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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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255/324

土俵に落ちる涙 ①

 椎名葉月が北海道に戻り中河部牧場の息子である孝之と結婚し【中河部葉月】に、身内もいない葉月にとってこの地に戻ることをないと想ったのだが、それは、かつての椎名牧場のヒロインであった牝馬【サマーリーフ】がこの地に導いてくれたのかと、30歳近いが昼間は放牧場で日向ぼっこと言う感じで余生を送り、たまに葉月が跨ると、それは嬉しそうに・・・。そんな葉月ではあるが、結婚した年、生産者リーディング四位、収得賞金15億を超え、順風満帆といって良いほどの成績を収めた。葉月自身も、牧場は当然として、馬主との接待や各競馬場や美浦・栗東のトレセン、果ては欧米を主体としての海外出張と飛び回り休む暇もない忙しさである。相撲とは全く違う世界ではあるが、国際化した女子相撲のプロ化は葉月自身が想っていた以上に、海外では顔が知られていたのである。そのことは、海外ビジネスにおいて初対面の相手にも顔を売る意味でどれだけ助かっているか。


 そんな葉月に、中学時代の友人である木原美知佳との再会は、嬉しくもあり悩ましくも・・・・。美知佳とは、中学時代の相撲仲間、と言ってもそんなに親友でもなかったし、函館に進学後は会うこともなく、ましてや、両親と弟の道連れ自殺以降、日高の地には永遠に戻ることはないと想っていたし・・・。


 美知佳の両親は乳製品製造の会社に勤務するごく普通の一般家庭。ただ、そのせいではないのだが、葉月に負けず劣らずのいい体格。たまたま、校内の相撲大会では中一から無敵であったのにも係わらず、彗星のごとく現れた葉月によって、無敵を誇っていた美知佳はあえなく陥落。最初は面白くなく、ライバル心剥き出しで葉月との稽古や大会などで切磋琢磨。道央の大会で男子に交じっての対戦では、優勝はできなかったものものお互い充実した中学生活をおくり、卒業後、葉月は函館、美知佳は苫小牧の高校へそれぞれ進学。その後は、連絡も同窓会で会うこともなく。そんな、二人がひょんなところで会うことに・・・。


 葉月は、馬主との付き合いの一環でゴルフをすることも多く、今日は練習を兼ね一人ゴルフ。馴染みのゴルフ場をネットで予約。一人で回ることも可能だが、今回は初めての女性と回ることに、予約サイトに掲載されているプロフィールには、


葉月山さん      自己紹介 ゴルフと相撲大好き叔母さんです


40代女性        プレースタイル エンジョイ!


平均スコア― 90台  意気込み 楽しく、でも真剣に(笑)


(はぁ~葉月山!?何様のつもりふざけんなよまったく!あぁなんかむかつくと云うか!)


 別に仮名が【葉月山】だからと言ってむかつく理由なんかなにもないし、いち女子大相撲ファンなんだなと流せばいいし、そもそも相手が本物の元絶対横綱【葉月山】だという事は知る余地もないのだ。それでもどうしても、【葉月山】に過剰に反応してしまう葉月。


(【葉月山】とか気軽に・・・いいわ!90台?この前まぐれで・・・じゃなかた実力で87出したんだからぎゃふんと言わせてやるわ!)


 そんな、葉月のプロフィールだって


サマーリーフさん   自己紹介 今はゴルフに夢中


40代女性      プレースタイル あくまでも華麗にいきたい


平均スコア 90台  意気込み 楽しくも、勝負事なんで(( ー`дー´)キリッ)


 椎名葉月にとっては、ゴルフも勝負事!負けるのは嫌いなのだ!


 葉月は、夜明け前からの仕事を終えゴルフ場へ、フロントでチェックインを済ませカートへ、すでに相手は、カート置き場のベンチで一人スマホを見ている。葉月は キャディバッグを左肩にかけながら歩きその様子を見る。


(あの女?なんか体格よさそうな、しかし、なにものよ平日に一人ゴルフって、もしかしたら同業者?)


 少なくとも、月曜日のこの時間に一人でゴルフなんぞする女は・・・


「葉月山さんですか?」と葉月の方から声をかけた。元絶対横綱【葉月山】である自分自身が初対面の女性に「葉月山さんですか?」と聞かなければならない何とも滑稽と云うか・・・。


 その女性は上目遣いで一言。「やっぱり・・・」とクスっと笑うしぐさを見せた。


(やっぱりって!?、何この女!私を知ってる!?知ってて【葉月山】とか、はぁ~!)


