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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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248/324

監督、ありがとうございました!⑪

  西経女子相撲部の四年生達は卒業式を終え、相撲部に各々集まってくる。今年の卒業生は映見を含め8人、そのうち女子大相撲に行くのは0人。大学女子相撲の強豪大学としてはなんとも寂しい限りだがその事に、真奈美は落胆はしていないと云えば嘘にはなるが、それはあくまでも個々の部員の問題であって、本人から相談されれば別だが、真奈美自身から女子大相撲入りを進めたことは全くない。それが女子大相撲関係者から嫌われていた原因かも知れないが・・・。


 今日は、相撲部年度末の一種の先輩追い出し会みたいなもの、卒業生VS現役の相撲対抗戦やら外でのBBQ など 西経女子相撲部の一大イベントなのだ。そして、今回は真奈美自身にとって監督としての最後の追い出し会でもある。そして次期監督である濱田瞳もこのイベントに参加しているのだ。女子大相撲界からも、百合の花が引退し新たに起こした【小田代原】部屋に年寄の三倉里香(元大関伊吹桜)も来てくれたのだ。


「なんか申し訳ないなわざわざ名古屋まで、おまえは女子大相撲の実務の方でと想ってたのに、部屋で指導者とはな」と真奈美は苦笑い


「実務とかは無理です。百合の花さんが部屋を持たなかったら指導者にならなかっただろうし、女子大相撲界から去っていたかもしれませんが」と里香


「百合の花さんと一蓮托生か?」


「監督、少し映見のことで話が」


「里香が話したいことは察しがつくが、私に云ったところでどうとかという話ではないと想うが?」


「監督、ご存じで?」


「あぁ、ちょっと前に映見から・・・」


「そうでしたか、まだご存じではないかと・・・」


「小田代原部屋ってことかい?」


「そのつもりで、もちろん実業団で優勝できなければこの話はないとい言うことになりますが」


「映見には?」


「一応、私からその旨は伝えてあります」


「そうか・・・」


 映見は二人から離れた場所で、次期監督の瞳を囲み部員達と談笑中、笑いが絶えないほどに・・・・。


「監督は映見のために、もう少し熱心なのかと」


「私はね里香、映見は傑出した女子アマチュア力士だと今でも想ってる。映見の力士としての姿を見て見たいとはいつも頭の片隅に消えることはなかった。でもね、映見には医師としての道があるわけだから、それを蹴ってまで力士になるなんて言う選択はないのよ、でも、今度の件はある意味これ以上の条件はない、実業団で優勝できなければ研修医として邁進すればいい、優勝しても気が変われば入門しなければいい」


「なんか、映見を入門させたくないみたいですけど?」


「入門して、苦しんでいるOG達を見たりするとちょっとね、それが、自分が想像通りに苦しい力士人生になったりすると、なんで止めなかったのかと心が張り裂けそうになったりもするのよ!力士にならなければ幸せになれたのに・・・・あっゴメン、私、非常識よね、元大関で小田代原部屋で指導もしているのに、本当にごめん」と謝罪する真奈美


「私の力士人生は見えてましたか?」


「どうだったのかな、里香ならどんな逆境でも跳ね返す、だから苦しむところを見て見たいとか?」


「酷くないですかそれって」


「でも、正直言うと大関まで行くとは想わなかった。でもあえて言えば、横綱を狙えたのにもったえない」


「欲がないんで・・・それと、女子大相撲の世界で生きていくと決めてやってきたのだからできれば力士としての現場と云う意味で指導者は考えていたので、葉月さんにもお前はさっさと引退して協会の実務に徹しろ見たいなことを云われましたが、それは無理なんで」


「葉月さんか・・・もうまったく表に出ることもないわね、牧場の方に来てくださいと言われたこともあったけど、なかなか行く機会がなくってね」


「連絡くらいは?」


「それもね、なんか・・・」


部員達はいつのまにか、外の中庭でBBQ などしながら盛り上がっている、相撲場にいるのは真奈美と里香だけになっていた。


「もし、映見が行くことになったらよろしく頼むよ」と真奈美は里香に頭を下げる


「ちょ、ちょっとやめてくださいよ」と里香は両手で真奈美の肩を掴み持ち上げるように・・・・。


 里香にしてみれば、常に強気で気丈だった監督が頭を下げるなんて想像もできなかった。いい意味で丸くなった悪く云えば弱気と云うか・・・。監督が辞めると聞いた時、正直信じられなかった。まだまだやれるはずなのに・・・。


