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女力士への道  作者: hidekazu
花道の先に見える土俵へ

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287/325

出世名は選ばれた者に宿る ③

------海王部屋・相撲場-----


「もういっちょ!」と海王部屋の頭である絶対横綱【妙義山】


「はい!」と小田代ヶ原部屋の頭である前頭七枚目の【天津風】


 稽古の総仕上げであるぶつかり稽古。天津風は散々土俵に体を転がされ砂まみれになり、息も絶え絶えに土俵に跪く。たいして妙義山は息一つ乱さず笑みすら浮かべ。天津風は足を震わせやっとのおもいで立ち上がると妙義山に礼を言う


「横綱ありがとうございました」と頭を下げる


「天津風、まだまだ上に上がれる素地はあるから稽古に精進するんだ。いつでも出稽古に来て!」と妙義山は、軽く天津風の背中を叩く。


「はい!稽古はここまでだ。上がって風呂とちゃんこだ」と海王親方


 力士達は親方の前で一礼し、全員で片づけに入る。


「今日はありがとうございました。横綱に稽古をつけてもらって、格下の天津風には貴重な経験ですから」と海王親方の隣にたっていた小田代ヶ原親方が礼を言う。


「小田代ヶ原親方とは仲良くしておかないとな」と意味深な海王親方(元大関 藤の花)


「はぁ」


「映見はいつ部屋に入るんだい?」


「春ぐらいになるかと」


「春かぁ・・・年明け早々から入れた方がいいんじゃないか?」


「美香さんに映見は研修医としての仕事があるから春までは入門させないどころか出稽古もご法度って言われてしまいまして」


「やれやれ、十和田富士さんも関脇まで行ったんだからわかりそうなもんだけどな・・・・」


「そこは、映見も社会人ですし、仕事を優先するのは当然でしょうし引退後は再度研修医として戻るわけだからそこは、中途半端な辞め方も如何なものかと自分なりには納得してます」


「納得ねぇ、小百合の考えだってあるだろう?」


「そこは、あんまり言える立場でもないんで、さくらは顕著に出稽古に来ているようで」


「月に一二回な、妙義山が熱心でな、まぁうちにとっては期待の力士候補だし、女子大相撲にとっては、稲倉映見と双璧だしその意味では、小田代ヶ原部屋とある種のライバル関係だからさ」


「妙義山関が・・・・」


「小百合。稲倉に【葉月山】を襲名させるのか?」


「映見と葉月さんの間で何かしらの話をしていると想いますし、四股名のことは話していませんが、四股名に関しては本人の意向を尊重するつもりです。正直、【葉月山】という四股名の重さは考えると、私も気が重いと言うか・・・」


「いいのかそれで?」


「えっ?」


「いいのかそれでって聞いているんだよ!お前は小田代ヶ原部屋の親方なんだぞ!ましてや、横綱まで上り詰め、絶対横綱【葉月山】にある意味の引導を渡した。そのお前が、最も期待している弟子にライバルだった【葉月山】を襲名させる?おかしくないか!?【葉月山】じゃなくて【百合の花】じゃないのか?」


「璃子さんそれは・・・・」小百合の胸の内をおもいっきり刺されたような・・・。


「もう、初代【妙義山】も【葉月山】も女子相撲界を去ったんだ。葉月山に至っては完全に相撲界から去ったんだいつまでも【葉月山】がとか言ってるんじゃないわよ。もう世代交代したんだよ!二代目【妙義山】は、初代の呪縛じゃないけど、桃の山の時より明らかに違うよ!女子大相撲・世界ツアー・年二十四か所の巡業相撲。それで今日の出稽古相手に自ら率先してやる姿を見てると、痛々しいぐらいに二代目【妙義山】を自分のものにしようと必死なんだよ!大関【十和田富士】もしかりだ。そこに、【百合の花】の名が居ないのはおかしいだろうが!違うか!」


 璃子はあくまでも冷静を装っても、その押し殺した声は感情そのものであり想いの叫びなのだ。初代絶対横綱【妙義山】・二代目絶対横綱【葉月山】という偉大な力士だった二人が女子大相撲界から去り、時代は次の世代に変わったのにも関わらず、小百合はいまだに初代妙義山・葉月山がいた時代を引きずっているのだ。


