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女力士への道  作者: hidekazu
桜と牡丹

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映見とさくら ⑤

 倉橋は小学三年の時相撲を始めた。男女関係なく相撲を取って勝った負けたと・・・・。地元の相撲クラブには同学年に六人の女子力士がいた。「男子を投げ飛ばしてやったよ」とか云いながら楽しかった。でも学年にが上がるごとに一人また一人とクラブをやめていく。中学生に上がった時は自分一人だけ・・・。

「真奈美まだ相撲やってるの?」以前一緒にクラブに在籍していた女子達はたまに会うたびに同じことを聞いてくる。

「相撲好きだから・・・・」ほんとは言い返したかった。(相撲は楽しいのになんでやめたの馬鹿じゃないの)と・・・。

 高校は相撲部のあるところを目指した。と云うよりその前に女子でも入れるかをわざわざ自分で聞きに行ったがどこの高校も奇異な目で見ていたが話は聞いてくれた。あとで担任から「あなたは高校に相撲するために行くの?」と云われてしまった。

 そのなかで唯一受け入れますよと云ってくれたのは地元の高校それもいわゆる上位校だった。担任に相談したら一言。「成績的に無理だし入ったとしても勉強についていけるの?」


 当然両親は反対。担任教師も反対。塾の先生も反対。賛成してくれる人なんか誰もいなかった。でもそれが真奈美のハートに火をつけた。

 志望校テストは回を重ねるごとに合格率は上昇し最終判定テストでは堂々の安全圏(A2)判定。もう誰にも文句は云わせなかった。


 なんとか受験し見事合格。反対した人達は両親も含め合格したことに歓喜してくれたが真奈美にとっては相撲ができることが一番うれしかった。


 とは言え、今ほど女子相撲は認知されておらず当然男子部員の多くはおかしな女が来たみたいな態度をとるような先輩もいた。でも唯一私を認めてくれた一年先輩の男子がいた。名前は濱田光、80㎏級の選手で身長は180をちょっと切るぐらいで筋肉質。どちらかと云うと相撲選手には見えないが前に出る相撲も受けの相撲でもオールラウンダーである。真奈美は169cm・100kg。この微妙な体格差ちょうど釣り合いが取れていた。先輩は団体でも個人でも全国レベルの大会に入賞する実力者。本当はそんな人が私なんかの相手なんかと想っていたが率先して稽古をつけてくれた上に相撲を理論的に解説してくれた。廻しの握り方一つでもどの指をどの関節まで入れるとか重心位置をどうすればいいとかを数式によって求めてみたり・・・・そんな先輩。


 その後、先輩は大学に私も後を追うように女子相撲部のある違う大学へ・・・そして大学最後の年に初めて「第一回全日本新相撲選手権大会」が開催され個人で優勝・団体2位と云う成績で大学生活は幕を閉じ同じく相撲人生も幕を閉じた。先輩とは大学時代から真剣交際が始まり卒業後3年ほど電子機器メーカで働いたのち起業。真奈美は卒業と同時に先輩である光と結婚。その後、光の会社は急成長して行くのだがそれと同時に真奈美との会話は減っていくばかり・・・・。会社を中京圏から東京へ移す計画を淡々と進めていた時期、真奈美も会社で広報のような役割をしていたのだがそのなかで名古屋の西経大学のコンピューターシステムの刷新を請け負ったことがあり行く機会も多々あった。そのなかでふと大学関係者から相撲の話が・・・・。


「今度、相撲部に女子も入ることになってそう云えば濱田さんって女子相撲やってらしたとか?」

「えっまぁ・・・一応第一回全日本大会で優勝をしてしまいましたけど」と照れ笑いのような表情で・・・・。

「そうだったんですか体格がいいなぁとは思ってましたがいやそうだったんですか」

「過去の話です」

「いやその相撲部で監督を探しているんですがなかなか該当者がいなくて男子の相撲部の監督が見てるんですがどうもあんまりいい顔をしなくて・・・・濱田さんみたいな人だったらと思ったが今や中京を代表するベンチャー企業の奥様にはそんなことやっている暇はないでしょうから・・・・」とその話はいったんは終わったのだが


「あの相撲部とか見れます?」

「えっ・・・」


 久しぶりの相撲場は真奈美の心を震え立たせた。男子と混じって稽古している二人の女子部員。真奈美はつい自分から二人にアドバイスめいた事をしてしまった。監督の許可もとらず。そのあと監督に謝罪したあとに監督募集の件色々聞いていくうちに本気で監督ができるのならやりたいと・・・・。その後も会社の仕事のほんの合間を見つけては西経相撲部へ指導目的で来校する機会が増えていき・・・・。でも無理なことはわかってる。今、会社にとって発展できるかできないかの分水嶺なのだ東京進出はその大事な一歩のことも十分に。

 光に相談すれば間違いなく否定される。当たり前である。広報兼営業のような仕事をしていながら大学の相撲部の監督何ってありえないことぐらい。光に相談して否定されたらそこであきらめるけど一応は聞いてみたい。もしやなど100%ないことは百も承知で・・・。


