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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ①

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222/324

魂のカヌレ ①

 新東名高速を一路西へ走るシルバーのポルシェ911カレラ(991)は制限速度プラスαで走行中、ハンドルを握るのは元大関鷹の里(紗理奈の夫)である。横綱昇進一歩手前まで行きながら廃業することに記者会見ではあくまでも心技体が整えることができなく力士としての真っ当な相撲は取れないと言い残し協会からも離れ全くの一般人になり今やパティスリーを10店舗ほど持つ経営者であり職人でもあるのだ。


 ファンからは惜しまれつつの引退である一方協会からは、上層部に意見するような現役力士はいらないのだ!そして最大の嫌われ要素は女子大相撲横綱妙義山を妻に持ち女子大相撲の代弁者のような態度をとることが気にいらなかったのだ。


「昨日、濱田光に会って来たよ」


「そうですか彼はいい選手ですね、よく考えて相撲を取っているかと云うか頭のいい選手です」


幕内に上がった頃の鷹の里と理事で藤山部屋の藤山親方。師匠である元大関藤山はけして鷹の里にはいいイメージを持てはいないことは鷹の里もなんとなくは気づいていた。


「鷹の里,この世界で生きていくのならきれいごとだけでは生きていけないことぐらいいい加減わかるだろう?」


「ガチ相撲のことですか?」


「おまえにとって相撲はスポーツなんだよ単なる勝った負けたの」


「もういい加減に・・・・」


「角界は一般社会からはかけ離れた世界なんだよそこに一般常識なるものは通用しない!お前見たいにスポーツとして相撲をしている奴に大相撲の力士は無理だって言ってるんだよ!」


「もう八百長なんて時代じゃ」


「八百長?落語で「佐野山」って知ってるだろう」


「えっ、あぁぁ・・・」


 

 十両の佐野山という力士は親孝行で、病気の母親の看病や薬代の支払いに追われ、食事も取らずに土俵に上がっていた。当然相撲で勝てる訳がない負けが続けば引退になる


 これを知った横綱谷風は、相撲会所に根回しをして、無理を言って千秋楽に佐野山と対戦する取り組みを組ませる。驚いたのは、相撲ファン。勝ち続けている谷風と負け続けている佐野山の対戦とあって、廻しを取れば5両、もろ差しになったら10両の祝儀を佐野山に出そうなどと言い出す始末。贔屓ひいき筋も、佐野山が勝ったら大金を祝儀に出そうと応援する。


 千秋楽の結びの一番。谷風に負けないほど、佐野山という掛け声がかかる、土俵上行司の軍配が返る。谷風は、佐野山を抱えるようにして土俵際まで引きずり出すも自ら土俵の外に足を出して勇み足で、軍配が佐野山に上がる。谷風が勝つとばかり思っていた観客は大騒ぎ。


 こうして祝儀をたくさんもらった佐野山は、この後も親孝行ができたという落語だ。谷風がわざと負ける八百長のような相撲を取ったというのはあくまでも落語の話とは言え横綱谷風は江戸の庶民たちに人格者として認められていたのだ。


「角界で生きるってことは単なる勝負だけじゃねえ、この世界でみんながそれなりに生きていく生きていけるのにはどうするべきなのか?大相撲の世界は江戸時代に勧進相撲かんじんずもう)と云われた時代から何も変わっちゃいない。それが時代遅れであろうが大相撲の世界はお前やお前の奥さんが想っているスポーツの尺度ではかる世界じゃねぇんだよ!」


「霧桜関のことですか」と怪訝そうな顔をする鷹の里


 先場所、鷹の里は前頭から小結に昇進し8勝6敗で迎えた千秋楽相手は最高位関脇まで行った西前頭13枚目の霧桜関は7勝7敗で負け越せば十両陥落の危機。将来の横綱候補と云われ高校横綱を引っ提げ入門しとんとん拍子で関脇まで行ったもののその後は怪我もあり下降線に・・・。歳も三十を超えそろそろ引退も囁かれてはいたが、そんななかで迎えた千秋楽。


「8勝も9勝もたいして変わらない7勝7敗と8勝7敗は大きく変わる力士人生の生死がかかってるわかるだろう?」と師匠の藤山は稽古を終えた相撲場の片隅でさり気なく鷹の里に・・・・。


