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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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312/324

初土俵!そして・・・・③

女子大相撲名古屋場所もいよいよ千秋楽。幕内は結びの一番で東の絶対横綱【妙義山】と西の横綱【十和田富士】の大一番の全勝対決。母である初代絶対横綱【妙義山】に続く娘が二代目絶対横綱【妙義山】として昇進後は、西の横綱【百合の花】引退後一人横綱として女子大相撲を牽引してきた。そして昨年、十和田富士が横綱に昇進し東西横綱が揃いましてや、因縁の相手である十和田富士が横綱として真っ向勝負となら否応なく盛り上げる。ましてや昨年の名古屋場所は十和田富士が初優勝を上げた場所とならば盛り上がらないわけがない。


 そして、もうひとつは幕下優勝争い。【葉月山】・【桃の山】二人とも西経大出身で且つアマチュア女王として君臨した二人が本物の土俵で勝負する。特に現役の女子アマチュア選手達には幕内以上に注目なのだ。大学生や高校生・中学生にとっては、二人の力量が女子大相撲力士相手にどの程度通用するかは、女子大相撲入りを考えている者にとっては気になるところだが、結論的には群を抜いての力量であった。当然と言えばそれまでだが、幕下と言えどもそこプロ力士である。大学出がましてや、医大卒の映見などは学生時代の何年かはブランクがあり卒業後に実業団のタイトルを獲ったとはいえ、そこはある意味での全盛期は過ぎているのではと言うのが評論家やSNS上での意見で石川さくらの方が上と言うのが大勢を占めていた。しかし、二人とも負けなしの六戦全勝で迎えた千秋楽はまるでシナリオ通りになったのだ。


SNS上では


「まさか千秋楽で全勝同士の決戦になるなんて、ドラマチックすぎる!」


「葉月山と桃の山、両方とも学生相撲時代から見てたけど、やっぱり強さはホンモノだったね。」


「女子アマで敵なしだった二人が、プロ土俵でもここまでやるとは震える」


「あの二人と同じ西経大出身とか…誇らしい!でも正直レベル違いすぎる」


「幕下でこれなら、もし十両・幕内に上がったらどうなるのかワクワクする」


「私たちが大学で勝てなかったのも納得。プロでさらに進化してる」


「【葉月山】【桃の山】の復活はこの二人以外考えられなかった!まさしく選ばれし二人」



-----中部国際空港 国内線到着出口 午前8時30分 千秋楽当日--------


 ベージュのブラウス×オフホワイトのスカートでライトフェミニンスタイルに、ゴールドに輝くジュエリーとサンダル、若干歳にたいして若作りとも言えなくないコーデではあるが・・・。その女性は壁に身を寄せスマホ片手に女子大相撲関連のSNSコメントを見ながら納得しているのかいないのか?


(まぁ全勝対決の予感は想定通りではあるけどね、でも二人の相撲を現実に見れることは感無量って感じ)


 朝のセントレア。三階の出発ロビーは国際線・国内線とも一つのピークを迎えているのに、二階の到着ロビーは閑散としている。国内線は仙台からの ANA3120便が間もなく到着のサインが電光表示板に表示されている。


 女性はスマホをスクロールさせながら読み進めていく。


「二人とも最後の倉橋監督世代だよね、そう言えば全く出てこないと言うか完全に相撲の世界から消えたよね」


「再婚されて、福井にいるらしい?」


「再婚って言うのも意外、結婚していたことが意外?」


「元旦那と再婚したんだよね、確かホークアイソリューションズの創業者だよね?」


「ホークアイソリューションズって世界的企業じゃん」


「今は福井の中堅技術メーカーで役職やってるんだよね確か」


「でも、再婚相手が元夫ってどっちがどっちなんだろうね?」


「それは、奥さんの方でしょう?意外と粘着質?」


「旦那、食われちゃったか?」


「恋に溺れるタイプだよねなんとなく・・・」


「旦那が凄いんだろうね、その思いを真正面から受け止める寛容さっていうか・・・・」


「旦那さんも大学時代相撲していて、以前は相撲クラブがなんかやっていたんだよね?」


「結局相撲繋がりかい! (笑)」


 (はぁ~!なんなのよ!女子相撲のサイトだよね!関係ないよね私達の関係は!意外と粘着質?恋に溺れるタイプ!何言ってるのよ全くふざけんな!真正面から受け止める寛容さだぁ・・・・まぁそれはね・・・・)と想いながら目を瞑りつい笑みがこぼれる。今の二人の関係は濱田光の妻としてではなく、光の秘書として親友として・・・・。仕事のパートナーであり、親愛なる友人として・・・。深い森の中で抱き合う二人。そんな自分の森にどっぷりつかるとどこからか女性の声が・・・。


「真奈美さん」


 (誰?)


