表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

235/324

巡り会わせ ⑧

 遠藤勝の運転するMazdaCX60は首都高7号を千葉方面に流している。日曜日の車の流れは至って順調に80前後の速度で流れている。


「どこ行くんだ?」と秀男


「秀男さん元横綱の美瑛富士さんと親交ってありました?」と勝


「いや」


「そうですか、これから行くのは元女子大相撲横綱だった百合の花さんの自宅でして、元美瑛富士さんの自宅だったんです、その後は、葉月山さんが住まれていてそれを百合の花さんがお買いになって」


「ふーん・・・俺はとっくに引退してるし美瑛富士が入門した頃はもう殆ど相撲は見ていないし・・・」と秀男


「鷹の里の後継とか云われてましたけどね」


「後継?そんな事聞いたいことないけど、適当な事云うなよ、まったく物書きなんかろくな奴はいないお前の奥さんもだいたいお前の奥さんは女子大相撲、影の裏番だからなぁー、紗理奈なんか操り人形にすぎないんだよ全く」


「はぁはぁ勘弁してくださいよまったく、ただ名コンビだとは思いますよ、女子大相撲と云う組織を引っ張て来たのはあの二人だとは思います、まぁどっちがどうってことではなく、まぁ家の奥さんだけは、紗理奈さんに認められて対等に扱ってくれてるそうで」


「対等?策士だからなお前の奥さん。うちの奥さんはその意味ではまっすぐで駆け引き下手くそだからな、勝、あの投稿記事なんで止めた?」


「あの記事?」


「「鷹の里が横綱になれない理由」あの記事出せば女子大相撲【妙義山】は終わり女子大相撲も終わったのになんで止めた?」


「さすがにあれは・・・女子大相撲もそうですが大相撲も、いや【鷹の里】が本当に終わるって・・・」


「終わったけどな」


「・・・・」


「色々な意味で、潮時だった。力士としての終わりとしてはあの時しかなっかたんだよ、横綱になる気概がなかたんだそれだけだよ」


「秀男さん・・・」


「まあ今はパティシエ大関だからな、名付けてくれたおまえの奥さんにはホントまいるよ全く」と苦笑しながら。


CX60は法華経寺の脇を抜けしばらく走ると、生垣で囲まれた平屋の大きな家の前に車を一旦止めると半地下の車庫に車を入れていく、隣には椎名葉月が乗っていたCX-5が置いてある。


玄関から元横綱【百合の花】が出てきた。百合の花は春場所を最後に引退し来年から所属部屋を引き継ぎ、【小田代原部屋】を創設するのだ。小田代原とは百合の花の故郷である日光のさらに奥にある戦場ヶ原の近くにある湿原と草原の特徴を持つ希少な草原地帯、その草原の真ん中に生える「小田代原の貴婦人」と呼ばれる1本のシラカンバの木はシャッターチャンスを狙う人々で後が絶えない。「小田代ヶ原の貴婦人」と呼ばれるその木を百合の花は自分の相撲人生はそうありたいと・・・けして華やかではなくどちらかと云うと艶やかな・・・・。


「どうもすいません」と勝は小百合に


「いいえ、久しぶりに葉月さんと会える機会を作っていただき、東京・中山・美浦とか来てるのに全く寄ってくれないんで、あっ、後ろの方は?」


「あぁ、すいません偶然会って無理矢理誘ってしまって、元大関【鷹の里】さんです知ってるでしょう

?」


「あぁ・・・あぁ理事長の旦那さん」


「・・・・」(確かに間違えではないけど、まぁ現役力士時代なんか知らないだろうけど)「どうも初めまして山下理事長の夫です」と秀男。紗理奈の夫ですと云うのはどうも屈辱ではないが、なにか面白くないのだ。


「奥さんである理事長には色々お世話になっております。今度の部屋の継承も色々と・・・」


「そう云う話は紗理奈とはあまり話さないんで、でもうちの妻が百合の花さんには期待するとこも大きいようですから」


「まぁとにかくお上がりください」


「それじゃお邪魔します」


 玄関から緩やかなスロープ状の廊下を歩いていくと右下に土が敷き詰められている稽古場が見える。鉄砲柱などが置いていありいかにもと云った感じで、故元横綱美瑛富士の相撲に賭けていた想いが秀男の心に刺さる。秀男はそこまでに大相撲に自分を賭けてこなかった?いやそもそも自分の人生において大相撲入りは真意では・・・・。そして二人は、ダイニングキッチンの脇を抜けリビングへ入るとそこには、ポールスミス(Paul Smith)のスーツを着た長身の女性が、勝と秀男に軽く会釈をする。


「葉月さんますます力士感が薄らいでいくと云うか」と勝は笑みを浮かべる


「なんですか力士感って、私が力士を引退して何年経つとおもって、お隣の方は?」


「パティシエ大関さんです」と勝は秀男を見ながら


「パティシエ大関って、紗理奈さんの旦那様?」


(それで通じるのかよ!なんか情けないやら・・・)「どうも初めまして紗理奈の夫のパティシエ大関です」と苦笑しながら・・・・。(はぁ~何自分でパティシエ大関ですとか云ってるんだよ俺は!あぁもう終わったわ!まがりなりにも大相撲で大関まで行っていながら、あぁオワタ)


