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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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282/324

全国実業団相撲選手権 ⑱

----【全国実業団相撲選手権・札幌大会】------


(なんとなく、こんな展開になるような予感はあったけど・・・)と稲倉映見はつい心の内を呟いてしまった・・


 大会十日前、青森での稽古は充実した内容で、部員全員、団体戦で優勝できるという確信があった。女子実業団リーグでの快進撃。東日本女子実業団相撲選手権での個人戦は、重量級で南条樹里・無差別級で稲倉映見が優勝。その他の選手も表彰台に立ち、他の実業団チームに付け入る隙を与えない。


 そして、今度の【全国実業団相撲選手権・札幌大会】各選手のエントリーが発表されるも、それは、意外だった。南条樹里が重量級ではなく、映見と同じ無差別にエントリーするとの発表は、他の部員達からは驚きをもたれた。軽量・中量・重量・無差別のすべてのカテゴリー完全制覇も現実味を帯びているのに・・・。


稽古が終わり。映見は監督の運転する病院のミニバンで苫小牧に帰るため青森空港に向かう。後席に座る映見は、ぼんやりと流れる景色を見ているのか見ていないのか?


「意外だった。樹里が無差別級にエントリーするってこと?」と監督の南条美紀。


「意外でもありますけど、なんとなくありかなぁと」と映見。


「どうしても無差別で、と言うよりどうしてもあなたと対戦したいって言われてね、なんでって聞こうとも思ったのだけど、樹里にあぁだこうだ言ってもね、無差別級は明らかに体重の上限がある重量級とは違う。相撲の技術では抜きん出てもフィジカルだけはどうしようもない、三番・四番なら勝てるかもしれないけど、決勝まで行くとしたら七番ぐらいは取らないといけないし決勝まで行くのは至難の業だと思うけど」


「大学時代に全日本女子相撲選手権無差別級で優勝してますよね」


「何、調べた?」


「えっ、えぇ・・・」


「アマチュア絶対横綱【野口涼香】を、大学一年の樹里が寄り倒しで勝ったやつね、女子大相撲関係者から注目を浴びたけど、あれ以降怪我とかで実力は発揮できなかった。それよりも根本的に女子大相撲にはいけなかった。それがあって相撲への情熱もなくなっていったのかな?あなたと同じ医大生の彼女は、年齢制限で引っかかって行けなかった。女子大相撲に行くには中退するしか入る道はない。そんな選択はできない。あの当時、特例措置はなかったからね。そこは、映見の今の立場と違うところかな」


「無差別級のエントリーは、私への当てつけ?」


「あぁぁ・・・そう感じるか・・・でも、それはちょっと違うと思う。純粋に映見と勝負がしたい!ただそれだけじゃないかな」


「純粋に勝負ですか?」


「樹里と話してないの?」


------相撲部 更衣室----


稽古を終え、映見と樹里は私服に着替え、自販機の前でコーヒータイム。


「団体戦で優勝は、絶対だと思うから個人戦はちょっと冒険というか、やっぱり無差別級が相撲の醍醐味だから、どこまでいけるかやってみたくなって」と樹里


「重量級だったら間違いなく優勝できるんじゃ」と映見


「今回に限っては、勝負より相撲そのものに拘りたいのよ」


「相撲そのもの?」


「願わくば、決勝で映見と真剣勝負というより私が熱くなれる真剣相撲をしたいのよ、そこに、勝敗の有無は関係ない。ただ、私の体格から言えば、決勝まで行くのは至難の業かもしれないけど」


「真剣相撲・・・ですか?」


 大学選手権・全日本女子相撲選手権と二冠をとっている樹里。アマチュア力士の経歴で言えばもうひとつ取りたい冠が実業団選手権。社会人としても相撲が取れる幸せはないと想っていた樹里。医師となり相撲選手としては、一つの区切りをつけていた。医師や看護師のなかには、過去女子相撲をやっていた者も多々いることは風の噂で聞いていたが・・・・。今の自分の環境下において、相撲を取れる時間はないし、そもそも、もう決別したのだから・・・。


 そんな、時間の流れの中に、突然訪れた女子相撲部の設立。監督は青森女子大相撲の先駆者である元関脇【十和田富士】、その彼女から真っ先に誘いを受けたのは樹里だったのだ。それでも、医師や看護師としての仕事上、なかなか稽古自体もままならないこともあったが、それでも嬉しっかった。隠れていたかのような、元アマチュア選手も集まり、部としての形成ができてきた。中高大のアマチュア女子相撲の一つの拠点というもう一つの目的もできた。そんななかでの、元アマチュア女王の稲倉映見が研修医としてやって来ることに、樹里は嬉しさの反面、その目的が女子大相撲入門のための特例条件を取るためと言うことを監督である美香から聞いた時、若干の反発心もあった。樹里自身女子大相撲への道もなかったと言うと噓になる。でも、それは最初からわかっていたことなのだから。


