最後の死闘と伝承されるもの
女子大相撲春場所。横綱百合の花が再度絶対横綱葉月山に挑む
「はぁはぁはぁ・・・・くっ苦しい息が上がって・・・ここまで体力が落ちるとは」葉月山は思うように稽古ができないでいた。
三十歳を超え膝や肩の故障など決して万全ではないなかでも横綱の地位を守ってきた。歴代女子横綱のとして史上最高力士と云われる所以である。
だが、それも限界に近づいてきていた。特にここ最近は体のキレが悪くなっている。
その原因ははっきりしている。最近体重が増えてきたのだ。元々太りやすい体質な上に厳しいトレーニングができず稽古の絶対量が足りないのだから当然の結果ともいえる。
だが、そんなことは言っていられない。今は目の前にある優勝を目指すしかない。それが自分の仕事なのだ。
(こんなことでへこたれてはいられない)
そう思いながらトレーニングルームを後にする。
部屋に戻るとすでに準備を終えた横綱百合の花が待っていた。今日は二人で試合に臨むことになっている。
土俵入りを済ませて仕切り線まで進む二人。
「いよいよですね。葉月山さん。私はあなたを倒し必ず頂点に立って見せます。覚悟しておいてくださいね。ふふふ・・・」
不敵な笑みを浮かべる百合の花。それに対して葉月山も余裕の表情だ。
「それはこちらも同じことですよ。私だって簡単にやられるつもりはありません。全力を出し切って戦わせてもらいますよ。そして勝ってみせます。貴女にも、自分自身にさえも!!」
そう言うと両者腰を落とし、構えに入る。見合って見合って・・・はっけよい! 両者がぶつかると同時に、辺りに鈍い音が響き渡った。そして次の瞬間、両者は吹き飛ばされるように倒れ込んだ。
――勝負あった!――
――勝者、横綱百合の花!――
そのアナウンスが流れると会場からは割れんばかりの大歓声が上がった! 「うぅ~ん……痛たた……」葉月山が立ち上がろうとするが上手くいかないようだ。どうやら足を痛めてしまったらしい。
そこへ百合の花が歩み寄る。
「あら?もう終わりですか?情けないですねぇ……。まぁ、いいでしょう。横綱らしからぬ相撲ができないのなら・・・ふっっっ」
葉月山は百合の花をにらみ返したが何もできなかった完敗である。全盛期の葉月山ならあの程度のぶちかましなどびくともしなかったろう。しかし重心が高い上に体重オーバーでキレがない。それでは瞬時の対応はできないことは観客席の人達にすら理解できること。
「横綱も終わりか・・・」どこからかの観客の声が葉月山の耳に入る。悔しくて仕方がなかった。しかし、今の自分には何もできない。ただ黙って負けを受け入れるしかなかった。
その後表彰式が行われ、優勝者である横綱百合の花にはトロフィーが贈られた。また、来年も期待していますという激励の言葉もあった。しかし、葉月山にはあまり聞こえていないようだった。
こうして女子大相撲春場所は幕を閉じた。
そして秋場所も「なんということでしょう!!今年の女子大相撲秋場所の優勝力士はまさかの横綱百合の花!!葉月山を降し春・秋連覇です。これで彼女は三度目の優勝となります。一体どこまで強くなるのか!?今年もまた新たな伝説が生まれてしまいました!!これは目が離せないぞぉー!!!」
来年の女子大相撲春場所。葉月山再起をかけ横綱百合の花に挑む
!!
――女子大相撲春場所初日――
――今、会場中が熱気に包まれています!!――
――なんといっても注目は何と言ってもこの二人の対決!!――
――今や女子横綱としてその名を知らない人はいないであろう、この方!!――
――横綱、百合の花!!――
――対するは、昨年、惜しくも二位となった、こちらの方!!――
――横綱、葉月山!!――
――場内は割れんばかりの拍手喝采が起こっています!――
――やはり人気は衰えませんね~。去年の秋場所に続き、今回もまた、彼女が優勝しそうな勢いであります!――
――さて、本日はどのような戦いになるでしょうか?楽しみですね。さあ、両雄揃いまして……はっけよい!のこった!!!――
***
――さあ始まりました!まずは両者のぶつかり合いでございます!!――
――おおっと!いきなり激しい当たりだぁ~!両者とも一歩も引かないぞぉ~!――
――さすがは横綱同士といったところですね!素晴らしい取組です!!――
――おっとここで両者距離を取ったぁ!仕切り直しだぁ~!!!――
(さてさて……どう攻めたものかしら?)
(さて……ここは慎重に行かせてもらいましょうかね)
双方様子見の立ち会い。仕切り直して再び仕切り合う二人。
今度はやや葉月山寄り。それを察した百合の花が一気に前に出る!だが、葉月山は慌てる素振りを見せない。むしろ待っていたかのようにゆっくりと構える。そして百合の花がぶつかった瞬間、葉月山はすばやく腕を引きながら相手の懐に潜り込むように体を寄せた! そしてそのまま押し出すようにして百合の花を土俵際まで追い詰めたのだ!
