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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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238/324

監督、ありがとうございました! ①

 西経大女子相撲部の壁に掛けられてある部員達の名前入りの木札が木枠の中に嵌められている。そのなかにある【横綱】の木札の隣に石川さくらの木札が嵌められているのだ。一年生の時は周囲の期待に対しては何か物足りない成績で本人もだいぶ落ち込んではいたが、稲倉映見が主将を引退しレギュラーメンバーから外れたことで、さくらに映見の後継と云う自覚が目覚めたのかその後の活躍は、しっかりと映見の後継として活躍し西経大女子相撲部を支えている。そんなさくらも春から四年になり相撲部を主将として統率する立場になる。


「一年ぶりに相撲部復帰ね、どう久しぶりの稽古は?」と倉橋監督


「・・・昨年は団体逃してしまって、私が・・・」と石川さくら


「この馬鹿垂れ」と軽く頭を叩く真奈美


「・・・でも・・・」


 さくらは、国際学部グローバル・コミュニケーション学科に在学、大学三年の一年間は海外留学が必修なのだ。選んだ先は、英国のブライトンにある大学で一年間を過ごしたのだ。


「相撲部入るために西経に来たんじゃないんだからまったく!海外留学が必修なんだから当たり前でしょいい加減にしなさいよ全く!」


 さくらが抜けての大学リーグ戦は、正直言って、総合優勝はおろか三位も無理だと・・・、しかし、結果で言えば三位入賞、真奈美の予想を大きく裏切ったと同時に、自分に部員達を見る目がなかったと・・・。外野は稲倉映見を出すべきだとかいい加減な事云ってはいたが、真奈美自身は出す気はさらさらなかったし、映見自身もほとんど部に顔を出すこともなくなっていた。真奈美自身はそのことは当然だと想っていたし、医師を目指している者がちょくちょく部に顔を出す暇があるのならやるべきことがあるはずだと、その意味では、映見が顔さえも出さないことは真奈美にとっては寂しい反面、目標に向かい邁進しているのだろうと理解していた。


 来シーズンは、石川さくらが主将として相撲部を引っ張り、優勝を狙う。そして真奈美にとっては、西経女子相撲部監督として最後のシーズンを迎えることになる。来年からは吉瀬瞳改め濱田瞳が大学職員として女子相撲部の監督となる事が決まっているのだ。真奈美もしばらくは、客員教授としての仕事はするがそれもやめるつもりでいる。


 夫である濱田光は福井の会社に役員として迎えられたが、その仕事も片手間でできる状況ではなくなり、本格的に経営にタッチせざる得ないほどに忙しくなってしまい羽黒相撲クラブも後継者が見つからなければ閉じざる状況になっていたのだ。真奈美も昔のように光の秘書的仕事を念頭に、大学での仕事を減らし将来的には光のビジネスパートナーとしての人生設計を実行に移していっているのだ。


「春になったらあなたが主将として部を引っ張るんだから分かってる?」


「わかってますよ!でも・・・」


「でも何よ?」


「ちょっと迷っていて・・・」


「迷う?何を?」


「女子大相撲入門に・・・・」


「・・・行かないってこと?」


 真奈美にとっては晴天の霹靂と云うか、あれだけ女子大相撲入門に邁進していたのに、行かないなどと云う選択があるのか?ましてや、二年生の時には、妙義山の所属する東京の海王部屋に何回か出稽古まで行っていたのだから、当然、女子大相撲入門は既定路線であり、真奈美自身も海王部屋の師匠とは、何回かお会いし、それなりの話は進んでいた。なのに、何を今更!


