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女力士への道  作者: hidekazu
勝利の意味

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プロ志望  ③

 料理が始まる。


〇 自家製コンソメと揚げなす、半熟卵のジュレ

〇 エビのベーコン巻サラダ、インゲンとジャガイモ添え

〇 鶏と茸フリッセ

〇 檸檬のグラニテ

〇 岐阜県産のランプステーキ

〇 鶏そぼろご飯

〇 デセール

〇 紅茶


 そして料理の間の何気ない会話。さくらにとっては今まで経験したことない時間。


「私、こういう場所今まで来たことないしちよっと緊張したけど本当に美味しかったです」とさくら

「そうそれはよかった。でも緊張していた割には結構パクパク食べてたけど・・・ランプステーキ二枚ぐらい追加してやらないと可哀そうなぐらい」と瞳

「一枚まだしも二枚はちょっと」と笑って見せる

「それは一枚追加しろと云うことかしら?」

「えっ・・・・」

「冗談よ冗談。そんな事云ったらあなたの学校に請求書送るから」と瞳。

「私、地元だけどこんな店あるとか知らなくて・・・・ここなんで知ってるんですか?」

「昔付き合ってた彼氏がねぇ・・・っておい」

「・・・・・」

「危うく誘導自問に掛かるとこだったわ」と顔が真っ赤に

「顔、相当赤いですけど・・・・」

「マルティーニ・ブリュットのせいよそのせいよ」とハーフボトルを飲んだせいに


一時間弱の食事を終え店を出ると二人は長良川沿いの道を上流へしばらく歩き堤防下のコンクリ路へ下りる。川には鵜飼いで使う「鵜舟」がシーズンオフのために入り江のようなところに停泊している。二人は長良橋の下で足を止めると。多少酔いも冷めた瞳が・・・


「で今日の本題なんだけど」とさくらの顔を下から見上げるように

「本題?」とさくら

「おいおいふざけんなよこのガキが・・・・」

「・・・・・・」

「謝罪するんだろうが」

「あっ・・・」

「あっじゃねぇだろう」と呆れ顔の瞳。

「すいません。ちよっと楽しくって肝心なことを忘れてました」と頭を下げる

「さくら。私も楽しかった久しぶりに・・・ちょっと大柄過ぎる妹みたいで」

(いや大柄は余計でしょ)

「さくら。もう謝罪とかはいい。さくらと話してわかったから・・・・ただ」

「ただ?」

「ただ西経を愚弄したことは許せない。そこでさくらには謝罪の代わりにうちの相撲部に出稽古に来てほしい」

「私こそ喜んで行きたいです・・・けど」

「裕子さんからなんか聞いてるか?」

「えっあぁぁ・・・」

「さくら一人で来い。一応云っとくけどさくらを一人で来させて相撲部でいじめる何ってないからそれは安心して次期主将吉瀬瞳として約束する」

「それと・・・監督が許してくれないと・・・」

「監督?」

「島尾監督に許可を貰わないと」

(そうか明星の監督は西経のOGだったけ)

「監督に何かいわれているの?」

「いいえ云われているわけではありませんが・・・」


瞳は流れる川面を眺めながら大きく息を吸いそして目をつぶり息を吐く。


「正直に云う。映見を復活させてほしい」

「映見さんを復活・・・・?」

さくらには瞳が云っている意味が全く理解できない。

「映見はもう相撲を辞めるかもしれない」

(映見さんが相撲を辞めるって・・・えっ・・・意味が)

「映見の相撲への情熱の火が消えかかっているの・・・正直、私にはどうすればいいかわからないの」

「瞳さん・・・」


 瞳は映見に対して全幅の信頼を置いていたし当然映見も私に全幅の信頼を置いていてくれているのだろうと想っていた。でもあの一言が・・・。


「少し疲れてるんです。大学に入って授業も大変なんです。それと相撲に対しての熱が冷めたと云うか」


高校時代から一緒にある意味では戦ってきたともいえる映見に云われたのはショックだった。それ以上に相談すらしてくれなかったことに一つの寂しさを感じていた。そんな時選手会で出会った石川さくらに心を惹かれてしまった。

映見のと云う学生力士にあれだけむきに擁護するのはなんなだろう?石井さくらにとって稲倉恵美は目標だと云うことは映見から聞かされたことがある。映見自身はそのことに関しては特別的な感情は抱いていないようだがさくらにとっては違うのかもしれない。そこまで惹かれていながら・・・・。

 さくらというこの高校生を映見にぶつければ何かが変わるのではと思ったのが半分ともう半分は・・・。


「さくらさん。私は映見に相撲を続けてもらいたいただそれだけなのだから協力してほしてほしい」とさくらに頭を下げる。

「ひっ瞳さんちよっとやめてください」

「ごめん。自分でも本当によくわからないのよ」


長良川橋を上流に向かい歩き出す二人。河川敷の駐車場から砂利の河原へ下りる。大小の石が二人の足元を不安定にさせる。水辺の際まで行くと透明度がよくわかる。緩やかな流れと囁くような音。


