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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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240/324

監督、ありがとうございました! ③

 二日間の試験が終わり、一種の解放ではないが医大生の仲間達と映見は試験会場近くの【コメダ和喫茶おかげ庵】で解放感に浸る。


「あぁーやっと終わった」と梨花


「あとは、厚労省のホームページに受験番号が掲載されること願うのみ」と麻央


「一か月後でしょう合否の掲載は、なんか・・・」と映見


 テーブルの上には焼き台がおかれその網の上には、黒蜜きなことみたらしの団子が三本ずつ焼かれて、飲み物は梨花と麻央は【抹茶レモネード】映見は【本わらび餅いちごみるく】


「梨花と麻央は西経の病院でしょう研修は?」と映見


「一応ね、でも名古屋じゃなくて豊橋でさーだから寮暮らしかな、それより映見でしょ青森ってあまりにも遠いというか」と梨花


「まぁー色々縁があって、青森・柴咲総合病院は、整形では国内トップと云われているし、私自身も興味はあったし」と映見


「彼氏どうするの東京でしょ?東京とか研修あったでしょうまた遠距離恋愛すんの?」


「そのことは、昨年の秋には云ってあるし、一応理解はしてくれているから」


「理解ってさぁー、また四・五年離れるのよ私が彼氏だったら耐えられないは、そもそも、医院継ぐんじゃなっかたけ?」


「そのつもりではいたんだけど、兄貴が日本に戻ることになって」


「えっ、ドイツに行っているお兄さん?だって海外でやって継ぐつもりはない見たいとか言ってなかったけ?」


「そうだったんだけど、兄貴も色々考えていたみたいで・・・」


「でも、映見やるつもりでいたんじゃ?」


「そのつもりではいたけど・・・」


 映見は焼き台からみたらしを一本


「私が言う事じゃないけど、女子大相撲とかの選択あったんじゃ・・・いやもちろん医師になることは小さい頃からの夢だったかもしれないけどあれだけ活躍してさ・・・映見、そのつもり全くなかったの?」と麻央


「あぁまぁ・・・」


 さすがに研修医としてやりながら実業団で優勝して女子大相撲を狙ってるとは言えなかった。自分だってこんな展開になるとは想ってなかったし、そもそも、実業団で優勝できるレベルが本当にあるのかだって怪しいのに実は今になってその事が映見の心を曇らせている。実業団大会個人戦で優勝ができなければ、相撲の道をあきらめ研修医として邁進すればいい、失うものは何もない!と想っていたはずなのに・・・。


「私さ医師国家試験合格したら彼氏と籍入れるのよ」と梨花


「えっ!」と映見と麻央


「だって彼、福岡の大学病院だし、私だって研修医として働くとなったらそう会うこともできないし、だから、その前に手錠つけておかないと」


「手錠って、言い方おかしいでしょうが」と麻央


「特に映見!」


「なに、いきなり!」


「なんで青森とか選択したかなー?いくら話しているとはいえ・・・結婚前提ならもう籍入れたほうが良いって、それに、彼の会社って結構、海外との仕事多いでしょう?海外勤務とかなったらどうするのよ?早急に籍入れて手錠かけないと、ましてや独身の今なら海外勤務とか命じられてもおかしくないのよ」


「まぁーその時は・・・」


「何がその時よ」と若干あきれ顔の梨花


 その時、映見のスマホに着信が・・・(えっ、和樹)