「イギリスに留学して、相撲を離れてみて色々考えることがあって、そのうえで少し私は近視眼的過ぎてなかったかって」


「さくら・・・」


「グローバル・コミュニケーション学科に入って、相撲のことしか考えていなかった私に、実は違う可能性もあるんだってことを自ら教えられたんです。映見さんは医師になるために邁進してもう相撲は卒業された。私は映見さん見たいに頭はよくないし、相撲がしたいがために西経に入った、実際推薦ですし、でも相撲部は文武両道でなければいられない、だから勉強は頑張りました。そんな時、ふと思ったのは自分でも想像つかないほど勉強しそれが身になっていたことに、相撲しか私にはないと想っていたのに実は、自分には違う生き方もあるのかって?」


「女子相撲は国際的なスポーツになって、国際的視野が必要だとおもってグローバル・コミュニケーション学科に入りたいって、あなたあの大会の帰りの新幹線でそう言ったの覚えてる?」


「覚えてますよ」


「だったらそれでいいんじゃないの?どうしたのよ突然?」


「イギリスの留学先での大学ではディスカッションやプレゼンテーションなど最初は、全く議論に参加できず非常に悔しい思いをしていたのに、必至に猛勉強して周りの先生や仲間のおかげで少しずつ授業へ深く関わることができるようになりました。そのおかげでグローバルビシネスのゼミに入ることもできた。女子大相撲入門は私の夢ではあったけど・・・・」


「違う生き方も見つかった?ってところ?」


「すいません」と頭を下げるさくら


「馬鹿ねあんたは、何、頭下げんのよ!」


「でも、海王部屋の師匠と色々と私の入門のために・・・」


「全く、そんなこと気にしなくていいから、でも、今、早急に結論ださなくても良いけど行かないのなら行かないなりに、就職のこともあるだろうし」


「世界女子相撲協会への就職も考えています。女子相撲もグローバル展開していますし、力士になるか裏方の仕事をするかを」


 意外だったとはさくらには失礼だけど、さくらがそこまで考えていた何って、憧れの【妙義山】がいる海王部屋に行き力士になる事がさくらにとっては最良の選択だと真奈美は勝手に考えていたしそれはさくら自身がそれしか頭にないと想っていた。裏方の仕事を考えていた何って想像もつかなかった。西経女子相撲部の選手は、大相撲に行く選手が少ないと云われている。入門しても大成しないと・・・実際、大成したのは、大関までいった【伊吹桜】ぐらいだ。伊吹桜こそ協会の仕事をするべきだと云ったのにも係わらず、百合の花を師匠とする【小田代原】部屋の指導者としての年寄りになるとは・・・。逆の意味でさくらが協会の仕事に関心を持っているとは・・・・。そんな自分だって人の事は言えないが・・・。


「でも、どの道、相撲が絡むのね?」と嫌味ぽっく言う真奈美


「相撲は好きなんで、それと、指導者の影響もありますかね?」とさくらはニタニタしながらボソッと言う


「指導者?はぁ、私の事云ってるのあなた?」


「さぁ・・・誰とは」ととぼけるさくら


「さくら、随分、性格悪くなったわね、えっ!」


「「人の振り見て我が振り直せ」Look at other people's behavior and change your own」と云いながらニタっとするさくら。


「明日から楽しみね」


「またまた、ご冗談を・・・・」


「私、意外と粘着質だけど耐えられるかしら?」


「大丈夫ですよ、今に始まったことではないので」


「言ってくれるわね」


「西経の横綱なんで」


そんな会話ができるほどに・・・子供子供だったさくらも来年は卒業。真奈美にとっても来年の春は一つの区切りをつける。そのまえの春に映見の医師免許取得と卒業があるけれど・・・。


------------------自宅 稲倉映見の部屋----------------


 年明け一月も下旬。2月の医師国家試験まで二週間を切った。映見なりにやるべきことはやったという自信はある。ただ・・・。


映見の将来設計の中に、女子大相撲力士はなかったのだ。大学四年での映見の相撲はいままでの集大成を飾るのにふさわしい成績であった。それをもって女子相撲を卒業することに迷いはなかった。と云うより現実的にその先にある女子大相撲力士は無理だと・・・。そんななか、突然降って来たような女子大相撲入門の話。「THE TOWER HOTEL NAGOYA」での元関脇【十和田富士】さんとの面会、青森・柴咲総合病院で研修医をしその年の実業団全国大会個人戦で優勝すれば特例で、女子大相撲入門ができる。もし、優勝できなければ、そのまま研修医として勤務すればいい。映見にとって得るものはあっても失うものは一つもない。両親は理解してくれた。そして、自分も心構えはでき覚悟も決めた。ただ、監督にこのことを言う事になぜか躊躇している。六年になり相撲部に顔を出すこともめっきり減った、さくらが海外留学に行ったこともあるが、心のどこかに監督に対しての後ろめたさがあるのだ。医師国家試験を合格し卒業後は青森・柴咲総合病院で研修医として働くことは、監督の耳には入っているはずなのだ。そして、青森・柴咲総合病院に実業団相撲部があることを知っているはずなのだ。なのに!