「監督、大学の方は?」


「しばらくは、客員教授の仕事もあるし、それにマスターズ大会もあるんで・・・」


「マスターズ大会?なんのですか?」


「恥ずかしながら相撲の・・・・」と俯き気味に・・・


「す!相撲ですか!?」とつい大きな声をあげる里香


「ちょっと、何そんなでかい声を上げるのよ!」


「だって、今まで出るチャンスはいくらでもあったのに頑なに断っていたのに」


「なんかね・・・」


「個人戦で出るんですね?」


「団体戦よ!私を含めた西経の三人とおまけで青葉の瑠璃子、チーム名はユナイテッド・スターファイヤーズ(United Starfighters):団結した星の戦士たちを意味し、チームの結束力と決意を象徴する名前よ」


「・・・・・」


「なに?」


「ユナイテッド・スターファイヤーズって・・・・女子プロレスじゃないんですから、誰が考えたんですか?」


「私よ・・・それが何か?」


「えっ、・・・そうなんだ・・・・」


「なめんじゃねーぞ極悪同盟の紗理奈!とか」


「・・・・どうしても、理事長をヒールにしたいんですね」


「ゴメン、まぁ、歳のいった美少女戦士ならぬ美熟女力士とか・・・ってなんか突っ込みなさいよ全く!」


「えっ、えぇ・・・」


監督を辞めると聞いた時は、正直驚いた。西経は常にアマチュア女子相撲の女王でありながらも、そこから、女子大相撲に行く選手は本当に僅かしかいないのだ。女子相撲に邁進している中・高生にとって西経に行くのは憧れである。しかし、相撲だけが強ければ入れる程甘くない、勉学もできなければ、いやもしかすると相撲より勉学ができなければ、入部すら許されない。そのうえで西経女子相撲部は常に女子大学相撲のトップランカーであることを宿命づけられる。


 「文武両道」「自主独立」西経女子相撲部を外からしか見ていない者は、西経女子相撲部=倉橋真奈美と想っているが、それはちょっと違うのだ。真奈美はけして、率先して指導はしない、選手自ら考えさせそのなかで苦しませる。そして、そのなかから這い上がって来たものが真の強さを持って試合に挑み戦い続ける。もちろん監督として指導者として強くなるためのヒントぐらいは出す。自ら胸を出すこともある。それでも手取り足取り教えることはめったにない、それでも強いのは個々の意志、そして、無意識の部員達の連帯感。そして、気持ちがひとつになる。そんな中において真奈美は仏像的存在なのだ。まだ亡くなってはいないけど・・・・・。


 屋外では次期監督である瞳が映見とさくらと談笑中。


「瞳先輩が監督になるとは、よかった今年卒業できて、さくら、瞳先輩に至極可愛いがってもらいなさいよ」と映見


「映見、なんか含んでの云い方に聞こえるけど?」


「二代目西経女子相撲部監督 濱田瞳!バックにいるのが・・・・恐わ!」


「そう言うことは本人の前で言ってくれませんかねぇ」


 そんな、二人の会話におもわず吹いてしまうさくら。


「なに、笑ってるのよさくら」と映見


「だって、バックにいるのが濱田監督って言うのが、確かに恐いというか」とさくら


映見と瞳は一瞬、顔を見合わせると・・・。


「さくら、私達、真奈美監督のことだって言ってないわよね?」と映見


「えっ、だって!瞳先輩!」


「真奈美さん来期は、客員教授と父の方の仕事に専念するって言ってるし、立場上は相談役ってところかしらね」


「相談役?瞳新監督とバチバチだったりして」と映見


「大丈夫よ、もう十分手なずけたから」とさらっと瞳


「恐っ!」


 その時、四年の主将である高橋留依がさくらを呼ぶ。


「さくら、ちよっとこっち手伝って」とBBQ の後片付けに呼ばれる


「映見さんも手伝ってくださいよ!」


「さくら・・・よろしくね」と右目でウインクする映見


「もう、なんなんですか!」とさくらは飽きれ顔で片づけへ、


 映見と瞳は、少し離れた大銀杏の下へ移動


「伊吹桜さんがわざわざ名古屋に来たのは映見の件?」


「もし、女子大相撲に行くことになれば、元百合の花さんの【小田代原部屋】に行くことになると想う、百合の花さんは、私の尊敬する力士の一人だから」


「そうか、小田代原部屋か・・・よく決心したよね。あっ、そういえば彼氏は?」


「和樹、オランダへ転勤になって」


「オランダ!?」


「私にとっては、ある意味、相撲に専念できる環境になるとも言えなくはないとそう想ってる」


「映見・・・」



「ピッツェリァ プント」での再開は映見にとっては別れを覚悟していた。何かを得ようとすれば何かを失う。女子大相撲に行くことで失うものは、二人の関係・・・それさえも覚悟した。でも、それは、違う意味での猶予期間の提案だった。