――お見事ぃ!葉月山選手!見事な技が決まりました!――
――いやいや、まだ油断できませんよ!ここから反撃が来るかもしれません!――
――なるほど!確かにその通りです!――
――さぁ!果たしてどう出るか!?葉月山選手!!――
――おっとお!百合の花!苦し紛れに頭突きを仕掛けてきたァ!――
――いやいや!それは悪手ですよ!――
――そう!葉月山選手は冷静にこれをかわしましたぁ!!――
――さらに体勢が崩れたところをすかさず足をかけて転ばせたぁ!!!――
――いやぁ~鮮やかですねぇ。まさに横綱の名にふさわしい相撲でございましたぁ。――
――さぁ、勝負あったか!?葉月山選手が勝ち名乗りを受けようとしていますが、どうでしょう!?――
――えぇ……そうですねぇ。ちょっと待ってください……。あっ、審判部より連絡が入りました。審議の結果……葉月山選手の勝利と致します!!――
――うぉー!!!やったぞォ!!葉月山が勝った!!――
――これで七度目ですね!すごい記録がまた更新されてしまいました!!――
――しかし、葉月山選手の相撲もすごかったですね。私は思わず声が出ませんでした。――
――私も全く同じ気持ちでございます。本当に感動いたしました。――
―それでは勝者の葉月山さんへインタビューをしてみましょう。――
――葉月山さん。今のお気持ちをお聞かせ願えないでしょうか?――
――はい。横綱百合の花にはここ最近苦戦していましたし引退をかけてこの場所は望みました。苦しい場所でしたがまだやれるという自信が蘇ってきした。それも私を応援してくださった関係者を含むファンのみなさまのおかげだと思います。ありがとうございます。――
――なるほど。それでは次の場所に向けて一言お願いします――
――はい。次も優勝できるように頑張ります。――
――最後にもう一度大きな拍手を送りたいと思います!!――
***
そしてこの場所新たなニューヒロイン関脇桃の山の活躍も触れなければ。弱冠十九歳。母は初代絶対横綱横綱妙義山。父は大関鷹の里。まさしくサラブレット。新大関になり二人の横綱にどう挑むのか目が離せません。
***
女子大相撲秋場所二日目。大波乱の幕開けとなる!! ***
――本日行われるのはこの取組でございます!――
――なんといっても注目は新大関のこの方!!――
――去年は惜しくも三位でしたが、それでも十分に強さを見せつけてくれた桃の花!――
――今日こそはその雪辱を果たすことができるだろうか!?――
――対するはこちらも去年の覇者!昨年の優勝は葉月山の実力あってのもの!――
――そんな彼女に勝つために桃の花は何をしてきたのか!――
――さあ!両雄揃いまして……はっけよい!のこった!!!――
――おおっと!いきなり激しい当たりだぁ!両者一歩も引かない!――
――さすがは両雄と言ったところでしょうか!素晴らしい取組ですね!――
――おっとここで両者距離を取ったぁ!仕切り直しだぁ!――
――仕切り直して再び仕切り合う二人!さあ、再びぶつかり合いました!――
――今度はやや葉月山寄りだぁ!これはどう見るぅ!?――
――いやいや、ここは慎重に行かせてもらいましょうかね――
――なるほど!確かにその通りです!――
――さぁ!果たしてどう出るか!?葉月山!!――
(ふむ、どうやら向こうも同じ考えみたいね)
仕切り直して再度立ち会い、再び両者はぶつかる。だが今度は葉月山がやや押しているようだ。だが、桃の山も負けてはいない。じりじりと押し返していく。そして葉月山を押し出した!葉月山はややバランスを崩すもののすぐに立て直し、逆に相手の懐に入り込むように体を寄せた! ――お見事ぃ!葉月山選手見事な技が決まりましたぁ!!――
――いやいや、まだ油断できませんよ!ここから反撃が来るかもしれません!――
――なるほど!確かにその通りです!――
――さぁ!果たしてどう出るか!?桃の山!!――
――おっとお!葉月山選手が仕掛けてきたァ!――
――葉月山選手得意の形だ!!――
――葉月山選手、一気に攻め立てるゥ!!――
――しかし、桃の花も耐える、堪える!!――
――さらに葉月山選手、どんどん前に出るが……おっとぉ!?桃の山が下から掬い上げるような強烈な突き上げィ!!!――
――な……なんて力ですか……ッ!――
――しかも葉月山選手は体勢が崩れているぞぉ!?――
――まずいっ……!――
――今度こそ決まったかぁ!?――
――いやいやいやいやいやいや!!!まだまだぁ!!――
――何という根性でしょうか!!あの状態からさらに足を出すとは!!――
――しかし、もう限界だぞぉ!?――
――あっ!桃の山が立ち上がれません!!立てない!!立てません!!立てん!!――
――決まり手は押し出しで桃の山の勝利となります!!――
―桃の山勝利の瞬間をご覧ください!
