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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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315/325

初土俵!そして・・・・⑥

 ----女子大相撲中継----- 


「名古屋場所幕下の最後の取り組み、全勝同士の大一番であります。解説は元大関【伊吹桜】さん現在は小田代部屋で指導主任をしてらっしゃいます。さて葉月山対桃の山どちらも西経出身でよくご存じかと思いますが西経OGの心境としてはいかがでしょうか?葉月山は小田代部屋ですしお答えしにくいかもしれませんが」と女性アナウンサー


「そうですね、葉月山も桃の山もここはあえて映見とさくらと言わしてもらえば、西経の強さの象徴であった選手ですし、国内のみならず国際大会で幾度の勝利も勝ち取ってきた。その意味では次世代の旗手になってもらわないと困りますし、それができる二人だと思います。初土俵のこの場所において期待以上の活躍をしてくれてますし、小田代部屋の者としての立場を離れいち元力士の立場から言わしてもらえれば、幕内クラスであることは間違いありません。ただ西経OGとしては初土俵どうしでいきなりの優勝をかけた大一番は複雑ですね、ここまできたら同時昇進させてあげたいと言うのが私の本音ですがそこは勝負の世界ですから」と伊吹桜


「なるほど親心みたいなところでしょうか・・・。さて【葉月山】ですが、序盤はバタバタした取り組みもありヒヤリとする場面もありましたが、調子的にはいかがですか?」


「実業団で実戦を踏んで全国大会でも優勝はしましたが、そこは大学時代とは違いますし実戦と言う意味では稽古もそうですが社会人であるがゆえに数が足りていなかった面もあってバタついてしまったと想っています、ただそのあたりの修正はさすがと言うところでしょうか」


「その意味では【桃の山】はいかがでしょうか、大学在籍時も顕著に海王部屋の方に出稽古に行ってましたし、その意味では準備万端というところでの結果に見えますが?」


「【桃の山】のこの七日間の相撲を見るにつけ、大学時代からレベルアップしていることは他の部屋の力士ではありますが認めざるを得ません。多分そこは【葉月山】も肝に銘じていると思います」


「指導主任として何かアドバイス的なものは?」


「桃の山の対応策はそれなりにはしてますが、やっぱり抱え込みでしょうか?桃の山のパワーなら廻しを取れなかったとしても振り回してくるでしょうからそこは要警戒してます」


「抱え込みですか、確かにここ何番かは廻しを取れない状況でも引っ張りこんで抱え込むと言う取り口が一つの形になっていますしね」


「そこは、【葉月山】もわかっていると思います。あっ?」とおもわず声を上げる伊吹桜


「あぁ・・・今、伊吹桜さんのお隣にこのあと幕内解説をお願いしています元横綱【三神櫻】さんがお座りになられましたが」


「続けて、この一番は現場で見たかったから、黙ってますので」


「あぁいやせっかくですから解説でもいただければと」


「いや、元大関【伊吹桜】さん差し置いてはねぇ」


「いえ、三神桜さんの解説には、いつも勉強させてもらってます」と伊吹桜


「せかっくですので是非」とアナウンサー


「そうね・・・」


「話は違いますが三神櫻さんは伊吹桜さんと親交とは?」


「伊吹桜?あぁなんかね、伊吹桜になんか言うと倍になって返ってきそうでね、なんか似た者同士と言うか、ちょっとね」


「!?」


「伊吹桜さんあんなこと言ってますが」


「あぁ・・・年寄りのなんとかと言うか」


「!?」


「えぇあぁ・・・この一番の解説 を・・・」


「伊吹桜との舌戦かい?」


「あぁいや・・・」


「冗談ですよ、小娘相手に私が本気になるのも可哀想だしね」


「はぁ?」と真面目に怒りを覚える伊吹桜だが、そこはプロレスの如く?


「まぁ時間がないので私は桃の山目線で、桃の山の弱点は脇の甘さ、右でも左でも容易にさせる。葉月山は右でも左でも差せるしもろ差しでその形に持ち込めれば桃の山の勝ち目はないね、葉月山はやっぱり左かな、桃の山からすれば葉月山の投げは避けたいし、投げが中途半端でも崩しにくるから、絶対にがっちり捕まえたいよね桃の山はそこだよね間違いなく」


「なるほど・・・。となると三神櫻さんはこの勝負どう見ますか?」


「そうだね、二人とも四つだから組み合う形になるだろうけど、葉月山が勝つとしたら早い相撲で桃の山に粘らせないこと、逆に桃の山からすれば焦らないでじっくり構えるぐらいの余裕がほしいね、あえてがっぷり四つに組ませて、力勝負という手もある。それと何番か見せたうっちゃりかな桃の山はあれがある。技術的には葉月山の方が一枚上手と見ているが、詰めが甘いとやられるよ!今の桃の山には勢いがあるからね、そこは気持ちの強さだからね」と三神櫻はちらっと伊吹桜を見る。


