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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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295/324

出世名は選ばれた者に宿る ⑪

---名古屋マリオットアソシアホテル ・メインバーエストマーレ-----


 テーブル席に真奈美と葉月が並び向かいに一花の三人。52階【MIKUNI NAGOYA】でフランス料理を堪能し、15階のメインバー【エストマーレ】へ。真奈美はパナマ・葉月はカルーア・ミルク・一花はグラスホッパーとそれぞれクリーム系のカクテルを注文。真奈美と葉月は優雅にカクテルを嗜むのに一花はどこかぎこちない・・・。


「いつも、こんな凄いところで食事してるんですか?」と一花は向かいの真奈美に


「なんで私に聞くのよ?聞くんだったら隣でしょ」


「私?」と葉月


「この三人で一番稼所得があるのは葉月さんなんだから」


「ちょっととその言い方は・・・・」


「そう言えば、真奈美さんの旦那さんって馬で相当稼いでますよね?【ツバキヒメ】で三億とかネットで見ましたよ?」


「一花ちゃん。そう言ういくら稼いだとか言う話は、この場には相応しくないわよ、ねぇ葉月さん」とチラッと葉月を見る。


「えっ!?えぇ・・・」


「えっ?ちょ・・言い出したのは真奈美さんじゃないですか!」


「所得があるとは言ったけど稼ぎがいいとかは言ってないから、海外ならいいけどここは日本だから、海外の人達は、お金をどれだけ稼いでいるかは、自分自身のブランドイメージだからね、、まぁそんな話はどうでもいいけど,さくらが【桃の山】を継ぐのは如何せん早いような気もするけど・・・」


「【妙義山】さんたっての希望のようです。多分、映見さんが【葉月山】を継ぐことが公然の秘密になっていることに触発されたのかしれませんが」と言うと葉月をチラ見する一花。葉月は別に動揺するわけでもなく、テーブルに置いてあるスライスアーモンドを飴がけし、ビターチョコレートでコーティングしたベルギーのチョコブランド「ピエールマルコリーニ」のクルスティヤン フォンダンを摘まみながら話を聞いていた。


「一花も、当人がいる前でよく言うわ。でも、協会からしたらこれ以上の話題性はないしね、私達には関係ないけど」


「真奈美さんは映見さんのこと・・・・」


「映見はもう私の手から離れたんだから、それに、プロになるのだから私の領域ではないわ。瞳に代わってから、女子大相撲入りを目指す選手も増えて,協会にも西経のOGが何人もいるわけだし、そこをちゃんと太いパイプ作っていけるのなら、それはそれでいいんじゃない」


 真奈美はラム酒の効いたショートカクテルを一気に飲み干す。前監督として、映見やさくらの動向が気にならないと言えば噓になる。女子相撲に関しては、アマ・プロと問わずチェックはしている。当然、西経の事も気にならないと言えば嘘になる。真奈美が西経を去り、西経一強の時代が終わるだのだと他の大学は、瞳監督を手ぐすね引いて大学リーグ戦などを待ち構えていたが、西経は相変わらずの強さを発揮し初年度からいきなり優勝してしまったのだ。卒業後女子大相撲入りする者も多く輩出し、女子大相撲界からも一目置かれ、良好な関係構築づくりに自ら積極的に動く姿は真奈美とは相反する。そんな瞳監督を陰ながら誇らしく想っている。真奈美がアドバイスする必要がないほどに、何か憎たらしくも・・・。


「今日はお二人ともこちらにお泊りで?」


「うん。久しぶりに会ったし、色々話もしてみたいしね、忙しい葉月さんには申し訳ないけどね」とチラッと葉月を見る。


「私も、二人で会うのは久しぶりですし、明日セントレアから北海道に帰る便を事前に取ったから」


「そうですか、でもお二人が揃っていると、あの大会を彷彿とさせると言うか」


「あの大会は、真の意味での強い国を決める大会だった。決勝が日本VSロシアになったのも必然だった。映見にとってもさくらにとっても、あの大会が二人の行く末を決定的なものにしたのよ、ここまで紆余曲折あったにせよ、二人は運名づけられたというか、時代が二人を呼び寄せたといっても過言ではない。女子相撲は、世界でメジャーな一つのプロスポーツになった。男の大相撲と違う意味でね、これから更に飛躍する。私がアマチュア時代には夢にも思わなかったけどね」


