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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ①

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210/324

砂の女王 ⑦

 椎名葉月の自宅。まさかなのか意図的なのか?品川で最終の名古屋行きの新幹線に乗り遅れると云う大失態をした濱田光なのだが・・・。


「しかし、改めて上から見ると凄いな下のトレーニングルームと云うか・・・」


「横綱の美瑛富士関がどれだけ相撲に賭けていたのかわかります、下の稽古場は横綱の美瑛富士関が使われていた当時そのままなんです、私がここまで来れたのはこの家のおかげと云って良いほどに・・・もしよければ下で四股や鉄砲とかやってもいいですよ、私はその間お風呂に入りますんで下に美瑛富士関使われていた稽古用の廻しもありますからよかったら・・・私お風呂に入ってきますから」と云うとそのまま浴室へ・・・。



----------浴室---------


 葉月は浴槽に肩まで湯に浸かり十和田富士との会話を思い出す。


>「初対面のあなたにそれも絶対横綱と云われたあなたに云うのもなんだけどもう少し自分と素直に向きあった方がいいんじゃないかい、私も偉そうな事云える立場でもないけど生き方に正解なんかない私だってまさかアマチュアとは云え相撲に戻って来るとは想わなかったし・・・。


>「葉月山は今でもアマチュア学生達の憧れであり目標でありお手本なんだよ。アマチュア学生のなかにはあなたが部屋をもって力士を育てるとおもった選手はいっぱいいたんじゃないかい?その期待を裏切ったなんって云うつもりもないしそんなことを云うのはお門違いってもんだ。ただ稲倉は別だろうあなたにとって、紗理奈があなたを最初で最後の愛弟子だとおもって大相撲に連れてきたように、あなたが稲倉を女子大相撲に送り込んでやる最初で最後の愛弟子として・・・


>「葉月山さんが相撲部屋を持ったら絶対に行きたかった・・・」と沙羅は小さい声で・・・。


 (女子大相撲の世界から少し距離を置いて先の生き方をゆっくり考えたかったそんな軽い気持ちだだったのに・・・ここまで来て私を惑わす事云わないでよ!)


---------トレーニングルーム----------


 濱田光は素足になり砂の感触を確かめるように四股を踏む。さすがに廻しを締めてと云うわけにはいかずともボクサーパンツ一丁で摺り足・鉄砲とまるで相撲クラブの延長のようにある意味のやりたい放題。この部屋で男女大相撲の横綱が一人黙々と稽古を積んでいたことを考えるとこの家がまた女子大相撲の横綱百合の花が住むと云うことには何か想いのようなものを感じる。


 光の顔に大粒の汗が浮かぶと少し息を入れ白木の壁に掛けてある短刀と色紙に書かれた一文に目がいく。

           【心の上に刃やいばを載せて生きてきた】


 少なくともこの二日、元絶対横綱葉月山と一緒にいて実に楽しかった。とても厳しい勝負の世界で生きてきた女性にはとても想えないぐらいに・・・。美人聡明と云う言葉があればまさしくそんな感じの女性だと想っている。でも、このトレーニングルームは女子大相撲と云う戦場で戦うための鍛錬の部屋、「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす」と宮本武蔵が『五輪書』のなかで書いていたことを光は思い浮かべる。


(葉月さんにとって現役力士時代は世間が華やかさとは全く別の世界それはたとえ絶対横綱葉月山になり世界の力士・そしてファンからも・・・それでもあなたは【心の上に刃やいばを載せて生きてきた】それがあなたの生きざま!そのことに終止符を打ちたいのならもう相撲に係わってはダメだ!映見の入門のために手を貸す?そんなことをしたら!)