そして全勝で横綱百合の花。一敗で横綱葉月山・大関桃の山が追う展開となっていた。***女子大相撲秋場所十四日目。大波乱の幕開けとなる!! ***
――本日行われるのはこの取組でございます!――
――なんといっても注目は新大関のこの方!!――
――昨年は惜しくも準優勝でしたが、それでも十分に強さを見せつけてくれた桃の山!――
――今日こそはその雪辱を果たすことができるだろうか?――
――対するは昨年優勝の葉月山!去年の優勝は彼女の実力があってのもの!――
――そんな彼女に勝つために桃の花は何をしたのか!――
――さあ!両雄揃いまして……はっけよい!のこった!!――
――おおっと!いきなり激しい当たりだぁ!両者一歩も引かない!――
――さすがは両雄と言ったところでしょうか!素晴らしい取組ですね!――――おっとここで両者距離を取ったぁ!仕切り直しだぁ!――
――仕切り直して再び仕切り合う二人!さあ、再びぶつかり合いました!――
――今度はやや葉月山寄りだぁ!これはどう見るぅ!?――
――いやいやいや!ここは慎重に行かせてもらいましょう!――
――なるほど!確かにその通りです!――
――さぁ!果たしてどう出るか!?葉月山選手!!――
――おっと!ここで葉月山選手仕掛けたぁ!――
――葉月山選手、廻しをとりに行くしかし切られた。両者まだ廻しをとられていない。土俵中央お互い激しい息遣いと同時に汗が体中から吹き出ている。これはかなりきつい消耗戦になってきた。――
(ふむ、やはり強いわね)
互いに動けないままだが、葉月山はまだ冷静に相手の出方を伺っているようだ。一方、桃の花はかなり余裕がないように見える。
(このままでは負けるかもしれない)そう思った桃の花の脳裏にある作戦を思いつく。だがそれはリスクを伴うものだ。だが、この状況を変えるにはそれしかないと思ったようだ。
――おっと、桃の山すり足で無理やり押し込んでいく何か秘策があるんでしょうか――
――おそらくありますよ。あれだけ激しく動いていますからね、体力もそろそろ尽きてくる頃でしょう。だから、勝負に出たんだと思いますよ――
――なるほどぉ、そういうことですか!ならば我々も応援せねばなりませんねぇ!――
――頑張れぇ!桃の山!!――
――頑張ってください!!桃の山!!――
観客の声援が飛ぶなか、桃の花が仕掛ける!
――おっと!桃の山仕掛けてきた!!押している!!押す!!押す!!すごい力だ!!葉月山が苦しそうだ!!――
――いけえ!桃の花ァ!!――
――桃の花!!行けェ!!――
なんって力なのだったらこっちだって葉月山ここで重心を下げて頭を無理やり桃の山の胸に押し付けていく
「あっっーーー」桃の山が思わず声を上げるが、それでも葉月山は力を入れ続ける。そしてついに桃の花は体勢を崩した。そしてそのまま二人はもつれるように倒れ込んだ。
――決まり手は押し出しで葉月山の勝利となります!!――
―葉月山勝利の瞬間をご覧ください! 女子大相撲秋場所十四日目。これで千秋楽は全勝の百合の花VS葉月山となりました。
***女子大相撲秋場所十五日目。大波乱の幕開けとなる!! ***
――本日行われるのはこの取組でございます!――
*****
さぁ対決の日がやってきた。結びの一番全勝の百合の花。そして一敗の葉月山勝って優勝決定戦に繋ぐことができるか両者土俵に上がり大きく四股を踏む。世代交代と騒がれた昨年不調だった葉月山が不死鳥のように復活して連覇に望みを繋げるかさぁ時間です。はっけよい!のこった!!!!――
――おおっといきなり激しいぶつかり合いだぁぁぁぁぁぁ!!!――
――両者一歩も引かないぞォォオオオ!!!――
――さあどうだ!?どうだ!?どうだ!?――――両者譲らない!両者一歩も引かない!両者一歩も引かないぃいい!!!――
――両者激しいぶつかり合いだぁあああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ
ここで両者両まわしをつかんだ。土俵中央微動だにしない荒い息遣いだけが館内に響き渡る。三分を超える大相撲になりました。館内割れんばかりの大声援。両者の気迫が伝わってきます。
葉月山はかなり苦しい表情を浮かべている。それもそのはず、昨日の取り組みでかなり体力を消耗してしまったからだ。
(このままでは負けてしまう)そう思った葉月山はある作戦に出ることにしたようだ。ここで足を使ってけ返しだ全く意表をつく技。百合の花体制を崩された。そこで一気に葉月山押す。百合の花足が徳俵にかかった。これはまずいとばかりに百合の花必死に抵抗する。だが、徐々に足が崩れていき、ついには尻餅をついてしまった。すかさず葉月山が覆いかぶさる形になる。場内から歓声が上がる。そして、勝負あったかと思われたその時、突然百合の花が葉月山の胸ぐらを掴んだ。まさかの展開。これには会場もどよめいた。
――おや?これはどういうことだ?一体何が起こったのか私にもわかりません。――
――えーとですね、今、この状態なのですが、解説の方お願いします。――
――はい、おそらく、勝負ありというところでしょうが、まだ勝負がついていないように見えますね、つまり、百合の花選手は、勝負を諦めていません。おそらく、最後の力を振り絞って、葉月山に攻撃しているのだと思われます――
――なるほどぉ、そういうことですか!
そこまでして勝ちたいのですが百合の花。横綱の誇りもないのですが横綱の称号を汚すような力士は絶対に許さないということでよろしいでしょうか?――
――はい、そうなりますね――
――なるほどぉ!ならば我々も応援せねばなりませんねぇ!――
――頑張れぇ!葉月山ァァアァァァァァァ!!!!――
――頑張れぇ!葉月山ァァァァァァ!!!――
――葉月山がんばれぇェェエェェェェェ!!――
――葉月山ァ!お前ならできるゥウ!!――葉月山ァ!お前は強い!!――葉月山ァァ!!――葉月山ァ!!――
――頑張ってください!葉月山!!――葉月山!!――
***女子相撲秋場所千秋楽。結びの一番勝ったのは葉月山。これで優勝決定戦へもつれ込む十五分後再度両雄最後の決戦へ・・・。
では支度部屋の様子を聞いてみましょうまずは葉月山はどうでしょう
―ハイ。勝った葉月山ですがやはりかなり消耗してまったようです。大関の桃の山に体を伸ばしマッサージを受けています。笑みはこぼれているのですがさすがに疲労の色は隠せないようです以上です。
では続いて百合の花の様子を聞いてみましょう。
―ハイ。百合の花先ほどの負けはかなり精神的にきついのではないでしょうか何か落胆して憔悴しきっているような素振りです。あの技を使ったことが尾をひいていなければいいのですが・・・以上です。
さぁいよいよ時間が迫ってまいりました。果たして優勝するのはどちらなのか!運命の最終取組!! 本日は実況席に特別ゲストをお呼びしております!なんと昨年まで女子大相撲を盛り上げてくれた元関脇若竹山関でございます!よろしくお願いいたします。
はい、こちらこそ宜しくお願い致します。今日も張り切って行きましょーう!! はいっ!! それでは両者土俵に上がりまして大きく四股を踏みます。両者気合十分。
両者睨み合っています。両者にらめっこをしているかのように動かないぞ。場内からは拍手が巻き起こる。そして、ついに時間となりました。はっけよい!!