 深夜、マンションのベットルームで・・・・。


「今度、西経大学で女子相撲部が創設されるらしくて監督の募集をしていて」

真奈美は滔々と監督をやってみたいこと女子相撲への想いやら・・・・光は聞いているのか聞いてないのかベットの中で資料を読んでいる。

「もし、許してくれるのなら監督をやってみたいの会社が大事な時期だってことはわかっている。でも・・・」

「よく会社が大事な忙しい時にそんな冗談云えるよな」

「冗談?」

「女子相撲の監督?何考えてんだお前は!お前は会社と相撲と天秤にかけてるのかよ。随分会社を馬鹿にしてくれるよな」

「御免、そんなつもりじゃないの・・・。ただ女子相撲監督の話が出てついなんか昔のことを思い出して・・・・今日の話はなかったことにして光さんにとって会社にとって大事な時期なのに御免なさい」と真奈美は頭を下げて謝ったのだが・・・。

「まだ女子相撲がなんちゃらかんちゃらって何なんだよお前はよ。女子相撲の監督?・・・・やればいいよやれよ!たかが女の相撲にいまだに熱上げて馬鹿じゃねぇーの全く話にならないよ」

「・・・・・今何って云った・・・」

「はぁ~」

「今何って云ったのか!もう一回云えよ」と激高する真奈美。

「何熱くなってんだよ馬鹿馬鹿しい話なんねぇよ」と布団をかぶり寝ようとする光

その態度は真奈美に油を注ぐことに・・・・。光をベットから引きずり下ろしボコボコに・・・。


 真奈美は一年後西経の監督と同時に職員として大学で働くことにそして離婚成立。旧姓の倉橋真奈美へと変わり新たなスタートなのだが真奈美にとっては失ったものは大きすぎた。


   「相撲と二人の人生を天秤にかけて私は相撲を選んだ・・・・・愚かな女」


 自分は最愛の夫を捨ててまで女子相撲を選んだことに答えを見いだせなかった。もし光に戻ってこいよと云ってくれるのではと淡い期待を持っていたが・・・・。


 濱田の会社はその後さらに飛躍し産業用のシステム設計を中心にハード・ソフトの両方を兼ね備える異色の会社は経済誌にも紹介されているのを倉橋が目にしたとき一つの踏ん切りがついた。濱田は自分の描いていた会社像を実現した。


 真奈美も監督としてインカレ団体連覇や全日本・世界選手権にも選手を出し優勝は数知れず・・・。でも、時たま、ふと高専時代からの光と一緒にいた日々のことが夢にでてくる。


「もう一度光と一緒にいたあの日にあの日に戻りたいの高校

時代の稽古をつけてくれたあの日に」

遠くに濱田光が見える。でも彼は何も答えてくれない

「なぜ、黙っているの!あなたも相撲やっていたのだからわかるでしょあの日のことは楽しかったでしょ?なんで黙っているの!なんでなんでなのよ・・・私は」


(えっ・・・)倉橋の目には吉瀬とさくらの顔が

「監督、本当に来られなかったのでちょっと心配になって・・・・」と吉瀬

倉橋は横になってるうちに寝てしまったのだ。

「吉瀬、もう終わったのか?」

「はい、もう終わって部員は帰りました」

「そうか」

「さくらがどうしても監督に会ってから帰りたいと云うので」と瞳が云うとさくらは座敷上がりに腰掛けている倉橋に

「今日は稽古に参加させていただいて色々勉強になりましたありがとうございました」と頭を下げる

倉橋は多少寝ぼけているような表情だが

「石川さくらさん今日はきつかったろうけどよく耐えたと思うし稽古に向き合う姿勢は真剣そのものだったわ。さくらっていい名前ねぇ。厳しい冬を乗り越えて花を咲かせる強靭な生命力、そして一瞬だけ咲いて葉桜にそしてまた冬になり耐えて耐えて春にまった一気に花開く。さくらの命は短くてとか云うけどさくらはその一瞬のために厳しい夏にも冬にも耐えて春に一気に開花してみんなを喜ばせたり感動させてくれる。さくらの相撲にはそんなところがあるのかもしれない。あなたの住んでいる岐阜には江戸彼岸桜で淡墨桜うすずみざくらというのがあるけどその木の樹齢は1500年以上と云われているわ。プロ志望らしいけどだったらなおさら淡墨桜うすずみざくらを見に行った方が良いわ。1本桜なのに物凄く見応えがある。さくらはそんな相撲を目指しなさい」

「私にはちょっと難しい話だと・・・でも淡墨桜は見に行ってみます」と云うと一礼して

「失礼します」と云って相撲場を出ていく。


「なんだ吉瀬なんか云いたそうだな」

「監督から比喩めいたことをあまり聞いたことがなかったので」

「年取るとそうなるんだよ」と云うと立ち上がり相撲場を出ていく。

「吉瀬。相撲やっていて後悔はないか?」

「後悔ですか?・・・・ありません」

「そうか・・・・」と一言云って相撲場から消えていった倉橋。


相撲場に一人。監督がなぜあんな事を聞いたのかはわからないが少なくとも後悔はしていない。もしあるとしたら・・・映見の事。ただそれだけが・・・・。






 


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