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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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311/324

初土俵!そして・・・・②

 名古屋場所14日目。幕下優勝争いは【葉月山】と【桃の山】が6勝0敗で並び後続力士は2敗で翌日の千秋楽は一騎打ちの対決で優勝が決まるという誰もが望んでいた展開になった。そして勝った方が一気に十両昇進が決まると言う大事な一番になる。


 新旧のアマチュア女王対決はアマチュアで活躍中の学生選手や実業団選手にとって幕内より注目を浴びせているのは当然である。女子プロアマ混合団体世界大会の活躍。西経大学時代の無双ぶりも国内外の大会でいかんなく発揮。その両雄が女子大相撲と言う本物の土俵で勝負をするとなれば、見ないわけにはいかない。15日の開催期間のうち幕下力士は7番することになるのだが、アマチュアであれば、一日ないし二日間で何番かとり決着をつけるが女子大相撲は15日間の戦い、幕下は七番で勝負を決めるにしても、15日間は緊張の連続であり、取り組みがない日でも多少なりの緊張は強いるものであり、心休まる時間はないのが初土俵力士の胸の内である。


 月刊雑誌【女子相撲】でコラムを書いている元横綱三神櫻(遠藤美香)は、二人の相撲について、「桃の山は立ち合いからの鋭い突き押しで主導権を握る力がある。押し切れない場合でも突きから素早く回り込み、投げにつなげる多彩さも大学時代からの成長を感じさせる。葉月山は四つに組んでからの強さが突出しており、相手の得意形を封じて自分の形に引き込むあたりなどの“試合巧者”ぶりはブランクがあるとはいえさすがだ。精神面では葉月山の安定感が一歩上のように感じる。四日目の【御岳山】との相撲では立ち合いに失敗し追い込まれたがそこは落ち着いて対処し勝ち取った。【桃の山】も精神面での成長も見られるがここまでの相撲は一気の爆発力で攻める相撲が目立つ。組んでの相撲もできるのだがどうも勝負を急いでいることは気になるところである。ここまで6勝全勝での一騎打ち対決は甲乙つけがたいところだが、勢いの【桃の山】か安定感と相撲巧者の【葉月山】か?勝負のキーは平常心だと・・・」


 幕内は14日目まで、【妙義山】【十和田富士】が全勝で一敗で【天津風】。千秋楽での全勝横綱対決はファンからするれば理想的展開であり昨年優勝の【十和田富士】が名古屋場所連覇できるか?【妙義山】が雪辱を果たせるか?絶対横綱【妙義山】にとって【十和田富士】は親子共々ライバルであるも、かつての因縁対決はいまや女子大相撲の二大看板女力士として盛り上げる。東西両横綱が揃って二年目の春場所は妙義山の圧倒的強さから十和田富士が遅咲きの大器のごとく年明けの春場所は千秋楽での全勝対決は水入りを挟む大相撲になり辛くも絶対横綱【妙義山】が制したものの、今年の女子大相撲はけして絶対横綱が絶対優位という図式ではないことを予感させる春場所であった。世界ツアーシリーズ前半戦も【十和田富士】の好調ぶりが目立ち、【妙義山】と拮抗状態、前半戦の最終大会のインドネシアでは【十和田富士】は体調不良で欠場したが、そのことで名古屋場所は余裕を感じる取り組み、一部には名古屋場所を見据え欠場したのではという憶測も囁かれているが・・・。その意味では【妙義山】は生真面目すぎるのかもしれない。日本女子大相撲としての絶対横綱の責務として、世界ツアーシリーズは日本の覇権を賭けた戦いでもあるのだが、その意識が【妙義山】は強すぎるのだ。【十和田富士】が参戦し世界の相手への負担は減ったもののそれ以上に敵は身内にいたのだ。


 そんな名古屋場所もいよいよ佳境に、幕下優勝争いはこれからの女子大相撲の将来を占う取り組み。幕内優勝争いは親子二代対決の取り組み。明日はいよいよ千秋楽を迎える。


-------小田代部屋------


14日目を終え幕内力士は【葉月山】は6勝全勝で【桃の山】と並び、幕内力士は【天津風】が二横綱を追いかけていたが13日目に【妙義山】との対戦で四つに組まれ右下手投げで完敗。まざまざと絶対横綱の力を見せつけられた。優勝争いから脱落してしまったが来場所の関脇昇進を確実にしたことは、天津風自身もさることながら小田代ヶ原親方にとっては愛弟子である力士が大関、そして横綱も視野に入って来たことは感無量である。


  西経大学女子相撲部の稽古場、時刻は午後9時。午前中は小田代部屋が使い午後は女子相撲部が通常通りに使い、そのなかで小田代ヶ原親方と主任の伊吹桜が部員に技術的指導をすると言うことが小田代部屋のこの場所を貸す条件になっているのだ。それを画策したのは西経大学女子相撲部監督【濱田瞳】。濱田光の実の娘であり、再婚した濱田真奈美にとっても娘もある。そんな真奈美からバトンを受け継いだ瞳は、女子大相撲の親方達との親交を重視するスタイルは真奈美とは相反する。そんななかでの稲倉映見と石川さくらの女子大相撲入りは、前監督からの流れがあるにせよ、西経と女子大相撲との確執のようなものが取り払われた始まりでもある。