「真奈美さん」


 (誰? 光、また女!?)


「真奈美さん」


「誰、あんた! えっ?」


「・・・・・」


「葉月さん。あっ、・・・いや・・・やだぁ・・・」


「どうされたんですか?なんか表情が・・・・」


「えっ?・・・何が!?」


「いや、何がって・・・・」


------名古屋高速 3号線------


 二人を乗せたコズミックブルーマイカ色の三菱アウトランダーは、セントレア空港から中部国際空港連絡道から知多横断道路に入り一路名古屋方面へ車を走らせる。


「すいません。なんか空港まで迎えに越さしてしまって」と葉月


「いいのよ、だってチッケトお願いしてしまったんだもの」


「福岡の方なんですがうちの女性馬主でだいの女子大相撲の大ファンなんです。たまりの後ろの升席を用意して頂いて、正直あんまり目立つのはいやだったんですが・・・」


「福岡から来るって言うから・・・そうか小倉競馬ですか?」


「あぁ・・・ゴルフで・・・」


「ゴルフ?」


「金曜日はビジネスで土曜はゴルフで・・・・」


「金曜日に【五社会】の食事会と土曜のゴルフに誘われまして」


「【五社会】って九州財界人の集まりですよね?」


「えぇ、九州でもっとも力を持っていると言われている団体です、任意団体ではありますが影響力は絶大ですし、アジアとの深いパイプもありますし無視はできない団体です。今回はその女性馬主さんからの紹介で会ってみないと言われて」


「なるほどね、葉月さんはもう元絶対横綱【葉月山】と言うより中河部牧場の女帝だからね」


「やめてくださいよ、なんかイメージ像が悪くて、いまだに椎名牧場の恨みを晴らすみたいな言われ方する人もいるし、勘弁してほしいですよ全く」


「まぁ・・・あれだから」


「はぁ~・・・あれって?」


「あぁ・・・絶対横綱だから!」


「はぁ?・・・・・」


 車は名古屋高速に入る。遠くに名古屋の高層ビル群を眺めながら滑らかに静々と交通量の少ない休日の都市高速を走る。


 真奈美にとっては意外だった。葉月の方から名古屋場所千秋楽のチケットがあるからと連絡があったのは、東京で山下紗理奈と遠藤美香に会った翌日だった。光の代理で中京競馬場に行ったあの日の夜泊った。名古屋マリオットアソシアホテル 48階〈那古野スイート〉での彼女からの不意打ち。


>「名古屋場所一緒に行きませんか?」


 葉月とは競馬場や年に何回か日高の牧場で会うことはあるのだが、相撲の話を熱く語ることはあまりなかった。意識してと言うこともないわけではないのだが・・・・。そんななか、稲倉映見や石川さくらの女子大相撲入門が現実味を帯びてくれば否応にも触れざる得ないのも自然の流れではある。真奈美に至っては、西経女子相撲部監督を辞めて以降は客員教授としての仕事があり大学には来ていたもの一切相撲部の稽古場に行くこともなく大学去ったのだ。そんな二人が、競馬界と言う違う分野でまた会うことになるというのも皮肉でもある。ある意味での割り切りができた真奈美とは対照的に、どうしても割り切れない葉月。高校で指導者の真似事のような事したり、かつての自分の四股名【葉月山】を映見に継がす継がさないのと言うことにかこつけて、女子相撲との関係を取り留めたいと言う想いがどこかにある葉月。そんな自分にとって二代目【葉月山】の姿を生で見たい。ましてや、幕下優勝がかかっている大一番となれば、会場で見たいのは当然である。もちろん真奈美自身もみたい気持ちがあるのは当然なのだが、監督時代から女子大相撲会場に足を運んだことは大阪でのトーナメント大会以外一切なかったのだ。そんな思いより先に、葉月の方から言ってきたことは意外だったのだ。



