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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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巡り会わせ ⑤

 相撲場には、秀男・映見・光の三人しかいない、相撲場の雰囲気は何気に重い、秀男の問いに即答できない映見


>「入門できたとして、四股名は【葉月山】を継ぐつもりはあるかい?」


 葉月山と云う四股名は女子大相撲にとって【至宝】と云っても足りないぐらいに・・・・しかし、その本人はある意味の角界との決別を自ら決断した。そのことは、更なる女子大相撲界の発展繁栄のための責務を放棄したのと変わらない。それでも、力士としての【葉月山】は日本女子相撲の劣勢を跳ね返し世界の強豪力士と渡り合いそのことは、日本の女子相撲のレベルを引き上げた同時に、日本の女子力士・女子相撲選手のどれだけの気概を持たせたかは計り知れない。


 葉月山はこの四股名を【止め名】にしなかったことには一切口を開くことはなっかた。それでもおそらく、葉月山の四股名を使いたいなどという力士や女子大相撲入りを考えている選手などは、恐れ多くて口に出せるわけがない。大相撲で云えば【一代年寄】を名乗りたいなど・・・。


 稲倉映見にとっては【葉月山】は憧れであり目標である。もし、女子大相撲に入れるとしたら【葉月山】を名乗りたいのはいつも心のなかにあった、ただそれは、女子大相撲に入ること自体が多少現実離れと云うかそもそも無理だと云うあきらめに似た安堵感というものがどこかにあったのだ。しかし、女子プロアマ混合団体世界大会は安堵感と云う防波堤だったものが壊されたのだ。


 世界の強豪と戦う、それも、女子大相撲の横綱百合の花・のちに妙義山になる桃の山、そして、監督は絶対横綱!その中で相撲世界一を決める大一番を経験したものが女子大相撲に入門したい気持ちになるのは当たり前だ。そして映見は期待以上の活躍をし日本の優勝に貢献、最後は土俵下に世界最強力士であるロシア・アレクサンドロワ アンナに叩き落され意識を失うアクシデントもあったがあの一戦は後に想えば女子力士への引き金だったのだ。


「もし、葉月山を名乗らせてもらえるのなら私はその名を汚すような力士にはなりません!勝負もそして品格も!」と映見がここまで感情を表に出したことはなかったかも知れない、それはいい意味での勝負師として片鱗を初めて見せるように・・・・。


「随分な自信だね?まぁそこまで云うのなら覚悟はできているってことか・・・」


「私もそれなりにアマチュアの世界でトップをとってきた自負があります」


「そうか・・・」


 秀男は映見の本気を感じたと同時にどこか羨ましさもあった。自分の大相撲への入門のいかに中途半端な気持ちで入っていしまった事が・・・・。そんな気持ちの中、相撲場の裏ドアが開く。


「昴、まだ帰ってないのか?」と光


 昴はジャージ姿で素足のまま無言で入ってくると、秀男の前に立った。


「何かな?」


「あっ・・・二か月後の全国中学選手権で最低でも表彰台に上がります!それと・・・大相撲入門して鷹の里の四股名を継げる力士になりたいです。会えたらそう言いたいです!」といきなり何を云いだすかと秀男はあっけにとられたが・・・。


「そうか・・・私も鷹の里は好きだよ、でもいちファンとして云えば、鷹の里はもっと勝負師としての魂があればもっと強かったはずだ!勝負の世界は君が想っているのとは違うかもしれない、遥かに厳しく・・・それでも行くと云うのなら私は君を御応援するよ!何の役にも立てないけど」と云う秀男の顔に何気な厳しさは消えていた。別に自分がこの少年に鷹の里としてリスペクトされているとかではなく本当に相撲に向き合いやるのだったら大相撲でやりたいと云う気概に心を打たれたのだ。


