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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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247/324

監督、ありがとうございました! ⑩

----------映見との待ち合わせ 二時間前--------


名古屋空港近くの取引先との打ち合わせを終えた和樹と部下の真紀は空港の到着ロビーフロアーで取引先からの依頼内容の整理をし終え、二人はコーヒーを飲みながら一服といった感じ。


「それじゃ、私は東京に戻りますので」と真紀


「悪いね、依頼された内容は串間部長の方に整理して送っておくから、真紀さんは直帰していいから」と和樹


和樹は、到着ゲートを見ながら椅子の背もたれに背中を預け。手を組み腕を上げる。そんな和樹を見ながら真紀が言葉をかける。


「オランダへの転勤を正式に受けたんですね」


 和樹はコーヒーを一口


「受けた。カナダの件を含めて僕の案件は久留井さんが引き継いでくれるから真紀さんは久留井さんの指示に従ってやってください」


「何故、オランダの転勤受けたんですか」


「何故?何故ってどういう意味」


「COOの福山さんを罵倒したのが原因だって噂が?」


「自分と専務とは馬が合わなくてね、それで「かっ」とくるなら最初から聞かなければいいんだ。本当だったら専務は俺を辞めさせたいところだろうけど、そうもいかず、オランダで組み込みOSの最適化、ハードニング、メンテナンスもろもろ、ある程度のスキルがあれば誰でもできる仕事。どうせこいつはうちの会社でキャリアを積んでさっさといなくなるって、多分COOはその前に自ら辞めると想ったろうよ、でも俺だって今辞めたら、次がないからね。オランダへの転勤を正式に受けたのは、自分の先の人生を考える時間が欲しかった。それが受けた理由だよ」


「甲斐さんは、すぐれた開発者であり・・・でも生き方は賢くない!もう少し・・・」


「僕には、師と仰ぐ先生がいてね、今でもやってる僕が通ていた相撲クラブの先生でね、名古屋でシステム開発のベンチャーいやスタートアップの方が適切か、その後、東京に移転、今の「Hawk eyeソリューションズ」の創業者、その先生は、僕より遥かに優秀で・・・でも、生き方は賢くない。今の僕と同じで・・・」


「Hawk eyeソリューションズって、あの・・・その創業者が相撲クラブって・・・」


「もう帰らないと、名古屋駅行きのバスに間に合わないよ、②番乗り場だから」と和樹


「映見さんとはどうするんですか?」


「映見?よく覚えてるね、あの日に会っただけなのに」


「あの日、カフェ・パリスに私に寄るように云ったのは、私に映見さんを合わせるためだったんですか?」


「真紀さんが僕を意識しているのは感じているけど、僕はやめた方がいい」


「私じゃダメなんですか」と真紀はつい強い口調で


「・・・・」和樹はその問いには答えず、コーヒーを一口飲むと、到着ゲートを見ながら


「オランダへの転勤が終わったら、もうこの会社にはいないから、真紀さんならこの会社で女性役員ぐらいなれますよ、僕より賢い立ち回りできるし、組織の中で生きていくには大事な事だから・・・」


「辞めるんですか?」


「この会社には感謝している、カナダのプラントシステム制御ソフトの設計をやらせてくれたことは本当に感謝してるんだ。こんな若造にやらす仕事じゃないから・・・」


「だったら!」


「・・・・」


 和樹は無言のまま立ち上がり、そのまま歩き出す。真紀の話を無視して、その後ろ姿を見る真紀にこみあげる悔しさは、自分に振り向かすことができなかったこと、そして、ビジネスパートナーとしても・・・。


---------名古屋空港 展望デッキ--------


木製デッキの展望台。和樹は木製の長椅子に座りながら駐機中のFDA(フジドリームエアラインズ)のカラフルなエンブラエル E-170を見ていた。


>「甲斐さんは、すぐれた開発者であり・・・でも生き方は賢くない!もう少し・・・」


>「COOの福山さんを罵倒したのが原因だって噂が?」


--------システム開発会社ロベックス・役員室-----------


 昨年の夏、福山専務取締役 兼 COOに役員室に呼ばれたのだ。福山は和樹のカナダの案件での仕事の進捗を高く評価したうえで、カナダの案件にカタがついたその後に、和樹を中心とした新たな部署の設立の構想を説明された。


