撲いいよ!さくら休むな!映見諦めたら終わるよ!はぁい!」と真奈美


 下の砂被りの観客がその場違いな声援をする者を奇異なものを下から見上げる。


「えっえぇぇ・・・ねえぇ葉月さん」と誤魔化しながら葉月に視線を向けるが、葉月はの視線は土俵にいる両力士に向けられていた。その視線は一ファンではなく元横綱初代【葉月山】としてであるかのような厳しい顔つき、両腕の手のひらは拳状態にしながらもしきりに親指だけは拳のなかから出たり入ったりとどこか落ち着きがなく、それは内なる興奮を必死に抑えてれいるかのように・・・。


 館内の観客達はおそらく誰もこの人物があの元絶対横綱【葉月山】だと気づいている者はいないだろう?力士引退後にいきなりの女子プロアマ混合団体世界大会監督としての新たな女子大相撲界への処女航海は相撲人としての最後の航海になってしまった。女子大相撲の世界から去りメディアへの露出もほとんどなくなった。相撲関連は一切お断り、競馬関係も最初の頃は顔見世的に出たこともあったが今はそれもほとんどなくなった。そんな葉月が女子大相撲に観戦に来るのはおそらく女子大相撲関係者でさえも想像はしていないだろうし、自分自身が女子大相撲に行きたいなど思いもしなかった。


 両力士に声援が飛ぶ。かつては土俵の上でその声援を聞いていた葉月。土俵では【葉月山】が若きライバル【桃の山】との大勝負を繰り広げている。葉月の胸の内に静かに眠っていたかのようなマグマだまりがもう噴火してもおかしくない状況になっていた。女子大相撲力士引退後は指導者としての段取りも組んでいた。しばらく外から女子大相撲を見ることで見えなかったものが見えてくるはずだと・・・・しかし、協会上層部は、いや、理事長である山下紗理奈はそれを許さなかった。女子プロアマ混合団体世界大会監督の就任はその先にある女子大相撲協会の役員ひいては理事長への布石への道だったことは周囲も本人もその認識は理解していつつも・・・・。


>「元絶対横綱から相撲を取って残るものがあるのかしら」


 かつて、山下紗理奈理事長から言われた言葉は今でも忘れない。それはい意味でも悪い意味でも・・・。もし、北海道での両親への墓参りのついでに中河部牧場に寄らなければこんなことにはなっていなかった。こんなことと言う言い方はおかしいかもしれないが、あの時なぜ中河部牧場に行く気になったのか?そして、忘れていた・・・いや、忘れようとしていた故郷北海道での牧場生活。それは、繁栄と衰退、そして、消滅・・・。そんな過程において葉月はいい意味で女子大相撲、いや、山下紗理奈に救われたのだ。名門牧場のお嬢様としてなに不自由なき生活を送り将来は、競走馬ビジネスを夢見ていた。そのかたわら相撲に熱中していた。馬も相撲も勝負に拘りがあった


(【葉月山】・・・かつての自分を見ているのかしら私は?まるで思いを馳せているかのように?葉月山の四股名は唯一無二。もう私には関係ない。でも無理ねそんなのは、私も桃の山もあなた達の相撲を見てると何か不思議な感じよ、四股名は受け継がれるものだから不思議ではないけどね)と葉月は想いながら一瞬笑みも浮かべたがすぐに厳しい表情に変わる。


 ついに【葉月山】両足が俵にかかり左足は特俵にかろうじて、本当に土俵際まで追いつめられた。


(くぅ、本当にしつこいのよ!くぅぅ!だからって負けない負けられない)


「あきらめな!【葉月山】もう終わりよ」と桃の山は息絶え絶えのしかっりと言い放った。


(何!)その言葉に一瞬耳を疑ったがそれははっきりと映見の相撲魂に突き刺さった。


 土俵際に葉月山を追い込んだ桃の山はここが勝負と見て桃の山は剛腕で葉月山の廻しを腰に引き付けると桃の山は体をぶつけて圧力で押しつぶしにかかる。葉月山の体はもう限界すでにもう土俵に体はないと言ってもいいくらいにそれでも驚異の粘りを見せる【葉月山】