(両者ぶつかり合う)おおっと両者激しいぞォオオオ!!!
(両者激しくぶつかる)ああっつ両者譲らないッ!!
(両者はさらに激しくぶつけあう)ああー両者一歩も引かないぃィイイッ!!
(両者激しく押し合いながら土俵中央へ向かう)両者とも引く様子はないようだぁあ!!!
(両者の力が拮抗する中、一瞬両者の体が離れる)おっとお!?ここで両者の距離が少し開いたぞ。これはチャンスだぁああ!! (再び二人が近づく。だがまた離れてを繰り返す)おやおや?これは一体どういうことだ??両者なかなか近づけないようだ。これは一体どういうことだ?? 解説の方お願いします。これは一体どういうことなのでしょうか? ―はい。おそらくこれは心理戦ですね。お互いに相手の出方を伺いながら慎重に近づいているといったところだと思います。これは面白い展開になって参りましたね。――
なるほどぉ、これは非常に見応えのある勝負になりそうですね! ―ええ、これは目が離せませんね!――
おや?これはどういうことだ??解説の方お願いします。
―はい。おそらく二人はこの勝負を長引かせようとしているのだと思われます。おそらくこのまま行けば水入りにになる可能性が高いからですね。なので、ここはあえて相手に隙を見せて誘い出そうとしているのだと思われます。――
体力を消耗している葉月山にとっては一番きつい状況ですね。しかし、百合の花もこの作戦にはまっているのか動きがないぞ。大丈夫か葉月山ァァァ!!! 解説者の解説の通り、二人の駆け引きが続いている。互いに相手の様子を探り合っているのだ。葉月山は疲れた体を引きずりながらもなんとか百合の花について行こうとしている。一方、百合の花はその葉月山の動きを見て自分も同じように動いているように見える。これが本当に心理戦の恐ろしいところですねぇ。
―はい。まさにその通りです。この駆け引きがいつまで続くかわかりませんが、長くなればそれだけ葉月山にとって不利になることは間違いありません。
―はい。それにしても二人ともすごい集中力ですねぇ。観客も集中して誰一人動きません。まるで時間が止まってしまったかのような静寂に包まれています。
――
確かに今は動いていないが、少しでも動いた瞬間に一気に流れが変わるだろう。会場全体が息を飲むような緊張感が漂っている。さぁどう動くんだ!! どうしたどうしたぁ!! 動かんぞ!! どうなっているんだ!! 動かないまま時間だけが過ぎていく!! ――
―こっちが焦れてくるぜぇ!早く動けよ!頼むぅ!― ―もうそろそろいいんじゃないですかぁ!―――
―まだなのか!これ以上待てんぞ!―――
――
場内からもどかしそうな声が上がる。そしてその時が来た!今、両者ほぼ同時に仕掛けたッ!! おおっと!!
(両者ぶつかり合う)
ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 両者倒れ込んだ!倒れたと同時に場内から歓声が上がった。両者立ち上がれないまま、そのまま土俵に横になっている。
両者起き上がる気配はない!両者動かない!! 両者共に立ち上がることができない! 両者共に立ち上がれない!! 両者立った! 両者立ち上がった! 軍配はどっちだ!?
(場内騒然)
両者動かない!! 両者動かない!!
(場内大騒ぎ)
両者動かない!!
(場内悲鳴)
両者動かない!!!
(場内絶叫)
(場内沈黙)
(場内唖然とする)
(場内しーんとする)
(場内固唾を呑む)(場内ざわつく)
行司軍配は勝ったのは百合の花だ。葉月山呆然。
勝者:百合の花
(行司軍配を掲げる)
やったぁああ!!!
勝ったのは百合の花本当に苦しい試合だった。何か目に涙が浮かんでいるようです。
葉月山が(百合の花の方に駆け寄る)おめでとうございます。完敗です。
ありがとうございま……うっ……。
(葉月山に抱きつかれる)おやおや、これはこれは。
(百合の花泣き出す)わあぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああん!!!
