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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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243/324

監督、ありがとうございました! ⑥

 名鉄小牧線車内時刻は午前九時、映見は大学へ向かっていた。医師国家試験も終わり後は結果を待つのみ。今日は夕方和樹と会うことになっている。和樹からの突然の会いたいとの電話、正直覚悟をしている。覚悟の意味は、「別れ・・・」


>「監督が相撲部の監督を選んで、濱田先生と別れたように、私も・・・・」


 医師国家試験の終わった夜での女子相撲部元マネジャーのOG海藤瑞希との電話での会話。映見自身が躊躇なく自然に出た言葉。「相撲を選ぶのか?彼氏を選ぶのか?」の二択。別にそんな選択はないのに・・・。そもそも、医師をめざしここまで頑張って来たもちろん相撲も、医師を目指すにあったて相撲は学生で終わり、そう思って好きな相撲に邁進してきた。日本のみならず世界でも活躍できたし、女子プロアマ混合団体世界大会では、二大横綱の百合の花・桃の山と同じ土俵で戦い優勝したことは映見の人生において永遠に消えることはない勲章なのだ。もう、それで十分だった。その先の女子大相撲は夢のままでよかったのだ。なのに!


 「THE TOWER HOTEL NAGOYA」での元関脇十和田富士さんとの出会いは、映見が無意識に作っていた女子大相撲への一線を越えさせられた。「研修医として働き女子大相撲を目指す!失うものは何もない!」そんなうまい話はないのだ。和樹に話せば納得してくれるかもしれないが・・・。


 映見は大学構内に入り女子相撲部へ、別に今日行かなくてはならない理由はないのだが、どうしても、監督に話さなければならないと言う気持ちになり大学へ来たのだ。今日、和樹と会うことも倉橋真奈美に会いたという気持ちになった要因かもしれない。別にアドバイスを貰おうなんて気持ちはさらさらないはずなのに、心のどこかにそんな気持ちも・・・。


 映見は鉄の扉を開けると土の匂いが鼻をくすぐる。相撲場に入り真っ先に小上がりに目を向ける。


「えっ、なんで?」


「久しぶりね、映見」


 小上がりに上がりパソコンを打ちこんでいたのは、経済学部教授の栗橋恵。


「なにやってるんですか!?」


「何やってるって、私、女子相撲部の顧問だから」


「顧問?」


「まぁ色々あって、六月の全国大会に出ることになって一応マスターズ大会だけど、そこで顧問という箔をつけての出場ということでね」


「監督の客員教授の対価が顧問ですか?」


「映見、随分失礼ねまったく。まぁ・・・それもないわけではないけど、それで団体戦だから私と倉橋と総合政策学部の山科教授も出ることになってね、優勝狙ってるから!」


「よく、監督が出ることになりましたね、ちよっと信じられないけど」


「まぁ、私も冗談のつもりでマスターズ全国大会に出たいとか言ったんだけど、本人が出てもいいなんて言うから、言った手前冗談よとか言えなくなって、とりあえず4月の県予選を突破できるかだけどね」


「栗原教授って相撲の経験って?」


「中学の時は全国大会の常連だったけど、高校で膝を怪我して思うような取り組みができななくなって、それっきり、その後は見るだけの専門だったんだけど、倉橋と付き合うようになって女子相撲部にちょくちょく顔を出すようになって、そしたらいつの間にか稽古に参加してて」


「知らなかった」


「私が順調だったら、女子大相撲狙っていたかも」


「えっ、監督より遥か年上ですよね?」


「はぁ?二歳違いよ!」


「六歳じゃ?」


「(*´Д`)・・・・だからぁ!」


「えっ・・・・いゃ」


 どっちもどっちと云うか、でも映見にとっては意外だった。監督は今までそういう話とかあっても断っていたのに、なんで急にと想うのだが、それにしても栗原教授が相撲をしていたなんて知らなかったし、総合政策学部の山科教授も。


