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女力士への道  作者: hidekazu
劣勝優敗

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31/324

邂逅、そして ③

 映見は男子の中学生を受け手に胸を借り瞬発力や当たりの強さをつけていくと同時に受け身も体に覚え込ませる。


(大学の稽古の時より動いている。あれだけ体がついてかなかったのに相手が中学生だから?)


映見は気づいていないが自分が考えている以上に高揚しているのだ中1相手にそのことに全く気付いていない。額には汗が噴き出しているそれも異常なくらいにレオタードの色も変わるぐらいに・・・。それを壁際でじっくり見ている沙羅。それを横目で見る和樹。


(こいつそんな自信があるのかよ?普通の映見だったら多分問題がないのだろうけど・・・・映見なんか気合がはいりすぎてるかも・・・ちょっと危ないかも)


 和樹は映見の稽古を見て直感でそう思った。一見体は動いているように見えるが何かいっぱいっぱいに見えるのだ。確かに最近の映見の稽古なんか見たこともないが少なくともクラブにいた時はどんなに稽古で疲弊しても少しぐらいの余裕な感じは残していたのに今の映見には全くない。まるで沙羅の挑発に乗せられてしまっているようにしか見えないのだ。


 映見が土俵から下り先生の方に戻ってくる。


「準備できました。いつでもいいです」

「わかった。一息入れてくれ」と濱田


 濱田からちよっと離れた場所で和樹が映見を呼び寄せるとタオルとミネラルウォーターのボトルを手渡す。


「映見・・・」

「心配しないで和樹。中一相手に負ける気はないから」

「映見・・・」

 映見は一気に

 ボトルの水を飲み干すとタオルで顔の汗を拭きとり大きく一息吸って息を吐く。何回か四股を踏む。


「沙羅と映見土俵に上がれ」と濱田の声。

映見は自分で顔を叩き気合を入れ土俵に上がろとした瞬間和樹が声を掛けると映見の耳元に話しかけるようなフリをして耳に息を吹きかける。

「ちょちょっと何すんなよ!」と驚いた表情の映見

「映見、そんなに気合が入りすぎると足元救われるぞ。中一の挑発に乗せられる何って映見らしくないぞ」と人差し指でおでこを弾く。

「・・・・ふっ・・・」と映見

(まいたっなぁ和樹私の心の中すべて読まれてる。確かに中一相手に何熱くなってるんだろう)

「映見・・・」

「ありがとう和樹」

「えっ・・・」

「貴方の云う通りだわ。でも・・・ずいぶんなんか手馴れていると云うか?」

「手馴れてる?」

「そうやって女性を手玉に取ってるのねぇ・・・男って・・・」

「なんだよそれって・・・てそれと立ち合いの時の足の向き気づいてるか?」

「鋭いね和樹」

「えっ・・・」

「左足の向きが真っすぐの時は突き押し・若干左に向いている時は四つってところかなそれも左」

「映見、おまえ・・・」と和樹は驚いた。そんなに稽古を見ている時間はなかったはずなのに・・・。

「和樹と私の推理が合致したと云うことはほぼ間違いないかな」と映見

「さすがです」

「それじゃ」と云うと映見は土俵に上がると四股を数回踏む。沙羅も同じく四股を踏む。

そして立ち合い。沙羅の左足は仕切り線に対して直角に・・・。審判は中学2年の女子がやっている。


二人は仕切り線の前に立ち蹲踞の姿勢から立ち上がり腰を落とし上体を下げていく


「はっけよい!のこった!!」

 沙羅は頭で当たりながらモロ手突きで突き放しにかかったが映見はそこを冷静に叩き一瞬間合いが開くと再度押し込んでくる沙羅をまたはたき込む映見その展開が続いた後最後は映見が間合いを詰め込んでいき押し出した。


 映見が大きく息を吐く。沙羅は悔しさが顔ににじみ出でいる。推理通りであったことよりも冷静に対処した映見の方が技術で云えば遥かに上なのだが・・・。沙羅にはそれがわからないようで・・・。


 再度土俵に上がり二番目。和樹は沙羅の足の向きを確認すると若干左寄りに・・・・


「はっけよい!のこった!!」


映見は立った瞬間に左を俊足で入れ、おっつけ合うと挟みつけるように絞り上げる。沙羅は右ワキがら空きになってしまっていて対処できない。映見はここぞとばかりに一気にがぶりよってそこから寄り切る横綱相撲。全く沙羅に付きいる隙を与えない完勝である。映見は土俵を降りると沙羅を背に蹲踞の姿勢を取った後四股を踏み始めた。

 

 沙羅は思いっきり悔しい表情前面に出すと握り拳を作った右腕をじっと見ている。相当悔しいのか目が潤んでいるようにも和樹には見えたが・・・。

(大学生の映見相手にいくら無敵だとは云え中学1年が叶うわけがないのは当たり前だろうが・・・。ただあいつ何さっきから右腕を見てるんだ右腕怪我でもしたか?)と和樹は沙羅の様子が何か気になっているのだ。


