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女力士への道  作者: hidekazu
桜と牡丹

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映見とさくら ③

 二人は更衣室を出ると鉄扉を開け相撲場に入る。そこには部員達が相撲の基本運動である四股、すり足、鉄砲を何度も入念に繰り返し、身体をならしていく。これを丁寧に辛抱強く繰り返すことで、足腰を強く、柔軟で、怪我をしにくい身体を作る。全員口を開かずただ黙々と・・・・。


 座敷上がり腰掛部員達を見ていた監督の倉橋の目に二人が入ると立ち上がり部員を土俵周りに集結させた。もちろんその中に映見もいる。倉橋はさくらを自分の隣に来るように指示する。


「今日は岐阜の明星高校から出稽古に来てくれた石川さくらさんを紹介する。知っている部員もいると思うけど女子高校横綱でジュニアの世界大会でも優勝している選手だ。高校生の稽古は基本的にやらないのだが横綱ということで特例で稽古に加わることになった。みんなも高校生とか云う遠慮は必要ない。それは高校横綱に失礼だからいつも通り気合を入れて稽古をしてやってくれ・・・じゃさくらさん挨拶を」


さくらは相撲場の雰囲気にのまれていた。高校の相撲部とはまるで違う。そして選手達の目が何か威嚇されているようで・・・・。


「岐阜の明星高校から来ました二年の石川さくらです。よろしくお願いします」とさくら

「よろしくお願いします」と西経部員一同


 若干自分では上ずったような声になってしまったような感じだったがなんとか挨拶はできた。それだけでもホッとするのだ。

 

「それじゃ軽く四股・すり足・鉄砲とやって一汗かいてそれから申し合いを一・二年生としてもらうわ」と瞳

「わかりました」とさくら


他の部員達は土俵で申し合い稽古を始めている。それを見ながら丁寧に体を仕上げていく。


      「さくらそろそろいいだろう」と倉橋が呼び寄せる。


 監督は一・二年生にさくらの申し合い稽古の相手をするように指示をする。さくらは大きく息をしてゆっくり吐いていく。土俵に入ると次々と大学生相手に何番もこなしていくさくら・・・。


 さくらは難なく大学生達を土俵から出していく。正直、相手にならない。それでも相手は大学生である。体格的にはさくらと同等の部員もいるしパワーもスピードも高校生とは違う。それでもきっちり十番をこなすことができた。それでもまだ続けるさくらだったがさすがに押され始め土俵の外に出される。しかしすぐに勝ったものがさくらを指名して来る。それに対してさくらも応じるが段々さくらの相撲が強引になってくる。そのことを倉橋は見逃さなかった。


「さくら!。稽古は勝負じゃないんだよ。きっちり相撲をして強くなっていくことなんだ。そんな荒っぽい相撲何って意味がないんだ。そんなことして怪我したら何の意味もないし相手を怪我させたら責任とれるのか!」と倉橋は声を荒げる。


 さくらは土俵上で直立不動で倉橋の話を聞く。どうしても気合が入ってしまいいつのまにか稽古だと云うことが頭から飛んでいた。


 「稽古での勝った負けたなんってどうでもいいんだよ。稽古は自分自身との苦しい戦いなんだきっちり相撲をとることがいかに苦しいかそしてそれに耐え抜く精神力を鍛えるのが稽古なんだ。そ云うことを意識してやれ。さくら土俵から出て他の稽古を見ろ」と倉橋は自分の方に手招きして呼び寄せる。

 「次、三・四年土俵に入れ」と指示を出し申し合いを始める。


 さくらは座っている倉橋の脇に立っているがさすがに消耗したか息を切らせながら膝に両手を置き立っているのが精一杯。その姿を倉橋は見ながら声をかける。


「さくら、なかなかいい稽古だよ。これからまだまだ続くからな今はレギュラー陣の稽古を見ながら少し休め」

「はい・・・」

 さくらの顔には大粒の汗が噴き出している。黒いレオタードも色が変わり始めている。倉橋はちらっとその姿を見る。


(さくら、苦しいだろうが今日の稽古は絶対自分の財産になるからね)と倉橋はさくらを見る。


 さくらの息はだいぶ落ち着いたがそれでも苦しそうだ。普段の稽古とは比べ物にならないぐらいの稽古量と緊張感がさくらを消耗させている。それでもさくらは直立不動の姿勢で三・四年の稽古を見る。もちろんその中には映見もいるのだが・・・。


 稽古が始まり主将の江頭が次と次と勝ち部員を指名して何番か目で映見を指名。江頭はわざとあいよつで映見と勝負したのだが映見は江頭に廻し取って強く引きつけられ、上下に揺さぶりをかけられるとあっさりとがぶり寄りで土俵の外へそのあとは入れ代わり立ち代わり勝ったものが相手を指名して取り続けるのだが映見は全く精彩を欠き一番勝っても続かないのだ。他の部員はここぞとばかり映見を指名するが三番ほどやったぐらいでもう疲労困憊の状態で話にならない。


 (映見さん・・・・)さくらにとって目標である目の前の稲倉映見は全くの別人でしか見えないのだ。

いつでも堂々としていてどんな相手でも真正面からぶつかり受け止め勝負を決める。それが稲倉映見だが今の映見は相撲云々以前の問題。組んだとしても粘りなくあっさりと押し負けてしまう。