 真奈美のグラスは、知らぬ間にパナマから小諸蒸留所のシングルモルトに、甘く芳醇な香りを放ち、口に含めば蜂蜜のような自然な甘さを感じながら口のなかでさらに複雑な味に変化する。グラスの脇にはピン色のようかんのような「ういろう」のようなものが・・・・。


「《美濃忠》の『初かつを』よ」


「初かつを?」


「断面がかつをの切り身そのものでしょ、ちょっと柔らかめの羊羹なんだけどこの桜樽のウイスキーに合うのよ」


「ようかんが?」


「まぁ、お子ちゃまの一花には無理でしょうけど」と笑みを浮かべる真奈美


「なんか言い方が・・・・」と、頬を「ぷっく」とさせる一花。真奈美の隣では葉月が苦笑い


「真奈美さんたら。一花、今日はありがとう。色々な話聞けて、女子大相撲の話なんかする機会なんかないから」


「葉月さんも真奈美さんも・・・本当は紗理奈さんもいらしゃったらさぞかし楽しかったでしょうが」


「郡上八幡で三人が揃った時、また会いましょうとか言ったのに全然だもの、まぁ、それぞれ忙しいね」


「もしよろしければ、名古屋場所のチケット取りましょうか?」と一花が言うと真奈美と葉月は一瞬お互いはを見合わせてしまった。その思いは二人の脳内にまったくなかったのだ。さくらと映見の幕下相撲を見に行くという行為そのものがまったく・・・。真奈美にとっては、相撲部の教え子。葉月にとっては、自分の四股名だった【葉月山】と若きライバル【桃の山】の復活、気にならないはずがないのに、全く気にも留めていなかったのだ。


「気が向いたら連絡するは」と真奈美がさらっと言うと席を外すし化粧室へ。テーブル席には一花と葉月の二人。


「高校で相撲の指導をしているそうですね、紗理奈さんから伺いました。ご本人は口には出しませんが嬉しいと思いますよ、ましてや、映見を指導していたなんって・・・」


「指導なんて言えるものではないわ。女子相撲は常に進化してる、私が教えられるもんなってさしてないし、月に二・三回、私自身の息抜きで行ってるだけよ。紗理奈さんと小百合いい関係みたいで、小百合の部屋は小さいながらも今もっとも勢いがあるし、私の相撲資産を託したのは間違えではなかった。まだ、全然若いし、小百合自ら廻しつけて稽古つけられるなんて弟子たちにとって最高でっしょう?いまでも二代目【妙義山】といい勝負ができるんじゃない?」


「お二人と北海道で会われてそうですね、色々あったようですが?」


「紗理奈さんから聞いたか?」


「えぇ・・・お辞めになられても精力的にアマチュア相撲を見に行っているようですし、小田代ヶ原親方とも積極的に会われているようです。ただ、そのことを潔しとしない空気もありますが・・・」


「小百合はこれからの女子大相撲界を引っ張ていく親方よ、映見を小田代ヶ原部屋に入れたられたことは紗理奈さんをバックに付けたからと言ってるらしいけど、あの人は自分が認めた者しか力は貸さないわ。そこには私利私欲なんかない。常に女子相撲のため!それだけよ」と言うと葉月は二杯目の「グレンドロナック21年」を一気に飲み干すと舌打ちをし厳しい表情を見せる。


「葉月さん・・・」


「私は女子大相撲界を辞めてしまったから偉そうなことは言うつもりはないけど、小田代ヶ原親方と伊吹桜なら女子大相撲の次のステージを作ってくれる。私はそう思ってるわ。映見の小田代部屋入りにうだうだ言ってる連中なんて所詮その程度よ!目先の勝ち星と金しか頭にない連中よ!そんな奴らに映見やさくらを育てられるわけがないわ!」


「葉月さん・・・」少なくと力士時代を含め、女子大相撲関係者に対して誹謗中傷めいたことなど言ったことなどないのに・・・。


「この前、【妙義山】に葉山の別荘まで連れていかれてね」


「葉山?紗理奈さんご夫婦が暮らしているご自宅ですよね?」


「行ったことある?」


「いえ」


「本物の土俵があったわ、紗理奈さんそこで地元の女子中学生を指導してるそうよ」


「紗理奈さんが初めて聞きました。旦那さんは高校で男子相撲手の指導アドバイザー的の事を仕事の傍らやられてているのは聞いていましたが」


「少し羨ましいわ。自分に素直になれないと言うか・・・」


「相撲にってことですか?」


「その点、真奈美さんは凄いわね。あれだけの名将として西経を率いていたのに、辞めたら一切相撲の舞台から足を洗って、競走馬でのお付き合いが始まってからは一切相撲の話はされないのよ、だから私もしなかったんだけど・・・・」