「手心を加えろってことですか?」


「霧桜は怪我さえなければ大関・横綱まで行けた力士だでももう先はそう長くねぇ、株をもってねぇ以上力士やめたら一般社会に放り出される。お前見たいに学があれば力士辞めてもいくらでも職はあるだろうよ!でもな相撲しかしてこなかった奴は外へ出たら“チャンコ料理屋”やるか格闘技かなんかするしかねぇんだよ!お前には理解できないかもしれないがな・・・彼奴にはまだ小さい子供が三人いる。そんだけだ・・・・」


 千秋楽、鷹の里は霧桜を寄り切り9勝6敗で終え小結昇進の場所を乗り切った。たいして霧桜は十両に陥落が決定的に。


 鷹の里にしてみれば二桁の勝ち星は取れなかったが一勝でも多くの勝ち星が欲しいことは力士として当然、確かに勝ち越しか負け越しかの意味の重大性は理解しているだからと言って自分が霧桜に人情相撲をする理由もない。


「霧桜はもう幕内には上がれんだろう同じ一門として少しは手心を・・・霧島の奥さん体調不良でな・・・」


「ちょっと待てください!そんな話今言われても!云うんだったらなんで前に!」


「じゃ言ったら手心加えたのか?お前はしねぇーよそんな事、それ以上にお前の奥さん妙義山がな!」


「家の妻の事云うのはやめてくれませんか!」


「濱田に言われたよ!鷹の里は尊敬できる力士だとよ相撲理論は科学的根拠に基づいたうえで現役力士での実践的な解説書は凄い参考になりますってよ、でもそれだけだろうおめえの相撲は、ガチ相撲だぁ?だったら最後まで貫けよ廃業するまでよ!師匠としておめいの相撲センスは認める、けどな大相撲がなぜ国技なのかおめえにはわからねえよ大相撲は歌舞伎、国技館は歌舞伎座なんだよ!大学横綱を取ったお前なら肌で感じたはずだ!大相撲の人気に対してガチ相撲のアマチュアの盛り上がりはさっぱりだ!大相撲は単なるスポーツじゃねぇ!日本の文化とそこにスポーツ的エッセンスを融合させた究極の技芸何だよ!それが答えだよ!」


「師匠・・・」


「鷹の里、アマチュア時代大学横綱を引っ提げ入門してきた選手は何人もいるが横綱になった力士は一人しかいない、アマチュア時代無敵だった奴が期待されて入って来たものの大多数は三役になれれば音御の字、大関になれた奴なんかごく僅かだ。なんでかわかるか?」


「いえ・・・」


「幻滅するんだよ大相撲そのものに、頭が良ければ良いほどに相撲が上手ければ上手いほどに・・・鷹の里なんで大相撲に来た?」


「えっ、・・・・」


「おまえは横綱までいける器だよ、でも今のままじゃいけねーガチ相撲だとか言ってるようじゃ・・・。濱田に言われたよ、大相撲に行かねぇーとそんでもって「大相撲なんか所詮下衆の集まりか・・・」ってよ!」 


「・・・・」


「鷹の里、お前は自分の相撲に邁進して横綱まで行ってさっさと辞めろ!お前は大相撲力士には向いてねぇよ!大相撲の世界で生きていく人間じゃねぇーよ!あぁぁおめぇーの奥さんが男だったらなー」


「はぁ?」


「奥さん本当に黙らせないと本当に女子大相撲は終わるぞ!」


「・・・・」


「妙義山にしてみれば真剣勝負に情けは必要ねぇーんだろうそれはそれでいいよ、でもな大相撲の世界を八百長で成り立ってるみたいな言いぐさは許せない!それは年に数番あるかもしれねぇ、人情相撲を八百長だと云われたらそうかもしれねぇ、ある相撲評論家が言ったそうだよ


 「一場所通っていて、三番、想い出に残るような取組みをみればそれで満足。むろん、あきらかに八百長と思われる勝負は、終ってからしばらくの間は想いだすのも不愉快ですけどね」って言い得て妙だと想った。そこが大相撲と相撲の違いもっと云えばSumoとの違い。俺も大学から大相撲の世界に入って愕然とした自分がいたよ。