-----------リビング----------


「いいお湯でしたなんか温泉見たいに大きな浴槽で」


「モルトンブラウンのジェルソープ使いましたね?」


「あぁぁ・・・すいません」


「別に構いませんしあれしかないんで」


「それと、浴衣まで用意してもらって」


「小さくないですか?」


「えぇ大丈夫ですけどなんか本当にすいませんこんなことになってしまって」


「現役力士の時は殆ど他人の方は招くことなかったんですけどね、ましてや相撲関係者以外は多分最初で最後だと思います」


「光栄ですと云うべきですかね?」と光はクスっと笑いながら・・・


「光栄?ウイポ10(ウイニングポスト10)ですね」と葉月


「はぁ?、そこはどう反応するべきなんですかねー」


「こんな女には付き合いきれない!とか」


「確かにこんな女と付き合うには先がおもいやられるわ」


「でも大井のナイター本当に楽しかったですありがとうございました」


「いいえ、こちらこそ将来の中河部牧場の奥さんだからね、ここは仲良くしておかないと・・・」


「奥様、馬欲しい見たいでしたよ?【モンテプルチアータ】の子供を?」


「安くしてくれます?」


「・・・・年が明けたら是非とも奥様とご一緒に商談がてら・・・」


「冗談はともかく是非行かしていただきます、馬買う買わないかは別にして」


「勿論です」


 と、そんな話で会話は途切れないすでに時刻は午前1時になるもののそんなことはどうでもいい事なのだ。しかし、葉月も光も本当に話したい事をはなしていない!それは映見の女子大相撲入門の件である。


 あれだけ話が続いていたのに少し一呼吸入れるかのように喋っりやむと、ノンアルの赤ワインであるクリーン・カベルネソーヴィニヨン NVを二人とも口に運ぶブラックペッパーとココアパウダーの香りが鼻に抜ける。二人はグラスを手に持ちお互い視線をずらしていた。それは二人にとって全くどうでもいい話と云えるし大いに関係あるとも云える話・・・切り出したのは濱田光だった。


「映見はね砂の女王なんですよ!その資格と素質は映見にはある。だとしたら女子大相撲に入門することは必然だと、ただ私は無理だと想っていたし医師の目標を捨ててまでやることではないと、ただ、もし葉月さんの云われた方法を映見や映見のご両親が許すのならやってみるべきだと」


「濱田さん・・・」


「映見には女子大相撲に入門できるのが一回しかチャンスがないのら・・・馬で云うのならホクトベガなんですよ映見は、それは単に相撲が強いとか単純な話じゃなくて華があると思っています。地方競馬場に出走すると軒並み最高来場者数を記録していた。


 大井競馬の帝王賞の時なんか六万人収容のところを八万人近く来場したことがあった。ホクトベガに華があったかと云えばどちらかと云えば薄かったでも勝っていくほどに風格と自信がついて来る,そうすると不思議なもので華もついてくるもんですよ!映見もパッと咲いて終わりなんって云われたりもしたけど今度の大会でまた新たなつぼみを付けたかなって、映見の相撲は見ている者を夢中にさせる!本人を前に云うのもあれですけど、医師の免許を取得してその上で女子大相撲入門を狙うなら狙って欲しいと云うのが私の本音です!葉月山が苦しみのなかから自分の中の自分を見つけたように映見にも見つけてほしいんですよ、たとえ相撲人生が短い命だとしても・・・」


「短い命?」


「葉月さんもご存じなようにホクトベガの最後はドバイワールドカップで本当の星になった。無事ならばレース終了後はそのまま渡欧させてヨーロッパの一流種牡馬と交配させ、酒井牧場に戻って繁殖牝馬となる予定だったそうです。でもそれも運命だった・・・映見が入門して結果が出なくてもいいと想ってるんです、久しぶりにクラブに来てくれた映見は精神的に相撲をすることに疲弊しきっていたけど、相撲は嫌いにはなってはいなかた。彼女は心底相撲が好きなんだと・・・なら最後は女子大相撲でやらせてあげたい・・・全うしてその後は医師としての人生を歩めばいい、30歳までやれたとしても五年しかできない五年なんってあっという間だ!だったらやらない後悔よりやった後悔の方がすっきりあきらめもつく、それはあなたも・・・・」


(私?)