「鷹の里さんの相撲解説書は私の相撲人生の土台を作ってくれたバイブルでした。それと大学時代に書かれた「相撲動作における力学的研究」は相撲と云うものを公式に当てはめる切り口は、とても斬新でと云うか、そんな方が大相撲に入ったことは驚きでしたけど」


「驚いたな!大学時代に書いた論文を読んでもらってるなんって、いやーなんか恥ずかしいな」


「恥ずかしいなんて、さすがに紗理奈さんの旦那様になる方は、ただ物じゃないと」


「紗理奈の夫になってしまったのは、自分でも驚いてますと云うか、毒牙にしてやられたと云うか、紗理奈は鬼ではなくキングコブラですからあれは」


「でも、蛇使いは好んでキングコブラを使うそうですよ?」


「蛇使いね?それは私が優秀な蛇使いってことですか?」


「多分・・・」と笑みを浮かべる葉月


「でも、力士を引退するまでは首に巻き付かれていましたけど」


「真綿で首を絞めるように・・・」


「真綿ではなくステンレスワイヤーです彼女は」


「でも、紗理奈さんは私の命の恩人であると、時が経つほどにひしひしと感じています。私は・・・」


「紗理奈はあなたを愛している娘以上に、相撲界に残らなかったことはあなたにとって正解だった。ご自分が描いていた競走馬の牧場経営に携わることになったのだから、それは裏切りでもなんでもない、絶対横綱【葉月山】は紗理奈に夢を見せそれを現実化して見せたそれで十分ですよ」


「鷹の里さん」


 正直、秀男にとって特段【葉月山】に思い入れはないしましてや初対面。勿論、【葉月山】の功績は女子大相撲にとってかけがえのない力士であることぐらいは認識している。妻である紗理奈が最初で最後の女子大相撲に入門させた椎名葉月と云う女性は、何か線が細く、とても絶対横綱として国内外問わず戦ってきた元女力士の風情すら見せない彼女に秀男は何か心を打たれるものを感じていた。名古屋【玉鋼】での稲倉映見との出会いをきかっけに、中学生相撲選手【昴】との出会いは、忘れかけていたいや自分自身で消し去ろうとしていた相撲への想いを浮かび上がらせた。そして、妻である紗理奈が女子大相撲に賭けた後継者は、二代目絶対横綱【葉月山】こと椎名葉月。初代絶対横綱【妙義山】の四股名は実の娘に、二代目絶対横綱【葉月山】の四股名は・・・・。


 秀男は葉月に視線を合わせる。葉月はその視線の奥から感じる何か言いたげな視線を真正面から逃げずに受けていた。


「どうしたんですか二人ともそんな真剣な表情で」と勝は何か苦笑いをしたいが表情でお互いを見る。


「紅茶を入れましたから」と百合の花こと小百合が云うが秀男と葉月の耳には入っていない、お互い何を言いたく聞きたがって居ることは察しがついていた。それは、稲倉映見のこと、そして、四股名、二代目絶対横綱【葉月山】の稲倉映見への継承。


「下の稽古場で少し話しませんか?」と秀男は葉月に何の淀みもなくすーっと口から言葉が


「わかりました。私も、鷹の里さんとお会いできたのは、単なる偶然ではないような気がしていますし、それじゃ下に、小百合、悪いけど少し下の稽古場で鷹の里さんと、下の稽古場ではこそこそ話もできないけど、多分、鷹の里さんと私の会話はあなたのこれからに重要な話だから、ダイニングキッチンで聞いていなさい、そうですよね?鷹の里さん」と葉月はまるで鷹の里が自分に聞きたいことを予見しているかのように鷹の里に問う


「そうでしょうね、今のあなたにはあえて係わる必要がない話、でも係わるべき話ではある。ケジメと云うか最後の紗理奈への奉公として、私は奉公とか云う言葉は好きではないが、何か紗理奈を見ていると、どうしてもね」と秀男は苦笑して頭髪を何気にかき上げる。


「小百合、足袋か何かある?」


「えぇ、私のでよければ」


「助かるは、さすがにストッキングをここで脱ぐわけにいかないので」


 秀男は無言でソックスを脱ぎ下の稽古場へ玄関へのスロープ状の廊下の途中から稽古場に下りる。久々の足裏の土の感触は秀男の体を刺激する。羽黒相撲クラブとは明らかに違う土の感触と何かピリピリと感じる刺激は、本物の力士の魂が宿るまるで聖域のように感じてしまうのは単なる錯覚でない、壁に掛けてある鈍い光を放つその短刀と額縁には色紙に心と云う文字が朱色で書いてある。


        (心の上に刃やいばを載せて生きていく・・・か)


 常に勝負の世界で生きて来た。「やるか?やられるか?」秀男はそんな世界で生きていくことに自分自身を賭けってこなかった。初代妙義山は女子大相撲の発展に自身を賭けた。葉月山は、すべてを失いながらも自身の人生を女子大相撲にすべてを賭けた。秀男は相撲人生に何を賭けた?


「お待たせしました」と葉月は白い足袋を履き稽古場に下りてきた。


 秀男は、壁に掛けてある短刀の真剣と心の文字を見ながら


「紗理奈の代わりにあなたと話すとか云う考えははなからありませんので」


「わかりました」


 何気に鼻をくすぐる土の香りは、男女の違いはあれど力士として生きて来た二人は、相撲界を去り違う分野で成功している二人は何を話すのか・・・・。




 

 


 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