「なるほど、伊吹桜さん。三神櫻さんの話はいかがでしたか?」


「えぇ、桃の山の勢いはやはり脅威です。気持ちで相撲をとるところがありますから勢いに乗ると手をつけられないところは確かですし、葉月山もそこは十分にわかっていると思います。三神櫻さんがおっしゃられたように、葉月山は早い相撲で決着をつけるのが勝利の鍵です。正直、疲れも見せていますしここ二番長い相撲を取らされましたしスタミナに不安もあります。まぁ今場所最後ですからすべてを使い果たす気概でやると思います」


「わかりました。さぁー幕下最後の取り組み優勝が懸かる大一番、東【葉月山】西【桃の山】土俵下で大きく息を吐く両者であります」


------オランダ アムステルダム Café Americain 午前七時-----


 カフェ・アメリカン(Café Americain)は、オランダ・アムステルダムの中心地、ライツェ広場(Leidseplein)に位置し、クレイトンホテル・アムステルダム・アメリカン(Clayton Hotel Amsterdam American)内にあり、地元の人々には「アメリカン」と呼ばれ親しまれているカフェである。外観はオランダ独自のアール・ヌーヴォー様式で造られレンガ造りとモザイク模様の塔のような装飾を纏う。店内は大きなステンドグラスにオーダーメイドで作られたと言うティファニーランプから放たれる電球色のランプが店内は暖かく包み込む。高い天井とアール・デコ様式の曲線美は、時代を超越して現代に生きるかのように・・・。


 中年の日本人男性は、窓辺の通りに面した席に座り外を眺めていた。時たま四両の低床型トラム(路面電車)が脇を通り抜ける。テーブルの上にはエッグベネディクトとオレンジジュースが置かれ、その脇にはラップトップPCが開かれ、女子大相撲名古屋場所千秋楽のライブ配信動画が音声を消された状態で映し出されている。


店内にはホテル客であろう一組の男女がいるだけで、早朝の店内は閑散としている。しばらくすると一人の若い男性がBelvestベルベストのスーツを纏い、オリーブ色のダレスバックを右に持ち店内に入ってくると、店内を見回し窓辺の男性の前に立ち軽く一礼する。


「おはようございます。先生、お久しぶりです」


「どうも、和樹元気してたか?」


「先生こそ、いきなり会わないかはないでしょう?」と苦笑気味に


「ケンブリッジで商談があって、その後お前に会えないかなってとおもってね」


「昨日の今日ですよ、事前に言ってもらえば休みをとって・・・」


「俺も急にひらめいてね」


「ここのホテルに泊まったんですか?」


「夜行バスで」


「夜行バス!?」


「ユーロスターでブリュッセルまで行ってそこからバスでアムステルダムそこからトラムで、10時間かかったよ」


「仕事ですか本当に?」


「半分遊び」


「たっく・・・」と二人は笑みを浮かべる。そんな他愛ない話に盛り上がりながら、光はラップトップPCを和樹に向ける、その画面には当然に女子大相撲名古屋場所のライブ動画、和樹は一瞬その画面を見るも注文したサワードウ・パンにポーチドエッグとオレンジジュースを食しながらもあえてPCの画面からは目を逸らす、その視線を光は見逃さなかった。


「葉月山には関心ないか?」


「凄いですよね、七戦全勝で最終日の優勝がかかった一番。でもそれは、通過点でしょ?映見は女子大相撲に邁進している医師の道を中断してまでして・・・映見とはもう連絡は・・・少なくとも力士であるうちはお互い連絡をとることはしないと言うのがなんとなく暗黙の了解と言うか・・・」


「映見は30歳で区切りをつけるって言ってるけど?」


「奥様の真奈美さんから聞きました最後に映見に会う前に」


「五年後、おまえは?」


「さぁー、独立を含め色々選択肢は考えていますけどオランダに来て冷静にというか熱量を削がれたと言うか・・・・」


「無理してねぇーか?」


「無理?」


「映見もそうだけど、無理をしてまでも逃したくないことってあるけど、そのしわ寄せは必ずどっかにくる。お前映見と一緒になるのか五年後?」


「どういう意味ですか?」


「五年後、映見がそれなりの地位にいて、お前が会社以外の選択の決断をしたとして一緒になれるのか?季節が移ろうようになっても・・・・」


「・・・・」


「『色見えで移ろふものは世の中の人の心の花にぞありける』古今和歌集小野小町の歌だけど、花は色褪せていくのが見えるけど人の心に咲く花は表向きには咲いているように見えても本当は色褪せていて枯れる寸前だったりする、人の心に咲く花なんてそんなもんだ」


