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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ②

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230/324

巡り合わせ ③

 羽黒相撲クラブは今や県内では強豪クラブの一つになり、男子・女子とも全国大会レベルの選手達を常に輩出し他のクラブからも常に注目される存在になっていた。当然、指導者である濱田光は少年少女相撲の関係者からは注目され、取材の依頼も多いのだが頑なに断ってきた。実際問題として、県外含め入部希望は多いのだが相撲場のキャパの問題など含めて今が手一杯なのだ。今以上に注目されるどころか、入部希望の保護者から「何故にうちの子を入れてくれない!」などのクレームに真摯に答えてもいたのだが、さすがに辟易し、多少横柄な対応をしてしまったらSNSで叩きまくられたり・・・。


「力士を目指しています」と云う少年・少女の入部希望も多いのだが、その半数は本人より保護者だったりすると、何かその時点で受け入れたくないのだ。力士を目指しているのなら他のクラブはいくらでもある。小・中で何も先の生き方を固定することはないのだ。


 そんなスタンスの光ではあっても、本人が一生懸命にやりたいと云うのならもちろんそれに応えるのは当然であるが、光がクラブの選手達に求めるのは「最低限の文武両道」最低限と云う云い方は語弊があるが、相撲だけではダメだという事、勿論勉強が苦手な子もいるが、そんな子供の大半は勉強の仕方がわからないのだ。そんな子供達には、稽古の前に家庭教師ではないが勉強の仕方を教えることも多々あるのだ。コツさえつかめれば、自然と面白くなる。それは相撲も同じ、今度は自分で色々考えだすからもっと面白くなる、それが、羽黒相撲クラブの指導方針。どこかの大学みたいだが・・・。


 そんな羽黒相撲クラブの横綱は中二の新藤昴。県内では無敵で全国大会でもベスト8まで進んだ逸材、勉学の方はそれなりだったが相撲と同じぐらい頑張り、少なくとも光にどやされない程度の成績ではある。将来の希望は大相撲力士とクラブ入門にあたって光に言ってのけた負けん気が強い中学生だ。


 そんな羽黒相撲クラブだが、今日の雰囲気は明らかに違う?相撲場の片隅で稽古の様子を見る、山下秀男のオーラとでも云うのか・・・特にそれを強く感じていたのが昴なのだ。


 稽古の前に簡単な紹介はしたが、パティスリーをやっていることは言ったが元大相撲の大関であることは言わなかったのだ。それでも、体重は100kg以下に落としたとはいえ普通の人から見れば何かしらのスポーツをしていただろうぐらいはわかる。そしてその眼付が昴の心を刺激する、それはあきらかに自分を凝視していることに・・・。


 稲倉映見が週一ぐらいのペースでクラブにやってきては、昴の稽古相手をすることに、と云うのは表向きの話で、裏の話は医師免許取得へのストレス発散と相撲勘の維持、そこに週一・二回の大学での稽古が加わる。この程度の話で相撲の力が維持できるとは想ってはいないが・・・・。来年、医師免許取得後、青森・柴咲総合病院へ研修医としての内定も貰っている。そして相撲部入部からの実業団大会優勝からの女子相撲入り。医師免許取得は堅いとしても実業団大会優勝はそもそもの実力と運がなければ優勝などあり得ない。優勝できなければ女力士の夢は終わる!


 両親に女子大相撲入りを云う前に、ドイツで医師をやっている兄貴である涼介に相談したのは名古屋で元十和田富士に会っての一週間後、年に何回かは連絡もするのだがおそらく自分の将来について真剣に相談するのは初めてだった。


 映見はここまでの経緯、そして、研修医をしながら女子大相撲入りを考えている事、引退後は医師に邁進し兄貴が戻らないのなら今の医院をやるつもりでいることなどを真摯に話した。


「そうか、そこまで考えているんだな、映見が相撲をしだした時は驚いたけど、女子の相撲もヨーロッパでは人気だしいまや世界的なプロスポーツ見たいなもんだからな、そこに映見が加わるのか」


「でも、それは来年の医師免許取得と実業団全国大会での優勝が絶対条件だからどっちが欠けても女子大相撲入りはできないから、その時は医師へ邁進するその意味ではリスクはない見たいなもんだけど」


「映見、整形外科志望なんだよな、でも青森・柴咲総合病院ってなんかドンピシャと云うかあそこは世界的にも評価されているからね、映見が力士としてどこまでやれるかわからないけど引退後は医師として柴咲総合病院で働けることは映見にとって財産になる。映見は人に恵まれてると云うか」


「お兄ちゃん・・・」


「映見がそこまで考えているのなら、俺も決めた!」


「・・・・」


「日本に戻ろうかと思う。映見、稲倉医院は俺がやるからおまえは自分の道に邁進しろよ、あんまり映見と遊んだり相談とかやってあげられなかったっし寂しい想いさせたからな」


「お兄ちゃん・・・」


「親父とは、なんかうまくやていけなかった、だから全寮制の進学校に行ったけどある意味あれは色々考えるきっかけをくれたんだ。日本を離れて、もう海外で日本には戻らないと想ったけど、なんか、ふと想うことがあってね・・・映見」


「うぅん」


「必ず医師の資格とってそして実業団で優勝して女子大相撲入りを勝ち取れ!自分を信じて!」


「ありがとうお兄ちゃん」


「最近、親父の講演会ネットで見てね、終末期医療の在り方を話していたんだけど親父のこと全く知らなかった以上に医師としての在り方とか凄い勉強になったんだよ、町医者である親父をどこかで見下してたんだ心のどこかで」