「さくらさんはなんで相撲やってるの?」

「なんでって」と云われてもすぐに返答できないさくら。

「私は心技体が一瞬で融合して勝負を決める。その面白さだと思うのよ一つでも欠けたら相手にやられる。わたし勝負とか好きなのよね自分では嫌いだと思ってるのだけど」

「その気持ちわかります。私も迷ったりすると勝てないし・・・・それに瞳さんに負けたのは自分の驕りだった」

「・・・・」

「私、こんな小兵に負けるはずがないって絶対的自信があった。でもわからないうちに負けてしまった。瞳さんには失礼ですけど舐め切ってました」

「相撲ってただ力任せにぶち当たっていっても勝てるわけじゃないの相手の特徴を分析して作戦を立てる海外だとなおさら相手を知らないわけだから瞬時に特徴をつかんで攻略を立てる。さくらさんには申し訳ないけどもうちょっと頭を使った方が良いと思う。感覚だけでやっているとその先はないわよ」

「瞳さん」

「何?」

「西経に出稽古の行きたいです。映見さんと稽古もしたいでいすけどそれと同じくらい瞳さんとしたいです」


 石井さくらを映見と稽古させて映見の相撲に対する気持ちをもう一度奮い立たせたいと云うのともう半分はさくらを西経に入れたい。でもそれは瞳にとっては何の意味もない。さくらが西経に入ったとしても瞳は大学は卒業している一緒に相撲はできないのだ。それでも私に刃向かってきたあの態度は許せないと同時にあの勝気な性格は映見にはない。そのことが瞳の心を高ぶらせた。


「自分をもっと飛躍させたかったら西経に出稽古に来なさい。誰とも相談なく自分自身で判断して来るなら歓迎する。たとえ来なくても私はあなたとの関係を続けられるのなら続けたい同じ学生力士として・・・・じゃ私はこれで」と云うと瞳は長良橋の方に歩き出す。

「あのー・・・」

瞳は足は止めたが振り向かない。

「私、西経の出稽古に絶対行きます。映見先輩とも稽古したいそれと瞳さんとも・・・だから私絶対行きますから一人で行きますから・・・もっと相撲が上手くなって・・・・女子大相撲に行きたいんです!」

瞳は右手を軽く上げまた歩き出した。

(さくらは大相撲に行きたいんだね良いと思うよ。でもねぇさくら。プロに行く前に色々勉強するのも悪くないと思う。西経に来るべき出稽古じゃなく入学して相撲部に来るべきだわ)


 瞳は長良橋からバスで岐阜駅へ


(確かに高校卒でプロに行くのと大学からでは4年の差がある。女子力士にとては大学の4年間は無駄な時間かも知れない。ましてや女子大相撲力士の大半は30前後で引退してしまう。選手寿命はあなたの名前のさくらのように短い。三役の3/2は高卒なのも事実。でもねぇ引退後を考えれば大学で相撲以外のことを勉強するのも悪くない)


 今の瞳は石川さくらのことであたまがいっぱいなのだ。映見復活のために石井さくらを利用しようと考えていることは事実。でももう一つの瞳の中に石井さくらが西経の横綱として活躍する姿が 


 (もし私が一年遅く入学していたら石川さくらと一緒に戦うこともできたのか・・・)


映見と云う才能あふれる学生力士と一緒に部にいられることはお互い切磋琢磨して部の意識改革をしてきたその過程において部の力が落ちてしまったことは事実。だからと云ってまえに戻す気なんか全くなかった。でも失ってしまったことがあった。それは勝利への執念。過度の勝利至上主義は西経の源泉だったかもしれないがそれは部員数の減少と女子相撲発展のためにはよくないと瞳は思いある意味の寛容さも必要だとそれが部の意識改革だった。実際入部希望者も増え部員数は倍にもなった。でも・・・。


 勝利への執念だけではなくたとえ負けがわかったとしても最後まで捨てない執念がなくなってしまった。瞳はプロには行かないでも学生力士であるうちは勝敗には拘らないとしても最後まで相手に全力で立ちはだかる。最後まで全力を尽くすことで、相手への敬意を示そう。それが瞳の相撲信条である。それは相撲以外でも同じこと。


 映見は「プロに行かないのだから何故そこまで勝利に拘るのそんなの意味がないと・・・」大学入学後は特にそれが顕著になった。大学生になると大会数も多くなる高校とはレベルが数段上がる海外遠征の機会も増える。本当なら学生力士にしてみればうれしくてしょうがないのに・・・・。


 瞳にはそのことが映見を見ていると腹立たしいのに対してさくらは本当にストレートなのだそれも剛速球の気概が伝わってくる。それは映見にはないそれに瞳自身にも・・・。


 (本当は女子大相撲の世界に行ってみたい自分がいるなのに入り口に行こうともしない自分がいる)


 本当に腹立だしいのは自分自身。答えが出ているのにわざわざ答えが正解なのか不正解なのか実践する意味があるのか?本当はやってみないとわからないのに・・・・。


 女子大相撲が創設され世界的にも認知されたことは女子相撲の力士達にとっては望んでいたことなのに今の自分は実は冷めた目で見ていることに気づく。そのモヤモヤした隙間を石井さくらと云う純粋に相撲だけに打ち込んでいる少女を心の拠り所にしたがっているだけなのかも知れない。

 


 







 





 

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