「そうですか・・・先々週突然電話がかかってきて、名古屋に行く用事があるから食事でもしないって、特段断る理由もないですし、私も久しぶりに会ってみたかったし、葉月さんが一緒だったのは想定外でしたが」


「私もね、御夫婦や旦那さんとでは会うんだけど、真奈美さんだけで競馬場で会うのは初めてで、そんな時、一泊して名古屋で食事でもって言われて、それでね」


「監督やめたこと、後悔されてるんでしょうか?」


「さぁーそれはないと想うけど、映見の女子大相撲入りはないと想っていたんじゃないかしら?確率的に言えば、今度の小田代部屋への入門は、紗理奈さんが主導しなかったら実現しなかった。そこに、真奈美さんは一切タッチしなかた。知ってはいたんでしょうけど?」


「でも、今日は色々女子大相撲の現状をお話ししましたが、真奈美さん真剣に聞いてくれたし、小田代部屋への映見の入門の経緯も、自分の力ではできなかったから紗理奈さんには感謝しているって」


「映見の卒業後は会うどころか連絡すら取っていないと言うのも、真奈美さんの割り切りなんだろうけど、徹底してるわよね」


「その後を葉月さんが受け持った?」


「受け持った?学校の先生じゃあるまいし、嵌められたのよ!全く」


「本当は嬉しかったんじゃないんですか?久々に相撲魂に火が点いちゃった見たいな」


「まぁ、否定はしない・・・」


「いいじゃないですか、初代【葉月山】らしくて」


「初代?あぁそう言うことになるのか、なんか遠い昔の話みたいで」


「遠い昔って五年も経ってないですけど、でも、なんか妙義山関、葉月山にライバルむき出しって感じですよ、さくらに桃の山を継承させるんですから」


「ライバルって私の事言ってるの?妙義山なんか私がライバルなんか想ってるわけないでしょう!もう私は相撲界にいないんだから」


「妙義山なんか・・・・呼び捨てなんですね」と一花は意地悪く


「あのね!もう全く。ところで真奈美さん遅いわね」


「真奈美さんなんか丸くなられたというか、監督時代はもう少し刺々しさもあったような」


「ウイスキーじゃないけど熟成されっていく女性って感じで」と葉月


「熟成ですか・・・熟成というか腐りかけ?」


「ちょっと一花ちゃんあなた意外と性格悪いでしょ?真奈美さんが腐りかけなら、初代は腐ってるわよ」


「葉月さん・・・それは」


「何?」


「初代って初代【妙義山】さんですよね?」


「その問いにはお答えできません」と葉月


「なんですかそれ!全く。性格悪いのは葉月さんじゃないですか」と一花は葉月に鋭く突っ込むも、葉月の視線を一花の頭上を飛び越えて・・・・。


「真奈美さんも悪い人じゃないんですけど、たまに毒吐くし、まぁ似たり寄ったりと言うか」と一花は素焼きのアーモンドを一粒、口に放り込む。葉月は一花の頭上越しに真奈美を見ると苦笑い。


「腐りかけだけど、腐ってはいないわ!一花!今日泊っていく?那古野スイートの48階だから夜景は最高よ!どうする?」


「えっ!?いいんですか?」


「いいわよ、その代わり無事に帰れるかは保障できないけど」


「あぁいや・・・・すいません。明日、東京で会議なんですよ残念ですが」と一花は席を立つ。その様子を葉月はおかしくてたまらない


「じゃ、私はこの辺で、今日はごちそうさまです」


「はぁーごちそうさまとかふざけたこと言ってるし」と真奈美


「えっ!?」


「もう真奈美さんは、今日は一花に時間作ってもらって色々話ができて楽しかったはありがとう」


「いいえ、こちらこそ」


「一花、今日は悪いけど葉月さんと二人で・・・」


「当然です。それでは失礼します」とメインバーを出て行く一花


 時刻は午後9時30分。


「じゃ、出ましょうか」


「えぇ」


 真奈美と葉月はエレベーターで48階に、エレベーターの庫内で言葉も交わさず。どことなく滑っとした空気が漂うのは気のせいか・・・。



 

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