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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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さくらの決断 ②

 着替え廻しを締めん込んだ部員達が続々相撲場に入ってくる。女子相撲部の部員数は18名。正直、これが今の相撲場では限界、相撲場の増設と云う案も学校の方から、提示されたが朋美の現状ではこれが精一杯というところと、これ以上部員を増やすことは、文字通り相撲部屋の如く、そこまでするのは他の学校でやってくれというのが朋美の本音なのだ。学校側は、寮を作って、他県からも積極的に生徒を募集してというのが学校側の意図なのだが・・・。


 小上がりに腰かけている朋美に、入って来る部員は一人一人挨拶する。


「おはようございます」と部員


「おはよう」と朋美は一人一人に、主将が朋美に挨拶し、そして・・・。


「おはようございます」と素知らぬふりして挨拶するさくら


「おはよう」と朋美もさくらが普段からいるように・・・・。


(まったく・・・そんなに相撲ししたいかあんたは、でもまぁ稽古してくれるのなら嬉しいけどね)とさくらが廻しを締めこの相撲場にいることは、朋美ににしてみれば嬉しくて、それ以上にさくらには指導者としての在り方も教えてもらった。もしかしたら、さくらを潰していたかもしれないいやさくらじゃなかったらとっくに潰れていた。そのさくらが今は西経の女王であり、日本女子アマチュア相撲の女王。正直、さくらが西経に入って授業についていけるのか、グローバルコミュニケーション学部なんて、けして甘い学部でもない。ましてや、文武両道を是とする倉橋率いる女子相撲部は、たとえ相撲が強くても学業を疎かにすれば、大会どころか稽古にも参加させない他校ではありえないほどの厳しさ。実施に過去の部員には、学業不振で試合に出ることができず、中退して女子大相撲に行ったものがいるほどに、ただ結果は関取になれず辞めてしまったが・・・。


-----何年か前の倉橋の自宅マンションでの真奈美と朋美の会話-----


「「文武両道・自主独立」は女子相撲部の掟だ。それができない者はどんなに相撲が強くても、去ってもらう。でも、それでも指導者は情けをかけるものかもしれないのに・・・私は、樹里の人生をもて遊んだだよ」


「監督・・・でも女子大相撲辞めたあと再入学されて」


「再入学するくらいだったら、最初から辞める必要もなかったんだ。それなのに彼奴は!」


「でも、女子大相撲に行き厳しい壁に跳ね返されて、その現実に直面して、もう一度振り出しから戻ることはけして悪いことではないと、確かに無断な時間と労力を使ったかもしれませんが、私は彼女の決断は、正しかったと思います。それに、再入学するにしても試験もあるし前期の授業料と合わせて、再入学が決まれば100万近く納入しなければならなはずですしそこまでしても、西経に戻り卒業したわけですし,

それに、樹里OGがそこまでしてまでもう一度再入学したのは監督の意向が強かったと噂で・・・」


「意向?意向ってなんだい、大学に再入学したのは、彼奴が考えてしたことであって別に私が樹里に言ったわけではないわ!」と真奈美は少し苛ついた表情を見せる。


「偶々、何年か前に樹里OGに会う機会があって、今は自動車電装関係の会社で広報で働いて充実しているそうです」


「そうかい」


「監督に感謝してましたよ、大学にすんなり再入学できたのは監督が陰で支援してくれたんじゃないかって」


「あんな奴に支援なんかするわけないだろうが!」


「入学金の免除と前期の授業料の減額をしてもらったそうです。それに面接だけで書類審査はパス」


「・・・・・」


「監督らしいと云えば、それまでですけど・・・・」


「もう帰れよ、お前にあーだこーだ云われたくないわ!まったく!」


「はいはい、それじゃ・・・・」


------明星高校 女子相撲部相撲場--------


「今日は、なんか妙にオーラが薄い、OGがいるんだけど」と朋美はさくらを見る


「えっ、私?あぁなんというか妙に馴染んじゃって」


「明星高校史上最強の女子選手なのに、なんかねぇ」


「あぁまぁ・・・そこが私の愛くるしいところですかね」


「愛くるしい?自分で言うかそんなこと、見ろ、部員達ドン引きしてるじゃないか」


 部員達は、笑いをこらえるのに必至だが主将の真紀だけは何か緊張した引き締まった表情で二人を見る。


(本当に強い人は、素人目にはそんなに強そうには見えない。さくらOGも一見とぼけた様な素振りを見せてるけど、試合になったら阿修羅の如く世界の強豪選手に勝ってきた。この人と勝負したい敵わないとしても!)真紀の心は昂る。