「あぁそう言えば、苫小牧北高校は春の高校選手権で団体三位だったじゃないびっくりしたけど、指導者があれだから当然かとは思ったけど」


「あれだからって・・・それに指導者ではないですから」


「あなたは凄いわよね、苫小牧北の急成長はあなたなしになかったでしょうし、それに何気に相撲界に戻ってるし」


「別に戻ったとかいう意識はないんで・・・・」


 葉月は車の車窓から外を眺める。防音壁のスリット越しに見える街並みはどこか無機質で殺伐とし見える。北海道に帰り相撲とは決別までとはいかなくとも距離を置くつもりでいたはずなのに、その思いが強ければ強いほどに逆の方向に行ってしまう。まさか、自分から女子大相撲の会場に足を運ぼうなんて思いもしなかった。そんなある意味の優柔不断な自分から比べれば隣の真奈美はきっぱり相撲とは距離を置いているように見えたが・・・。


「今だから話すけど、あなたとホテルに泊まった翌日に、東京で紗理奈さんと会ってね」


「えっ・・・・」と葉月


「行くことは絶対ないと想っていた小田代部屋に行くことになって、そうしたら映見も来ていてね偶然とはいえちょとね」と真奈美はどこか嬉しいような顔を見せる。


「百合の花のところに行ったんですか」と知らないふりをする葉月


「百合の花ではなく、小田代ヶ原親方ですから」


「あぁそうですね、どうも百合の花が親方と言うのは・・・」


「嫉妬?」


「はぁ?そんなじゃないいんですけど・・・でも小田代部屋の躍進と言うか彼女の指導力の賜物であることは認めざる得ないですかね悔しいけど」


「あれ、意外と素直に認めるのね」と真奈美は半分茶化しながら


「じゃなかったらあの家も相撲部屋の土地も譲りませんから」ピシッと葉月


「あなたは相撲界に残らなくて正解だったのよ、今の中河部牧場の成功を見ればあなたは・・・まぁあなたななら何をやっても成功するでしょうけどね」


「どうして紗理奈さんと会おうと思ったんですか?」


「映見を女子大相撲に導てくれたお礼かな」


「お礼?」


「結局、私にお礼をさせてくれるチャンスを与えてくれなかった」


「実は私も一枚かんでまして」


「はぁ?」


 葉月は事の経緯を説明し、遠藤美香が映見の入門前に真奈美と映見を会わせてやりたいから、東京に誘い出せと指示されたことを打ち明けた。しかし、葉月がどう誘うかを模索している時、真奈美本人が山下紗理奈と東京出会う約束を盗み聞きしてしまったことは、いい意味での想定外だったのだ。


「すいません。なんか・・・」


「福井に帰って冷静に考えた時、随分偶然が重なるなとは思ったけど、その糸を手繰り寄せたのは私自身か・・・その意味では葉月さんは使えねぇーってことになるのかしら」


「・・・・」


「冗談よ。でも、映見と入門前に会えるチャンスはあの日しかなかったそれは事実。それとあの日映見の本気を確認できた。私にとってはそれで充分!映見は私の行けなかった世界へ、それも【葉月山】として、それで初代【葉月山】として二代目はどうなのよ?」


「えっ?」


「今日、全勝できそうから?」


「・・・・【葉月山】なんで、少なくとも私の目の前で負けは見たくないんで」


「相手は【桃の山】よ、私が育てた最後の選手よ、そう簡単にいくかしら」


「真奈美さんは、【葉月山】が負けてほしいみたいな言い方に聞こえますが」


「困るのよね、二人優勝とかないのかしら」ととぼける真奈美


「あるわけないじゃないですか・・・・あぁでもないこともないですけど」


「えっ?」


「「預り」とか」


「うん?」


「水入り・取り組み・水入り・取り組みの繰り返しで精根尽き果てて続行不可能で勝負つかずの預かりとかなる可能性もないわけではないですけど」


「あぁなるほどね、それいいわね」


「何が『あぁなるほどね』ですかまったく」と葉月はあきれた表情を見せるが・・・。


「私はどっちが優勝しようが構わないの、二人とも怪我無く場所を終えてくれたらそれで、勝負は時の運、今の二人の実力からすればそれがすべて、全勝で迎える千秋楽がそれを物語ってる」


「真奈美さん」


「【葉月山】対【桃の山】歴史は繰り返す。本物の土俵で見せる二人の相撲、見ないわけにはいかないから」


「私もです。二人を見ていると何か過去の自分を見ているようで・・・」


 車は名古屋高速4号東海線六番南ICを下りると会場まではあと少し・・・。







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