「会社としては、君を高く評価している。今度の案件は会社の海外事業において大きな意味があったからね、将来のエースと云う意味では、それ相応の待遇はするつもりだ」


「あまり買いかぶらないでください」と和樹は表情を緩めるが、それは何か作り笑いのような


「確か大学時代、制御用のRTOSを自作していたよね、あれはどうした?」と専務


「趣味レベルでの開発と云うか頭のトレーニングの一環として続けてます」


「趣味?趣味じゃ金にならないけどな、家の会社で開発したらどうだ?」


「あれは、僕の数学的思考力のトレーニングの一環なので」


「μITRONベースか?」と専務


「答えたくありません」


「答えたくないか・・・・俺がカナダ案件にお前を強く推し推したんだけどね・・・・」


「あの案件をやらせていただいたことには、感謝していますがそれとは別問題です」と、和樹は、きっぱり。それを聞いて、少々呆れ気味の専務。


「そっくりだな」


「そっくり?」


「濱田光だよ!Hawk eyeソリューションズ創業者の!突然、第一線から退いて業界は驚いたが、いつにまにか忘れさられ、ふと想ったら相撲クラブの指導者って・・・わからないもんだよな、辞めて一時、社外取締役になってと想ったらいつの間にかそれもやめ、濱田と偶々同じ会社にいてね、彼奴は俺の二つ下で、直接の部下ではなかったけど、糞生意気で実力があったけど自己中心的でね、ある案件で、濱田が大学時代に書いた論文を参考にしたいので協力要請したら、お前と同じような事云われたよ、要は自分の本当の実力は会社のためには使わない、その先の独立のために・・・手の内は見せない、相撲クラブといえ濱田の教え子で尚且つ、濱田と同じような道を辿る時代は違えど・・・もう少し、自分の生き方と云うか世渡りをうまくしないとまずいんじゃないの?組織にいる以上当たり前だろう違うか?」と専務は鼻で笑うように・・・・。


「・・・・糞が・・・・」と和樹はつぶやくように・・・。


「なんか言ったか?」


「濱田先生を愚弄するような云い方はやめて頂けませんか!」


「濱田先生か・・・Hawk eyeソリューションズはお前の先生が退いてから飛躍的に成長した。そう言う事だろう?どんなに才能があってもお前は大成しない!濱田は確かに才能に溢れHawk eyeソリューションズの基礎は作ったが、そこまでだった。一匹狼は所詮組織なんか引き連れられないんだよ!このままだったら濱田と同じ道を辿るぞ!もう少し賢く生きろよ、それと、濱田先生なんて言い方はやめろ、そんな気概じゃ本当に同じ道を辿るぞ!来年度早々お前に開発部門を与えるよ、ここは素直に・・・」


「犬になれと」


「甲斐、口の利き方には気をつけろよ!・・・・・・甲斐犬って犬がいてな猟犬として使われることが多くて気性が強くて、そのくせ飼い主には忠実で身を挺して守ろうとするほど忠誠心があることから「一代一主の犬」って云われてる。それゆえ飼い主以外には心を開かない、イノシシやクマのような大型の獲物に勇猛に向かっていくから運動能力も高く攻撃的になると危険極まりない、お前そのものだよなあ全く!」


「・・・・」和樹は専務を睨めつける。専務は動揺することなく、


「おまえ、カナダの案件が片付いたら暇やるから少し自分の事見つめ直せ!」


「左遷ですか」


「左遷なのか栄転なのかはお前次第だよ!」と云うと専務はドアノブに手をかけると、「若造、このままだったら先はねぇーぞ」と言い役員室を出っていった。


 (甲斐犬は「一代一主の犬」か・・・・)


---------名古屋空港 展望デッキ--------


 オランダへの転勤は体のいい制裁。会社としては、その前に辞めるだろうと・・・・。自分もそう思っていたのに・・・・。正直、何か行き詰っていた。濱田を師と仰ぎ濱田の生き方は憧れであり、後に目標になり。そして、世界的企業であるHawk eyeソリューションズの創業者。そんな、彼の今は地方の中堅企業の役員と相撲クラブの指導者、それが師と仰ぐ濱田の生き方なのか?そんな想いに駆られていると、鞄の中のプライベート用のスマホがバイブする。和樹は鞄から取り出す。


(えっ、倉橋監督?)あまりに意外な人物。


「あっ、もしもし、和樹ですけどどうされたんですか?」


「あぁ、今、大丈夫?」


「えぇ・・・」


「今どこ?」


「今ですか、名古屋空港の展望デッキにいますけど」


「ビンゴ!じゃ6分後に行くから」


「えっ、もしもし」


(六分後って・・・どこにいるのよ?)


