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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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231/324

巡り合わせ ④

 稽古が終わり片づけが終わると、映見が【玉鋼】で買ってきたシュークリームアイスを部員全員に手渡す。


「山下さんもどうぞ」と秀男にシュークリームアイスを手渡す


「俺はいいよ」


「いいですから」と袋を破って早く食べろ見たいな・・・。秀男は一口頬張る。


「どうです?」と映見。


「単純なアイスではなく、カスタードと生クリームにアイスをサンドしてあるのがいいね!アイスをけして濃厚にしてないのがいい!カスタードと生クリームに負けないアイスにしようとしてしまいがちだけど逆なんだよな、それと間に薄くカシスのソースがいいね!うん改めていいね!」


「さり気なく自画自賛してる」


「当たり前でしょ、うちの商品なんだから」とドヤ顔の秀男


 そこは、元大相撲力士ではなくパティスリーの経営者としての顔を見せる。部員達は食べ終わると濱田に一礼をし更衣室へ、そんななか昴が秀男の元にやって来た。


「あのー」とさっきまで見せていた負けん気の表情からはどこか気弱な表情で・・・。


「なにかな?」


「また稽古見て頂けませんか・・・・」


「稽古なら濱田先生に見て頂くのが筋じゃないかな?私は相撲をかじったことがある単なるケーキ屋のおやじその程度の人物だよ、そんなおやじに何を見てもらいたい」


 光と映見は、平然と嘘云う秀男いや元大関【鷹の里】の真意がわからない、何も嘘をつく必要はなにもないはず、確かに大相撲の引退は少なからず意に反した面もあったかもしれないがそれはもう遠い昔の話、奥さんは女子大相撲の理事長であり初代横綱【妙義山】娘は二代目横綱【妙義山】その夫であり父である秀男いや元大関【鷹の里】を頑なに隠す必要があるのかと・・・。


「あの四股は単なる相撲をかじった程度ではできないと想います、自分は現役時代は見たことがありませんが、【鷹の里】さんの相撲が理想なんです。過去の動画しか見たことはありませんが、技巧派の相撲は憧れなんです、あの人も綺麗な四股を踏まれていました。古本屋であの方の相撲解説書を偶然見つけてそれは自分の愛読書です。内容的には凄く難しく数学的思考力がないと理解できないと濱田先生に云われて自分から勉強するようになりました。勿論その程度のことであの解説書の内容は理解できませんが・・・・」


「鷹の里か・・・彼奴の解説書は自己陶酔の塊だね、理想的と云うか理想像と云うかある意味、即戦力にはならないかもしれないねあれを読んでも、でも、あれを理解できるとしたら相撲以外でも成功できる!数学は計算ができる人とか云う勘違いと云うか計算なんて公式がわかればそれに数字を当てはめれば誰にだってできる。


 数学的思考力の意味は計算ができることじゃなく答えがない数字をどのように求めるかつまりその思考力が問われるんだ。あの本には答えはない、あの解説書からどう思考して答えを見つけるかのヒントなんだよ、中学生の君にはまだ早すぎるかもしれないがあれを読み解こうと勉強しているのならそれは無駄じゃない!今は相撲と同じぐらい勉強を頑張りなさい!本気で力士を目指しているのなら・・・大相撲の世界は運命共同体と化した閉鎖的集団国家見たいなものだ。でもそれもいつまで続くか・・・女子大相撲が男の亜流から脱したように大相撲も遅かれ早かれそうなる!その時に相撲しか知らなかったら大相撲は終わる!だからこそこれから大相撲力士には数学的思考力が必要なんだ。昴君があの難解な解説本を読み解けたら、君はすばらしい選手・力士になれるそれは単に相撲が強いとかいう単純な話ではなく・・・・」


(( ゜Д゜)ハァ?俺は何自分に酔ってんだ?馬鹿か俺は!?)と自分で云っときながらあまりにも恥ずかし過ぎて・・・。


「山下さんの話、凄い勉強になりました。頑張って読み解きますあの解説書。ありがとうござました」と昴は一礼をして相撲場を出て行った。


 濱田光と稲倉映見は思わず秀男を凝視する


(えっ?何?いや・・・確かに自分でも何言ってんだとおもったよそれは・・・なんかね・・・って何?その目は!?)と秀男は動揺を必死に・・・・。


「俺が鷹の里だって云えばよかったのに」と映見


「・・・・あぁぁ、いや別に云うのもあれもないし」


「動揺してる」と意地悪な映見


「・・・・」顔から火を噴きそうな秀男


「映見、山下さんに失礼だろう全く」


「だって、妙にかっこいいと云うか・・・「大相撲力士には数学的思考力が必要なんだ」って絶対に他の元力士は言いませんよね?」


「あぁぁ・・・・でもね、女子大相撲のように世界的な視野になればね、そう言う視点は必要だよね、稲倉さんだって海外で相撲をする機会は多いわけだし、現実に女子大相撲はワールドツアーなるものも開催されているわけだし、その意味では男子の大相撲は世界から閉ざれた世界だけどね、まぁそれも一つの世界だからはなから否定するのも少し違うと想うけどね」



 力士引退後、今までの秀男なら相撲の話など話すことなどほとんどなかった。ましてや、相撲場に自ら来るなんて・・・・。そんな秀男を相撲に気を向かわせたのは、自宅の葉山から三崎にあるホームセンターに行った時の話、開店前に近くのコーヒーチェーン店でエッグサンドとブレンドで軽い朝食を食していた時だった。何気に外を眺めているとが体格の良い学生が何気に多く歩いているにに気づく。最初は気にもしていなかったがそこは元力士、直感的にこの学生達は相撲選手だと・・・。