 稽古場の土俵の明かりは消され静まり返ったの対象的に、小上がりでは、小田代ヶ原親方・指導者の伊吹桜・相撲部監督 濱田瞳がプチ飲み会と言う感じで女子相撲の話に花を咲かす。


「瞳が監督になってからの西経の快進撃は真奈美監督以上よね、後継者が誰になるのか協会の西経OGなかでも話題にはなっていたけど、監督就任一年目で『女子相撲大学リーグ』『女子相撲大学選手権』『日本女子相撲選手権』の団体三冠を取ってしまうって真奈美さんだってできなかたんだから凄いよねあんた」と伊吹桜


「たまたま選手達に恵まれただけです。私はたいしてやることしてないし、スタンス的には前監督と変わりませんよ、私も相撲だけできればいいなんて思ってませんし」と瞳


「文武両道。私もそうありたいし、うちの力士達も望めば通信制大学とか費用も半額を部屋で出してあげてるのよ、それにうちには西経出身のキレッキレの教師もいるし」と親方が伊吹桜を指さす


「私?」と伊吹桜


「うちの力士で高校中退してしまった者がいてね、現役で力士やってるんだけど、やっぱり高校ぐらいはとおもってね、高校資格認定試験を取らしてあげたくてそこで主任ねお願いしてね」と親方


「なるほど・・・でもなんか怖そうな・・・」


「怖そうなって何?私は懇切丁寧に」


「竹刀見せつけながらね」と親方


「竹刀!?」


「差し棒替わりですよ、誤解を生むような言い方はやめていただけませんか親方!」


「頭、小突いてた」


「はぁあ!?」


「ありそうな・・・」と瞳


「差し棒替わりだよ・・・たくっ・・・でも一応一回で合格させたから一応言っとくけど」


「先輩、教え方とかうまいから」


「もういいわ。でも、西経出身二人が幕下優勝争いするなんて、それも、【葉月山】対【桃の山】なんてね、幕内には前頭【嵐華】(らんか)の江頭もいるからな、遅かれ早かれ幕内に三人OGが揃うわけで、その意味では、アマチュア女王西経がやっと女子大相撲に本気になったって感じかな?」と伊吹桜はちらっと瞳を見る。瞳は何気にその視線を無視するようなそぶりを見せながら話題を逸らす。


「ところで親方、映見、あっいや【葉月山】はどうですか?」


「そうね、けして調子がいいわけではないと想うわ。実業団で実戦は踏んでいたとしても番数的には多くないし、ここへきて疲れも見えてるけど、そこは彼女なりに考えているところもあるようだしね。正直、明日の千秋楽は望んでいた取り組みとはいえやりにくい面もあるのかなって、それに、親方もそうだし【妙義山】からアドバイスも受けているだろしそこはね、【葉月山】の弱点も熟知しているだろうし、場所前の海王部屋への出稽古でも、探りを入れてきたみたいだし、ただ【妙義山】とのぶつかり稽古は想定外だったけどね」


「動画サイトで見ましたけど絶対横綱に失礼ですがあれはやり過ぎだと想いましたけどね」


「【妙義山】なりの愛の鞭と言うかそう言うのもあったんじゃないかな?私は行ってなかった何とも言えないけどそれなりに加減はしていたと想うけどね」


「そうですかね?私には本気に見えましたけど?て言うか先輩がついていながらなんであんなことになっちゃんですか」と瞳は伊吹桜に視線を


「私!?」


「監督、そこは【妙義山】が【葉月山】を認めているってことだと想うし、その場にいた【桃の山】に対して力士としての厳しさを見せつけたかったと言うのもあると想うわ。そこに口を挟む真似は歯に着せぬ物言いの伊吹桜もたじろく気迫ってところだったんじゃないの?」と親方は皮肉交じりに


「本当は非常識だと想もったけど、絶対横綱が【葉月山】を指名した意味は重いし、ましてやメディアも来ていたし、下手なことをすれば当然叩かれる。でもそれを承知で足が立たなくなるまで【葉月山】虐めぬいた。海王親方はぶつかり稽古をやめさせようとしたけど、聞く耳もたずって感じでね」と伊吹桜は明かりを落とされた土俵を見ながら・・・


「【葉月山】もしかして【妙義山】に疎ましく想われてるとか・・・」と瞳


「そんなくだらないことではないけど【妙義山】にとっては【葉月山】は特別だからね、【葉月山】の復活は解せないところもあるのよ、さくらに【桃の山】を継がしたのはあの頃の自分と決別もあったのだろうけど、実際に【葉月山】が復活したことには自分自身との葛藤と言うか・・・・私からすれば親子二代でしかも絶対横綱なんてもう出ることはないと想うけどね」と言うと小田代ヶ原親方は立ち上がり、飾られている優勝盾や賞状・写真などを眺める。当然にそこには学生時代の稲倉映見や石川さくらの写真も飾られている。


