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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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233/324

巡り会わせ ⑥

 全国中学校相撲選手権大会。個人戦と団体戦があり羽黒相撲クラブは、団体戦は準々決勝戦を敗退してしまったが個人戦では、新藤昴が如何なく実力を発揮し決勝トーナメントの準決勝まで進み勝てば表彰台が確定する。


羽黒相撲クラブは、保護者の方がこの大会に詰めかけ、今回は映見もOGとして中学生の世話をすることと昴の専属コーチと云うほどではないが、稽古相手として志願しクラブの面々と川崎までやって来たのだ。


 会場の外で、二人は手合わせしながら映見は昴の士気を高めていく。


「昴君、自分の相撲の形って云うかできてきたんじゃない?」


「形って云うか、先生や山下さんに言われたようにきっちり当たることだけに集中しているだけです!あとは流れでって・・・・」


「山下さん来てるね?」


「目線で挨拶されました。本当はちゃんと挨拶したかったのですが?」と昴は若干の不満気な表情を見せた。


「山下さんは昴君の事、凄い評価していたし・・・あぁそう云えば名刺貰ったよね、連絡とかしてないの?」


「えっあぁ・・・ちょとなんか連絡しずらくて、なんか気軽にって感じじゃないと云うか、初めてクラブで会った時、直感的にこの人普通じゃないって」


「そうか・・・やっぱり感じるんだね・・・よっし!絶対に勝って表彰台!いや優勝しなきゃいけない!山下さんに今の自分のできる最高の相撲を見てもらって、結果はどうであれ、山下さんはちゃんと約束どうり会場に来てくれたって普通は口だけだよだいたい、昴と会ったのはあの時が初めてにも関わらず、それだけ見るべきものがあるってことだと想うよ」


「映見さん山下さんって元大関の【鷹の里】だったんですね・・・」


「何!?知ってるんじゃん」


「ネットで「玉鋼・山下秀男」って検索して・・・」


「まぁそうなるよね普通・・・でどう思った?」


「色々あったんだなって、でも、今はパティシエとして世界の大会でも賞をとって十店舗も店を持って経営してるなんて、勿論力士として凄いのは当然としても引退されても凄い人なんだなって」と昴


「うちの先生よく云うでしょ「最低限の文武両道」って、私の大学の監督も似たような事云うのだけど、相撲で活躍できる力士はほんの一握り、尚且つ活躍できる時間も短い、引退後の時間ははるかに長いのに相撲しかできなかったらその先って・・・。昴君、勉強も頑張ってるよね、先生は相撲よりも昴が勉強頑張ってるのすごい感心してたしもちろん相撲も、目標の力士が【鷹の里】って素晴らしいよ!」


「でも、俺そんなに勉強できるわけでないし鷹の里さん国大でそれも偏差値七十ってあまりにも雲の上過ぎて」と昴は何か意気消沈と云うか


「私も、びっくりしたけどそんな素振りも雰囲気も感じさせないところがある意味凄いんだけど・・・でも昴君って大人だね?」


「大人?」


「だって、山下さんが【鷹の里】だってわかれば連絡先知ってるわけだし、会場に来ているんだから直接聞いてもいいのに?」


「【鷹の里】さんだって知ったらなんかとても・・・」


「そうか・・・」


 映見は、昴の鷹の里さんへのある意味の気遣いと感じた。(中学生のくせして・・・)


 準決勝、一気の電車道で相手を圧倒の押し出しで決勝進出、しかもその相手は、元横綱【佐竹山】の長男という事で話題にもなっていたが、昴はそんなサラブレットに何もさせず勝負を決めた。


 秀男は、観客席最上段から試合を観戦していた。本来ならもう少し土俵に近いところで見たいところだが、大相撲関係者も来ており、その顔には全く面識もないしあったとしても引退してから15年以上、公の席にも出ることは全くなかったのだから会ったところでどうにもならないのだが、どうも意識してしまう。


 来賓席には、袴を着た現役力士と思しき五人とスーツ姿の元力士と云う数人の男達、そのなかに元横綱【佐竹山】がいるようで、その周りに袴を着た現役力士と思しき五人。そして、そこに、昴に負けた元横綱の息子が近寄り何か説教気味な状態が上から見て取れる。意気消沈の息子。


