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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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298/324

土俵という舞台へ! ②

 紗理奈はランクル300を小田代部屋の前の駐車スペースに止めると部屋から年寄の西経OG三倉里香(元大関伊吹桜)が出てきた。廻しを締め稽古中と言う感じだが・・・。


「稽古中かこの時間に?」と紗理奈


「幕下には時間がある時に補強の稽古をしています。もう終わってますので気になさらないでください」里香は言いながら、真奈美と目が合う。


「ご無沙汰しております。真奈美(前)監督」と里香


「久しぶりはいいんだけど、(前)監督とかやめてくれない?もう相撲には一切関わってないんだから」と苦笑いの真奈美。


「それはそうでしょうけど・・・・」と里香は言いながら視線を美香に合わせると、すーっと視線を逸らされた。


--------美香の事務所(二週間ほど前)-----


「悪かったね里香、わざわざ高輪まで来てもらって」


「いいえ、それで例の物は?」


「例の物って言い方あるだろうまるで薬の売人みたいな言い方しやがってちゃんと買ってあるから【豆大福】と【栗蒸し羊羹】紗理奈にも持ってたことないんだからな全く」


「あの店常連さん以外お断りだし、でもストリートビューに店先から出てくる美香さんが写っていたのが運の尽きでしたね、モザイクかかっても体形見れば、それに587履いてましたしね完全リニューアルしたほぼ一点もの。そのうえでカマかけたらゲロってしまうあっけなさ」


「もうういいよ、こんな小娘に刺されるとは、あぁ私も焼きが回ったわ!あぁこんな奴のトラップに引っかかるなんて」


「すいませんねぇ・・・でも、豆大福は今食べましょうよ、硬くなるといやなんで」


「はぁー、今お茶いれるわ」


「すいませんねぇー」


その後は、女子相撲界の話に‥‥でも本題は?


「再来週の月曜日、部屋に来る予定です。そこは南条監督にも了解を得てますので」


「でも、お前のところの(前)監督は徹底していると言うか、西経辞めたら全くアマチュア相撲界から断つところは、割り切り方が凄いと言うか、南条や小田代ヶ原親方に電話の一つでも想うけど・・・石川さくらには、海王親方と親密になって調整というか前々からやってたみたいだけど?」


「真奈美さんにはいまだ映見が女子大相撲に行くことに納得してない部分もあるようです。ただ、本音は映見の力士としての可能性を見てみたいというところはあるんです態度には出しませんが・・・」


「紗理奈並みにめんどくさいな」


「でも、美香さんから映見と真奈美さん合わせてやれって何か意図でも?」


「なんか私が言うと意図は何ですかって?純粋に会わせてやりたいってことだよ!力士になる前に、葉月に一緒に連れてこいと言ったんだが彼奴は色よい返事しなかったけど、真奈美さんが日曜日に一花と名古屋で食事の約束したって言うからそこは、葉月が何とかするんじゃないの?」


「大丈夫ですかねぇ?」


「競走馬の世界で、世界を相手にビジネスしてるんだそこら辺のビジネスウーマンとはわけが違うよ、個人的には性に合わないけどね」


「相変わらず・・・・」


「はぁー?」


-----月曜日 午前五時。名古屋マリオットアソシアホテル 48階〈那古野スイート〉-----


葉月は遠藤美香宛てに、東京で紗理奈と真奈美が会う旨のショートメールを送る。48階から見る名古屋の空は、まだ陽も上らず。葉月は真奈美と紗理奈の電話の会話をこっそり聞いてしまったのだ。美香から葉月に、真奈美と中京競馬場で会うこと事前に聞いたうえで小田代部屋に連れてこいと言われていたのだ。でも、その必要もなくなった。葉月にとっても小田代部屋に行くことにはあまり気が乗らなかったし・・・。五分後、美香から着信が入ると葉月は電話に出る。


「おはようございます」


「おはようと言うかずいぶん早いな、ホテルか?」


「えぇ・・・今日、紗理奈さんと会うようなので後は」


「紗理奈から電話があった。お前は来ないのか?」


「すいません。色々忙しいので、それに真奈美さんのほうから掛けたみたいだったので、最初から紗理奈さんの都合が合えば行く予定だったようですから真奈美さんを映見に合わせるんですね」


