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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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出世名は選ばれた者に宿る ⑨

 名古屋駅で海王親方と妙義山を降ろし二人は白のアルファードに乗り込む。時刻は午後五時過ぎ、そろそろ帰宅のラッシュが始まる。


「じゃ大学まで送っていくね」


「えっあっ・・・でも一花さん時間とか?」


「大丈夫よ、今日は海王親方と妙義山関の案内が仕事だけだから、まさか妙義山関も来るとは思わなかったけど、さくらへの期待度の表れかな?」


「あの聞いてもいいですか?」


「何?」


「契約金のことなんですが?」


「相当貰った?」と一花は多少皮肉もこめて


「話には聞いていたんですけど、一桁違うというか・・・」


「そんなに貰ったか!?まぁあれだけど貰ってしまった以上もう逃げられなくなっちゃったね」と一花は意味深な笑みを浮かべる


「えっ!?」


「まぁそれは冗談としても、石川さくら・稲倉映見というトップアマチュア二人が同時に入門というのも、女子大相撲界にとってエポックメーキングなことよね、あの大会での二人だらからね、さくらも映見もよく決断してくれたと想ってる。映見の場合は実業団で勝って特権を勝ち取っての入門だからね、意外と勝負強いというか」


「妙義山関に言われました。相撲の実力では一歩抜けてる、年齢なりに相撲の引き出しには色々もっているし対応力も速い、その点では、さくらは一歩いや二歩は遅れてるって・・・」


「そう言われたか、でも伸びしろで言えばさくらの方があるわけだし、海王部屋は女子大相撲界でも厳しい稽古をする部屋だから、その意味ではさくらにとって最高の場所だと思うし、ましてや絶対横綱【妙義山】関がいるのは大きなアドバンテージだわ。それだけでも部屋の士気があがる。大学生とは違うある意味の泥臭いところもあるだろうけどそこは心に留めといて、どちらかと言うと海王部屋は大相撲の気風に近いものがあるし、それでも元【藤の花】さんになってだいぶ変わったし、妙義山関の世代になって女子大相撲界も変わってきてるし」


 一花は、車を栄方面に走らせる。


「一つ聞いていいですか?」


「何?」


「映見さんいつから入門の話を?」


「あぁ・・・倉橋監督が海外行ってた時に私が大学に来たの覚えてる?」


「あぁ・・・確かクラブに行くとか言っていた・・・」


「クラブって・・・まぁクラブには行ってないけど、あの時初めて十和田富士のお母さんである柴咲総合病院 相撲部監督の南条美紀さんに会わせたのよ、映見さんにとってもし女子大相撲に行く気があるのなら最良の選択だと思ったからね、女子大相撲としても映見さんが入門することは歓迎だったし、ただ、実業団で優勝できなければそこで終わったけど優勝したからねそこは凄いわ。地力があるなぁーって」


 車は、左手に木々の間から中部電力 MIRAI TOWERを見ながら栄の街を抜けていく。一花は、あの日の経緯を説明する。さくらにとっては初めて聞く話である。


 現在の女子大相撲は、二代目【妙義山・十和田富士】の東西横綱が【葉月山・百合の花】の後を受け継ぎ盛り上げている。ファンからすると過去の因縁対決と言う構図で見る向きもあるが、現実は違えどそれはそれで女子大相撲界を盛り上げる。ベビーフェイスVSヒールと言うプロレスではないが一般的にはそう見られているし、最近では【妙義山・十和田富士】の東西横綱ががっぷり四つの展開が多く、ファンのみならず大いに盛り上がり、世界ツアー参戦では、両横綱が参戦し、海外力士との戦いは海外のファンをも魅了する。そんな中に置いて、石川さくら・稲倉映見の事実上の入門は、早くも次世代の横綱を期待する相撲ファン並び女子大相撲関係者。それだけ、二人のあの大会での活躍が鮮烈に脳裏に焼き付いているのだ。