 秋場所での東の絶対横綱【妙義山】と昇進したばかりの大関【十和田富士】との対決は、オールドファンには懐かしくも、二人にとっては新しい女子大相撲の序奏なのだ。


「横綱はさくらに【桃の山】を襲名させたがってる。まだ、さくらには言ってない見たいだが」


「えっ?」


「小百合はそれでも、稲倉に【葉月山】を襲名させるか?私が小百合だったら間違っても【葉月山】など襲名させない!小百合は部屋の親方なんだぞ、言い方は悪いが部屋を持たずして女子大相撲界を去った【葉月山】とは雲泥の差なんだよ!親方としての自覚を持て!初代妙義山・葉月山の系譜を切れ、小百合が百合の花の系譜を作る意味で、稲倉が入門する意味を考えろ!紗理奈さんや遠藤さんが稲倉の女子大相撲入りに動いたことは事実であり小百合からすれば感謝かもしれないがそれは入門前までだ!」


>「もし、映見さんが【葉月山】を使うのであれば・・・・絶対横綱【妙義山】関に前の四股名【桃の山】を使わせてもらいたいです!」


「さくら・・・あんた」


「映見さんが【葉月山】を名乗る資格があるのなら!」


 さくらが間違えて小百合に掛けてきた電話の中での話は、衝撃と言うほどでもないにしろ小百合自身には、どこか辛く、それと同じく現役絶対横綱【妙義山】が自身のかつてに四股名である【桃の山】を、期待の弟子である石川さくらに襲名させると言うのは、自身にとって辛いほどに悔しい、何故に映見に自分のかつての四股名【百合の花】を授けようとしないのか?【葉月山】の四股名は、女子大相撲の歴史にとって至宝なのだ。椎名葉月が女子大相撲界から去った時点で本来は止め名にして永久に襲名をさせないことにすべきだったのだ。でも、椎名葉月はそれをしなかった。


「あえて百合の花と言うよ、【葉月山】はやめとけ、稲倉映見は【百合の花】を襲名させるべきだ!小田代ヶ原親方として、稲倉映見を横綱にする。その四股名は【百合の花】であって【葉月山】じゃない!もうこれ以上は言わない」と海王親方は腕組みをし土俵を見つめる。小田代ヶ原親方は、大きく深呼吸をし土俵の仕切り線を見る。そんな中、向こうから絶対横綱【妙義山】がやってきた。


「海王親方、あまり小田代ヶ原親方をかわいがるのもどうかと思いますよ」と妙義山


「はぁ~、親方の心得を教えてやってんだよ、なんか文句ある!?」と海王親方は、憮然とした表情を見せるものの、どうも相手が絶対横綱と分が悪い。「屋上のテラスにちゃんこ持って行かせるから、久しぶりに小田代ヶ原親方と食事しながら話でもしてきな」とそそくさと大広間に行ってしまった。


「いいのか?」


「璃子さんなりの気遣いと言うか・・・というより私達横綱二人じゃ位負けですよ、きっと!」


「おいおい」


--------屋上 テラス-------


 目の前にスカイツリーを望むこの地は、男子大相撲 伊吹山部屋があった場所を女子大相撲創成期の苦しい時に、譲りうけたのがこの海王部屋。女子大相撲の名門として名力士を生み今は長谷川璃子(元大関 藤の花)が海王親方として、絶対横綱【妙義山】を筆頭に女子大相撲界で存在感を示す。


「百合の花さんと相撲を取っていたのが、つい最近の事のようです」


「百合の花じゃないんだけど・・・・」


「すっ、すいません。どうしてもそうなっちゃんで」


「しょうがないね、桃の山は全く」


「わざと言ってますよね?」


「桃の山を石川さくらに襲名させるるのか?」と和やかだった親方の表情が真剣な表情に


「・・・・」妙義山の表情も若干緊張気味に


「さっき海王親方に怒られたよ、稲倉映見に葉月山を襲名させるのか?って」


「葉月山・・・映見さんはその件で何か?」


「四股名の事は一切。実業団全国大会の前に、青森の美香さんのところと映見が勤務している苫小牧に、紗理奈さんと行ってきて、聞いてるだろう?」


「母のプライベートのことは聞かないことにしてるし、なかなか会う時間もないので、今は、父と葉山で生活して東京にはめったに来ませんし、協会や相撲関係者とも会うこともないようです。でも、小田代ヶ原親方は別のようですが・・・」と妙義山は意味深長な言い回しで


