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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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275/324

全国実業団相撲選手権 ⑪

 相撲場から追い出された四人。美知佳・那奈・小百合の三人が落ち着かない表情なのと対照的に紗理奈はどこか落ち着き払っているというか、まるで葉月がやろうとしていることを予見しているような・・・。


「紗理奈さん」小百合は、葉月と映見の間の何かピリピリしていた緊張感が気が気でしょうがないのだ。


「那奈さん。今日は楽しかった」と紗理奈は小百合を無視するように、那奈に話かける。


「いいえ、こちらこそありがとうございました」と那奈は頭を下げ感謝の意を表す。


「悪いんだけど、この後、ちょっと、映見さんと葉月と話をしたいのでいいかな?」と那奈に言いながら紗理奈は美知佳にさりげなく目で合図を送る。


「那奈、着替えたら家まで送るから」


「あっ、はい」


「じゃ、那奈送ったらまた戻ってきますので、飛行機の時間もあるでしょうから、そのままの状態で結構ですので」と美知佳は二人に告げると、その場を離れていく。那奈は不意に不安げに二人にふり向きつつも廊下を曲がり、二人の視界から消える。


 二人は、相撲場出入り口鉄扉の両脇の立ち、紗理奈は自身の足元を見ながら、小百合はその紗理奈を見ながら、不安げな表情を隠さない。


「そんなに二人が心配か?」


「葉月さんの様子が・・・」


扉の向こうから、微かに物音のようなものが聞こえているような聞こえていないような、はては空耳か・・・。


「紗理奈さんは心配じゃないんですか?」


「はぁ?・・・らしくないな百合の花」


「えっ?・・・・」


「絶対横綱【葉月山】と常に勝負してきたお前なら、葉月がどういう力士であり女性であるかわかってるだろうが?」


「それは・・・葉月さんに言われました。「私が、お前の代わりに試してやる、稲倉の気概がいかようなものか!と」」


 それを、聞いた紗理奈はふと苦笑気味の表情をにじませる、鼻腔から空気を吹く、「ふっん」とかすかな音立てると、向かいの小百合を見ながら今度を頭の後ろに手を組みながら、組んだ手をコンクリートの壁に付けるとコンクリ独特の冷たさを感じるのは、自身の内面の熱さをクーリングしてくれているかのように、何に興奮しているのか?あの函館の夜の相撲場での葉月への可愛がりは、葉月を試すための試練の儀式だった。葉月がすべてを失うことを見越したうえでの葉月への試練は、初代絶対横綱【妙義山】が見せた本物の鬼と化した【妙義山】だった。そして、最初で最後に、自分自身が女子大相撲に押し込んだ椎名葉月は、二代目絶対横綱【葉月山】に、この鉄の扉の向こう側で何が行われようとしているのか、紗理奈だけには想像がついているのだ。たいして小百合は落ち着かず、扉の前に立つと、ドアノブに手をかけた。


「触るな!」と紗理奈は低い声ながらも威圧的の口調で、その時、「ガチャン」とサムターンが回り、ロックが掛かったのだ。


「えっ、何!?」と動揺する小百合。対照的に紗理奈は、扉の鍵穴を見ながら、紗理奈が映見に何をしようとしているのかが確信になった。小百合はドアノブを回すも当然に開くことはできない。小百合は、扉を叩くも反応はない。


「葉月さん!」と大声を上げるも反応はない。「葉月さん!葉月さん!」と連呼するも反応があるはずもなく・・・。「葉月さん!開けてください!」


「やめろ!」と紗理奈が小百合の行動を一蹴する。小百合は紗理奈の言葉に嚙みついた。


「葉月さんはおかしいです!普通じゃないです!心配じゃないんですか!何だか知らないけど、映見に怪我でもさせたら」


「怪我?お前の葉月の認識はその程度か?」


「でも・・・」


「その程度かと聞いているんだよ!」


「・・・・」


 小百合は、もう何も言えない。葉月山がそんな安っぽい暴力のような稽古などするはずはないことわかる、でも・・・。


「映見は、将来の三役を担うべき逸材なんです!そのことを見据えたうえで、紗理奈さんを含め動いていたはずです。一か月後なんですよ実業団は!入口を施錠してまで何を!紗理奈さんは」


「葉月山を継承するってことは、そう言うことなんだよ!」


「はぁ?」


「きれいごとで済む世界なのか女子大相撲は!相撲は何でもありのフルコンタクトだ。ルールはあるにせよ、情け容赦はしない、日本だけならいざ知らず世界も相手にするんだよ、親方であるお前だって戦ってきたんだそんなことはわかってるだろうが!」


「でも・・・だから・・・」


「ここで、潰れたらそれまでだ!葉月山を継承する覚悟あるのかないのかその資格があるのかないか!一時間もすりゃわかるわ!」


「・・・・」(何言ってるだよこの女わ!)