「真紀、せっかくアマチュア女王が来てくれたんだから、最後の方で何番か合わせてもらうか?」


「えっ、」


「さくら。少しうちの主将と何番かやってくれる?と云うか私に断りもなく廻しを締めてる時点でなんか無性に腹が立つと云うか」


「勿論です。OGとして後輩達に稽古を付けるのは当然かと」とさくらは当然の如く


「何云ってんのよ、大学進学して初めてよね母校に来たのは、いくらでも来るチャンスはあったと想いますが?」


「あぁまぁ・・・色々大学の方が忙しいというか余裕がなくて・・・ハイ」


「とりあえず、留年せずに卒業できそうですか、アマチュア女子相撲女王様?」


「はあっぁぁ・・・なんとか」とさくらは笑いながらも内心は腹ただしくも・・・・。


 主将主導で稽古が始まり、四股・股割等の基本動作に始まり、申し合いや三番稽古など相撲を取る稽古が続く。真紀を含む三年生は、二年生のレギュラーメンバーとの稽古、ほとんどの者は小・中から相撲をやっているものがほとんど、その中には地方大会及び全国大会の上位クラスの選手もいる。少なくともさくらがいた四年前とは大違い、中部地区においては、ある意味無敵艦隊と言われるほどの強豪校なのだ。


 さくらは、一年生を見ることになったのだが、部員達は何か戸惑いを見せる。そんな一年生の様子には、さくらは違和感を持っていた。相撲場で一年の久留里美沙に言われたこと


>「私が憧れ?」


「はい!明星高校女子相撲部の伝統はさくら先輩から始まった訳ですし、それを繋ぐのが私達の使命かと・・・」


(明星高校女子相撲部の伝統はさくら先輩から始まった)


 さくら自身は、正直あまりいい気分ではない。確かに、在学中は、さくらありきの明星高校女子相撲部と多々云われた。高大校であの稲倉映見を倒し、初の高校優勝に輝いたのは、さくら自身はもとより相撲部員全員の勝利であったと信じている。相撲が強いものも弱いものも一丸となって戦ったあの大会は、さくらの胸に永遠に刻まれている。いかにも部活と云うかいかにも青春だと・・・。でも、今の明星高校女子相撲部には、何か部活と云うよりも何か相撲選手養成所のような・・・。それが強豪校の姿と云われればそうなのかもと想う一方、さくらが過ごした三年間は、監督や部員との色々な葛藤があったにせよ、楽しかったし青春してた。でも・・・・


 さくらも一年生同士で、申し合いや三番稽古などをさせるが、気になる点があればその場で、稽古を中断し、さくら自身が相手と組み、廻しの持ち方から体の動かし方まで、相手と組み部員達に見せていく。小・中と相撲をしてきた者達からすれば、今更感と云うか、さくらと組んで相撲をしてみたいと思う部員が殆どだがさくらにその気はないし、一年の部員の力量からすればさくらとやっても勝ち目はないし、差があまりにも大きければ、稽古にはならないのだ。それでも、最後は四人の一年生を相手にぶつかり稽古。


一年生達は、さくらに真っ向ぶつかり転がされる。


「はい!さっさと立つ休みなしだよ!」とさくらは明るく云うがやっていることは一年生にとっては地獄、一年生とて、ほとんどの者はそれなりの力量がありましてや、女子相撲強豪校である明星である彼女達なりの覚悟はして入学してきている。それでも、受け手のさくらは、国内はもとより世界の強豪と試合を戦ってきた本物の女王!押すことさえもままならず、さくらは余裕しゃくしゃくで受け止め押し返すことも、それを何本かしたら次の者と交代させ四人に一年生を相手に一人で受け手になる、一人10本としても40本を休みなく、それを二セットで80本を受けきる。