「映見の事に関しては、紗理奈さんや遠藤さんから話がなかったら実現しない話だから・・・」


「葉月さんは、女子相撲をやっているものにとっては誰もが尊敬の念を覚える。それは私も同じです。女子プロアマ混合団体世界大会前の一件でで私が失意のどん底で、もう力士生命を断とうと想った時も、葉月さんは厳しかった。甘えさせてもくれなかった。それでも、あの方は私を信じてくれた。あの大会の前日、葉月さんにリンチまがいのかわいがりをされて・・・・」


「えっ?」


「口の中に砂を入れられて・・・私の気持ちの弱さが許せなかった。初代妙義山の娘にしてはあまりにも・・・そんな場面で葉月山を継ぎたかったとか言ったら激高されましてね」


「妙義山・・・」


「あの時の私にとって、母、妙義山の四股名はあまりにも重かった。横綱に昇進しても【妙義山】は継げる気持ちにはとてもなれなかった。そして、挑むことになった女子プロアマ混合団体世界大会は、どこか不安な気持ちのまま・・・・その意味では、百合の花さんの力士生命を縮めてしまったのは私のせいもあるんだと・・・」


「おいおい何を言い出すのかと想ったらまったく。大丈夫か?妙義山」と苦笑する小田代ヶ原親方


「でも・・・」


「私は、あの大会で力士生命が終わっても構わないと思ったんだ。あのブラジル戦、あの時の桃の山に回すわけにいかないって、絶対に自分で決めるって、持病の腰も限界だったしね、結果勝ちはしたけど足首やってしまって、でも、怪我の巧妙というかそのおかげで今の旦那と知り会えたわけで、あの時、怪我をしてなかったら・・・さすが重量級のレスリング選手で私を背負ってくれて・・・今思うとお姫様だっこでもよかったんじゃないかって、隆一さんなら私を抱っこするぐらいなんともなかったのに・・・」


「・・・・何の話です?」


「はぁ~はぁあ!何の話ですって!・・・・あぁ映見の話だよ!なんだよ!」


「なんだよ!って、なんで切れてるんですかまったく。それはさておき映見の真意、聞いた方がいいんじゃないですか?」


「はぁ~あぁそうなんだけど・・・・」


「個人的には【葉月山】の四股名は一代で終わらせるべきです。妙義山の名を襲名した自分が言うのもなんですが、ここは、百合の花を継がせるべきです」


「妙義山・・・」


「母に【葉月山】を襲名させろとでも言われましたか?」


「あなたのお母さんがそんなこと言うわけないでしょ」


「だったら」


「でも・・・」


 映見の実業団全国大会での優勝で、女子大相撲入門の流れは事実上決まり、女子相撲ファンの間では、すでに、女子大相撲での稲倉映見VS石川さくらとの対決で盛り上がっている。学生時代の対戦成績で言えば、稲倉映見の方が圧倒的ではあるが、それは若干歳の差が離れていたことも大きいし直接対決の機会も少なかった。映見が実業団で優勝したとはいえ、現状でいえば石川さくらの方が、国内外で実戦を積んでおり、国内は無双状態。国際大会も若干の取りこぼしもあったが、国内アマチュア女子相撲選手最強の地位は誰もが認め、女子大相撲での活躍を期待さるのは当然。そこへ、映見の実業団全国大会での優勝とその先への女子大相撲への道は、否が応で盛り上がる。そのうえ、進境著しい元横綱【百合の花】が率いる【小田代ヶ原部屋】に行くとの公然の事実は、盛り上がるのは当然である。ネット上では、四股名の話も、石川さくらは【桃の山】・稲倉映見は【葉月山】か?で勝手に盛り上がり、女子相撲メディアでもにわかに取り上げられることになっていた。しかし、その流れは意外な場所で終止符を打たれることになる。

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