 「いったん終わりだ」と倉橋が云うと云ったん稽古は中断。部員達は土俵を出ると息を荒げながらも蹲踞をしながら息を整える。息遣いだけが響く相撲場はある意味で厳格な場所なのだ。

さくらも蹲踞の姿勢にしかし想像以上に下半身に疲労がきているので正直つらい。


「さくら、無理しなくていい。すぐ三番勝負してもらうぞ」と倉橋

「三番勝負ですか?」

「映見とやってもらう」

「映見さんと・・・」


 倉橋は映見を呼ぶ。映見は無表情で倉橋の前に立つ。隣にいるさくらを意識していない素振りを見せているが・・・。


「さくらと三番勝負しろ」

「・・・・・・」

「さくらと映見の実力を見せてくれ高校横綱と大学横綱がどれくらいの差があるのか」

「そんな稽古に意味があるんでしょうか?」と映見

「意味があるからやるんだよお前どんだけ稽古に出てない。出なければどんだけ力が落ちるのか」

「本調子ではないんで・・・・」と映見

「本調子ではないんで・・・・何様なんだお前は」


相撲場の雰囲気が一気に険悪な空気に・・・・


「お前何しに来た」

「・・・・・・・」

「横綱であるものがちよっと勝てなかったぐらいのことやでかい口叩いて批判されたら腐ったような態度で・・・おまえはたとえどんな状況になろうとも突き進むための努力と忍耐、そして才能より大事なやり遂げる力があると想っていた。だがそれは私の誤りだった」と倉橋

「・・・・・・・」

「さくら、土俵に上がりなさい。映見はどうするんだ上がらないのなら相撲場から出て行ってさっさと帰ってくれ」


 映見は一呼吸おいて土俵に上がり四股を踏む。さくらもそれを見て土俵に上がる。倉橋はその様子を厳しい眼差しで二人を見る。四股を踏む二人だが明らかに二人には明確な差があった。横から見てさくらは身体が一直線になのに映見は若干ぶれるのだ。その時点で下半身の大事な筋肉が鍛えられていない証拠なのだ。


さくらは仕切り線から3、4歩下がった位置で蹲踞。映見は仕切り線ギリギリで・・・・・


「手を下ろして…待ったなし…」と倉橋


 そして二人とも両拳で仕切り線を叩き、一気に突っ込んでいく。さくらは意外にも突っ張りでやってきた。映見の右肩にさくらの突っ張りがさく裂すると映見はそれに耐えきれず後退してしまう。下半身の粘りのなさが一気に露呈する。映見は苦し紛れにやったこともない引っ掛けを仕掛けるとうまい具合に成功するとさくらの体がぐらついた。そこを見逃さず間髪いれず押し出していくのだが


 「くっ・・重い」映見は簡単に押し出せると高を括っていた。今度は逆にさくらはぶちかましを仕掛けてきた。体重の差もさることながらそのパワーを受け切れなかったのだ。さくらは電車道で簡単に映見を土俵外に押し出した。


 二番目は相四つの体制からの崩し・おっつけ・捻り・投げの封じあいが続く。


「はぁ、はぁ、はっ…はぁ、はぁ…」

「ふぅ…ふぅ…くっ…はぁ…はぁ…」


 がっちり組み合い、完全に胸を合わせた状態で2分が過ぎる。二人とも全身から滝のような汗を流している。二人とも集中力が切れかかっていた。その時さくら右上手投げて仕掛けてきた。映見は必死に右足で踏ん張ろうとしたがそんな余力は全くなく土俵にたたきつけられた。大学横綱連覇の女王が高校横綱とは云え完璧に叩きのめさせられたのだ。映見はしばらく大の字になったまま立ち上がれないほどの疲労困憊の状態。しばらくしてやっとの思いで立ち上がり三番目と云うところで倉橋が口を開いた。


「もういいやめろ」と倉橋は仁王立ちで腕を組みながら

「映見、おまえはもう上がっていいから体洗ってすぐ帰れ」

「・・・・・・」映見は倉橋を睨みつける

「なんだその顔は」

「・・・・・・」

「わざわざ来てくれた高校横綱に対してのお前の相撲は失礼以外の何ものでもないんだよ。お前の相撲はなんだ!。全然体がついていかないどころか気概の欠片一つもない。女子大学横綱?そんな奴いたっけうちに・・・・」

 

 映見と倉橋の睨みあいが続く。もう誰一人とて口を挟むことができない。どれだけの時間が流れたかと思うほど時が止まったような・・・・・。

 

 映見は倉橋に一礼すると黙って相撲場を出ていった。さくらは映見に寄り添い気持ちだったがそれさえも許されない空気は想っている以上にさくら自身を縛り付けるように動けなかった。部員全員が俯いてしまっている。主将と瞳は唇を噛みしめている。それは映見に対してなのか倉橋に対してなのかそれとも自分自身なのか?


「主将、さくらさんの相手してあげてやってくれ」と倉橋はそれだけ云うと座敷上がりに腰かける。


主将は自ら顔面を叩き気合を入れ土俵に上がるがさくらは躊躇してなかなか上がらない。倉橋は間髪入れず。

「何やってるんださくら!時間を無駄にするな!」と激を飛ばす。さくらも廻しを叩き気合を入れ土俵に上がる。


「手を下ろして…待ったなし…」と倉橋。そして二人とも両拳で仕切り線を叩き・・・・・。


 お互い本気モードになっている。稽古ではなく本番さながらに激しく・・・・。


 


 




 


 







 


 



 


 


  

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