「本物のアマチュア女子相撲女王と真剣に相撲がしたいのよ!もう、こんな機会は二度と来ないから」


「樹里先生・・・」


「決勝まで行けたら、当然あなたと対戦できる。ならば学生時代のような、あの灼熱のような相撲をもう一度したいのよ!」


「樹里先生・・・」


「楽には行かせない。女子大相撲に!」


「・・・・・・・」


「ごめんね。性格悪くて」と樹里


「いまさら言われても」と映見


 お互いの性格の悪さ?ではなく、負けず嫌いはお互いさまと言った感じである。


-----------青森空港----------


 美香は車を一般車降車スペースに車を止め、映見はラゲッジスペースから荷物を下ろす。美香も車から降り映見を見送る。


「ありがとうございました」


「大会二日前に苫小牧に入るから」


「わかりました」


「映見にとっては、厳しい相撲になりそうだけどなるようにしかならないから」


「願わくば、樹里さんと決勝で当たりたいです」


「そうか・・・手強いわよ樹里は」


「望むところです!」


 飛行機は青森を離陸し一路新千歳へ。新千歳行き最終便JAL2810便は、月明かりの中を飛んで行くエンブラエル170(E70)。新千歳まで距離がないせいか、機体は低高度で飛んでいく。残念ながら闇夜の中では景色も見えず、それでも、しばらくすると函館の夜景が目にとびこんでくる、昼間だった往路は、函館山を中心にして左右に街が広がる景色と五稜郭と函館の有名観光地をしっかり上空から見ることができた。夜は夜で世界三大夜景や日本三大夜景に選ばれるほど素晴らしい眺望がそれも上空か見られるなど贅沢このうえないのだ。


(この景色を見るのもあと何回かな・・・・)


 研修医としての半年間、映見にとってはじつに宙ぶらりんというか、研修医として地に足がついていないと言うか・・・。正直、表向きには女子大相撲入門のためのワンクッションなのだが、本音は迷いが僅かながらある。優勝すれば女子大相撲入門の権利と幕下付け出しデビューができる。入門者にとって最優遇でスタートできるのだ。女子大相撲力士としての入門のためにこのスキームに乗った。葉月さんに四股名【葉月山】を譲ってもらう約束までしながら今更迷う話ではないのにこの段になって迷っていた。優勝したとしても、女子大相撲に行く行かないの選択もあるのだと・・・・。


----柴咲総合病院 医院長室------


 全国実業団相撲選手権を前に 医院長である柴咲康孝と医院長室で一対一の面談。それは、稲倉映見の意志の最終確認の意味あいもあるのだ。


「さすがってところだね、相撲部に入ってからの稲倉さんの成績は」


「正直、自分でも嘘みたいで・・・。それと、相撲部の医師や看護師皆さんと研修医でありながら実業団選手としてやれる喜びを感じています」


「どう全国実業団の方は?」


「私も含めて皆さん士気は高いので団体戦は、優勝できると思います」


「稲倉さんはどう?」


「やってみないと・・・・」


「ここまできてやってみないとは、弱気に聞こえるけど?」と康孝は微苦笑気味に


「すいません。これだけ色々していただいて、正直、研修医としての大事な時期を放棄して、大相撲に行くことが・・・」


「それは、最初からわかっていたことだよね?うちの病院としては、どちらでも構わないけどここまで来きて、迷うのはどうなのかな?病院内で色々言われてるのは知ってるけど」


「この前、金城先生に言われました。「南条樹里さんや私がかなえられなかった夢、みさせてくれよ」と

言われまして」


「金城先生が・・・金城先生も学生時代相撲やってたからな、相撲の話とかしたか?」


「縫合の抜き打ちテストさせられて・・・・」 


「ほう、さてやどやされたな?」


「あぁぁ一応褒めていただきました。正直、ドキドキでしたけど」


「へぇ、研修医・ベテラン医師問わず手厳しい、金城先生に褒められたか、稲倉を認めたってとこかな」


「金城先生に「幸運は用意された心のみに宿る」フランスの著名な化学者・微生物学者であるルイ・パスツールの名言らしいですけど、成功や幸運は努力と準備によって初めて手に入るものであって、そこに偶然の奇跡的チャンスなんてないんだって言われました。確かに、私は研修医と言う大事なキャリアの時間を投げうって女子大相撲の世界へ、研修医と言う大事な時間までを捨てて、そのリスクは計り知れない!その幸運のチャンスまでこぎつけましたが、日増しに実業団選手権で女子大相撲の夢は終わった方が・・・苫小牧に帰ったら改めて、金城先生に相談しようかとも・・・・」


「相談?帰ってくる答えは、わかってるだろう?あえて相談することかい」


「それは・・・」


「私は、稲倉さんに言ったよね、この条件を飲むにあたって、相撲を引退したらこの病院に戻って、研修医として戻ってくる。それで、君は納得してと言うか安心して女子大相撲に望むそう言うことじゃなかったのかい?それと、患者さん達は君が女子大相撲力士を目指していることは周知の事実!そのことを楽しみにしている人は大勢いる。柴咲総合病院として君をできるだけバックアップする。金城先生や南条先生に夢を見させてやれよ」


「医院長・・・・」


「医師であり、女力士。そんな奴いないだろう?安心していきなさい。医師としてのキャリアは停滞するけど、女子大相撲力士の経験は誰にもできるわけではない!「幸運は用意された心のみに宿る」稲倉さんは、それを自ら捨てるのかい!これからの君の人生というか医師としての道にも間違えなく悪影響を与える。君は選ばれ、そのチャンスを与えられたんだ!君は君自身に試されるてるんだぞ!」



------JAL2810便------


          機内には、新千歳に着陸するアナウンスが流れてきた。


 大会が近づくほどに、自分が自分自身を信じられなくなっていた。実業団で勝てる負けるのはなしではなく、女子大相撲に行くことに自信を持てないでいた。この機に及んで・・・・。でも、それも青森での稽古と医院長との会話で腹は括った。



(「幸運は用意された心のみに宿る」そうだよ!私は選ばれたんだ!自分はその道を選んでここまで来たんだ。なに怖気づいてるんだ稲倉映見!) 思いっきり両頬を叩く。隣の乗客はおもわず声を上げびっくりしていたが、映見にはまったく気づかず。


 JAL2810便は軽いショックを感じさせつつも滑走路に滑り降りたった。

 


 











 

























































































































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