「あぁ、私のことをご存じで?」


「ゴメンねぇ、【葉月山】とかなんかおこがましくて・・・木原美知佳です!」


「木原美知佳?えっ、美知佳!?」


「まぁサマーリーフなんて使うのは、葉月しかいないでしょう?あなたにとっては、忘れられない名馬でしょ?」


「美知佳・・・」


「帰ってきたんだね日高に、それでもって孝之と結婚するとは・・・孝之、夢のようでしょうね?」


「夢って・・・」


「孝之は、ずーと片思いで・・・それが念願かなってと云うか・・・」


 孝之と葉月の結婚式は、葉月の意向で牧場関係者のみの簡素な形で行われた。孝之にとっては、小・中と高嶺の華だった葉月との結婚は外野から見れば夢のような事だろうが・・・。


「小・中と、なんか冴えない男だっと想ったけどね」と葉月は苦笑い


「あなたが力士になった時は、驚きだったけど・・・・」


「運命だったのよ・・・」


「葉月・・・」


 二人は、乗用カートでコースへ出て行く。二人は、中学時代の話を咲かせながらコースを回る。ゴルフの方は二人ともなかなかの腕前ではあるが、美知佳の方が若干抜けていると云うか、ハーフ41で回ったのだ。因みに葉月は45。


「美知佳、嘘つきねぇ何が90台よ!80台じゃない!」


「葉月、美知佳じゃなくて【葉月山】だから、サマーリーフさん」


「キィー!」


 まるで中学時代に戻ったような・・・いや、中学時代はこんなに喋ったことはなっかた。クラスが違うという事もあったが、男子と交じりの相撲の稽古でも、どこか意識しあってしまい話すこともなかった。今日のゴルフは、葉月の方から先に予約を入れ、相手がいなければ一人でゆっくり回るつもりだったのだが、偶然とは言え、中学時代の相撲のライバルと会えるなんって・・・・。


「葉月が函館の高校に行った頃から色々噂はあった椎名牧場の件で、実家が競走馬やってる友人から色々・・・椎名牧場が中河部牧場に売られるって、そのうえで葉月が中河部牧場に嫁ぐって・・・」


「本当は、函館の高校に行ける余裕なんってなかったのよ、入学して函館競馬の開催がある時は、毎週のように行っていてね、パドックで家が中河部牧場に売却されるって言う話を観客がしていてね、生産馬の成績など見ればわかる話だけど、他人がそのことを言っているとね、遅かれ早かれそうなるだろうなぁって、年に一・二回、実家に帰ればわかるわ。中河部牧場に嫁がせるって云う噂話を知った直後に、孝之にプロポーズされてね」


「えっ?」


「高三のGWに帰った時に、孝之から会いたいって言われてね、でも、あの時には相撲に行くことは決めていたし、孝之からの純粋なプロポーズも噂話を知った直後で余計に腹がったて、物凄くしらじらしく見えたのよ、子供だったのよ、それは今でもかもしれないけど、今の孝之は、私より遥かに大人ですぐれた経営者だわなんか悔しいけどね」と葉月はどこか嬉しそうに・・・・


「まぁ、過去の話はいいっか、ねぇ、次のハーフ握らない?」


「私の実力をはかった上での言い草ね、美知佳が私に相撲で勝ってなかったのは、そう云うところよ!」


「なになに、なんかやる気があるみたいね、ハンデ5ぐらいあげればいい?」と美知佳


「ハンデ!?笑わせないでよ、美知佳ごときにハンデなんかいらないわ!」と葉月


「そんなこと言って・・・」


「そもそも、あなた高校の教師よね?それが賭けゴルフなんてどうなの!この平日にサボってゴルフって、いるそんな教師!で、何握るのよ?」


「結局、握るんじゃない・・・そうね私が負けたら、次のゴルフ、私が全額出してあげる。で、あなたが負けたら、私の高校にアドバイザーとして来ること」


「はぁ~、なんであんたの高校に行くのよ?それにアドバイザーとしてって意味が分からないんだけど?」


「実はさぁ・・・女子相撲部の監督やってて・・・」


「はぁ~」


「なんかさ、葉月が日高に戻って孝之と結婚したって聞いた時に、機会があれば葉月に相撲の事でアドバイスでももらえればいいかなーって、でも、まさかゴルフするとは想定外もいいところよ、【サマーリーフ】を使ったのは、致命的なミスだったわね」と美知佳はスコアカードを見る。