そんな時、スマホに着信が。映見は相手を確認する。濱田瞳(旧姓吉瀬瞳)だ。


「こんばんわと云うより久しぶり」


「お久しぶりです瞳先輩」


「国家試験近いから、どうしようかなと想ったんだけど」


「今更じたばたしてもしょうがないんで、タイからですか?」


「今は、チェコなのよ。女子相撲の欧州ツアーの大会の一つにスポット参戦することになってね、タイのジュニア選手連れて遠征なのよ。名ばかりの監督だけど」


「そうなんですか、でも、なんか充実していると云うか瞳先輩、うちの監督に洗脳されちゃいましたね」と映見は苦笑しながら


「洗脳って事でもないけど、聞いてるかどうかしらないけど来年、西経に戻ることになって」


「戻る?」


「聞いてないか、来年から西経の大学職員として、そして、女子相撲部の監督として戻る予定なの」


「えっ!そんな話はじめて・・・・」


「そうか、聞いてないか、まぁそんなことになっちゃってね、映見をいじめられないのは残念だけど」と瞳は笑いながら


「ってことは、監督はもう?」


「客員教授の仕事もあるからしばらくは、大学の方にいるでしょうけどね」


「そうですか・・・」


「父の仕事のサポートに専念するみたいで、本人は真の意味の昔の関係に戻るってことなのかな・・・」


「辞めるんですね、監督」


「まぁ、私が女子相撲部の監督を引き継ぐことになるとは、想像もしなかったけどね」


「監督の生き写しか・・・」


「映見、まだ監督死んでないから」


「永遠に死にそうもないですけど」


「確かに・・・まぁ、そんなことになっちゃってね」


 スマホの向こうから、瞳を呼ぶような声


「あぁ・・・もう切るね、勝手に電話しておいてあれだけど」


「いいえ、瞳先輩の声を聞けて嬉しかったです」


「私もよ、国家試験の合格、祈ってるから」


「ありがとうございます。それじゃ」


「それじゃ、次は医師としての映見と会えるのね」


「瞳先輩、私・・・」


「えっ・・・何?」


「えっ、いや、それじゃ切りますね」と映見の方から切った


 瞳が西経女子相撲部の監督をすることに、特段驚きはなかった。多分そうなるだろうとは想っていた。


 (監督辞めるのね・・・・)


 監督との出会いがなければ、私はここまでのアマチュア相撲選手としての道は歩めなかった。途中で挫折してもおかしくなかった。学生相撲で終止符を打つ。それが後々の医師としてのキャリアを考えればまともな選択のはずなのに・・・。間違いなく監督は私が女子大相撲に行くことは望んでいない、医師と云う目標に邁進しているものだと想っているだろうけど、それは映見も同じ・・・だった。


 壁に掛けてある額縁に入ってある一枚の半切りの白黒写真。土俵上での立ち合い手を着く寸前の一人の女性アマチュア相撲選手。厳しい視線で相手を睨み付けるその姿は獲物を狙うジャガーのように、第一回新相撲全国大会無差別級決勝、写真は若かりし倉橋真奈美。写ってはいないが相手は後の初代絶対横綱【妙義山】旧姓南条紗理奈。昨年、偶然にスポーツ写真専門サイトで見つけたのだ。多少値は張ったがおもいきって購入したのだ。


(監督、私は大相撲に行きます!そのためにはまずは国家試験の合格!そして、アマチュア相撲選手としてての集大成を秋の実業団全国大会に賭けます!国家試験に合格したらお話します!それまでは・・・・)




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