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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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302/324

土俵という舞台へ! ⑥

----女子大相撲 資料館----


 東京湾岸エリアに作られた女子大相撲常設の会場「辰巳館」。女子相撲に携わっているすべての者の悲願であった。総合体育館も兼ね他のスポーツイベントやコンサートも、周辺には相撲部屋もあり女子相撲の聖地でもある。「辰巳館」に併設された「女子大相撲 資料館」は女子大相撲だけではなく女子相撲全般の歴史に関するものが保管・展示されている。女子大相撲の歴史から言えばたかが知れているが、アマチュア相撲から含めればけして男子の相撲にひけをとることはない。


 平日の午前、石川さくらとその彼氏である串間圭太は久々のデートを楽しんでいた。さくらが女子大相撲に入門すれば、そう顕著に会うこともできない。圭太は大学卒業後は名古屋にある食品メーカー開発部門に就職が決まっている。東京の就職先もなかったわけではないが、結局、地元に近い名古屋に落ち着くことになったのだ。来月には二人とも社会人デビューとなれば、そう会えるチャンスもなくなる、ましてやさくらは、女子大相撲力士としての活躍が期待されプライベートの時間も限られてしまうのは目に見える。その前のデートとお互いの将来について意思確認というか・・・。


 二人は「女子大相撲 資料館」の館内をめぐり絶対横綱二代目【妙義山】の綱と化粧まわしの前で立ち止まる。その隣には【桃の山】時代の化粧まわしが並べられ、その隣には母である初代絶対横綱【妙義山】の物も、親子二代の絶対横綱は、女子大相撲の歴史に燦然と輝いている。さくらと圭太は、桃の山のまわしと綱の前に立つ。


「私、こんな凄い力士の四股名を継ぐのね、いいのかな本当に?」とさくら


「【妙義山】関本人からの指名って事は、さくらの実力とその先の可能性に期待する意味では大きいんじゃないのか、凄いよな絶対横綱自ら自分の使っていた四股名を継がせるんだから、でも、さくらなら一旦断るかなっておもったけど・・・」と圭太


「えっ?・・・あぁ・・迷ったことはあったんだけど、映見さんが【葉月山】さんを継承することに刺激された部分もあって」


「葉月山VS桃の山がいきなり幕下初土俵で対決って想像もできなかったよ、ある意味の二代目対決じゃん」


「少なくともこんなことになるとは思わなかった。多分映見さんも私も・・・」


「俺はさくらが女子大相撲に行くことは賛成だし応援してる。ただそれでさくらと一緒になる事は先になるかなって・・・」


「圭太・・・」


「映見さんの彼氏である和樹さんとこの前ちょと話す機会があって、和樹さん今ベルギーにいるんだよ」


「ベルギー?」


「四~五年いるらしよ、映見さんの事聞いたら今は連絡すらもしてないんだって、それを映見さんも納得しているって」


「連絡も?」


「結婚するかどうかは、五年後に結論出すって言ってた意外と言うか、映見さんが力士になることが影響しているのかもね」


「私も・・・」とさくらは圭太を不安げな表情を見せる。


「えぇ、なんだよそれって俺の事信じてないのかよ」圭太はさくらの真剣な表情を若干呆れ気味と言うか、毎度のことなのだ。


 高校での相撲稽古が二人の関係のきっかけであったが、圭太にしてみれば最初はけしてさくらとの稽古をよしとしていなかったし、どちらかというと貧乏くじを引かされたぐらいにおもっていたし、どこか異性を気にし稽古も本気ではできなかった。それでも、さくらの真剣に相撲と向き合う姿勢に感化され、いつのまにか異性を相手にすることに抵抗がなくなりそれ以上に本気でやらなければ、さくらに後塵を拝するまでになっていた。しかし、そのことが圭太自身の相撲に火をつけ、三年生でインターハイ初出場ながら個人戦でベストエイト・個人戦では100キロ級に出場し準決勝まで駒を進めたのだ。大学進学後も相撲は続けたが、成績的にはけしてかんばしくなくレギュラーメンバーにはなっていたが、思うような活躍はできなかった。それでも、圭太自身は十分納得できるものだった。