 力士の年収も横綱クラスになれば3000万を超え、それに海外での各大会・世界ツアー、それに、広告費などの収入を含めればアマチュア女子相撲の選手達にとっては現実的な目標になっているのだ。男子大相撲の亜流と言われながらもここまでやってきたが、いまや男子大相撲とは一線を画す存在。日本の女子大相撲はスポーツとしての発展をする海外を認めつつも神事的ものも重視し発展を続けている。そのうえで相撲の実力的にも、世界相手に妙義山が古今奮闘していたところに十和田富士が加わり、ある意味妙義山の援護射撃的な意味合いもあったが、今はお互いツアー総合優勝を狙う真のライバルとして、ツアーを盛り上げている。当然に海外勢は日本潰しに躍起になるがそれさえも二人は凌駕していた。


 男子の大相撲と違って、国内はもとより世界も視野に入れないといけない女子大相撲だから、初場所・夏場所・秋場所。初場所と夏場所の間に世界ツアーが組まれて上位力士に休む暇もないし海外移動だから特に厳しい。十両以下も主にアジア地域などの大会に出るし、その意味では男子大相撲より過酷なのだ。国内場所をもうひと場所増やしてほしいというメディア側からの要望もあるが、力士のことを考えれば、今の場所数が限界なのだ。協会的には更なる収益のためにもうひと場所と言うのはあるのだが・・・・。先を見据えて国際的視野を入れての女子大相撲だったがある意味、一つの岐路に立っているとも言える。


「夏場所はいきなり映見さんとの直接対決になるのね、どっちが早く十両に上がるのか?全勝できればいきなり十両だからね」と一花


「同じこと横綱にも言われました。是が非でも先に上がれって・・・」


「そう言われたか、もし一気に全勝できれば十両、そこから波に乗れれば幕内は射程圏内だし、よっぽどのことがない限り、幕下に落ちることはないからね、その意味ではスタートダッシュは大事だからね、年三場所しかないから、うまく波に乗れないと厳しいからね」


「勝負の世界・・・」


「いまさらだけど、もう後戻りはできないしそれは自分で選んでこの道に入ったのだから、でも、さくらと映見は違う!この世界に導かれし選ばれた女子アマチュア相撲選手だから!」


「一花さん・・・・」


「そう言えば映見さんと連絡とか取るの?」


「映見さんですか?えぇ、卒業されてからは殆ど・・・・忙しいでしょうし、私も色々と・・・」


「そうなんだ・・・・まぁ大学時代と違うしね、なかなかタイミングも難しいし」


「映見さんが、追い出し会で女子大相撲を目指すと言われた時驚きましたけどその反面、そうなるかと言う想いも・・・・実業団での優勝しかなかったチャンスをものにして、さすがです!」


「そうね、でも、さくらだって女子大学選手権・日本選手権・世界大会で優勝して、幕下付け出しから勝負できるんだから映見さんの再来と言われるのも当然。他の部屋もあなたをさぞかし欲しかったでしょうが、絶対横綱【妙義山】があなたを絶対に欲しいみたいなこと言ってたからねあくまでも噂で、そうなるとなかなか、海王部屋もここのところ【妙義山】に頼りきっていたところもあったし、期待された力士が思うように伸びてないところもあるし、その意味では、いきのいい【さくら】を入れたかったことは事実だしね」