「もう終わりなんですよ!さっさと土俵を割れ!」


「くぅぅぅ・・・くぅっかぁ!」


 この土俵の戦いの場に先輩後輩もない!勝つか負けるか!やるかやられるか!必死に両足のかかとを綱に預けると俵が沈み込むかのように圧がかかる。桃の山はここぞとばかり葉月山をねじ伏せにかかると館内は歓声と悲鳴が混在するかのような興奮の坩堝!しかし体勢は完全に桃の山であり土俵際の逆転技を持たないとされる葉月山に勝ちはない!弓なりになりながら必死に粘る葉月山だがさすがに気持ちは折れ掛かっていた。柳のようにしなろうと最後は折れることには変わらない


(もう・・・無理・・・・ここまでか・・・)もう葉月山の闘志の炎は風前の灯火。館内はの誰しもが桃の山の勝利を確信した時、一人の声が葉月山に最後の喝を入れるかのように電光石火で葉月山の弱気心を打ちぬく一矢を放った。


「葉月山!うっちゃるのよ!葉月山に勝負を捨てるはないのよ!あなたは【葉月山】が認めた力士なのよ!!」


「葉月さん・・・・」隣の真奈美は土俵での二人の取り組みよりも葉月を見入ってしまった。周りの観客も一瞬葉月に視線を向けたが他の観客からすればそれどころではないこんなに興奮する取り組みから目を話すなんって!


「くぅぅぅ・・・くぅっかぁ!」防戦一方の葉月山に観客の声など耳に入らない程まったくもって余裕などない、この状況での逆転はとても無理だと葉月山自身が桃の山に完敗を認めざる得ないと・・・。


>「葉月山!うっちゃるのよ!葉月山に勝負を捨てるはないのよ!あなたは【葉月山】が認めた力士なのよ!!」


 葉月山自身に観客の大歓声を聞こえない程に防戦にあっぷあっぷでとても耳に入ってこなかった。でも葉月の声は空耳かと疑うもはっきりと・・・。


(うっちゃる!?でももう私に・・・誰!?葉月さん!?)葉月山にとって土俵際での逆転技など考えも及ばなかった。そして、その声は椎名葉月さん元絶対横綱【葉月山】であると確信した。


(そうだそうですよね!葉月山に勝負を捨てるなんて絶対にない!私はあの葉月山に認められた力士なんだ)


 桃の山が潰しにかかるところを葉月山は相手の廻しを全力で掴み下半身にも出せる力を集中!そして弓なりになりながら桃の山を吊り上げる格好に!まるで背骨が折れるかと言うぐらい!


(なんですかそれ!そんなのが通用するか!)と桃の山も渾身の力でねじ伏せに行くと待ってましたとばかりに葉月山がうっちゃりにいった。


『う、うぉぁぁぁぁあっっ!おりゃ!!』とイナバウアーかと見紛うほど強引に自爆覚悟で桃の山を投げ捨てると二人の体は同時に土俵の外に飛ぶと土俵の外に倒れ込む。行司の判断に一瞬の間が!?二人は同時に行事の顔を見ると行司は一瞬瞬きをし軍配を上げる


「東・葉月山!」


 それを聞いた【桃の山】は右こぶしを土俵に叩きつけた。あの穏やかな桃の山が初めて見せた勝負への執念!そして負けたことへの悔しさを初めて見せた感情的態度。けして、褒められた態度ではないがそのことが余計にこれからの対決を盛り上げる。


 【葉月山】は精魂尽き果てたかのように両手を着き息を落ちつけさせながらふと観客席見ると倉橋真奈美の姿が目に入る


     (そうか、来てくれていたんですね・・・隣の人は?・・・・えっ!?葉月さん!?)






 






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