「真奈美に用事?」


「えっえぇ、試験も終わったのでその報告の方々、ここ半年ほどはお会いしてなかったので」


「真奈美なら 経済学部講義棟2号館で講義中だけど」


「そうですか、ところで教授なにやってるんですか?教授なら個室あるじゃないですか、わざわざ女子相撲部まで来なくても・・・」


「落ち着かないのよね、色々さ,助教授やら講師やら来て、そんでもって真奈美にいつの間にか占領されて、なんか私が客員教授みたいになってしまって・・・と云う訳でここで仕事をしてるわけよ、ここはある意味結界だから、女子相撲関係者以外近寄りがたいでしょ、その意味ではエスケープするには最良な場所なのよ」


「結界って・・・でも何の仕事を?」


「雑誌女子相撲のネット版で連載小説書いていてね」


「小説?って【大学女子相撲部物語】・・・ってあれって教授が書いているんですか!?」


【大学女子相撲部物語】は、雑誌女子相撲の連載小説。公募で選ばれたこの小説は、西経女子相撲部そのものと言うのは部内では話題にはなっていたが、まさか栗橋教授とは・・・・。


「よく監督が許しましたね、あれって西経がモチーフですよね?」


「気のせいよ。って云うかなんでいちいち真奈美に許可もらわなきゃいけないのよ!真奈美は監督。私は顧問なんだから私の方が上なのよ!と云うかさ、真奈美と会うのになんでみんな私を通すのよ、私は真奈美の秘書じゃないのよ!」


「栗原教授、メディアでのコメンテーターとかで気さくに見えるからじゃないですか?」


「あれは仕事だからね、本当は孤高なカリスマ経済学部教授だから」


「あぁぁ・・・」


「何があぁぁよ全く。でも真奈美もついに監督辞めるのは寂しいけどね、でもその後継が瞳って言うのもまぁ適任というか真奈美ジュニア見たいだからね、なんか遊び相手見つけたみたいで」


「瞳先輩は監督以上に手強いと想いますよ、わかってますよね?」


「だから、遊び相手として楽しみなんじゃない、それに虐めがいありそうだし」と笑みを浮かべる栗原


「そんなこと言って知りませんよ、監督でさえ瞳先輩を認めて殆ど任せてたんですから、逆に泣かされますよ」


「そんなことしたら、顧問であり教授としての権力使うから!伊達に教授やってないから!」


「何云ってるんだが・・・でもあの小説を書いていたのが栗原教授と言うのは意外ではあるけど・・・あの主人公の南条美香ってもしかして私ですか?」


「あぁそう思ったか、女子アマチュア相撲の絶対女王と呼ばれた南条美香は、あなたをイメージしたんだけど、この後の展開をどうするか迷ってるのよ」


 連載小説【大学女子相撲部物語】の主人公である南条美香は、高校女子相撲で、高校選手権・金鳳凰杯・インターハイの個人三冠を取り、鳴り物入りで女子相撲の名門 金城大学女子相撲部へ、そして、絶対女王として国内外で活躍、当然に女子大相撲関係者は女子大相撲入りを期待されたが,大学二年で膝と腰を故障し未完の大器と云われた美香はその後低迷、そんな美香の彼氏である工藤直哉は、美香の女子大相撲入門にはけしてよくは想っていなかった。そのうえでの美香の低迷に安堵していた。これを機に相撲はあきらめ結婚を望んでいたのだ。ところが、直哉の想いとは裏腹に女子大相撲入門を直哉に伝える、そのことに激怒する直哉。


「美香の今の実力で何ができるんだよ!怪我だって完治してない実際に勝ってないじゃないか!全国大会にも出れないで何が!美香は俺より相撲を選ぶのか!」


「女子大相撲での活躍は、私の夢だったの!こんな状態でも・・・勝てなければ必然的に強制引退になる、だから、挑戦だけはしたいの、直哉の云ってることも、気持ちも痛いほどわかる!でも・・・」


「もういいよ、俺が相撲をやっていたから理解してくれると思ったか?相撲やっていたからわかるよ、美香は幕内に上がれず終わるよ、そこまでしてやる価値があるのかよ!たかが・・・」


「たかが何・・・」


「・・・・・・・」


「たかが何って!聞いてるのよ!」


 南条美香にとっては、女子相撲は生きがいであった。どちらかと云うと内向的であり小太り体形の美香は、いじめの対象には格好の標的となった。中学生になっても、いじめの対象に、そんな時に出会った近所の相撲クラブ、そしてそこで相撲を取っている女子に魅了された。けして、運動は得意ではないどちらかと言えば一人でネット動画でも見ている方が・・・。