「力士になる前に、部屋で会わせてやろうと思っただけだよ、相談なしに入門までの段取りを組んだ罪滅ぼしってわけでもないけどな、でも、この道を選んだのは稲倉だから、実業団で優勝した時点で一択しかなかった。幸か不幸か?」


「決勝の同門対決って、あれも美香さんですか?」


「そんなことあるわけないだろう!」


「すいません。つい・・・」


「まぁ百合の花は、あんたの意思を継いで部屋を創設して、まだまだ小さいがいまもっとも勢いがある部屋になった。あんたの目には狂いがなかったってところか?」


「私の後継は百合の花だと想っているので、力士時代ももちろん今も、それは美香さんだって?」


「百合の花は運がなかった。葉月山と言う力士がいなければ彼女が絶対横綱【百合の花】として君臨したはずだったろうな?」


「なにか【三神櫻】に言っているように聞こえますが?【妙義山】と言う力士がいなければ・・・」と少し含み笑いに・・・。


「ある意味神格化されてしまった【妙義山】を私が圧倒してしまったら興行的に成り立たないだろう?わたしゃそこまで考えていたんだよ!よく覚えておけ!」


「さすがです!」


「今、しあわせか?」


「えっ?」


「北海道に戻ってしあわせかって聞いてるんだよ!」


「しあわせですよ!中河部葉月として、そして、元横綱【葉月山】として」


「絶対横綱【葉月山】とは言わないんだな」


「そこは、横綱【三神櫻】に配慮して・・・・」


「けっ、ふざけやがって!」


-----小田代部屋----


 時刻は午後五時。駐車場の前で立ち話をする四人。そこから見える部屋の様子。通常なら稽古場の電気は消され、静寂に包まれる時間ではあるのだが・・・。


「こんな時間まで稽古するの?」と真奈美は里香に聞く。


「今、親方が映見に稽古つけてます。だいぶ可愛がられていますが・・・」


「・・・・どういう事?映見が来てるの?」


「偶然なんですが、今日偶々、事前に映見に部屋に来るように言ったんです。入門前の事前準備と言いましょうか」と里香は平然と嘘つく。


「紗理奈さん知ってたんですか?」と困惑の表情を僅かに見せながら紗理奈に聞く。


「稲倉が部屋に来るのは事前に聞いていたよ、ただ、真奈美が私に会いたいと言ってきて東京に来るのは予定外だったけど」と紗理奈。


「それは・・・・」


「いい機会じゃないか、二代目【葉月山】のけいこ総見ってことで私達が見る。どうです真奈美さん。あなただって稲倉映見の稽古姿久しぶりでしょうし、ねぇ?」と美香は素知らぬふりをして・・・。


「それは・・・・」


あまりにも意外だった。確かに東京に来て紗理奈さんと会い映見の女子大相撲入門方々お礼がしたかったと言うのは本心であったし、できれば小田代ヶ原親方に会ってというのもあった。映見の女子大相撲入門

に際しては、いまだどこかに賛成しかねる部分もあるのは事実だが、ここまできてしまった以上もう後戻りはできないし、映見は実力で【女力士への道】を勝ち取ったのだから。ただ本人が稽古かたがた部屋に来ているとは思わなかったし、昨日の紗理奈との電話のやり取りでは一言もそんな話はしてくれなかったではないか?映見とさくらの卒業と共に相撲から足を洗ったというと語弊があるが、相撲との生活に別れを告げ、あの時の生活に戻るというか戻してくれるというか・・・。そして、その願いは叶い新たな人生を二人で、あの頃のようなアグレッシブさはないけど・・・。そんなかでひとつやり残していたのは、映見への感謝とエール。


 さくらの入門に際しては、海王部屋への入門にあたり海王親方(元大関 藤の花)と綿密に打ち合わせをした。それはさくらの入門を真奈美自身が賛成していたしさくらも一時迷った時期もあったが、それが一番相応しいとさくらも真奈美も想っていたのだから素直に、でも映見にはどうしても・・・。だから映見の卒業に際し、女子大相撲の件は一切自分からは言わなかった。