 一年生が息を荒げるのにたいして、さくらは額に汗を浮かべる程度で息も乱れない、アマチュア女子相撲の女王と云うよりアマチュア女子相撲の絶対横綱が相応しい。ただ、その表情はあくまでも厳しくも楽しくと云った感じで、けして、そこに威圧感とかは一切出さない。それが、一年生への稽古の流儀。一年生にはとにかく、稽古の質もさることながら、とにかく、できるだけ稽古量をこなしてもらう、稽古量をこなして得られるモノはなにか?それは、経験値を得る事。何回やってもできなかったことがいつのまにかできたりするようになる。


 稽古をこなしていくことで、経験値が増えいつの間にかできるようになったのは、そこに比例して質の向上ができたから、高校時代、監督との間の信頼関係が崩れたことがあった。疲れ切っていたさくらに過度な稽古をされた事・・・でも、今想えば肉体的な疲れではなく、それは精神的疲れと云うか、さくら自身が色々な事で集中力が保てず、そのイライラが稽古にもでてしまい、いつの間にかその矛先が島尾監督に向いていたのだ。ただ、その意味では朋美も、さくらに苛ついていると云うより自分にイラツキそのイラツキをさくらに・・・・。その意味では朋美の監督としての経験値が少なかったのだ。その事を謙虚に受け止め、指導者としての役割とは何かを深く考えるきっかけを与えてくれたのだ。


「この辺で、私の稽古は終了」とさくら


「はぁはぁはぁっはぁ・・・・はぁぁーーーー」おもわず口に出してしまった四人の一年生達。限られた時間での稽古ではあるが、それでも濃密な稽古ができた満足感と云うか、息も入れさせないように体を休めることもできないほどに、一年生達にとっては、明星のレジェンドであるさくらと胸を合わせることの緊張感は、それだけでも体力も精神力も消耗するのだ。そんな状況でも一年生達の表情に笑みがこぼれるのは、さくらから迸る「ほわーん」と云う空気感は、厳しい稽古も何故か和むという不思議・・・。


 少し離れた場所では、二年と三年生達が激しいぶつかり稽古で最後の仕上げ。それは、厳しさ以外何もない程に・・・。そんななか、ふと主将と目が合う。その視線は鋭く何かさくらに敵意でも向けてるような・・・。


(何、その視線は?)


 主将の真紀が受けてになりの激しいぶつかり稽古は、殺気さえも感じるような、本気であるのだからあたりまえといえ何か威圧感を感じえない。それは、さっきまで息を切らせながらも厳しい稽古をこなした一年生達は充実感と笑みを絶やさなかったのに、直立不動で上級生のぶつかり稽古を見ている。それは、さくらがいた時代とはまるで違う。まるで、相撲部屋のような・・・。上級生の稽古が終わると、部員の中には土の上に手を着いて息を整えている者もいるほどに激しい稽古だったことを物語るような光景は、中部地区の無敵艦隊と評されるゆえの厳しさであり激しさと云われればそれまでだが・・・。


 小上がりの前で立ってその様子を見ていた監督の朋美がさくらを呼ぶ


「さくら」


「あっ、はい!」と云うと朋美の前に立つ


「さくら、最後に主将と三番ほど取ってくれる」


「はい!もちろんです」


「本気でやって!」


「本気?・・・って」


「手加減しなくていいから、あなたとは歴然の差はあるけど構わないから、真紀の気持ちズタボロにするぐらいにやって」


「・・・・」


「手を抜いたら承知しないからね!」と朋美の厳し視線がさくらを突き刺す。


 それは、さくらがある意味対立していた時と同じ表情で・・・・。そして、真紀の否応なき視線を・・・。













 



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