「一度でいいから鷹の里さんと話をして見たいです、色々聞いて見たい、相撲や生き方とか・・・・」


(生き方って・・・おいおい)おもわず苦笑しそうになったが流石にそれはこの少年に失礼だとこらえた秀男は一息入れ


「二か月後の全国中学選手権どこでやるんだ?」


「えっ・・・えぇ、神奈川県 川崎の等々力アリーナです」


「川崎か・・・見に行くよ」


「えっ?」


「最低でも表彰台って云うのだから見に行かないと、昴!あえて私が助言すれば、真っ向勝負の相撲をしろ!お前はまだ真の実力・そして限界を見せていないそのことは自分自身が知っておかなきゃいけない!限界は次の扉なんだよ、それを突破できれば次の自分がいるんだ!」


「限界・・・」


「稲倉映見と云う最高の稽古相手に恵まれているんだ、女子アマチュアと云え世界のトップと戦い頂点を極めてきた、この前の女子プロアマ混合団体世界大会での相撲を見れば女子大相撲力士の幕下じゃ相手にならないだろう、稲倉映見と勝負できるとしたら真っ向勝負でしかない!さっきの三番稽古で映見さんに勝てたのは真っ向勝負で押し込んだ二本だ!あの相撲が今の昴君の限界だあの相撲を10番やって最低でも5番できるようにしろ!そうなれば次を思考したくなる、その時に、あの鷹の里の解説書を読むんだ。あの解説書を読み解くには、相撲を心からうまくなりたいものしか読み解けない、【彼を知り己を知れば百戦殆からず】「己を知る」ということが一番難しいがそれをわからなければ試合には勝てない!だからこそいまはただがむしゃらにきっちりあったて押し込む相撲に集中しろ!」


(えっ?何言ってるの俺?また?いやいやどうかしてるわ?いや別にねそんななんか偉そうに云っているけど、えっ?なんなん自分は?自分に酔ってる?)


 秀男は昴を見ながら厳しい表情を見せながら頭の中は真っ白のフリーズ一歩手前なのだ。


「あっ、そうだな」と秀男は相撲場の端に置いてあるバックから名刺を取り出し昴に手渡した。


「名刺?」


「これはプライベート用の名刺だ。昴君と知り合ったのも何かの巡り会わせだろう、愚痴でもなんでも聞いてやるから電話でもメールでもしてこい、そっちの先生の不満とか聞いてやるよ」と光を見ながら薄笑いを・・・。


「なんですかそれは・・・」と光は何とも言えない表情をする。


「わかりました。そう言う事で」と昴は光を見ながら


(わかりましたってなんだよ!いい加減にしろうよ全く!)


 昴にとって秀男との巡り会わせは、何の意図もなければ単なる偶然の出会い、ましてや昴は目の前にいる人物が憧れであり目標としている【鷹の里】とは露知らず、ただ、昴はこの人物が普通の単なる相撲好きの親父とはどこか違う雰囲気は感じ取っていた、当たり前だが目の前にいるのは、元大関【鷹の里】なのだから・・・・。


 昴が相撲場から去り、残った三人の話題は当然映見の話になる。


「映見さん。女子大相撲にとって【葉月山】の四股名はあまりにも大きい!本当なら葉月山が引退した時点で止め名にするべきだったんだ!本人の気持ちはどうであれ葉月山は女子大相撲の歴史においては至宝だからね、葉月さんは良いと云ったのかい?」


「いいえ、そもそも話していませんし、私が女子大相撲に行くことは良しとは想ってないようですし・・・ただ今回の事は何気にと云うか知っているようですし、本当は私から直接お願いしたいとこですが今の生活もおわりでしょうし・・・理事長であられる山下さんの奥様に聞いた方がいいのかもしれませんが?」