「葉月山はもう女子相撲界から引退したのでしょ?そんなあなたが映見の件で首を突っ込むのは如何なものかと?」


「私は別に・・・」


「郡上に行かなければあなたはすんなり日高に帰って第二の人生に邁進する準備ができたのに、もし、映見が女子大相撲入門を心に決めたとしたら絶対横綱葉月山が映見を黙って見ていられますかね?」


「私が映見を指導するって意味ですか?それは・・・」


「本来ならあなたは部屋を持って後進の育成に努める、それが元絶対横綱として責務だと、でもあなたは放棄した。あなたは後悔してるんじゃないんですか?」


葉月は光に対して睨みつけるような表情を見せる。


「なんですかその表情は?本音を突かれて動揺してますか?意外と感情に出やすいんですね」


「私は、もう女子相撲界に未練はありません!真奈美さんと行った日高への墓参りが私の感情を揺さぶられて勢い決断したのは事実です。女子相撲関係者・力士・ファンの方々が裏切られたと想われてる方も多いことは重々承知しています。ただ・・・」


 葉月はソファーから立ちあがり庭を望む大型のガラス窓の間に立つと・・・。


「今の映見は高校時代に憧れていた生き方そのもの・・・悔しいほどに・・・・腹が立つほどに・・・」


「葉月さん・・・」


 庭に咲いてる桔梗が月明りに照らされ紫色が見事に映える。


「私は次世代の力士を育てることをしてこなかった。未だに高校から女子大相撲に入門したことを根に持って、そんな私に憧れて目標としてくれるアマチュアの学生力士がいることに、心のどこかで馬鹿にしていたんです。映見のような優秀な学生がなんで女子大相撲に行こうと云うのか・・・」


「映見も同じだったんじゃないんですか?」


「同じ?」


「映見は本当に女子大相撲に行こうなんてこれぽっちも想っていなかった。あくまでもアマチュアとして相撲をする、外野から女子大相撲の事を云われれば云われるほどに、自分の想いに素直になれないでいた。その答えをあの大会で見つけられた。ただそこには医師国家試験と云う現実の壁がある。映見の事だから本気で日本選手権クラスの大会と医師国家試験の合格を狙っているのかもしれない。でも葉月さんの云う方法なら、指導次第で実業団での優勝を狙える。それとて難しいとは想いますが」


「柴咲総合病院はスポーツ整形とかそちらの方面では日本でも有数の医療レベルだそうです。映見はそちらの方の専門医資格を狙ているようですしその意味では映見にと・・・なにがおかしいのですか!」


葉月は光を睨みつける。光が苦笑いするような表情に意味が分からないと同時に胸糞が悪いと云うか!


「女子相撲界から去った割には色々と・・・映見の事に係わると後悔するかもしれませんよ、「なんで私は女子相撲界から去る」なんて決断をしたのかと・・・競走馬のビジネスに係わってと云うのはあなたの思い描いた理想、でも現実は女子相撲である意味の頂点を極めたあなたが次を極めるとしたら優秀な力士を送り出すこと、映見を入門させるには実業団選手権での優勝が絶対条件!それを映見が目指すことになったらあなたは黙っては見ていられない間違いなく!」


「映見が医師国家試験に合格し卒業する頃にはもう女子大相撲のことなど考えていることなどないと想います。その頃にはいち女子相撲ファンであってそれ以上の興味は無くなっているかもしれませんから」


 葉月にはそう答えるのが精一杯。自分の中のもう一人の自分が後悔しかかってる自分が・・・それを悟られないように・・・・。ただ一心に濱田の目を見るので精一杯なのだ。


 光はその視線から若干ずらすと軽くため息を・・・・。


「もうこの話はやめましょう、そもそも映見がどう思っているのかも聞いてないのに外野がどうのこうの云うのもおかしな話だ。ただ、真奈美が知ったら胸糞悪いでしょうね・・・」


「それは、理事長の方からなにかしら真奈美さんに相談が・・・」


「そうでしょうか?私なら真奈美には相談しませんよ、あいつの性格しってますからましてや理事長なら尚更、映見には事前に云うでしょうけど当然、卒業すればもう真奈美は手も足も出ませんから」


「・・・・・」


「映見が卒業する時が真奈美が監督を辞める潮時なんです。静かに映見が大学からいなくなるそして真奈美も監督を引き継いでもらう、あいつが一番嫌がるのは映見が他人の手で女子相撲入門することだと・・・だから真奈美にはこの話絶対に耳に入れさせないように、それじゃ私帰ります下総中山の始発に乗れば東名の高速バス名古屋行きの最初の便に乗れますんでバスの車内で寝て帰ります」


「東京駅まで車で・・・」


「葉月さん。もしあなたがどうしても映見の力になりたいと云うのなら止めません。ただ、間違えなくあなたは女子大相撲界から去ったことに後悔しますよ!間違えなく」


「・・・・」


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