では、優勝した百合の花選手にインタビューしたいと思います。まずは一言お願いします。
はい。私、百合の花はこの度、秋場所女子大相撲大会を無事に終えることができてとても嬉しい気持ちでいっぱいであります。これもひとえに応援してくれた皆様のおかげであります。これからも精進していきます。よろしくお願いいたします。
はい。素晴らしいコメントをいただきまして、ありがとうございます。それでは最後に葉月山さんから一言お願いします。
ええ、葉月山は百合の花の優勝を心から祝福します。そして、この場を借りて、今まで支えてくれた家族、友人、関係者の方々に感謝を申し上げたいと思っています。本当にありがとう。それと、百合の花には感謝の言葉しかありません。本当にありがとう。本日は誠にありがとうございました。
会場からは拍手喝采。温かい雰囲気に包まれている。来年どんな争いになるのかまだまだ二人の時代が続くのかそこに割って入る者がいるのか興味はつかない。
年が明け葉月山と桃の山は箱根の温泉にいた。昨年の激闘を癒すために二人で訪れていた。
「いや〜、疲れたねぇ〜」
葉月山の何気ない言葉だが、その顔には疲労の色が見える。
「そうですね」
対して桃の山は元気そうだ。
二人は湯船に浸かりながら、先日の相撲のことを話していた。
「桃の山今場所は綱取りへ邁進する場所だから頑張りなさいよ。次の時代はあなたに掛かっているんだから」と葉月山は目の前に見える富士山を眺めながら・・・。
「はい!まずは葉月山を完璧なまでに倒して・・・・」と笑いながら
それを聞いた葉月山はクスクス笑いながら・・・「桃の山幾つだっけ?」
「二十歳です」
「そうか私とは一回り近くも違うのか・・・まだその時は私関脇だったからねぇそれを考えたら桃の山は大関だものそれは努力と才能のたまものね」
それを聞いていた桃の花は少し照れくさそうな顔をして下を向いてしまった。そんな姿を見ていると葉月山は何だか可愛く思えてきてしまった。
「私、まだまだ両横綱の足元にも及んでいません。昨年は正直優勝して横綱昇進の足係を作って今場所に挑みたかった。でも最後の最後でどうしても勝てない。その差の大きさを痛感しました。」
葉月山は黙って桃の山の話を聞いている。富士山に日が落ちていく。「桃の山、そのことが大事なのよ。私はもう体力的にはあなたには敵わない。それを技術と精神力で補ってきた。私にとっては桃の山は大切な弟子だと思って接してきたつもり今のあなたの言葉を聞いて安心した。」葉月山の目には涙が浮かんでいた。
「私は来週引退会見をするの潮時かな・・・って」と葉月山
「えっ・・・引退って?」
「うん。本当はもっと早く引退するつもりだったんだけどね。ただね、私の後釜が育っていないしね。それに私がいなくなった後のことを考えるとその前に後継者を育てないといけないと思ってでも桃の山なら大丈夫私より遥かに力士としての素質がある。心技体すべてをまたまだ磨かなきゃいけないけどねぇ」
「冗談やめてください。まだまだ横綱とは戦いたい。土俵で・・・」桃の山の目に涙が溢れてくる。
「泣かないで。私だってできれば引退はしたくない。でも、体は言うことを効かなくなってきていることは隠しようがない。十年以上横綱でやれたことは本当に感謝している。でもでもさすがに心技体すべてボロボロの状態で土俵に立つわけにはいないそれは横綱の称号を汚してしまうましてや絶対横綱と云ってくれていたファン達を裏切ることだからね」
葉月山はそれ以上言わなかった。そして、二人とも無言のまましばらく風呂に入っていた。部屋に戻るとそこには後援会長をはじめ多くの関係者が集まっていた。そして、部屋の真ん中には大きなテーブルが置かれておりその上には豪華な料理が並べられている。
「おおーう!待ってたぞ!」
会長が声をかける。
「昨年は本当にお疲れ様!乾杯!!」「「「かんぱ〜い!!!」」」
皆んな一斉にビールを飲み干す。そして次々と運ばれる酒と食事。二人はゆっくりと食事を楽しみながら会話をしていた。
「会長、親方、今日はこんな場を作っていただきましたが引退する私に」
「葉月山。せっかくみんなが楽しんでいてくれるんだから・・・」
「今度の春場所を最後に引退したらどうだいきなり引退では後援者のみなさんもショックが大きすぎる。優勝しようがしないがそれで引退。どうかね葉月山。今の横綱がボロボロの状態であるのは重々承知しているがそれも横綱の務めではないか」
「そうですね。わかりました。今場所絶対優勝して引退します」
「そうか!よかった!これで肩の荷がおりたよ!あとは桃の山に任せてお前はゆっくり休んでくれ」
「はい!ありがとうございます」
「桃の山」親方は沈んだが顔の桃の山を呼んだ
桃の花は慌てて駆け寄った。
すると、親方は耳元で何かをささやくとそのまま席に戻っていった。
桃の花の顔色がみるみると変わっていく。
葉月山は不思議そうな顔をしながらその様子を見ている。
しばらくして桃の花は葉月山に話しかけてきた。
その目は真っ赤になっていた。
「来場所戦えるんですね」
「私の最後の場所。全身全霊稽古をつんで全力で戦う。覚悟しておきなさいよ桃の山」葉月山の顔は微笑んでいた。桃の花の目からは大粒の涙が流れ落ちていく。
会長がファンのみなさんの内情を伝えたのだろう
それを見ていた周りの人たちからも拍手が起こった。
その日の夜遅くまで宴会が続いた。
次の日桃の山と葉月山は朝早くから道場に行き相撲を取った。
その日はお互いに熱が入りすぎて何度もぶつかり合った。昼過ぎにはお互いの部屋に帰って行ったが二人の目はまだ死んでいなかった。
女子大相撲は春場所十三日目
○大関桃の山-小結琴乃海●
○横綱百合の花-小結天女山●(押し出し)
○横綱葉月山-小結龍の姫●(押し出し)
「えっ?えー!!何これ?」
テレビの前で思わず叫んでしまった。
解説者が言うには、
「横綱葉月山の体力の限界が見えてきましたね」
「えっ?」どういうことなのかよくわからない。
確かに今日の取組は横綱らしくない勝ち方だった。
「解説の先生、横綱はもう限界なんですか?」
「えぇ、今までは気力でなんとか土俵に立っていましたが、やはり体がついていかないみたいですねぇ。特に最近は腰を痛めていますし、膝にも爆弾を抱え込んでいます。」
「えっ・・・そんな状態で土俵に上がっていたなんて信じられません。」
「まぁ、そういうところが彼女のすごいところですよ。普通ならもっと早くに引退していてもおかしくはない。でも彼女は土俵に立ち続けた。それだけでも素晴らしいことです。」
「でも、この先どうなるんでしょうか・・・このままだと・・」