 観客やメディア関係者がその周りでその様子をカメラで写している。勝った昴より負けた横綱の息子なのだ。


(横綱の息子だからって相撲が強いわけじゃないのはもちろんだけど、それ以上に指導がすべて!身体能力と相撲センスがあっても素材の調理方法が下手くそだったらろくなもんはできない!中途半端な技術指導なんかしてるから、基本的な相撲ができないんだよ、相撲は重心とバランスがとても大切なスポーツ。それをあの息子はよく理解できていない、そのくせして形だけは拘る。それじゃこの先はねぇーな・・・・えっ?いやいや別に・・・)


 相撲とは縁を切ったのに、相撲クラブに行った事がここまで自分を熱くさせるなんて想いもしなかった。そして、昴という全く無関係の中学生選手との出会いが、秀男の心の奥にしまってある【鷹の里】の相撲魂を刺激していたのだ。


タブレットPCで決勝戦の昴の相手を確認する。相手である中三の北村海龍は祖父が元横綱【海王】・父が元大関【海王力】という大相撲一家で父は海王部屋を継ぎ、大相撲に置いて確固たる地位を気づいている。178センチ、110キロの恵まれた体格、高校は相撲の名門である鳳来高校に進学予定とすべては大相撲入門を見据えた王道路線、それは宿命づけられた生き方・・・?


 関係者席には海龍の祖父・父が座り始まろうとする決勝戦を待ちかねているように・・・。


(どんなに元横綱・大関の血を引く期待の逸材でもまだ中学生だ、昴にだって勝つすではある!)


昴もけして海龍に見劣りはしない体格を持っているし、ちゃんと考える相撲もできる。きっちり当たり、いざとなれば臨機応変に対応できる昴の相撲はけして海龍に見劣りしない。ただ、海龍には本物の相撲部屋で現役力士と稽古できると云う大きなアドバンテージがある、色々なタイプの力士相手に稽古できるという事は少なくとも昴にはできない経験である。だが、逆に云えばそれが同学年には負けるはずがないという慢心に繋がる、昴がつけ入るスキがあるとすればそれだと・・・。


 会場の外では、昴が映見相手にぶつかり稽古をし士気を上げながら最終調整している。その脇で光がその様子を見ている。今回、光は個人戦に関しては映見に任せることにしていてるので特段指示いはしていないし、結果から言えば決勝まで進んだのだから映見の指導が良かったという事になるが、さすがに決勝の相手である海龍は超ド級のスーパー中学生相撲選手である。


 正直、海龍と決勝で当たるとは想像すらできなかった故、対策など考えてもいなかった。光にすれば貴重な経験を積ましてもらうと云う実に消極的な姿勢なのだ。何しろ名門海王部屋の息子であり成績も申し分ない、そして抜群の相撲センスは稽古で身に付くものではなくもって生まれった才能、それに対抗するのには明らかに経験値が足りないのだ。そんな想いを巡らせていた時、向こうから山下秀男が歩いてきたのだ。そのことに、昴も映見も気づくと稽古の手を止めた。秀男は昴の前に立つ。


「・・・」(鷹の里さん!)昴は真正面に秀男の視線を捉える。


「良い視線だ。お前の取り組み見させてもらった良い相撲だ基本に忠実にきっちり当たって相手につけ入る隙を与えない!褒めてやるが海龍はそんな相撲は通じない、相手は海王の四股名は引く超中学生選手!お前に策はあるか!」と秀男の昴に対する云い方明らかにクラブでの初対面の時とは違う、まるで師匠と弟子のような・・・。


「とにかく、きちっり当たって廻しを取られず押し込みます、四つに組まれた正直、単純な力勝負なら同じくらいだと想いますが、相撲の上手さでは太刀打ちはできないと・・」


「多少は考えているのか・・・特別にアドバイスしてやる!一回しか言わねーぞ」


「・・・」(アドバイス!?)