 小百合に紗理奈が想っていることなど到底理解などできない。紗理奈自身がここまで、女子大相撲入門の道筋を作ってきながら、「ここで、潰れたらそれまでだ!」と平然と言うことに全く理解できない。本来なら、女子大相撲に来ると言う発想さえなかったはずのものを、紗理奈が人脈を使いここまでこぎつけた。あとは、一か月後の実業団で優勝すれば、幕下付け出しでの入門資格を得る。小百合は、映見の女子大相撲入門の意志の最終確認で来たのだ。もちろん状態云々も含めてそれ以上のことは考えていないし、まずは、実業団で優勝することであって、気概がどうの覚悟がどうのは、優勝してからの話だと・・・。


紗理奈は腕組みをしながら目を閉じると、コンクリの壁に背中をつけまるで瞑想にでも耽っているように、黙り込み微動だにしない。その姿に苛立ちを見せるも冷静に努めようとする小百合。


「外に回ってみます」と小百合は外に出る扉があったことに気づき小百合は外へ出て行く。紗理奈は壁に背中をつけたまま動こうとはしない、葉月が扉を施錠した意味を唯一理解しているから・・・。紗理奈の脳裏に過るそれは、葉月を試したあの函館での稽古。誰にも邪魔されることがないように可愛がりと称する稽古の前に相撲場のすべて扉を施錠して、葉月を試したのだ。


「施錠して、何をするつもりですか!?」と葉月は紗理奈を睨みつけるも、僅かに体が震えていることを見逃さない、葉月は心の動揺は隠しきれない。


「逃げてもいいぞ」


「・・・・」


「譲渡するんだろう・・・・中河部牧場だっけ?」


「!?」その言葉に激しく反応する葉月は、奥歯を噛み締める


「なんだいその顔は」


「この野郎・・・・」と胸の内の素の自分が囁くように


「ふん・・・・」


「・・・・」


「行けるのか譲渡先に」


 実家の牧場の危機という現状に、身も心も疲弊し傷だらけの葉月に、塩を塗り込むどころかまるで塩酸でも垂らし込むように・・・。紗理奈は、葉月が中河部牧場に嫁ぐという可能性まで察知していたのだ。そのうえで、あえて中河部牧場の言葉をこの場で出し、葉月を逆上させたうえで、中河部牧場へ行くことを阻止させた。自ずと女子大相撲しか選択がないと・・・。


(お前は私に対する憎しみを力士として生きるエネルギーに変えて頂点まで上り詰めたと想っているんだ。私はそれでよかったんだ。それで・・・・)



------------相撲場--------------


「本気なんだな、女子大相撲」


「ここまできた以上、もう後戻りはしない!どこまで行けるのか!」


 土俵上の仕切り線の前で、まるで女子大相撲の時間前のように睨みあう二人。この相撲場は二人のためだけの空間と化し、他のものを拒む。その時、外に出る鉄扉を叩く音と小百合の声。


「葉月さん開けてください!葉月さん!葉月さん!映見!鍵開けて、映見!」と何度も何度も連呼する小百合。その声に微動だにしない二人、これは二人のある意味での真剣勝負なのだ。そこに、部外者が入る余地はないのだ。


「小田代ヶ原親方!必ず実業団で優勝して女子大相撲に行きます!ただその前にどうしても、葉月山さんに納得してもらわないといけないんです!私は、【葉月山】を継ぎたい継がしてほしいんです!私しか継げるのはいない!だから・・・葉月さんとの勝負に勝たないといけないんです!」と映見は土俵から扉へ移動しその扉の外にいる小百合に向い大声で・・・。「必ず、私の決意を納得させる。力ずくで!」映見は振り返り葉月を見る。睨みつけると威圧的とかではなく、あくまでも、真心な瞳からの視線で・・・。


 葉月はその視線を真正面から受け止める。あくまでも無表情で、あくまでも‥‥、でももう一人の葉月は、若く、感情的で自分を抑えきることで精一杯の函館の高校生の椎名葉月。絶対横綱【妙義山】に可愛がりをされた同時に、自分に今いる現実を思い知らされたあの日。中河部牧場に嫁ぐという、選択を蹴って、女子大相撲というまったく先の人生が約束されない世界へ・・・。


(映見、約束された医師の道を蹴ってまで女子大相撲に飛び込む!私は感心しない。【葉月山】の四股名は、あなたを狂わしているのよきっと!、桃の山は妙義山の四股名を受け継いだ!母から娘へ、それはある意味正統な・・・・。だとしたら、葉月山の四股名は異端なのよ!その意味ではあなたも異端なのよ!それでも、あなたは女子大相撲を目指し【葉月山】を継ぎたい!?上等じゃない、でも、そう簡単にはさせないわ!元絶対横綱【葉月山】として、元女力士のプライドに賭けて!あなたを試す、潰す覚悟で!)


「これから、三番稽古をする。五番やって先に三勝した方が勝ち。映見が勝ったら、葉月山の四股名はあなたにあげる。もし、私が勝ったら葉月山の四股名は使わせない!「私しか継げるのはいない!」言い切ったのだから、当然、【葉月山】を継げないのなら、女子大相撲入門はおのずとなくなる!それでいいわね!」


「・・・・」


「返事は?」


「わかりました」


 無茶苦茶ではあるが・・・映見は、葉月にとって自分の四股名に相応しいアマチュア女子相撲選手であるとお持っている。だからこそ、映見の気概がどれだけのものかを肌で実感し、そのうえで、葉月自身が壁になり、その壁が破壊されて崩れた時、真の意味での女力士【葉月山】が終わり、次なる【葉月山】の誕生が訪れると・・・。それは麦踏でもするかのように、詳細は割愛するが麦踏みは、この日本の冬の湿度と寒さが作り出す霜柱という厳しい環境を乗り切るために、行っている。葉月が映見に課す試練は、女子大相撲を見据えた葉月の厳しくも深い愛情なのだ。


 いくら、元絶対横綱【葉月山】とはいえ、現役の実業団選手の映見に、楽勝で勝てるなどお持っていない。それでも。あえて、映見と勝負をしたい、そして、自分が負けた時、【葉月山】の相撲魂は映見へ・・・。


 扉の向こうにいるであろう、小田代ヶ原親方の声は聞こえてこない、この二人のいる相撲場の空間は、まるで結界に包まれているかごときに・・・・。元絶対横綱【葉月山】と元アマチュア女子相撲女王【稲倉映見】の三番稽古と称した勝負と化す



 



 



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