>「監督に、私の力士姿を見てもらいたい!それが私からの監督への恩返しであり・・・それは私の相撲人生の集大成であり散る時は大相撲の土俵で!」


あの時の相撲部恒例追い出し会は映見のこの言葉に集約されていたかのように、真奈美はその言葉には答えなかった。応えるべき言葉にこたえなかったのだ。映見にたいして期待や活躍をする言葉すらかけなかった。大人げないというか、もう真奈美からすれば映見は手を離れたのだ。女子大相撲に行こうが行かまいが、もう手心を加えることはできないのだ。山下紗理奈や遠藤美香が映見の女子大相撲入りに色々画策していると言う風の噂を聞いた時、怒りではなくどこかほっとした自分がいたのだ。確かに心情的には面白くなかったが、あの二人に映見が認められたのだと・・・・。そして、あの【葉月山】という四股名を受け継ぐのだ。


 稽古場の格子窓の隙間から聞こえる息遣い、それは言葉でない体が発する叫びのように、その体からの叫びは映見の叫び!


「う~ん・・・う~ん・・・」


「くぅ・・・あっ・・・ん~ん~・・・」


「・・・・・・くっ!!」


「・・・・・・うあっ・・・」


 その叫びに思わず目をつむってしまった。真奈美とて映見には他の部員以上に厳しく指導した。リンチまがいの稽古をつけたこともあった。アマチュア女子相撲の女王のプイライドなど粉々にするよなことも、ただそれは映見の相撲が真奈美を魅了しだからこその指導だと・・・。アマチュア女子相撲の女王としての花道を飾り、その先は医師としての道を歩めばそれでいいと・・・。でも!


「真奈美さん」里香かが声をかける。


「あっ・・・ごめん。ちょとなんか」と真奈美はどこか動揺しているかのように、里香はその様子に少し寂しさを感じたと同時に、真奈美はあくまでもアマチュア女子相撲指導者であって、女子大相撲の厳しい弱肉強食の世界では真奈美は耐えられないと・・・。


「映見はもうお客さん扱いはしていません。葉月山を名乗ろうとする者にはそれなりの指導をすると、親方と相談して決めました。当然ですが映見自身も覚悟を決めこの世界に入ってきたわけですから、そこに情けなどかけるつもりなどさらさらありません。親方は映見を潰すつもりで稽古をつけています。新弟子検査まではまだ日がありますし引きかえすチャンスはあります」


「潰す!?」


「もちろん本気で潰すことはありません。ただ覚悟を見たいということです。女子大相撲の世界はやっぱり厳しいしアマチュア女子相撲とは違います。そこを今一度問うというところでしょうか?」


「そうだね。当然だよ。私だって似たようなことしてきたのに映見のうめき声のようなものを聞くと、今の私には耐えられなくてね、アマチュア女子相撲の世界から身をひいて免疫がなくなったって、過敏に反応しちゃってるって感じでね」


「西経の監督を辞めたのは、映見が卒業したからでしたよね?」


「映見とさくらという才能あふれる選手を育てることができて終止符が打てた。そう言うことだったんだ。それと再婚を機にね」


「真奈美さんは、映見の女子大相撲入りはいまだに良しとは?」


「映見が選らんだことにとやかく言うつもりもない。里香が入門するに際しても私は言ったつもりはないけど?」


「そうですね・・・。最後は自分であることそこで他人の意見に身を委ねているようでは・・・」


「あなたのあの時の選択は間違ってはいなかった。どう?」


「えぇ、少なくとも後悔はしていないそんなところです。それよりここで立ち話をしていてもしょうがないですから中へ、稽古場に入るのは違う意味で怖いかもしれませんが、映見の覚悟見てやってください」


「わかったわ」


 真奈美は里香に導かれ部屋に、土俵の匂いと体がぶつかり合う音は否応なく真奈美を刺激する。自身が育て接してきた稲倉映見が見せる覚悟をこの目で見るために・・・・。


 

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