 

 そんな美香が初めて自分でやってみたいと思ったのが相撲なのだ。相撲を始めた当初は、全くついていけず、そもそも運動自体が苦手なのだから無理もない。でも、先輩の女子部員達は、根気よく教えてくれた。そのかいあってか少しずつ相撲もそうだが運動すること自体が好きになった。そして、一番は、自分に自信を持てるように、内向的な性格はそうは治らなくとも、自分の想いや意見は言えるようになった、そして、少しずつだけど、人との壁を作ることはなくならずとも、薄くなっていったのだ。


 そんな中で高校時代に出会い付き合い始めた工藤直哉は、初めての彼氏。同じ高校の相撲部で切磋琢磨したなか、大学は別々になったが交際は続く、変わったことで言えば、直哉は高校時代の怪我の後遺症で相撲を辞めたこと、美香は相撲を続け、大学一年当初から女子アマチュア相撲の絶対女王で君臨、当然、女子大相撲からは注目の的、しかし、大学二年で膝と腰の故障は、美香の女子大相撲入りに暗雲が垂れ込める。その後の低迷は決定的なものとした。女子大相撲関係者は潮が引くように、そして、未完の大器は未完のまま終わると誰もが想い、そして、そのことは、結婚を考えていた直哉にとっては、都合がよかったのだ。


栗原恵は、キーボードを打つ手を止める


「正直ね、この後の展開考えてないのよ、どうするべきなのか?」と恵


「女子大相撲に行かないってことですか?」と映見


「あんたさ、女子相撲に連載していて女子大相撲に行かないなんて選択があるわけないでしょうが」


「あぁぁ・・・それはそうですね」


「問題は二人の関係をね、彼氏が美香を理解してあげてハッピーエンドで終わらせればいいのだろうけど、なんかね・・・どうしても倉橋真奈美と濱田さんとの関係がよぎるのよ、今は元の鞘に収まったからよかったってことなのかも知れないけど」


「・・・・・」


「映見は、彼氏どうした?」


「えっ、えぇっ・・・」


 あまりにも不意打ちな恵の攻撃はもろに映見の心をかするように、まるで私の今の心境を見透かされてるような・・・。


「青森の柴咲総合病院 女子相撲部、よく考えたな」と恵はさらに打ち込むように


「!?」


「真奈美は、あんたが研修医先を柴咲総合病院に選んだ時点で、私の仕事は終わったて云ってたよ、私はピンとこなかったけどね、実業団全国大会で優勝し特例で大相撲に入門。女子大相撲が動いたかなって?」


「・・・・」


「西経女子相撲部の基本理念は、文武両道・自主独立。ならば、映見はその理念に沿ったと言う事だ。真奈美言っていたよ、もし私が、一回り若かったらどうしたら、医師と女子大相撲の道の両立を模索しただろうって、でも、今の自分にそんな気力はないって、あんたが四年生以降、女子大相撲の件を言わなくなったことに正直ほっとしたって、それは本音でしょ」


「教授、私・・・」と映見は恵を見る。


 恵は、大きく息を吸い、ため息まじりに長い息を吐く。何か寂しくもありながら何かほっとしたようないくつもの感情が交錯するその表情は、まるで真奈美を代弁しているかのような・・・。


「映見、真奈美に会いに来たのなら私の代わりにランチしてきなよ」


「ランチ?」


「新栄に新しいフランス料理屋ができてね、なかなか予約が取れないなんだけど権力使って取れたんだけど、いいよ映見に譲る」


「でも、監督と約束じゃ・・・」


「真奈美、あんたに会いたがってたから、女子大相撲云々の話は抜きに会ってきなよ、ね・・・」


「教授・・・・」


「私は、学食で特選Aランチ食うから、行っといで!」


「教授・・・あありがとうございます」


「いいよ気にしないで、悔しいけど・・・泣きたいけど・・・」


「!?」


 恵は、レストランの名刺を映見に渡す。


「12時30分に予約入れてあるから、真奈美と」と云うと、恵はノートパソコンを開け、原稿を打ち込む。女子大相撲に入門することで失うもの?真奈美と映見、どうしてもダブって見える。相撲に一時の人生を賭ける!その事で失うものがあることに・・・。


 

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