「あぁちょとゴメン」と映見は一旦席を離れ店外へ、すでに陽はどっぷり暮れている。駐車場の片隅で映見は和樹に掛けなおす。何回かの呼び出し音のあとに和樹が出た。


「ゴメンすぐに出れなくて」


「いや、試験終わったと想ってもう連絡してもいいかなって」


「今、試験受けた医大の仲間達とお茶してて」


「あぁゴメンなんか邪魔しちゃて」


「気にしないで、私も含めて試験終わって駄話に花が咲いてるて感じでね、でなに、私にお疲れ様のラブコールとか」と映見


「・・・・」


「うん?もしもし」


「あぁゴメン、いきなりで悪いんだけど明日時間作れないか?」


「あぁ明日、大丈夫だけど・・・」


「夕方、大丈夫?」


「大丈夫だけど・・・」


「じゃ、諸鑺神社もろくわじんじゃの近くにある「ピッツェリァ プント」知ってるだろう?」


「線路脇の?えっ何実家に帰るの?」


「そうじゃないんだけど、名古屋空港の近くで仕事があってそれで」


「わかったけど、実家に寄らないってこと?」


「映見と食事したら最終の新幹線で東京に戻る」


「そんなに、慌ただしく会わなくても、また日を改めてでも」


「それでもいいんだけど、映見の試験が終わった直後がいいかなって、とにかく明日「プント」で夕方五時に」


「わかったけど、何を話すの?」


「それは、明日。じゃ」と電話は和樹の方から切れた。


年が明けて今日まで、和樹から電話の一本も掛かってくる事はなかった。和樹の性格からすれば、試験間際の時期に、会うことはおろか電話の一本もしない方がいいと考えるような性格だから、映見はそのことに特段気にはしてはいなかったし、和樹もそれなりのポジションを任されたらしく、映見も和樹にLINEのメッセージすら送るのは自重していたのだ。そんな時の和樹からの電話は意外と云うか少なくとも、会うのなら、一泊、できなくともまる一日会うのが定番なのに夕方に会って最終の新幹線で帰るって、だったら電話でもいいのに・・・。和樹と久しぶりに会うことは嬉しいのだが、どこか引っかかると云うかまるでどうしても会わなければならない理由がわからないと云うか何故に理由を言うのはを拒んだのか?


この一年弱、和樹と会う機会も、だんだん減ってきた。和樹も仕事を任されるようになりそうちょくちょく、名古屋で会うこともなくなり、偶に映見が東京に行くこともあったが何かお互い学生時代とは違っていたことも事実。昨年の秋に一度、結婚の事を映見から切りだした時に和樹は、


「今は医師免許取得が最優先じゃないの?今やるべき事はそれじゃないんじゃないの?俺だって今は自分のことでいっぱいなんだよ、その話は、映見の事が終わってからしようよ、この一年はお互いにとって次のための大事な一年だろう!映見も俺も今はそれじゃないだろう!」


 あれ以来、会う頻度はめっきり少なくなった偶に電話で話すぐらいで・・・。「このまま終わるの?」そんな感情になりかかったこともあったがそれでも完全に終わると想うことは不思議となかった。いや正確には、自分の女子大相撲入門の件で十和田富士さんと会ったあの冬以降、二人の関係よりも自分の事で一杯一杯で何か二人の関係の優先度はある意味下がっていた。なのに昨年の春に結婚の事を切り出したのは和樹に婚約と云う答えを求めていたのか?


            (明日、私と会って、別れ?・・・)


 試験が終わり、今まで封印されていたものが解かれた事で,それは未来の希望ではなく沸々と累積した不満が溢れてきたかのように・・・。



           --------------稲倉映見の自室----------------


 自宅に帰り食事を済ます。両親は試験の手ごたえを聞いてくるが、映見にとっては、その事よりも突然会うことになった和樹の事で頭がいっぱいなのだ。本当なら試験が終わり彼氏にあうことはハッピ―なはずなのにとてもそんな気分になれない。


>「彼氏どうするの東京でしょ?東京とか研修あったでしょうまた遠距離恋愛すんの?」


 昨年の秋に、青森の病院への研修医として内定をもらった事を映見が東京に行き和樹に話したのだが、そのことに驚きも落胆も表さず、映見の選択に理解をしてくれた。ただ、女子大相撲入門の件は話さなかったのだ。お互い結婚を前提に始まった付き合いではあるのにも係わらず、いつからかそのような話もしなくなった。東京での研修医は考えてはいたのだ。しかし、十和田富士さんと会って吹き飛んだ・・・。


    (私は、和樹との結婚よりも相撲をとった・・・・それは私の本心なの?)


 そもそも、女子大相撲入門の件を話していないことも何か後ろめたさはあるが、とにかく医師免許取得に邁進したかったが試験も終わりもう隠す必要もなくなった。和樹に女子大相撲入門を考えていると云ったらどんな反応を示すのか?医師になる事は理解してくれても、女子大相撲入門を理解してくれるだろうか?話すべき和樹に話さず、相談すべき倉橋監督に相談せず、いつのまにか事は映見自身が進ませてきた。その事にいつのまにか何も躊躇することもなく。医師よりも・・・。映見はベットに横になりながらスマホの電話長をスクロールしていると着信が・・・。


「えっ、瑞希先輩!?」着信の相手は、女子相撲部元マネジャーの海藤瑞希。


「おひさしぶりですと云うかどうしたんですか!?」


「ひさしぶりだね映見。なんかさ・・・ふと映見の事が頭に浮かんでね、そう言えば国家試験って二月だよねと想って調べたら、今日が最終日だと知って落ち込んでいるであろう映見の心の傷に塩対応の言葉でも塗り込んでやろうと想って」と瑞希


「何を云うかと思ったら全く」


「まぁ映見の事だから余裕でしょうし、卒業まで彼氏とやりたい放題じゃん映見!」


「・・・・」


「あれ、なんかまずいこと言った?」


「私、選択を間違えたかもしれません」


「はぁ~・・・」


 映見は、研修医としての勤務先を青森にそしてその目的が相撲がしたいがために選んだこと、そして・・・・。


「相撲が絡むのね、研修医としての勤務先に相撲部があるって理想的と云うか、都合よく嵌るもんねそんな選択が間違えたって・・・彼氏が納得してるなら理想的じゃない!何を間違えたのよ?」