「きちっり下から当たって廻しを取れできれば上手だ!単純な力勝負なら同じくらいだって云うのなら、今のお前に分がある、さっきの海龍の相撲は一分近くの相撲で大分消耗してるだったらお前につけ入るスキがある。

 いいか、相手に廻しを取られても気にするな!下からきっちり当たって廻しを取ればお前の勝ちだ!昴!大相撲に入門したら鷹の里を名乗りたいとか言ってたな?だったらこの試合勝ってみろよ!相手は将来の大相撲大関・横綱を宿命づけられた男だ!昴がもし大相撲に行けばライバルになるかもしれない相手、前哨戦だよ!俺が代わりに見せてもらうよ!お前の本気を!」


 当然、今の子供ならネットで検索すれば、自分が元大関【鷹の里】ぐらいわかる話だ。当然、昴はわかって俺の話を聞いていると認識しているはずだ。なのに昴は自分にそんな素振りすら見せない、秀男は昴の肝っ玉が気に入ったのだ。


 昴と秀男は睨みあいながらも一瞬お互いの頬が緩む、それはお互いの気持ちが通じ合っているように・・・。


 秀男を何も語らず、光と映見に軽く会釈をすると会場に戻て行く。昴はその後ろ姿に誓う


(この勝負は前頭と横綱ぐらいの開きがあると想います、ただ勝負に絶対はない!鷹の里さんのアドバイスありがたく頂戴します)昴は深々と頭を下げた。


----------相撲会場---------


 全国中学選手権は、団体戦と個人戦の2種別がある。団体戦には、各都道府県代表47校と開催都道府県1校の48校が参加でき、個人戦には、各都道府県代表3名×47=141名と開催都道府県1名の142名が参加することができる。個人戦の優勝者には、日本相撲連盟から中学生横綱の称号が贈られる。そして、今大会の注目の的は、中三の北村海龍。祖父が元横綱【海王】・父が元大関【海王力】という大相撲一家で父は海王部屋を継ぎ、まさしく華麗なる大相撲一家。海龍は中一で初の中学横綱を取ると中二でも取り連覇、今大会も取れば前人未到の三連覇!中一と中三の身体的ハンデでいけば中一で横綱を取った時点で、誰もが三連覇を期待するのは当然、角界も将来の大横綱を期待せずにはいられない。


 それに対しての昴の評価は決勝まで進んだと云え、今大会は海龍以外の選手は雑魚であって、評価にも値しないのだ。ただ、準決勝では巨漢選手相手に予想外の苦戦、自分より遥かに大きい選手相手の四つ相撲は、相当に体力を使ってしまった事は海龍にとっては想定外、四つには絶対の自信を持っていたが、想像以上に相手の腰が重かったのだ。ことごとく投げを残され、一分を超えようとした時、海龍は下手投げから足を跳ね上げ強引に体を預け、さすがに相手も巨漢ではあるが耐え切れず寄り倒しでなんとか勝ち上がってきたのだ。海龍得意の四つ相撲とは言え巨漢で尚且つ相手に胸を合わされてはなかなか投げも効かなかったのだ。


 理論派の力士だった元大関【鷹の里】は、海龍の強さを認めつつもまだまだ中学生、身体的能力・相撲センスは素晴らしくも考える相撲はまだまだ、その点は昴の方が上、本人にはきっちり当たることだけを考えろとは言ったが、昴は考えて相撲を取ることが身についている、だからこそ当たることだけを考えろと云ったのだ。


 昴に会った後、過去の全国中学選手権及び全国都道府県中学生相撲選手権大会の過去の動画をすべてチェックしていたのだ。そこまで秀男を熱中させるのはなんなのか?


(相撲と縁を切ったのに・・・・)秀男は会場最上段か土俵を見下ろす。海龍と昴が会場に入場してきた。海龍に祖父・元横綱【海王】・父・元大関【海王力】が何かしらアドバイスをしている、昴も光と映見からアドバイスをもらっている、そんなんか昴は最上段にいる秀男に目を合わした。


(鷹の里さん!俺の今できる相撲見てください!)


(昴、相手はどうであれ同じ中学生だ!負けんじゃねーぞ!)



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