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女力士への道  作者: hidekazu
勝利の意味

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プロ志望  ④

「はぁ、はぁ、はっ、はあ、はあっ、はああ!!ちょっと待った!」と膝立ち状態の男子。それと対照的な仁王立ちの女子。


 男子は串間圭太。明星高校男子相撲部の2年生。身長178cm 体重95㎏ 

 女子は石川さくら。女子相撲部の2年生。   身長175cm 体重120㎏

 

 石井さくらの相手は男子相撲部の串間が相手をしている。女子では相手にならず男子相撲部から助っ人なのだが・・・・。


「圭太、真剣にやってよ!」

「いやいやちょっとさくら気合が入りすぎてないか・・・・」

「真剣にやってるんだから当たり前じゃない何云ってるのよ全く」と不機嫌な表情が全面に


吉瀬瞳と出会ってからのさくらは今まで以上に相撲に邁進していた。


 「自分をもっと飛躍させたかったら西経に出稽古に来なさい」


 吉瀬瞳と色々な話をしたあの日からさくらの心の中に後悔とは云わないまでもある想いが強くなっていた。(西経に行かなかったことは間違いだったのでは?)


 西経に行かなかったのは稲倉映見のアドバイスだった。 


「さくらが西経に行くことは私は反対だし・・・それでも西経に来たいと云うのなら先輩・後輩の付き合いはできない」


 当時主将だった稲倉映見。吉瀬瞳の後を引きつぐ形で主将になり部の改革も継承はされていったのではあるがそれでも映見にとっては一年生の時のトラウマが頭を過る。特待生扱いで進学し相撲部へは中学無双だのと云われてはキツイ稽古を強いられ体力・精神的にも疲弊してしまった。そのことが吉瀬によって是正されたとは云え相撲において同じような道を辿っているさくらをとても西経には入れられなかった。しかし、そんなことはさくらにとっては知る由もない。厳しいであろうことはさくらだって覚悟していた。それでも映見は西経に来ることを断固拒否した。


 明星を選択したのは単純に女子相撲部があったから・・・・まだ新設間もないし実績もない相撲部ではあったがそれは大した話ではなかった。当たり前と云えば当たり前だが女子相撲部に入部したものの石井さくらの相手をできる女子力士などいない。最初は監督である島尾が相手をしていたが軽量級の島尾にとっていくら高校一年とは云え無差別級クラスのさくら相手ではさすがに満足な稽古はさせてあげられなかった。


 そこで男子相撲部から助っ人をお願いする形になった。串間は小中と全国大会にも出ていた強豪力士。中学時代さくらは圧倒的強さだっとは云えそこは経験豊富な串間相手ではそうそう稽古とは云え勝てる相手ではない。ただそのことは間違いなくさくらの相撲を飛躍させた。


「串間、だらしないぞ」と島尾監督が笑いながら

「監督。こいつなんか別人ですよ全く。なんか気迫が全身からみなぎると云うかどうかなっちゃたんじゃねぇの?」

「串間、あと十番はしたいの!」

「( ゜Д゜)ハァ?なんだよそれ・・・・・」

 その後十番なんとかやったあと仕上げのぶつかり稽古。

「はぁ、はぁ、はっ、はあ、はあっ、はああ!!」っと土俵脇で大の字になる串間。

「ありがとねぇ串間」と上から覗き込むさくら。

「あっっ・・・」と大の字のまま右手を挙げて答える圭太。


 相撲場の時計は午後6時を少し回ったところ

「はいそろそろ終了」と島尾の声。部員達はクールダウン・ストレッチをして片付けをし最後に監督を前に一同整列して「ありがとうございました」と一礼すると稽古は終了。

 部員が相撲場を出て更衣室に向かっている時

「さくら」と島尾

「ハイ」

「着替えが終わったらここへ戻ってきて」

「・・・わかりました」と云うと相撲場を出ていくさくら


 島尾は四畳半ほどの上がり座敷に腰かけ土俵を眺める。


「西経の吉瀬さんから電話がありまして出稽古の件なんですが」と裕子から電話があったのはつい先日のことだった。

「さくら一人で大学の相撲部に来るようにと云われたんです。それとさくらに吉瀬さんの携帯番号を伝えるように云われて伝えてしまったんですが後から考えたらちょっとまずかったのかなーって監督に聞いてから伝えるべきだったっと・・・・さくらなんか云ってます?」


自分が居た頃の西経だったらのこのこやってきたら稽古と称して潰す真似事をしたかもしれない。でも今はそんな時代じゃない。その悪しき雰囲気を払しょくしたのは吉瀬なんだからそれは心配していないとはいえ・・・。


