表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女力士への道  作者: hidekazu
劣勝優敗

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/324

邂逅、そして ②

 二人を乗せた名鉄300系電車は地下部分から地上に出る。車内通路を挟んで両端のクロスシートに一人で座っている。一緒に座れないこともないのだが少々狭いのが・・・・。


 車窓から見える景色はすでに夜の帳が下り雲の切れ間から光り輝く満月が顔を出し始めていた。

和樹はふと映見の横顔を見る。映見はずーっと車窓を眺めている。ガラス窓に映る彼女の横顔は若干歪んでいるように見えなくもないがその画は彼女の今の気持ちなのか?


オランダ風車の前で映見がふと云った言葉の意味は・・・・。


「和樹は私の想っている事わかるんだね・・・・」


 相撲クラブに一緒にいた時から彼女には同性からも異性から好かれる「独特の雰囲気」を持っていた。自分らしく生きて・自分を否定するようなことは一切云わない勿論相手にも・そして自分のやりたいことはとにかく全力でやる。


 相撲クラブに映見がいるだけで何か元気になれるそんな存在だった。でも久しぶりに会った映見からはそんな雰囲気は感じられないどころか何か苦悩しているような雰囲気が・・・・。和樹にとっては映見は高根の花だったのだ。勉強ができてスポーツもできてみんなからも好かれ・・・初めて異性を気にしたのも映見が初めてだった。相撲クラブに映見が入会したのはまさに【千載一遇の好機】それも四年間もあると思ったが結局は告白もできず中学卒業と同時に相撲クラブも退部。そのあとは全く会うことも連絡もとることはなかった。それでも映見の活躍はネットから情報は得ていた。それを見ながら自分も高校相撲部で映見ほどではないにせよ活躍ができていたのは映見の活躍が励みになっていたことは事実。


 電車は下車駅の羽黒駅に到着。二人は電車から降り改札を出ると線路伝いに歩きとんかつ屋の脇を右へ踏切を渡り相撲クラブのある公園に入る。駅からここまでの間二人は何も喋らなかった。映見が先頭で和樹がついて行く。映見は黒のロングベンチコートに大容量のバックパックを背負いながらふり向きもせずただ歩いてきただけだった。公園内に入いると映見の足がピタッと止まった。和樹は映見が背負っているバックはゆっくり押していく。映見がはっとふり向いてきたが和樹は構わず押すと少し笑みを浮かべたような表情で歩き出す。


(和樹は一番私が苦しい時や迷っている時にそっと背中を押してくれたよねぇ。あなたは口に出さないけど・・・。)


 映見が中学の時同級生から相撲をやっていることを揶揄されたことも一時あったがそんな時はクラブで私に率先して稽古相手をしてくれたりノートに相撲の技と云うか技術的なことを書いて渡してくれたりと口下手な和樹らしいがそのことは私の精神的支えになってくれた。そんなことを思い起こしながら歩いていると自然と笑みがこぼれた。


 和樹もおもわず笑みが漏れた。


(映見は俺にとって相撲をやっていけた原動力だったんだ沈んだ顔は映見には似合わないよ)


「えっなに?」と声を上げたのは和樹だった。


相撲場があった場所に平屋建ての建物が・・・・・・


「映見、相撲場移動したのか?」

「相撲場は改修して室内になってシャワー室と更衣室が大きくなったのテニス場と共用らしいけど」

「へぇーすげえーな・・・・うち等の時に欲しかったわ全くって映見詳しいな」

「市のHPに掲載されていたのよ」

「あーなるほどね」


相撲場には既に明かりが点いていてなかでは男女15名ほどが四股・股割なりをやりながらしている様子を室外から二人は見ているのだが先生の姿が見当たらない。時刻はすでに6時を回っているのだが・・・。二人は暫く外からガラス窓を通しながら中の様子を見る。それに気づいたクラブ員もいたが多分こんなことは普通の事なのだから誰も稽古の手は止めない。


「半分ぐらい女子なんだなぁ」と和樹

「女子相撲もプロ化で認知された影響もあるだろうけど」と映見

「楽しかったなあの頃・・・相撲やっていてあの頃が一番楽しかった」と和樹

「・・・・・・」

(あの頃が一番楽しかった。何も考えず相撲をすることだけ考えていた。勝った負けたはあったけどそれよりも仲間と一緒に相撲をやれることそれだけで十分だった・・・。なのに今は)


「和樹」と遠くの方から男性の声が聞こえてきた。二人が振り向くと濱田先生だった。


 両手に重そうにクーラーボックスを持ちながら歩いてくる姿はあの頃と何も変わらない。二人にとって濱田と会うのは5年ぶり。懐かしいといほどではないにせよ久しぶりに相撲クラブに帰ってきたという感じたろうか?