「西経の歴史そのものなのね、アマチュア女王か・・・・」


「西経女子相撲部の歴史は前監督の歴史でもあるんです。私も三年の時大学アマチュア女王の称号を取らしてもらった。その時は女子大相撲に行くなど考えてはいなかったのに不思議なもので結局こうなってしまって、監督に相談した時に何か言われるのかと想いましたが特段何も否定も肯定もせず・・・」と伊吹桜


「西経出身力士は大成しないって言われていた時期もあったけど、今や西経出身力士に次世代の女子大相撲の将来がかかっているみたいになっているしね、その一人をうちで預かれるのは光栄と言うか責任重大と言うか」と親方


「映見は大成できそうですか?」と瞳は親方に


「【葉月山】を受け継いだ以上中途半端な格付けは許されない!最低でも横綱!そして願わくば絶対横綱!それが【葉月山】に求められるもの、親方としてこれだけの逸材と巡り会えたことに感謝すると同時に責任の重さを感じているわ。それはたぶん【葉月山】も同じであるはず」


「親方・・・でも」


「【妙義山】に言われたわ。なんで【百合の花】じゃないんですかって」


「えっ?」


「妙義山に言われるまで全く気にも留めなかった。なんで葉月山であってなぜ百合の花でないのかと・・・」


「親方・・・そんな話初めて」と伊吹桜は多少の戸惑いを見せる


「百合の花を継ぐのは天津風って妙義山関が言っていたと聞かされて初めて心の奥の嬉しい自分がいたのよ。天津風は才能ははあるんだけどなかなか芽が出なくてね、天津山親方から部屋を受け継ぐとき、彼女は辞めるつもりでいたのよ、でも何か無性に腹が立ってつい妙義山ばりに可愛がってね、その時はもう小田代部屋の新設は決まっていたんだから、弟子を取る事を考えれば辞めると言う力士に気を使ってなんとか自分の部屋に入れようと考えるのが普通なんだけど私にはそんなことはできなかった。天津風を認めていながらもその行動に無性にね、本当に立てなくなるぐらいまで言い方悪いけどボコボコにね」


「そんな話初めて聞きましたけど」と伊吹桜は戸惑いを隠せない


「天津風に百合の花を譲ろうと想う。今場所が終わったら来場所は関脇確定だからね」とにこやかな小田代ヶ原親方


「天津風が素直に受けてくれればいいですが」


「どうかな・・・・。瞳監督」


「あっ、はい」


「映見は葉月さんが唯一認めたアマチュア。あの人の目に狂いはないわ。さくらも愛莉があっいや、妙義山が認めたアマチュア。明日の千秋楽でどっちが全勝して一気に十両昇進ができる。映見を絶対に横綱にさせるわ。明日の結果は『時の運』やってもないのに敗者への慰めの言葉になってるけど、映見は葉月さんにそっくりだからね色々な意味でね、大成できるかで言えば、伊吹桜次第かな」


「はぁ~?何ですかそれ!?」


「あぁ・・・なんか竹刀持って威圧する姿が目に」と瞳


「おい!私がそんなことするわけないだろうが!まったくいい加減にしろよ!こんなに温厚な私にだな」


「自分で温厚とか言っちゃってるし」と瞳


「はぁ~」


「伊吹桜、動揺しすぎよ」と小田代ヶ原親方


「たくっ・・・いい加減にしてくださいよまったく!・・・・瞳!調子乗ってなんよ!あぁあ!月曜日潰してやるからな」


「あぁ・・・先輩、素が出ちゃったか・・・・親方、先輩怒らせると豹変しますから気をつけてください。先輩が部屋持ったらパワハラで刺されまくりだったり」


「瞳!」


「そういう先輩の熱いところ好きですよ」


「・・・・」


「親方、不束な先輩でですがよろしくお願いします」


「主任はうちの部屋を実質運営しているまさしく参謀だから、時には恐怖を感じるくらいにね」


「親方!もういい加減に」


「【葉月山】の名を汚す力士にはさせない!それは、葉月さんとの無言の約束だから・・・」


 と言うと、小田代ヶ原親方は、素足で稽古場に下り土俵の奥にある鉄砲柱の前に立つと真奈美は柱の前に立ち背筋を伸ばしゆっくりと右手と右足を一緒に動かし柱を張り手で叩く。左も同じく。手のひらを柱についていくと衝撃は腕ではなく腹筋に響いてくる。それは腰が入っている証拠。「パッン・パッン」とリズムよく叩いていく。無心に無心に何回も何回も・・・。葉月山としてのすべてを受け継いだ百合の花。そして、稲倉映見と言う遅れてきた大器と巡り会い自分の部屋に・・・。女子大相撲に残した葉月山の意志は百合の花へ、そして、小田代ヶ原親方として・・・・。





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