 映見は、研修医として勤務しそこの相撲部から実業団で全国大会に出場して優勝して女子大相撲入りを目指すことをはじめて大学に関係していた者に話したのだ。


「さすが、倉橋監督と云うかそこまで考えていたのね、映見、監督に感謝以外ないじゃない」


「違うんです」


「違うって何が?」


 映見は、この案件が女子大相撲【十和桜】の母である女子大相撲元関脇【十和田富士】から持ち込まれたもの、そしてその後ろに理事長である二代目絶対横綱【妙義山】の母である初代【妙義山】の山下紗理奈がいること、そして、そのことを監督や彼氏にも相談することなく進めてきた自分のことを瑞希に打ち明けた。


「瞳から聞いたけど監督、瞳と入れ替わるように辞めるそうね」


「えぇ」


「監督は除け者?」 


「医師国家試験の結果が出たら話すつもりです。これは、私の医師としての選択の話です。女子大相撲の話は偶々おまけでついてきた話です、私は女力士の道はあきらめていました。【二兎を追う者は一兎をも得ず】学生時代には国家資格と女力士の道の同時並行は無理でしたから、でもこの件を十和田富士さんから提案された時に、これならと・・・医師としての資格を得ての女力士への道、そのワンチャンスに失敗しても、失うものは何もない!その選択に迷いはないんです。他人に相談する必要はないんです」


「あんた・・・・・でもさっき選択を間違えたかもって」


「ちょと前に、和樹から電話があって急に会いたいって、電話じゃダメらしくて、その意味はなんとなく彼と終わるのかなって」


「映見・・・・」


「監督が相撲部の監督を選んで、濱田先生と別れたように、私も・・・・」


「あんた本気で思ってるのそんな風に?」


「研修医として働きながらあわよくば女力士の道へ、このチャンスをものにするには何かを切らないと・・・失うものは何もないと想っていた・・・でも、私は和樹の私への本当の気持ちを聞いていなかったんです。結婚を前提に付き合っていたのに、いつしか私の気持ちは女子大相撲に」


「映見、明日、彼氏が急に会いたいの意味をどうしてそんな風に想うのよ、もしかしたら本気のプロポーズをされるかもしれないじゃない!なんでそうネガティブに、プロポーズされたらそれを受けて、医師として、そしてあわよくば女力士の道へ、その前に監督だろうけど・・・それより女子大相撲の連中は口では倉橋監督と一緒にとか言いつつこそこそと、それにあんたも乗っかって、映見、監督になって言うの!あんたがアマチュア相撲選手の女王として君臨できたのは誰のおかげおかしくない?」


 映見は、壁に掛けてある若かりし頃の倉橋真奈美の相撲選手姿の写真を見る。


「事前に監督に相談とかするべきだし監督だって、映見が女子大相撲に行くことは望んでいるはずだし、それなのにあんたは!」


「倉橋監督は師であると同時に、越えなければならない存在なんです、監督は才媛です。それでも一つ成しえなかったことがある、それは女子大相撲に行かなかったこと、私はそれを超える!そのためには自分で決断しなければならない!医師国家試験の結果後に女子大相撲の件は話します。それだけです」


「映見・・・あんたって」


「監督がなる事ができなかった女子大相撲力士、私が叶えます。最低でも横綱、そして絶対横綱の称号!私は倉橋真奈美の愛弟子として土俵に立つ!それが監督への私のできる最高の謝意の伝え方です、可能性は限りなくないかもしれませんが」


「わかった!もう十分。色々な意味で強くなったわね」


「倉橋真奈美に鍛えられましたので、それに・・・」


「それに?」


「意地悪なメンタルトレーナーMに泣きたいほどに苦しめられ、思い出すほどに涙が止まらない」


「そうなんだぁ辛かったのね、映見、近いうちに食事しようか私もスポーツ心理学を専攻していたし、相談に乗るわよ」


「すいません!有り難いお言葉だけで十分ですので」


「残念だわ映見、いつの間にか口は横綱級ね」


「瑞希先輩には敵いませんが・・・」


「映見の前途に幸あれ・・・」


「瑞希先輩」


「それじゃ切るね、おやすみ映見」


「電話くれてありがとうございました瑞希先輩、それじゃおやすみなさい」


 時刻は午後十時。窓から入り込む月光の光は壁に掛けてある若かりし頃の倉橋真奈美の相撲選手姿の写真を照らす、その半切りの白黒写真は映見に何かを気迫で伝えるかのように・・・・・。





 



 






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