「何が言いたいんですか?」


「五年待つことに何の意味がある?」


「・・・・」


「映見との関係決断しろ!恋は生ものみたいなものだよ!物事には直観で決めない時があるんだよ、恋もビジネスも」


「真奈美さんとの再婚も?」


「関係ねぇーだろう?」


「別れた元妻と再婚するって、新鮮と言うより熟成って感じなのかなって?」


「熟成?熟成ってより高菜の古漬けって感じだよ、多少酸味が立つというか生では食えねぇーなって」


「良いんですかそんなこと言って」


「炒めてチャーハンにすれば食えるかなって、手間かけないと食えないんだけどそれもまた可愛いんだよ」


「?????」


「なんだよ?」


「映見には相撲に邁進してほしいそれだけです、医師稲倉映見よりも女力士【葉月山】として・・・」


「葉月山としてか・・・俺は籍ぐらい入れるべきだと想うけどね」


「先生の言う通りだと思います、籍だけでも入れようと言えば、映見は受け入れると思います」


「だったらどうして!?」


「この五年は、自分を見つめなおす、そして映見との関係も、多分映見もそう思ってます。先生が気に掛けてくれて貰っていることには感謝ですが・・・すいません」


 PCの画面には幕下の熱戦が映し出されている。音声は聞こえずも会場の熱戦は伝わってくる、それは和樹も同じ。映見の相撲は欠かさず見ている、時差の関係で日本とは約7時間のマイナスであり、オランダ午前7時なら日本は午後2時で丁度よいのだ。リアルで見る女子大相撲は和樹の心を熱くする。アマチュア時代の映見とは同じに見えど・・・。


「わかったよ、俺がお前ら二人にお節介やいても仕方ねえか、変わり者に言ったところで言う事なんか聞きゃしないし頑固者というか」


「先生には敵いませんが」


「俺は至って常識人で心優しいジェントルなんだけどね」


「ジェントル?」


「じゃなかったら真奈美と再婚なんかするわけないだろが、なんか似てるんだよな映見に・・・」


「先生と俺は似ているのかも」


「似てない!」


「・・・・」


 店内はホテルの宿泊客であろう人達がぽつぽつと入って来る。テーブルの上にはカプチーノとブレンド。和樹は若干冷めたブレンドを飲み干すと席を立つ。


「それじゃ、すませんがこれで」


「映見の相撲見ていかないのか?」


「このあとフィレンツェに行かなきゃならないので、それに結果は自分には見えているので、ごちそうさまでした」と出口の方へ


「和樹!」


「・・・・」光の声に振り向く。


「映見を頼むよ、家のかみさんとおなじで頑固者だけどガラス細工みたいなところがあるから」


 その言葉に、一瞬笑みを浮かべる和樹


「なんだよその顔」


「わかりましたけど、それって自分に言い聞かせてますよね?そのガラス細工を壊した張本人が言うと説得力がありますわ」


「はぁ?」


「それじゃ失礼します」と一礼し和樹は出口へ、


 和樹が店を出て行くと光の胸に何かモヤモヤ感が残っていた。和樹に言うべき事はなんだったのか?もっと強く、映見との関係を言うべきつもりでわざわざオランダまで来たのに・・・。トラムが車輪を軋ませながら店の脇を抜ける、それを追うかのように通勤であろうかリュックを背負った女性がクロスバイクで駆け抜ける。光はふとテーブルに目を落とす。


 (うん?・・・・・)テーブルに置かれた一枚のカード。そこに書かれていた文字。



 「自分と映見の気持ちは五里霧中の中に、でも陽が昇れば消えるでしょう。時を・・・エアーメールに託して」


 光はそのカードを裏返す


(ヨハネス・フェルメール《(手紙を読む)青衣の女》か・・・・)


 17世紀オランダ絵画を代表する巨匠ヨハネス・フェルメール。《手紙を書く女》《手紙を書く女と召使》など日常の描写が多いフェルメール作品の中でも重要なモチーフとなっている「手紙」その手紙に隠されたメッセージに見る者は思いを馳せる。


(なにがいかにも物が分かったようなこと書きやがって)と苦笑気味な表情を浮かべる光。ラップトップPCの画面を自分に向けると場面は幕下最後の取り組み。土俵下に控える【葉月山】と【桃の山】が映し出されている。


        (これでよかったのか?本当にこれで?・・・・・・)

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