 しばらくして、白のチノパンのブルーのステッチデザインセーターのラフな格好で真奈美が現れた。


「お久しぶりです。と云うかどうされたんですか?」


「うん・・・映見と食事をしてね」


「映見と?」


 真奈美は映見との食事の経緯とその中で和樹と会うことを聞かされ、和樹が空港近くの取引先に行っていることを聞き、空港に来れば会えるかもと想ってきたことを・・・。


「映見とはどうなの?」と真奈美


「どうなのって?」と和樹


「どうなのって、二人の関係はどこまで進行しているのかに決まってるじゃない、映見の研修医先のこととか聞いてるんでしょ」


「えっ、えぇ・・・青森に行くにはちょと困惑しましたが」


「私も知らなくてね」


「知らない?相撲部があるって知った時、倉橋監督の伝手なのかなと思いましたけど?」


「流石にそこまではね、医療関係者とはそんな知り合いはいないし・・・」


「映見は、研修医として行くのか相撲がしたいがために青森に行くのかわかりませんよ、正直、青森は遠いと同時に映見の気持ちがよくわからなくて」


「女子大相撲が視野に入っているのよ」


「女子大相撲?」


 真奈美は映見が青森・柴咲総合病院 に研修医として選んだ経緯を説明し実業団全国大会で優勝できれば特例で女子大相撲幕下格付けで入門できることを説明した。


「彼奴は何考えてるんだ!研修医として邁進するのかと想ったら、女子大相撲?まだそんなこと考えていたのか、何考えてんだよ、たかが女の相撲に・・・・あっ、・・・・」


「男は仕事に邁進してるとそうなっちゃうか?」


「すっ、すいません。そんなつもりじゃ・・・」


「いいのよ、男が仕事で戦っている時に、夢を追うような女はふざけるな!って思うのは当然だわ。光と離婚した原因は、私の夢と云うか相撲に対しての想いが強すぎてね・・・」


「監督・・・」


 赤いFDA(フジドリームエアラインズ)の E-170が誘導路から自力で滑走路へ動き出す。


「私の本心としては、映見の力士姿は見て見たい想いはあるけど、医師としてのキャリアを積まなければならない大事な時期をどう思ってるのよ!ってきつく言ったんだけどね、まぁそんな事は映見は百も承知でしょうけど」


「彼奴・・・・」


「和樹君。仕事の方はどうなの?光もね、最近、やっと本職の方に力入れるようになってね、生産ライン装置のプログラムとか組んでたんだけど、なかなか苦戦していたみたいで、元部下に相談したらって云ったら絶対にいやだって言うから、和樹君に頭下げて相談したらって云ったら「死んでもいやだって!」言ってたわわよ」と真奈美は笑いながら。


「先生、そんなことまでやってるんですか?」


「光は、経営より何か作る方が合ってるのよ、今の福井の会社も経営の方を見てもらうつもりだったらしいけど、若い技術者達となんか楽しそうにやってる、あとは我がでなきゃいいけどね」


「そうですか、なんか最近先生にはご無沙汰しっぱなしで・・・」


「最近、連絡もしてこないのは和樹が大きなプロジェクトとか任されてんじゃないかって、光が言ってたわ、彼奴は意外とプレシャーがかかる仕事の方が力を発揮するんじゃないかって」


「実は今日、映見に会いに来たのは、二人の関係を清算するつもりで来たんです」と和樹。


 赤いFDA(フジドリームエアラインズ) E-170は誘導路から滑走路の突端に進入すると、エンジンをフルスロットルに、甲高いジェットエンジンの音が耳を刺すように、そして大空へ羽ばたく。


「映見は覚悟しているようよ、あなたとの別れを」


「えっ?」


「あなたより相撲を取ったのかも知れないって?ただ、こうも云っていたわ「30歳で区切りを付けます、五年の時を相撲に賭けてみたい!医師としての大事なキャリアを積む時を犠牲にしても!そして、私のわがままを許してくれた両親のために!」そこにもう一つ、あなたがそれを許せるか?」


「・・・・」


「あなたが、どういう事で清算するつもりかは聞かない、二人の仲に私が介入しようとは思わないけど・・・」


「夏前に、オランダへの転勤辞令がでました」


「オランダ!?」


「ある意味での左遷です、最初は会社を辞めようかと想ったのですが、いい機会だから日本を離れて、自分をリセットしようかと・・・・でも映見は凄いな、彼女には敵わない、女力士・・・すいません、そろそろ映見と待ち合わせしてる店に行かないと」和樹は真奈美に一礼して展望台出入り口へ


「和樹君!」


「・・・・」振り向く和樹


「五年待ってあげて、五年・・・・。リセットは終わりじゃない!リセットは!」


「・・・・」和樹は真奈美の深々と頭を下げると、何も発せず出入り口へ


 その後ろ姿に、若き頃の濱田光が脳裏にフラッシュバックする。相手を理解しようとするほどに、反発した二人、若さ故の過ち・・・・。


「認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを」機動戦士ガンダム第一話。シャア・アズナブルの台詞の一部。












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