 秀男は食事を終えるとホームセンターではなく足はその学生達を追っていた。コーヒーチェーン店から歩いて五分にある若宮神社の境内に立派な土俵があり、しかも屋根まで付いている、本格的な相撲場はこの地域において相撲が盛んであることを物語っている。



「関東高等学校相撲大会」が正式名称で1都7県から選抜された男子高校生代表選手によって、争われる大会であることを神社の関係者から聞いた。席の仕切りはなくとも、ちゃんと桟敷席もあり本格的なのだ。ここから眺めると、土俵上の取り組みが良く見える。


 団対戦・個人戦と白熱の試合が続く。秀男にとっては相撲をしていて一番楽しかったのは高校生の時、団体戦では全国大会には出れなっ方がそれでも熱く・悔しく・・・それでも楽しかったそれでも・・・・。選手・監督・保護者と観客も悲喜こもごも勝者も敗者も同じこの場に立ちこの相撲場の空間と一体感と化す。秀男にとっての相撲はそう言うものだったのだ!大相撲力士になる何って選択肢はなかった、初代妙義山である妻である紗理奈には女子相撲と云う当時においては超マイナーな競技であり人によっては奇異な目で見られても一途なそんな紗理奈に惚れたのだ。でも紗理奈は女子相撲のその先を目指していた野心家であるのとは対照的な秀男にとって相撲はあくまでも学生スポーツであり卒業後の先には相撲と云う道はなかったはずだったのに・・・・。


 選抜された男子高校生代表選手は、誰もがレベルが高いしそもそもの身体能力が高い。ここから将来の力士が生まれるのだろう、それは自分の意志で大相撲を目指す当たり前の生き方、秀男にはその生き方はできなっかた。大関まで行きながら最後の綱取りができなっかたのは、力士と云う色に染まりきれなかったアマチュアが大相撲力士になってしまった。それに尽きる!


「山下さん。大相撲力士としての生きた時間は無駄でしたか?」と映見


「えっ?」と映見のいきなりの不意打ちの問いは今の自分を見透かされているような、でも意外にも・・・・。


「鷹の里であった自分を否定するような」


「そうだね、鷹の里であった時間は、無駄だったかもしれないが、その時間は夢を見ていたと云うか見さしてもらったってところかな?夢の終わりと云うのは現実に引き戻されてだいたい絶望するものだよ、だから鷹の里であった時代は夢の中だからそこに絶望なんかあるわけがないよね、辞めて絶望と云うか悲壮感と云うかね、そんな時間を過ごしてしまった。でもそんな闇のなかで、今の「玉鋼」の源の「たたら」と云うパティスリーと出会った。最近まで大関【鷹の里】であった自分を封印じゃないけど消し去ることが是が非だとね、だから相撲関連の話は一切しないし触れることは一切してこなかったんだ、でもね、時が経って自分ですら【鷹の里】であったことさえも意識することがなくなっていた時に高校生の相撲大会を見ることがあってね・・・」


「高校生の相撲大会?」


「それは、自分が一番相撲に熱中していたあの時に戻って来たみたいに、一途な高校生の相撲を見ながら、俺は何を力士であったこと大関【鷹の里】であったことをなにゆえに封印してきたのかって、でも、封印と云うか大関【鷹の里】は自分の心の中にいてほしいって、夢の時を自分の中に閉じ込めておきたいと・・・もう一人の自分として・・・」


「もう一人の自分・・・」


「紗理奈から聞いているよ、実業団から女子大相撲入りを目指しているって」


「えっ・・・」


「「夢の終わりは絶望の時を経て新たな人生のはじまり」絶望の時は新たな人生をはじめるための思考の時間ではなく何も考えてはいけないただただ自分を休ませるためだけ時間。すべてを空っぽにして」


「すべてを空っぽにして」


「自分がどんなに想っても努力してもできないことがある、それはそこに橋渡しをする者がいなければできないこともあるからね。今度の稲倉さんの話は、多分、うちの妻でなければできない話だろう?紗理奈は稲倉映見に惚れたんだよ、葉月山だった椎名葉月さんと同じように・・・」


「私に惚れた?葉月さんと同じように?」


「家族の死、そして絶望的な屈辱での女子大相撲の入門。葉月山はそんな絶望の時を超え名女力士であり絶対横綱【葉月山】として長きに渡り女子大相撲のみならず世界の女相撲にも君臨しそして尊敬された。あなたは紗理奈にとって葉月山に匹敵する人物なんだよ多分ね」


「私が・・・」


「紗理奈が力士として角界に送り込んだのは二人。椎名葉月と・・・山下秀男」


「山下さん・・・」


「椎名葉月は絶望から飛び上がり不死鳥のごとく女子大相撲を世界レベルに引き上げた。紗理奈の目に狂いはなかった、自分から相手のために動くことは殆どない。そんな紗理奈が動くのはあなたに期待していると同時に、葉月山をダブらせてるところがある。まだ、何も決まてもいないのにこんなことを聞くのもなんだけど、もし、入門できたとして、四股名は【葉月山】を継ぐつもりはあるかい?」


 映見は、そのつもりと云うかその覚悟で女子大相撲に入門するつもりでいる。もし【葉月山】を名乗ることができるのなら・・・・。ただ、今初めて面と向かって言われたのは初めてであり、ましてや、名力士である大相撲元大関【鷹の里】から言われた事の重み。さっきまでに気さくに話していた山下秀男ではなく、厳しい顔でその答えを求めてきている。それは元大関【鷹の里】としての元力士として・・・。

 



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