「お父さんには連絡とかは?」


「まだ何も、明日にも連絡するよ」


「わかった」


研修医として働きながら女子大相撲入りを狙いうまくいけば、一旦研修医としての身を中断すると云う実に身勝手なというか両親に金銭面などでそれなりの負担を掛けている身でもあるに関わらず。後日、映見は勇気を出して事の経緯を説明し、もしチャンスを掴むことができたら女子大相撲入りをしたいと・・・。


 映見は両親に事の経緯を説明し、もし、叶うのなら女子大相撲に行きたい旨を率直に・・・。それに対する父である啓史の回答は意外なものだった。


「人生においての本当のチャンスってそうそう掴めるものじゃない、俺は将来やりたかったことを見つけられなかったと云うか見つけることをしなかったと云うのが本当のところだったんだ。子供のころから医者になることが将来の夢だったものの医師になって親になって。自分の子供達が好きなことに熱中していることはうれしい反面羨ましさもあったりしてね・・・・。


 涼介や映見には何かしらの将来の夢があるのならそれに邁進して親として助けることがあれば助けたい。それは本心なんだ。涼介や映見には熱中できるものそして将来の夢があるのならそれを全力で目指してほしいことはそれは今でも変わらない。涼介から映見の事は聞かされていたからね、まぁだから落ち着いて話せるのかもしれないけど」と苦笑いをする啓史


「お父さん・・・」


 事前に涼介が両親に何を云ったのかは想像がつかないが・・・・。両親が映見の意志を尊重すると云ったのは兄貴である涼介が援護射撃をしてくれたことは間違えないことは確かである。


 そんなこともあり、今の映見は心技体完璧な状態と云ってもいいのだ。医師免許取得の勉強もそして相撲も・・・・。


 秀男はそんなことは知る余地もないのだが、昴との稽古をまるで親方でもあるかのように、しかし、その視線は映見ではなく昴に向けられていた。県内では無敵で全国大会でもベスト8まで進んだ逸材であると云う割には何か秀男には物足りないと云うかなにか纏まり過ぎていると云うか・・・考えて相撲をしているのはわかるがそのことが秀男には気に食わないのだ。


映見との稽古が続き一息入れている二人に、秀男は昴に声をかける


「昴くんさ稽古って何のためにしてるの?何を意識もってやってる?」と若干上から目線の秀男、その態度に若干「カチン」ときた昴の表情。昴からするとたかがパティシエで体格は何かスポーツをやていたようなことは直感的に感じ取ったが・・・。


「技の創意工夫と精神鍛錬の努力です」ときっぱり言い切る昴。


「なるほどね、でも俺には不満だね、県内で無敵でも全国大会はベスト8止まり、今の稽古じゃ多分それ以上は上がれない、ましてや大相撲力士なんて・・・」


「・・・・」昴の表情が明らかに変わった。


「昴君の稽古の何が不満か?それは全力でやってないからだよ!ありたっけの力で当たる120%の力で当たる稽古ができてないんだよ!稽古は相手に勝つことじゃない、自分自身を追い込んで追い込んで初めて見えてくることがあるんだよ、映見さんとは技術的に見劣りするのは仕方がないそれなのに技術で勝負しようとしているそうじゃないんだよ、技術で勝負するのには地力を上げないとダメなんだ」


「・・・・」昴は口を真一文字にしながら、どこか悔し気な昴


「稽古で120%でへとへとまでやる!もちろん技の創意工夫と精神鍛錬の努力も取り入れてもいいでも基本は全力以上の力で稽古をする。そして、本番では最高80%の力で残り20%はマージンとして残す。気持ちの余裕であり、いざとなればその残りのリソースを創意工夫と精神鍛錬で得た必殺技のために使う。余裕のない相撲では絶対に勝てない、全国大会でベスト8以上に行くにはまだ地力が足りないんだ。昴君が色々研究しているのは稽古を見ればわかる。でもまずはきっちり全力であたっていく、必ずそのことが後々大きな差になる。技巧に走るのはまだ先だよ」とついさっきまでの厳しい表情だった秀男の表情がにこやかになる。



 その後の映見との三番稽古は、10番やって2勝8敗、全力で当たり映見を押しこんでいく場面も最後ははたき込まれたりで素人目にはやられっぱなしと云う印象でも秀男は昴を高く評価する、10番を息も絶え絶えの昴は膝まづき息が荒れる。たいして映見も息が乱れてはいるが、そこまでにはなっていない。ただ、昴の電車道は今までの稽古ではなっかたほどに強烈であっという間に終わり、映見に全く相撲をさせなかった。結局、昴はこの二番しか勝てなかったが本人は満足げな表情と同時に、映見の相撲技術に完敗と云ったところだった。


 そんな様子を見ながら秀男は相撲場の片隅で急に四股を踏み始めた。引退後は、体の鈍りを気にして人知れず葉山の別荘で多少はやってはいたが、人前では一切その姿はみせなかった、妻である紗理奈でさえ・・・。そんな自分が相撲場の土の上で、人前で四股を踏んでいる何の躊躇なく。


 膝を曲げながらゆっくりと片足を上げ、その足をピンとまっすぐ伸ばす。身体がふらつくことなく、まるでフィギュア・スケートか新体操でもしているかのような華麗さで、そしてその上げた足をつま先から土俵に下ろしていく。


 光も映見も、そして、クラブの小中の部員達もおもわず動きを止め、秀男の四股に魅了されていた。

それは、山下秀男ではなく元大関【鷹の里】としての四股を見せるように・・・・。


     (俺は結局、ここに戻るのか?この土の上に・・・。戻るのかよ結局・・・・)


 山下秀男、元大関【鷹の里】。封印してきた何かが破れるように一心不乱に四股を踏む。



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