「あのね!あぁゴメン、もう相撲とかは・・・」と葉月


 日高に戻り、中河部牧場に嫁に行って以降、相撲に関して自分の中では表向き一切排除した。それは、自分のけじめとして、でも、心の中にはモヤモヤしたものがある。女子大相撲界に戻るつもりはさらさらないし、今の仕事は自分の天職だと想っている。夫である孝之も義理の両親もあえて女子相撲の話をしてこない、それは、葉月に気を使っているのかも知れないが・・・。


 そんな葉月ではあるが、時たま一人の時、ネットで女子大相撲を検索してしまう自分がいるのだ。かつて、戦ってきた力士達の現状を・・・。二代目妙義山は、絶対横綱としての地位を保ち無双状態。海外ツアーでも圧倒的な強さを発揮、初代妙義山・葉月山を超えたというのが相撲ファンのみならず女子大相撲関係者の一致とするところ、その件で、葉月に取材の依頼もくるのだが、葉月は相撲関連の話は一切断っている。相撲の事で表に再度出ることに抵抗があるのだ。


 そんな葉月に一通の封書が届いたのは、競走馬の出産ラッシュが終えた4月、それは葉月にとっての気になっていた人物・・・。


葉月は、放牧場でその封書を一人開ける。木柵に寄りかかると、その隣でまるでその手紙を一緒に読むかのように、サマーリーフが葉月の右肩越しに首を伸ばしてくる。「あなたは読めないでしょうが」と、葉月は右手でサマーリーフの首周りをさすると鼻を伸ばしご満悦。


 葉月は、その文面を読みながら少し複雑な表情を見せる。



 拝啓 春の北海道は如何でしょうか?突然の手紙で驚かしてしまったかもしれませんが、お許しください。


 ご存じかもしれませんが、医師国家資格を何とかとり西経大を卒業し、研修医として青森の柴咲総合病院で働くことになりました。それと、相撲部に入ることも・・・。女子大相撲から引退され、もうほとんど表に出ることがない葉月さんに手紙を出すことに躊躇もしましたが、私の決意と云うかその気持ちを葉月さんいや、絶対横綱【葉月山】さんに聞いてほしく、書かせて頂きました。


元関脇 十和田富士さんからの誘いは、私の心の迷いを見透かされていたようで・・・。


 十和田富士さんをはじめ、遠藤美香さんにも偶然ではありますがお会いするチャンスがあり事の詳細を伺いました。間違えなくこの話を断れば、もう女子大相撲入門の件は終わります。研修医として真っ当すればいいだけの話であり、何も悩む必要もなかったのです。でも、その私に唯一のチャンスを与えてくれた。張本人は元理事長の初代【妙義山】さんだそうです?あの郡上八幡での大会ではろくに話すチャンスがなく、あれ以降会う機会がなくここまできてしまった事は、若干引っかかるのですが・・・。


 本当は、葉月さんと面と向かって、実業団全国大会の前に話をしたいのが私の本音です。


       本気で相撲に向き合い始めた時から、私の理想は【葉月山】


 実業団全国大会で優勝し、特例での女子大相撲入門の権利を勝ち取り、女子大相撲に入門したのなら、四股名【葉月山】を継がせて頂きたい。本当は、そのことを葉月さんに面と向かって話したかった。


          必ず、権利を勝ち取り、女子大相撲に入門します。必ず!


 葉月さんの生きがいである競走馬の世界、私にとっての生きがいである医師の世界、その葉月さんのワンシーンに女子大相撲があったように・・・・。私にもそのようなワンシーンが人生のジグソーパズルのひとつのピースであるかのように・・・。多分、そのピースが欠けたままなら一生悔いが残る。


 すいませんなんかとりとめのない文章で・・・。岩木山(津軽富士)の朝焼けを見ながら・・・


 稲倉映見


「人生のジグソーパズルか・・・・」


 ふと、物思いにふける葉月。女子大相撲に行かず、あの時、孝之のプロポーズを素直に受け入れて入れば・・・。女子大相撲のジグソーパズルは完結している、そこに欠けたピースは一つもなく、力士人生としては全うした自負はある。ただ、真の意味での後継者を作ることはできなかった。止め名にしなかった【葉月山】に、葉月は何を求めていたのか?


 サマーリーフが自分の顔を葉月の顔に押し付ける。


「まったく、なぁーにもうあなたは・・・」と葉月はサマーリーフに話しかけながら、どこか寂しげな表情を見せる。


(映見・・・・)


 


 


 


 



 

 



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