>「五年、五年後に独立を目指す。お互い30歳になる。もし、映見の気が変わっていないのなら・・・・一緒になって欲しい。本当なら今すぐに結婚しないかと言うべきだが、今はできない!」


>「五年後、もし、お互いの気持ちに相違がなければ、どこかで・・・それじゃ」


 30歳という節目、もし力士になっていたら引退する。たとえ絶好調であっても、それは心に決めていること。和樹はその事をまるで知っているかのように、正直、ほっとした一面はあるものの、何かモヤっとしたものもある。


>若かりし頃の濱田先生と倉橋監督は、お互いに相手に対する不満の想いを封印して、でもそれはちょっとしたことで爆発する。炭酸水の瓶をおもいっきり振って栓を抜くのか、冷暗の場所に置いて五年後その栓を抜けるのか?」


「瞳先輩、私、監督に自分の女子大相撲力士としての姿を見て頂きたい、それが今の本音です。そして、横綱、さらにいえば絶対横綱!である自分を!!


「映見・・・」


 瞳の心に映見の想いは痛いほどに突き刺さる。それは瞳自身もなにか通ずるものがる。起業をしたいとか考えて自分がまさか相撲部の監督にましてや、西経女子相撲部監督になるとは想像もできなかった。結局、瞳も真奈美に心酔していっていたのだ。西経女子相撲部監督名将【濱田真奈美】旧姓「倉橋真奈美」それは、二人にとって、いや、西経女子相撲部のOG・現役部員達にとって生きることの厳しさと嬉しさを教えてくれた師なのだ。


 そんな追い出し会も終焉に、真奈美の前に女子相撲部部員が整列する。卒業する部員達を前列にし、映見は真奈美の真正面に見据え。そんななか真奈美が喋り始める


「西経女子相撲部の部員としてお疲れ様と云うのは言い方が違うのもかも知れないが、この四年かまぁ六年いる者もいるけど、けして楽しいだけではなく、西経女子相撲部としての目にみえないプレシャーも感じ潰されそうになったかもしれない。それでも、今シーズン団体戦は優勝は逃してもきっちり三位を死守したことは称賛に値します。


 西経女子相撲部は優勝が宿命づけられたとか言われて、負ければ西経の時代は終わったと言われるのが常です。私が言われるのは構わないが部員達に対して言われるのは胸が張り裂けそうであり申し訳なく想う反面、それが、社会の厳しさであり現実。大学時代にその厳しさを教えるのも一つの教育だと想っています。西経女子相撲部から巣立っていく皆さん、西経女子相撲部OGとして誇りをもって社会に貢献してくだい。ご卒業おめでとうございます」と真奈美は卒業生に最後の言葉をかけると、今度は映見が一歩前にでる。


「西経女子相撲部卒業生として・・・・。西経女子相撲部部員は「文武両道」「自主独立」が求められる。それはある意味において厳しいものでした。常にトップランカーとして宿命づけられその中で生きる厳しさを、そして楽しさを・・・。監督が辞めてしまうことに、いつか来ることとは言え万感の思いです。そして、自分事ではありますが・・・・女子大相撲に挑戦することをここにいる皆さんに公言します」


 一瞬の静寂とともにざわつく部員達、そのなかでも女子大相撲以外の道も考えていたさくらには衝撃的であると同時に、稲倉映見の大きさを感じずにはいられない。


(映見さんが女子大相撲!?えっえぇぇ!!!)


「映見、そんなことを公言していいのかい?言った以上はもう後戻りはできないんだよ!」と真奈美の厳しい口調と表情


「監督に、私の力士姿を見てもらいたい!それが私からの監督への恩返しであり・・・それは私の相撲人生の集大成であり散る時は大相撲の土俵で!」


(馬鹿な女だお前わ!まったく!)


「部員・OGを代表して、監督、長い間お疲れさまでした。西経女子相撲部で活動できたことは何事にも代えがた時間でした。改めて!監督、ありがとうございました!」と深々と頭を下げる映見。そして、一拍おいて他の部員達も、唱和し一礼する。


 倉橋真奈美から濱田真奈美に戻り、新たな人生を歩んでいく。監督である時間は無駄な人生を使ってしまったと想ったこともあった。でも・・・・。


(ありがとうみんな、私は誰にも経験することができないことを、部員達に教えてもらった生きることの意味を・・・映見、勝負の世界で生きる厳しさ!お前は本当はそういう世界を望んでいたんだな、負けるなよ、負けるなよ自分に)


 

 西経女子相撲部は真奈美から瞳の時代へまた新たな歴史を刻む



 



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