 でも俺はお前と違って勉強はできなかったし大学に行けたのは相撲でだからな、俺は幸運にも株が手に入って今は部屋を持って人並以上の生活を送れている事に感謝している。それができることが如何に特殊な世界か・・・髷ゆって着物着てそんな奴は力士以外いないからな・・・鷹の里!協会の親方衆はお前の事を好いてない妙義山はそれ以上にな、おまえが奥さんの手綱を締めねねーとひょんなことで奥さん自分で自分の首絞めるぞ!男の大相撲を挑発するのも女大相撲に目を向けてもらう一つの方法としてもやり過ぎだ。「本音と建前」奥さん嫌いなんだろうな・・・」


 数年後、鷹の里は四場所優勝大関まで昇進しいよいよ来場所は横綱と云うそんななか大相撲に激震が走る。


 大相撲力士の間でやりとりされた八百長が疑われるメールが週刊誌に掲載されたのだ。力士の名も実名で相撲内容そして金銭のやり取りまで・・・・。この問題を受け場所を一場所中止するという異常事態に!該当力士は20名を超える。メディアは一斉にこの問題を取り上げる。大相撲に関心がない一般人からは「国技でありながら八百長なんてあり得ない!」と云うのが最たるもの!


 そして、この問題は幕内上位人にも該当者が多数出ると云う異常事態に発展し大相撲存続危機まで追い込こまていた。鷹の里はこの問題に絡んでいないとはいえ横綱昇進どころの話ではなくなったのだ


 そんな時、女子大相撲に置いて横綱と云う立場になった妻である妙義山のスポーツ新聞への寄稿文が弱り切った角界の怒りを買ったのだ。内容は当然、八百長が疑われるメールの話に始まり無気力相撲と言われる類の話にも・・・・。それは角界もそうだが鷹の里はそれ以上に妙義山の事を許せなっかた。数年前の鷹の里なら妻の意見に同調して大相撲改革とか称して発言をしていただろでもあの時の鷹の里にとってはそんな単純な話でなくなっていた。


自宅のリビングで秀男はソファーに座りながら・・・。


「もう大相撲も終わりね。ここまで露わになれば」


「・・・・」


「なぁなぁの慣れあい相撲!女子大相撲に色々偉そうに云っといてこのざま!あなたも色々云われていたでしょうけどやっぱりねってことよ、ざまぁってところよ!」と紗理奈は鼻高々と云った感じで・・・。


「・・・・」秀男の表情が険しくなる


「海外も厳しい目を向けているわそのことにどう答えるのかしら?女子の相撲が海外で脚光を浴びているのにとんだとばっちりだわ全く。でも鷹の里にとっては好都合じゃない、一場所飛ぶんだからその分体は休めるわけだし万全の状態で綱取りに挑めるわけで、巡業その他も中止だし、久しぶりにどっか温泉でも行かない?」と紗理奈


「楽しいか?」


「えっ、何が?」


「男の大相撲が苦しい立場に立たされていることが楽しいかと聞いているんだよ!!!」


「なに大きな声を上げてるのよ!チャンスじゃない大相撲が変わる!ここで膿をだして生まれ変わる絶好のチャンスあなただって喜ぶべきことじゃないの?」


「紗理奈は大相撲の本質がわかっていない」


「何が言いたいのよ!」


 その時、リビングテーブルに置いてある秀男のスマホに着信が、相手は師匠の藤山、秀男をスマホを取ると隣の部屋に、


「どうかしましたか?」


「あぁ、今どこにいる?」


「自宅ですけど」


「協会に来れるか?」


「協会?」


「理事長が会いたいらしい」


「理事長が・・・わかりました。30分あれば」


「俺は先に行って入り口で待ってるから」


「わかりました」


鷹の里はタクシーを呼び部屋を出る


「どこに行くの?」と紗理奈


「・・・・」鷹の里はその問いに答えず無言で家を出る。すでに玄関前にタクシーが到着していた。鷹の里はタクシーに乗り込み協会のある国技館へ・・・・。


(おおよその見当はつくけど・・・)と鷹の里はある種の覚悟を決めていた。


 




 

 





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