「心配なのは確かでしょうが今は見守るしかありません。我々にできるのは祈るだけでしょう。」
「はい・・・」
「でも、私は彼女を信じます。」
「私も信じたいと思います。頑張ってください!」
「さて明日の取り組みですが注目はどれでしょうか?」
「やはり横綱百合の花と大関桃の山の対決でしょうね。葉月山と世代交代印象付けて確固たる地位を気づきつつある力士ですからね。対する桃の山はここまで一気に大関に上り詰め横綱も手のうちに入れるうえには大事な試合になります。同部屋の葉月山の後継者と云ってもいいでしょうねぇ」「そうですね、それではまた明後日お会いしましよう」
葉月山が稽古部屋の部屋に戻りしばらくすると「桃の山です横綱よろしいでしょうか?」とどうぞと声をかけ部屋に招き入れる。「どうしたの?こんな時間に」
「あのぉーお願いがありまして」
「なあに改まって」
「横綱の最後の場所なのでどうしても葉月山と倒したいんです。明日は絶対百合の花を倒して千秋楽で・・・・葉月山を倒して優勝して・・・・そして横綱に・・・・」桃の山は目に涙を浮かべながら必死に訴えている。
その姿を見て葉月山は胸を打たれたのか、桃の山を強く抱きしめた。
「今場所は私の集大成のすべてをもって戦っているわ」
「はい!わかっております!だからこそ横綱葉月山を倒して私が優勝して引退させたいんです」二人は抱き合いながら涙を流していた。
「ずいぶん大きく出たわねぇ。その前に百合の花を倒してからだけどね」
「絶対勝ちます」
「私も絶対に負けられないわねぇ。千秋楽楽しみにしているわ」葉月山は優しく微笑みながら稽古場を出て行った。
十四日目。
結びの一つ前。横綱百合の花ー大関桃の花の大一番。すでに両社土俵中央に「負けられない絶対に負けられない」桃の花は過剰なまでに気合が入ってる。
対して百合の花はその様子を見ながら「そんなに気合が入りすぎて勝てると思っているの千秋楽で葉月山を倒して絶対横綱の称号は受け継ぐのは私よ。」両者仕切り線まで下がり一礼。
立ち上がろうとした瞬間、――おおっといきなり激しいぶつかり合いだぁぁぁぁぁぁ!!!――
――両者一歩も引かないぞォォオオオ!!!――
――さあどうだ!?どうだ!?どうだ!?――――両者譲らない!両者一歩も引かない!両者一歩も引かないぃいい!!!――
――両者激しいぶつかり合いだぁあああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ
ここで両者両まわしをつかんだ。土俵中央微動だにしない荒い息遣いだけが館内に響き渡る。三分を超える大相撲になりました。館内割れんばかりの大声援。両者の気迫が伝わってきます。――うりゃぁぁあぁぁ!!!―どっこいしょぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお
ーくっ・・絶対に負けられない。百合の花さんは全勝なんた゛ここで負けたら百合の花さんと対戦なんか意味がないんだ
百合の花の猛攻は続くそれを必至に食い止める桃の山だがすでに顔は赤くなり体には玉のような汗が・・・・限界は近いのか桃の山大苦戦。しかし、ここで最後の力で電車道で押し返す桃の山の勢いは止まらずついに百合の花の懐に飛び込んだァァア!!!
――いけぇええええええ桃の山行けェエエエエエエエエエッッッ!!! 桃の山が勝ったかと思われたその時、桃の山の足が滑った。そのまま尻餅をつく桃の花、桃の山が立ち上がりかけた時、――ああっ!桃の山が倒れてしまった!立てないのか?立とうとしてもうまくいかないぞ! 桃の山が立ち上がれない、これはもうダメなのか?場内がざわめき始める。
しかし勝ったのは行司軍配百合の花だぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ
「やったー!!」
「よく頑張った!」
「桃の山!!!」土俵脇で座っていた葉月山が土俵に上がり体を支える。
「桃の山動かないで私の肩に両手でつかまって・・・できる」
「ハイ・・・」桃の花は苦虫を嚙締めるような顔で葉月山の肩につかまると葉月山は両手で桃の山の両足を抱えておんぶする。
「葉月山さん・・・」
「ここは無理してはいけない。恥ずかしいだろうけど御免なさないね」葉月山はゆっくりと桃の山をおんぶしたまま土俵をおりる。師匠達が心配そうに声をかけるが葉月山はそれに答えず。ゆっくりと花道を抜けていく。場内からは割れんばかりの拍手が・・・・。桃の花は葉月山の背中に顔を埋めながら「すいません。横綱・・・・」とぽつり。葉月山は何も答えずゆっくりと歩いていく。支度部屋に戻ると医師が足の状態を確認しアイシングを始めた。「葉月山ありがとうございました」座りながら桃の山が頭を下げながら言うが葉月山は「私は何もしていないわ。あなたが最後まで諦めなかったから」
「葉月山さん・・・」
「明日は欠場しなさい。とても相撲をとれる状態ではないことはあなたもわかるでしょわかったわね」
「わかりました」
こうして十四日めの取組は終わりを迎えた。
そして迎えた千秋楽結びの一番、一敗の横綱百合の花全勝の横綱葉月山を迎えようとしていた。両者土俵中央一礼。立ち上がって一礼した瞬間――おおっと両者激しいぶつかり合いだぁああぁああぁああぁああぁあぁあぁあぁあぁああぁあぁあぁあぁあぁあ
――両者激しいぶつかり合いです。胸を合わせて激しく睨み合う。両まわしを取り合って四つに組む二人。力比べが始まった。両者とも一歩も引かないすごい押し合いだ!―うりゃぁあああ!!―どっこいしょぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお――両者譲らない!!両者一歩も引かないぞォオオオ!!!―うりゃぁああ!!どっこいしょぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉ――両者互角!!―うりゃぁああ!!どっこいしょぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉ――両者一歩もひかねぇええぇええぇえぇえぇ!!!「いけぇええぇえぇえぇえぇえぇ!!!」
「負けるなぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」
「がんばれぇえぇえぇえぇえ!!」場内からも声援が上がる。しかし、この勝負どうなるのか?両者は必死の形相で相手を押す!押せ!押せっ!どっちが勝つんだ?!