 映見が再度土俵に上がるが沙羅はなかなか上がらない、ただ映見を睨みつけている映見はそれを睨み返すわけでもなく意図的に視線を合わせないようにしているだけなのだが両手に拳を作って何か気合が入りすぎていると云うか明らかにさきの2番とは様子が違う。


「沙羅!早く土俵に上がれ」と濱田。

 

 和樹はどうしても沙羅の握りこぶしが気になって仕方がないのだ。ようやく沙羅が土俵に上がる。映見は二勝したことでいくらか緊張はほどけたようだ。仕切り線の前に立つ二人。今度は映見が沙羅を睨みつけるが沙羅は敢えて仕切り線に目をやり映見の焦点をずらしている。そしてさっきよりも仕切り線ギリギリに近づく沙羅。足の向きは垂直に。映見は仕切り線ギリギリに体を持っていく。沙羅は右腕を仕切り線平行に合わせ腰を落とし上体を下げる。


(やけに右腕を平行にして・・・・ってまさかかちあげの予行!?)


「見合って、はっけよい!のこった!!」


 沙羅は映見より早く踏み込み左手で張り手を構わすフリをして右手でかち上げてきた。


(やっぱりかち上げか)と和樹は瞬時に思ったがそれはかち上げなんてものではなかった。


 映見は一瞬沙羅の左手の動きに惑わされてしまったことで次への反応が遅れてしまった。そのすきに沙羅は肘うちを意図的に顔にぶち込んできたのだ。


(クソガキ何やってるんだ!)と和樹は声すら出せなかった。


 しばらくして映見の口と鼻から鮮血が流れ落ちる。そこから沙羅はさらに頭でぶつかる勢いで両手で突き放してくるがそこは映見の方が一枚上でとにかく沙羅の勢いを止めることに集中し一瞬引いた時に

前褌を掴み一気に押し返しながら今度は四つの体制にもっていく。映見の顔は鮮血で真っ赤になっている。


 濱田が止めに入ろうとした時和樹が前に出て濱田を止める。


「和樹てめぇ何邪魔してんだどけ!!」

「先生、ここは映見に任せましょう!!」

「てめぇー馬鹿か!!」

「先生!!ここは映見にまかせて・・・・」と力ずくで濱田を壁に押さえつける。

クラブの生徒達特に女子達からは悲鳴のような声までが・・・


 土俵上では二人の稽古と云う戦いは終わってはいない。映見も得意の体勢に持っていたまではいいが

さすがに息が上がり始めていた。そして<相四つ>の状態で土俵際で膠着状態に一分が経とうかと云う時に映見が最後の力を振り絞るように一気にがぶり寄り沙羅を押し出し決着はついた。


 映見は一気に膝から崩れ落ちた。土俵の砂には映見の鮮血が和樹がすばやく水とタオルを持っていくと和樹は映見の額から水をかけ血を洗い流す。鼻からの出血は止まっているが上唇はかなり切っているせいで血がなかなか止まらない。ガーゼ唇にあてタオルで抑える。


「和樹大丈夫だから」と云うと映見はタオルを抑えて立ち上がる。その前で沙羅が震えながらぺたん座りの状態になっていた。映見は何も云わず更衣室へ自分で移動して相撲場を出ていった。そのあとを女子の主将が救急箱を持って出ていく。


 静まり返る相撲場。それでも一人すすり泣くような一人の女子生徒の音が妙に響き渡る。


「立てよこのクソガキ」と押し殺したような声で和樹が声を上げた。

「中学生のくせしやがってふざけた真似しやがってお前何様だよ。お前映見に何かあったら責任とれるのかよ!」

「和樹!」と濱田の声。しかし、和樹の怒りは止まらない。その時相撲場からさっきまで外で見ていた一人の中年男性が入ってきた。それは沙羅の父親だ。でも和樹は知る由もなく入ってきたことも気づいていない。


「立てよクソガキ。お前が映見にやったことやってやるかよ立てよ」

「和樹!やめろ」

「立てよこのクソガキ!!」と云うと無理やり立たせようとした時、濱田が和樹の首根っこを掴み正面を向かすと左手で胸倉をつかむと右手でおもいっきり頬をひっぱたいた。

「なにすんだよ先生!!」と和樹も濱田の胸倉をつかむ

「和樹、落ち着け!」一触即発になりそうだったがそこに沙羅の父親が割って入った。

「家の娘のせいで申し訳ない!」と沙羅の父親が云うと和樹の方から両手を離した。


 沙羅の父親は歳で云うと40ぐらいの体格が良いいかにもスポーツをやっていましたという感じでちよっと強面の印象もあるが心得ているのか足元はちゃんと裸足になっている。


 父親は娘のそばに行くと両腕を娘の両脇に入れ無理やり立たせると右手で沙羅の左頬をおもいっきりひっぱたいた。

「ちよっとお父さん!」と濱田だが間に入る。

「沙羅、痛いか?でもなお前が映見さんにやったことは何倍も痛いんだよ!」

「・・・・・」


 沙羅は、一瞬目を父と合わせたがすぐに俯いて泣いてしまった。自分がやったことの重大性に改めて気づいたように・・・・。


 深い湖に沈み切ったような相撲場の雰囲気。誰もこの場を浮き上がらせることはできないほどに・・・。


 









 



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