「お久しぶりです先生」と和樹

「お久しぶりです先生。クーラーボックス私がお持ちします」と映見は濱田の両手からボックスを受け取る。

「さすが映見だなぁそうやって気遣ってくれるところは、でそれに引き換えダメだなぁ和樹はそ云うところができるかできないかの差は社会人になって重要なんだぞちょっとしたことが」

「先生、腕マッサージしますから」

「いや、遠慮してくわ」と笑いながら


 濱田が相撲場に入ると生徒達が土俵の周りに集合する。挨拶から始まって稽古の流れを濱田が説明する。生徒たちは立ったまま話を聞いている。

「今日の流れは以上です。それと今日はOB・OGの二人を紹介します。知っている人もいるだろうけど男性の方が甲斐和樹君で高校・大学でも全国大会の常連で活躍していた選手です。それと女性の方が稲葉映見さん。高校・大学の横綱の称号を取っているし世界大会でも活躍しているから知っている人もいると思う。今日はこの二人が見学をしたいそうなので許可しました。もし何か聞いてみたいとかあったらこの二人なら色々答えてくれると思うので・・・・いいですか?」と濱田が云うと二人は頷いた。


 そして稽古が始まる。生徒主導で始まると濱田が映見に話しかけてきた。

「映見、今日は稽古の帰りか?」

「はい」

「そうか・・・。レオタードとか廻しとかあるか?」

「一応、バックに入っていますが・・・今日は理由があって持って帰ってきたので」

「もし、おまえがよければ生徒に稽古つけてくれないか?」

「稽古ですか?」


映見にしてみればクラブに来ることなど全く想定しなかったしそもそももうクラブに顔を出すことはないと思っていたのにひょんなことからクラブに来てしまったうえに稽古をつけるなんって全くの想定外。


「いや今度新しく入部した女子中学生なんだけどなかなかの体格と素質を持っていると思うのだがちよっと映見に見てもらいたいと思って嫌なら別に構わないが・・・」と濱田


 それが誰かがはすぐにわかった。

 

 男子の上級生相手に申し合い稽古を続けている女子。身長は映見よりも若干低いようだが体重は映見と同等もしかしたら彼女の方がある?


「阿部沙羅って云って小学3年から相撲を初めて県大会は無論全国大会の各クラスでも負けなした゛。映見でもちよっとでも気を抜くと負けるかもしれない逸材なんだが」と濱田


 映見は沙羅をじっくり見ているといったん土俵から降りた沙羅が映見をにらみ返した同時に薄笑いを浮かべたような表情でまるで喧嘩でも売るかのような?


(なんなのその目は?まるで私に喧嘩でも売るようなそれにその表情・・・・この子私を挑発しているの?)


映見自身、今日は色々な意味で心身とも疲れ切っていた。とても初対面の相手と稽古とは云えやりたくないと云うのが正直な気持ちなのだがそれでも彼女の表情を見た時に何かイラっときてしまったのだ。石川さくらに負けたのはほんの数時間前の話。その挙句稽古から強制退場されたことでの劣等感にも似た感情で覆われている映見にとって沙羅の表情は我慢ならない。


「わかりました。着替えてきます更衣室開いてますか?」

「あっそこの扉から出ると更衣室に直結しているから男女別になっているからすぐわかると思う」

「わかりました」と云うと映見はバックを手に持ち相撲場を出る。


 沙羅は相撲場からバックを持って出ていく映見を見て何かを感じたのだろうか顔を叩く。まるで気合を入れるように・・・。


「先生、映見に稽古をつけさせるのは・・・・」と和樹

「なんで?」

「いや何でと云われるとあれですけど・・・・」

「いやなら自分で断るだろう」

「いや先生に云われたら断れないでしょう。あいつなんか調子よくないと云うかちょっと何か気持ち的に落ち込んでいるような気がしているので・・・・」

「・・・・・・」その問いに濱田は答えなかった。


相撲場では申し合いから三番稽古へ今まで黙っていた濱田の指導の声が響き渡る。

「ちゃんと頭から当たれそうしないと次の展開ができないだろう」

「もっと腰を低く!」


 映見が帰ってきた。黒いレオタード黒い廻しをした映見の表情はさっきまでの映見とは一変していた。相撲場に入ると鉄砲から始まりすり足をしていく。帰ってくるのが遅かったのは事前に四股と股割は外でやってきたようだ。黒いレオタードにわずかに枯れた芝のようなものが付着している。一通りやり終えると濱田のところにやってきた。


「体の準備はできました。私はどうすれば?」

「沙羅と三番だけとってみろ。本気出して構わない」

「稽古じゃないんですか?」

「沙羅に実力の位置を実感させたいってことだ」

「・・・・・」

「映見は頭も感もいいから気づいているだろうけど沙羅はお前を馬鹿にしている」

「・・・・・」

「映見の相撲道。見せてくれ」

「・・・わかりました」


 映見は目を瞑り精神を集中する。


(なにかおかしなことになってしまったが先生に云われた以上はやらしてもらうわ)


「陸!。彼女に胸を貸してやってくれ」

「わかりました」

「映見、少し体動かしからやってくれ・・・・」

「沙羅ちよっとこちに来い」


 土俵脇にいた沙羅がやってきた。体格的に同等と云って良いぐらいとても中学1年とは思えない。


「映見さんと三番だけ:稽古させてやる。今の自分の実力がどれぐらいの位置にいるか確かめるいい機会だから無理行ってお願いしたがどうする?」

「やります。大学横綱がどれだけ強いのか対戦したいです」

「これは勝負じゃない稽古だ。もっと云えば講習会みたいなものだ。沙羅勘違いするなよ」

「・・・・・」沙羅は返事もしない。

「映見、土俵に入って胸貸してもらえ」

「わかりました」と云って土俵に入る。


 相撲場の外からじっくり中の様子を見ている中年の男性がいる。なにか沙羅の様子をじっくり見ているような・・・・。





 








 







 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