―葉月山、私は今回勝って絶対横綱の称号を奪い取らせてもらいます。百合の花のパワーが一気に爆発して強烈な右上手からの投げがさく裂した。
「くぅ・・・耐えられない」葉月山の必死の防御もあっけなく崩壊。瞬殺で投げられると背中に砂がまんべんなく張り付いていた。―決まり手は上手出し投げ!!! なんという強さでしょうか。横綱葉月山を全く寄せ付けない圧勝劇でありました。
ーさぁこの後、優勝決定戦。絶対横綱と云われた葉月山は土俵上からまだ立てません。荒い息をしたまま膝まついている。
―相当に消耗しているようですね。今場所は本当に全盛期に近いぐらい体調を戻していましたがさすがにここまでくると苦しそうですね
―葉月山が不死鳥のように復活したのが昨年。しかしそのあとはまた調子を崩してしまい苦戦していましたが今場所は全勝優勝もと思われましたがさすがにそうはさせてもらえなかった。百合の花の気迫が勝った一戦でした。この後十五分の休憩を挟み優勝決定戦です。
ーではここでいったん中継を終了しましてニュースをお伝えします。
「もうだめかな」桃の山は悔しそうな表情を浮かべる。
「大丈夫よ。」
「葉月山・・・」桃の山の目には涙。
支度部屋では葉月山が目を閉じながらさっきまでの荒い息を整え大きく深呼吸した。
「はっ・・・はっ・・・はぁ・・はぁ」
「横綱・・」桃の山は心配そうに声をかけた。
「はぁはぁ、はは・・はは・・は」その言葉を聞いた瞬間、葉月山の顔から笑みがこぼれてきた。そしてゆっくりと目を開き笑顔を見せた。
「ありがとうね。私のこと応援してくれて」
「当たり前じゃないですか!」
「桃の山怪我の方はどう?」「はい問題ありません・・・・せっかく百合の花を倒したのに・・・くやしいです。絶対最後は横綱と戦いたかったのに・・・」
「ふふ、でもあなたも十分強かったわ。私なんかよりずっと強いと思うわ」
「そんな事無いです。私はまだまだ弱いです」
「いいえ、あなたはもっと強くなるはずよ。だってあんなに強い相手と戦って最後まであきらめず戦っていたもの。だから自信を持って頂戴」「はい!!」
「じゃぁ行きますか。桃の山。私の集大成の相撲よく見ておきなさいよ。横綱とはどうあるべきかを・・・」
「はい!!」
葉月山は立ち上がり控室を出て行った。
「頑張ってください!!」横綱の後ろ姿を見送る桃の山だった。
「いよいよだな」
「うん。楽しみだよ」
―百合の花は支度部屋で股割などをしながら平常心を保っていた。少年少女相撲で常に優勝して高校卒業後角界に入っていった。とんとん拍子で三役に上がったがその後は怪我などで調子を崩してしまい三役陥落の危機に・・・「もう相撲やめようか・・・」百合の花の気持ちは固まっていたがその時声をかけてくれた力士がいた。それが当時大関だった葉月山である。
「苦しいでしょうがそれはあなたに対しての神様の試練だと思いなさい。それと同じく考える時間を与えてくれたと思いなさい。好調な時は何も考えることはないからね。勝手に体が動いてくれるから。」百合の花は黙ってうつむいたまま・・・。
「私はこの場所に横綱昇進の足掛かりをつかんで見せる。今は苦しいと思うけどここで投げ出したら今までの誇りを全否定しまうことになるわ。百合の花。あなたの力はそんなものでないはずよ」
「はい。わかりました。もう一度やってみます。ただもし負けた時はお願いがあるんですが聞いてくれませんでしょうか?」
「何?言ってごらん」
「私が負けても次の場所まで逃げずに待っていてください。必ずその場所に戻ってきます。それまでどうかお待ちになっててくれませんでしょうか?