「圭太。私、幕内に上がったら籍を入れるから、それまで・・・・」


「わかってるよ。それと、大事なお知らせです」


「お知らせ?」


「千葉の柏研究所勤務になりました」


「千葉の柏?どこ?」


「あぁ・・・まぁいきなり言ってもわからないか。とりあえず海王部屋から電車で30分ぐらいのところに住むことになりました」


「・・・・」


「あれ?あんまり嬉しくないみたいだけど?」


「同棲できるの?」


「はぁ~?できるわけないでしょう幕内に上がったら籍入れるって自分で言ったばかりじゃん」


「泊りに行ってもいい?」


「いいけどまずは、相撲を真剣にやれよ全く」そう言うと圭太はさりげなくさくらの右手を握る。


「圭太・・・」


 さくらにとって、圭太は初恋の相手、いままで結婚まで意識した男性はいなかった。別段そのことを意識したこともなかったし相撲だけに邁進していたが、高校での圭太との稽古ははじめて異性を意識するきっかけであった。


「まぁいいやそう言うことになったので、お互い頑張ろうな!まずは、最初の一年はお互い仕事に邁進して地固めをする、来年、籍を入れられるようになっ!」


「うん・・・」とさくらはどこか不安気な返答をしながらお互い握っていた右手を思いっきりまるで圭太の手を握りつぶすかのように思わず渾身の力を込めてしまった。


「ちょうちょちょなんなんだよ!俺の手握り潰すきかよまったく!」


「あっあぁごごめんつい・・・・」


「全く。さくら俺の事信用してない?」


「えっ?そんなことないよ信用してるよ、ごめんなんか色々不安と言うか、ちょっと・・・・」


「【桃の山】ってやっぱり重すぎないか?海王部屋の期待の星だし【妙義山】関から指名されれば断れないかもしれないけど」


「【妙義山】関からの指名なんだから断れないしそれは期待の表れ、断ることはできない!ましてや、映見さんは、あの絶対横綱【葉月山】を継承するんだよ!なおさら断れない!」つい声を荒げるさくら。


「さくら・・・お前・・・」


 今年の女子大相撲のトッピクは間違えなく、稲倉映見と石川さくらの女子大相撲入りであることは誰も否定しない。二人のアマチュア時代の戦歴を見れば、当然に女子大相撲入りを切望されていた。石川さくらは高校卒業後女子大相撲入りもなかったわけではないが、当時の西経の福主将 吉瀬瞳との出会いがさくらの西経大入りを決めた大きな要素であり、憧れの稲倉映見が在籍していたのも大きな理由だった。それ以上に、女子プロアマ混合団体世界大会での力士達が国際感覚を持ち合わせていたことは、相撲が強ければと言うだけでは、いけないことに気づいたのだ。元絶対横綱【葉月山】や【百合の花】・【桃の山】との出会いそして共に戦ったあの大会は、大きいな意味でさくらの将来を決定付けたと言っても間違えではなかった。


 途中の英国への短期留学はさくら自身が相撲以外でもできるという自信を芽生えさせた留学でもあったのだ。イギリスの留学先での大学ではディスカッションやプレゼンテーションなど最初は、全く議論に参加できず非常に悔しい思いをしていたのに、必至に猛勉強して周りの先生や仲間のおかげで少しずつ授業へ深く関わることができ、そのおかげでグローバルビシネスのゼミに入ることもできた。そのことは、さくらにとって相撲以外もできるという自信に繋がったのだ。それは、違う意味でさくらを迷わせたが、やっぱり最後は女力士を選択したことに後悔はなかった。そして、決定打は稲倉映見の女子大相撲入りの可能性の話は否応なくさくらを刺激した。稲倉映見が実業団タイトルを取らなければ女子大相撲入りはなかったのだが、稲倉映見が女子大相撲入りを模索しているのに、さくらが女子大相撲に行かないと言う選択などなかったのだ。そして、映見が実業団タイトルを取り女子大相撲入りと四股名【葉月山】を継承するという話絡みでの、二代目【妙義山】からの【桃の山】の継承の話は、さくらにとって断れる話ではなかったし、自身の昂ぶりが【桃の山】を継承するという重さを忘れるかごとく舞い上がっていたのは確かであった。