「他の部屋から誘いと言うか、監督の方には色々探りを入れてきていたようですが、私が監督には、海王部屋でやりたいとはそれとなく言っていたので・・・」


「瞳新監督は真奈美さんと違って、協会とは結構パイプ持ってるし協会の中枢では西経の出身多いからうまくやっている部分もあるよね、西経出身力士も増えるんじゃない?」


「青年海外協力隊に参加して相撲の指導にあたられたのも監督の布石だったのかなって」


「真奈美さんの後の監督じゃなかなか大変だと想ったけど、前監督に負けず劣らずなかなかの辣腕ぶりと言うかまさしく後継と言うか・・・」


「瞳監督は策士ですから」


「策士とか言っちゃってるし・・・でも、そこは真奈美さん以上ね、西経も世代交代してさらに躍進と言うか真奈美イズムがさらに研ぎ澄まされたって感じね」


「稽古見ていきませんか?」


「そうしたいんだけど、この後ちょっと寄るところがあるから」


「そうですか・・・」


「まぁ、ちょくちょく行かせてもらうし、それに、近いうちに女子大相撲入門もドラフト制が入るからそう言うことも話したいし」


「ドラフト?」 


「有力選手の部屋の偏りが顕著ではないかって話が前からあったんだけど、映見さんが小田代部屋から入門したことに色々ね・・・・それより以前からその話は進行しているんだけど、ここで小田代ヶ原親方にケチをつける他の親方もどうかと想うけど・・・映見さんが女子大相撲に入るには柴咲総合病院しかなかった。仲介したのが紗理奈さんであることを陰で色々言う親方は多いけど、紗理奈さんでなければ相撲部監督の南条美紀さんに映見さんを受け入れさせることはできなかった。そもそも、研修医のための臨床研修施設の病院で女子相撲部があるのはあそこしかなかったのだから」


 ここ最近、実力のあるアマチュア選手の一種の青田刈りが女子大相撲の人気と共に横行しだしたのだ。そして、どうしてもアマチュア選手は、目指す力士や力士の勝ち星が多い部屋に行きたがる傾向があるし、部屋の方もそのような部屋はスポンサーも多くついているのも事実。そのことがいつからか部屋の優劣を固定化してしまうとも言われているが、それは一部の話であり基本は稽古にあるのだが、結果的には偏りが出てきてしまっていることは事実。そのなかでも海王部屋は別格としても、新参者の小田代部屋の躍進と共にアマチュア女王だった稲倉映見の入門において、前理事長であり初代絶対横綱【妙義山】が仲介したことがおもしろくないのだ。稲倉映見は医学部で女子大相撲入りに関してはないと想い、どの部屋も手を出さなかったのだ。そんななかでの、実業団全国大会優勝からの女子大相撲入りの秘策は他の部屋からすれば想定外ではあり、そんなこともあり小田代ヶ原親方が現地に行かなかったのだ。そんななかでも、稲倉映見は優勝し女子大相撲への切符を手にしたのは実力なのだ。


「来年からは同門対決も始まるからね、ますます見ている方は面白くなるけど、やる方は本当のガチ相撲になる。だからこそ色々な意味で変わらないとね、その中で勝ち抜けるのは本当に大変だと想うし、世界との対決も地域ごとにリーグ戦の新設も世界協会の方で話し合われてるし、さくらや映見が上位力士になってる頃は激変しているかもね」


「世界が相手なんですね・・・」


「あの大会は、ある意味のテストケースだったのよ、そこで戦った四人がこれからの女子大相撲を引っ張て行く、それを考えたら、山下紗理奈・遠藤美香さんはそこまで読んでいたのかもしれない、誤算は葉月さんが女子大相撲を去ってしまったこと、それは予想外だったのでしょうけど・・・」


「映見さんが【葉月山】を・・・」


「さくらが【桃の山】映見が【葉月山】落ち着くところに落ち着いたと言うか、あの一回こっきりの大会があまりにも鮮烈だったんだよね。プロとアマチュア混合で挑んで、状況次第ではプロVSアマの対決になったんだから、今考えると無謀だし、決勝はプロアマ最強のロシア。よく勝てたなぁーって今考えると・・・・アマチュア二人の活躍が勝利の鍵だった。だから当然なのよ、二人が【桃の山】・【葉月山】それぞれ受け継ぐのは選ばれし二人ってことで・・・」


「選ばれし二人・・・」


 さくらにとってこれ以上の言葉ない。それは映見にも・・・。そして、その四股名は選ばれしものにしか宿らない。さくらの気持ちの中に何気に描いていた女子大相撲へ淡い薄墨色の水墨画はいつの間にか立体感あふれる油絵と変わり、そのキャンバスから現実として抜けだすかのように・・・・。






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