「失礼します」と一礼して相撲場に入り島尾の前で直立不動するさくら。

「さくら、私の隣に座りなさい」

「ハイ」


 さくらは島尾の隣に座る。さくらから弱冠の石鹸の香りが・・・。

「ここのところ稽古に気合が入っているのね」

「ハイ。色々想うことがあって」

「想うこと?」

「監督。西経卒業ですよね?」

「そうだけど知ってるでしょ聞かなくても」


 さくらは一瞬を目をつぶり

「監督、西経の相撲部から出稽古に来ないかと誘いを受けました。許可を貰えませんでしょうか?」

「出稽古?」と素知らぬふり

「強豪の西経の力士と稽古してみたいんです」

「一つ聞いていい?」

「あなた西経から特待生扱いで誘いを受けていたのになんで明星に来た」

「・・・・」

「あなたが中三の時女子相撲関係者の間で話題になっていた。西経に行くんだろうな当然って」

「・・・・」

「うちの学校は公立だし西経みたいに大学あるわけではない。ましてや何の実績もない女子相撲部になんで石井さくらが来るんだって色々聞かれたけど無視してた。そもそもあなたにだって聞くつもりもなかったしそれがここまできた。そんなあなたが急に西経に出稽古に行きたいってどういう風の吹き回し?」

しばらく間が空いて

「監督。選手会のことでのこと知ってますよね?」

「裕子から聞いているわ西経に喧嘩を売るような真似をしたと」

「私は喧嘩を売ったとはおもってません」ときっぱり

「それで」

「西経の部員の方々に謝罪したいと・・・」

「だったら謝罪だけでもいいんじゃないの」

「それは・・・」


 西経OGの島尾からして見れば西経に出稽古に行くことはさくらにとって間違いなく成長できる。ただ・・・吉瀬を信用してないわけではないのだがそれよりも倉橋監督がどう想っているのかがわからないのだ。さくらはそこに出稽古に行くということの意味を考えていないのだろうか?


大会などでたまに倉橋監督とも会う機会があるが一切石井さくらのことは聞いてこない。嫌味の一つでも云ってもらった方がよっぽど楽なのに・・・。


「駄目ですか監督・・・・」

「どうしても行きたいのあなた」

「ハイ、お願いします」と島尾の前に立ち深々と頭をさげるさくら

「明日まで待って頂戴一応部の監督としては西経の監督に話はしておきたいからそれでいいわね」

「わかりました」と云ったさくらだったが本当はすぐ許可してほしかったと云う表情。

「じゃ上がっていいわ」

「失礼します」と云って相撲場を出る。


 上がり座敷に座ったまま土俵を見つめる島尾。大学一年死に物狂いで部のレギュラー入りを果たしこれからの二年生からは怪我の連続。心身ともボロボロの状態。さすがにもう相撲はできないと決意し主将にその旨を伝え退部届を手渡した。後日主将から監督に手渡したことと監督が挨拶にはこなくてもいいと云っていた旨を告げられた。その後の自分は大相撲も見なくなった。今やるべきである教師になる目標に邁進していった。4年になり何気に相撲部のHPの部員紹介4年生の欄に自分の名前があったのだ。


「なんで?」


 削除し忘れたわけはなく何のために・・・・。このまま無視をしても構わなかった。部の先輩や同輩からまれに食事の誘いを受けるようなこともあったがそれも自分から遠ざけていた。そんなある日街で偶然に部の同輩で現主将の麗香に会ってしまった。向こうは気さくに声をかけてきてくれているのにどこか身構えてしまう私。立ち話程度の話しかしなかったが同輩から島尾にとっては驚きの話だった。


「麗香、HPに載っている部員紹介のページなんだけど何で私の名前があるの?」と島尾

麗香は少し考えたような振りを見せて

「朋美がいつでも帰ってこれるように載せておけって」

「えっ・・」

「朋美が一年の時本当に死に物狂い頑張ってたの凄く評価してたんだよ。でも二年になって朋美怪我で苦しんで結局退部届出したじゃない。主将が監督に渡そうとした時監督は主将が持ってろって云って受理しなかったのよ」

「何それ?」

「今は私のロッカーにある」

「・・・・・」

「先生云ってた。つい島尾が頑張ってるの見て私は熱を入れすぎてしまったってそれが原因で潰してしまったて」

「・・・・・」

「朋美はもうこのまま会わないで卒業したほうがいいと思う。監督の性格からしたらあなたがのこのこ行ったらいらんこと云いそうだしねぇお互いに」と

「麗香・・・・」

「朋美、高校の教師になるんでしょ女子相撲部のある学校とか就職したら」

「なに云ってんの麗香は・・・・」


 今は高校で英語教えて女子相撲部監督をやっている。冗談のように話だが・・・・。

朋美は座敷においてあるスマホを取り上げ電話帳から倉橋監督を選ぶ。

(電話するべきなのだろうか?)

何かの会でお会いした時に名刺交換だけしてろくに喋ることをしなかったが名刺だけは交換したのだ。


時計の針は午後8時を回っている。朋美は一時間以上迷っていたのだ。

「覚悟を決めた」

朋美は倉橋をクリック、発信音が一回、二回。三回と・・・・。

(出なければそれで・・・)と思った瞬間。

「倉橋ですが」

「・・・・・」

「無言電話か朋美」

「監督・・・」

久しぶりに聞いた監督の声。思わず目が潤んでしまった。




 



 






 



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