そんなさくらではあったが、入門が近づくにつれそのプレッシャーをひしひしと感じるようになっていた。ましてや、尊敬する先輩稲倉映見はあの絶対横綱【葉月山】を受け継ぐことは周知の事実として女子大相撲ファンの間で語られ話題になっている。そんなさくらが、のこのこと彼氏と一緒にこの辰巳ある「女子大相撲 資料館」にやってきて、【桃の山】の展示物のまえで立つ姿など、誰がみても気づく話でましてや彼氏同伴というのも如何なものかとは思うが、そこはファン達は静かに見守ってくれていた。もちろんさくらも圭太もそのことに気づかない程無頓着ではないが、これからの映見とさくらへの注目度は力士としては当然として、活躍していけばプライベートにもその影響は及んでくる。気軽に会ってましてやお泊りなどそうそうできないかもしれない。


「圭太・・・・」


「俺はさくらといつでも普通に会うつもりだから、さくらが女力士として注目を浴びようがそこは変わらないし、さくらとの付き合いは結婚を前提にしてることも変わらない安心しろよなっ【桃の山】」


「!?」


「何?」


「【桃の山】の四股名はさくらにこそ相応しい!まぁさくらの名が入っていないのはちょっと残念かなとはあるけどね」


「あぁ・・・」


「【桜桃山】とか?さくらと桃が入っていいだろう?」


「えっ!・・・・今言う?」


「えっ?だってまだ決まってないんだろう?世間的には決まってるのかもしれないけど、やっぱり桜が入った方がねぇ」


「・・・でも、桃の山の四股名は・・・」


「さくらはさくらであって、【桃の山】じゃないだろう?偉大なる四股名ではあるけどさぁ」


「それはそうだけど・・・・」


正直、女子大相撲資料館のそれも【桃の山】・二代目【妙義山】の展示物の前で絶対横綱【妙義山】から継承されるであろう【桃の山】に圭太から異議を唱えられるとは思わなかった。


>「さくらはさくらであって、【桃の山】じゃないだろう?偉大なる四股名ではあるけどさぁ」



 その言葉は、さくらの胸の内を刺激すると同時に圭太の言う通りなのだ。【桃の山】を継承を示唆されたのは、それだけ期待されていることではあるが、いつの間にか【桃の山】という四股名に自分自身が飲み込まれていたのかもしれない。そしてもうひとつは、【葉月山】と言う稲倉映見の存在。さくらはゆっくりとの二代目【妙義山】の隣に展示してある絶対横綱【葉月山】の前に立つ。日本の女子大相撲の歴史において、【葉月山】の存在は計り知れなかった。相撲の強さは当然としても女性としての立ち振る舞い含め、国内外含め女子相撲の力士・選手はひとつの憧れであり目標でもあった。その四股名を稲倉映見が継承することにどこかしら意識していたのだ。そんなことを想いながら、ふと息を抜くと何か【桃の山】という呪縛が少し緩んだような気がしたのだ。


「圭太の言うことに一理あるね。妙義山関から桃の山の継承の話をされた時、舞い上がっていたのかもしれない、それが今になってプレッシャーというか・・・もう一度冷静に考えて見るよ、ありがとう圭太」


「それが良いと思う。でも、稲倉映見さんは、この偉大な四股名を継ぐのか、普通の神経なら恐れ多くて継げるものではないと想うけど、その覚悟半端ないんだろうな、医師の研修医期間を犠牲にしてまでも、女子大相撲の世界に行くというのだから、【葉月山】を継ぐ以上、横綱は最低ラインとしたらとんでもないプレッシャーだけど」


(今度は女子大相撲の世界で映見さんと・・・・・【葉月山】を名乗る覚悟!・・・私はまだまだ。映見さんのような覚悟ができていないんだ”!悔しいけど・・・・)



 

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