「そんな舐めたことを云えるのだから大丈夫ね。早く上がってきなさいよ」と笑いながら支度部屋を出ていった。
―葉月山さん感謝します本当に・・・・。心が折れかかっていたけどなんとか・・・・。絶対追いついて・・・その時は両横綱で対戦したい。
ーさぁ行こう。横綱葉月山をもう一度倒して絶対横綱の称号受け継いでさせてもらますよ。
土俵入りする葉月山の目は闘志満々である。同じく百合の花も闘志満々である。
これから優勝決定戦をおこないます。
西~葉月山-葉月山ー・東~百合の花-百合の花ー・・・・。
呼びたしが両力士の名を呼び二人は土俵に上がり四股を踏む。「これより女子大相撲優勝決定戦を行います」
行司の声とともに大きな歓声が上がる。
両者睨み合いそのまま仕切り線につく。
そして手をつく。
その瞬間勝負が決まったかのように見えた。
しかし葉月山の方が一瞬早かった。
まわしを取り一気に寄る。
一気呵成に土俵際までもっていき右上手から投げの体制に誰もが決まったと思ったがここで百合の花が踏ん張って微動だに動かない。
「くぅ・・・なんて重い腰なのまるで大木を相手にしているような」見た目には葉月山絶対優勢に見えるが当人からすれば全精力を使っているのに全く動かない。
「くぅ・・・これ以上長引かせたらもたない」
焦る葉月山にさらに圧力がかかる。
それを耐えながら何とか寄り切ろうとするがやはりびくともしない。
葉月山は左下手を外しながら少しづつ前に出る。
百合の花も必死に耐えている。
葉月山は攻め方を変える。
今度は押していく作戦に出た。
だがそれでも百合の花は一歩も退かない。葉月山はじり貧になる。
「まずいこのままだと・・・」
葉月山は百合の花の胸元をめがけて突っ込む。
百合の花もそれに反応したのか葉月山を押す力が弱まった。「今だ!!」
葉月山は思いっきり百合の花の胸に頭突きを食らわす。
「うぐっ!!」
百合の花は苦痛の表情を浮かべるがすぐに立て直して反撃に転じる。再び葉月山を押し返す。
「まだこんな力を残していたとは・・・でも私だって負けられないんだ!! 」
葉月山は渾身の力と全身の力を込めて百合の花に立ち向かう。
百合の花はその攻撃を正面から受け止めようとする。
「はあああ!!!!」「くうう!」
二人の力は拮抗したままなかなか動かない。
「はあ、はあ、はあ」
二人共肩で息をしている。
お互いの体力の限界は近い。
「はぁはぁはぁ・・・」「はぁはぁはぁはぁはぁ」
「はあっはあっはあっはあっはあっ」
「はあっはあっはあっはあっはあっはあっ」「いい加減倒れなさいよ!」
「そっちこそしつこいんですよ。葉月山」
「「絶対に勝つのはこの私よ」」
「「「頑張れえ!!!」」」
観客の応援にも熱が入る。両者の限界はもうすぐそこまで来ている。
葉月山は最後の力をふり絞り全力でぶつかる。
それに対抗するように百合の花も全力を出す。
「「うおおぉお!!!」」
両者は最後力を振り絞った。
そしてついに決着がついた。「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ・・・」
勝者は・・・。
「優勝おめでとうございます。横綱百合の花」行司が高々と宣言する。会場中が大歓声に包まれた。
両力士は膝まついたままなかなか立ち上がりない。三分近くの死闘ではさすがに精魂尽き果てる両横綱
。
行司が両力士に声をかけるが全く反応が無い。
行司が困り果てた時一人の女性が土俵に上がってきた。
その女性は土俵に上がると両力士に駆け寄って声をかける。
「大丈夫ですか?しっかりして下さい」
声をかけたのは初代女子横綱で絶対横綱の称号を初めて授かった元妙義山。大関桃の山の母である。その言葉に二人は顔を上げる。
「お母さん・・・」
「母さん・・・」
二人は涙目になりながら呟く。
二人は立ち上がる。
「よく頑張ったわね二人とも立派だったわ。さぁみんなに挨拶してください」
二人にとっては女子大相撲界の母であると同時に尊敬以上に永遠の大横綱なる人物である。二人は涙を流しながら「ありがとうございました」と言い深々とお辞儀をする。
その瞬間会場中に拍手が鳴り響く。最高だよお前たち!!」
そんな声が聞こえてくる。
その後表彰式が行われた。
優勝した百合の花にはトロフィーや賞金が授与された。
準優勝の葉月山には賞状が送られた。
この日一番盛り上がったのは言うまでもない。
それから数日後。
横綱葉月山は引退会見を行うことに・・・・・。「本日の主役の登場です。どうぞこちらへ」
司会がそう言い葉月山の入場を促す。
葉月山が席に着くと同時に記者たちが一斉に質問攻めにする。
「今日はどんな気持ちでここに?」
「今までで一番思い出に残っている取組は何でしょうか?」「これからの抱負をお願いします」
などなど次から次に飛んでくる。葉月山は一つ一つ丁寧に答えていく。
そして最後に「皆さん今日まで本当にありがとうございました。私は幸せ者だと思います。私の夢をかなえてくれて感謝しています。次の世代を担う若い力士たちに期待したいと思っています」と言って締め括った。
その後は写真撮影が行われ、記者会見は終了した。
翌日。
新聞各紙一面トップ記事で「女横綱葉月山笑顔で引退会見」という見出しの記事が載っていた。
また、ワイドショーなどでも取り上げられ、連日報道される。
世間の反応としては賛否両論であった。
だが、それでも彼女に対する評価は高かった。
こうして、彼女は女性絶対横綱として歴史に名を残した。
これは後に語り継がれることになる伝説の始まりでもあった。