「家の奥さんだって、葉月さんとは映見さんが最後に出場した郡上の大会以降、会ってないどころか電話一つもしてないようだ。妻からは君のここまでの概要は聞いているど葉月さんの事はね・・・それに、こちらの先生の奥さんに内緒で事を進めていいるのも正直あまりいい気はしないし、そのことに映見さんが納得してるのも、確執見たいなものは無くなったと想ったけど?」と秀男は何気に光を見ながら、映見を見る。


「国家資格を取得したあとに出も云うつもりです、内緒にしているのは事実ですが監督の事ですから薄々気づいていると想いますし、私が青森の柴咲総合病院での研修医としての内定も知っているはずですから感のいい監督の事ですから、相撲部があってましてや理事長とライバル争いをされていた元十和田富士さんが監督をされていれば、何か聞いてくるはずですが何も聞いてこないという事はそう言うことだと・・・今度のことは私自身が決めることだと誰にも相談することなく自分自身で決めました!」


 その映見の表情に、倉橋真奈美に隠すと云うやましさみたいなものは感じなかった、それは濱田光も同じく。それが倉橋真奈美と云う稲倉映見の育ての親に対する行為なのかは理解に苦しむが、生みの親の濱田光・その映見が納得しているのだからある意味部外者の自分が事を挟むのも・・・。


 相撲場の時計は午後8時30分を指していた。


「じゃーそろそろ帰ります」と秀男は光と映見にさらっと


「本当はもう少し話がしたかったのですが・・・」と光


「私も話して見たいこと多々ありましたけど、今日はそれ以上に昴君と映見さんの稽古を見れた事が何か嬉しくて、なんだろなぁ引退してから相撲の事なんか考えなかったのに、最近色々ね想うことがあるのよ、大相撲に入門してまがりなりにも大関まで行って、引退後は部屋を持って後身の育成にって、でもひょんなことからパティシエになってしまって・・・」


「またいらしてください、今度は元大関【鷹の里】として、彼と稽古するたびにうまくなっている事を実感するんです。彼、山下さんの話を聞いて多分この人は相撲に関しては普通ではないって、当たり前ですけど、それは私も同じです」


「葉月山を名乗るという事は、女子大相撲を背負う意味だと想う、とてつもなく重い、それでも名乗ると云うのなら誰にも文句を言わる筋合いはないしね、ちょくちょくは来れないけど気が向いたらね、まぁ僕は映見さんよりも昴君の成長を見てみたいけどね」


「今度は、廻しを持って来て頂いて手合わせお願いします」


「よく云うよ全く」と秀男は苦笑しながらもまんざらでもないと云った表情で・・・


「必ず、実業団で優勝して女子大相撲に行きます。奥様、いや、理事長にチャンスを頂いたのでしから!」


「・・・」(チャンス・・・それはちよっと違うと想うけどな)と秀男は妻である紗理奈がいまだに葉月山に固執していることに娘の二代目妙義山ではなく・・・・。もし、あなたが二代目【葉月山】を名乗れたとして、そのプレッシャーに耐えられのか?女子大相撲の歴史に残るであろう【葉月山】の四股名を・・・【葉月山】を名乗る以上は、最低でも横綱!横綱未満の番付は許されない。


 山下秀男、元大関【鷹の里】も、止め名にはしなっかた。横綱にもなれず最後は、多少意図しなかった辞め方をしたこともあった。一度、所属していた藤山部屋の師匠から、ある力士に【鷹の里】を継がしたいとの打診があったのだが、秀男を想いとは裏腹に断ったのだ。相撲界とは縁を切ったのに、秀男は、かつての親方がわざわざ入れる必要もない打診をされたのにも関わらず、藤山部屋の期待の力士に【鷹の里】を名乗るには相応しいとは想えないなどと言い放ったのだ!


 中学生の昴に「大相撲入門して鷹の里の四股名を継げる力士になりたいです」と云われた事に素直に嬉しかった。もちろんそれ相応の実力がなければ嬉しさは湧かなかった。


 ふと、秀男の心に沸いたものは、秀男の時計を逆回転させようとし始めていた。

 





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