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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ①

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207/324

砂の女王 ④

 濱田光は聖路加国際病院近くのオフィスビル12階にある喫茶コーナーから眼下の隅田川をコーヒーを飲みながら眺めていた。自分が起業した会社ではあるが今はかつての部下が飛躍的に成長させ国際的企業のシステムズエンジニアリング(SE)会社なのだ


 今は社外取締役として本人は元部下にお情けで雇入れてもらっていると云うが・・・。


「光さんの云われていたことが表面化してきましたね」と財務執行役員の霧島が少し安堵の表情で・・・。


「あの国にはバランスシートなんかあってないようなもんだしどれだけ債務超過であろうが裁判所が破産を認めない限り企業として活動できる。裁判所が破産を認めた時は何もなく・・・」と光


「正直云うと、社内で撤退を提案した5年前は大反対にあいまして、会社にいられなくなるほどに」


「まぁ当たり前だと想うよ、ただ好調の時こそ最悪の事態を考える奴がいないといざという時に対応できない、霧島も憎まれるほどに成長してるんだよ、そろそろCFOか」と光


「光さんもう本当に一線に戻って来る気はないんですね?」


「ない!何度も同じこと聞くなよ、俺は自分でも云うのもなんだけど現役時代に一生分の仕事をしたと思ってるんだよ。真奈美とも籍を入れたでも夫婦としてではなく恋人みたいなつもりでそれでも死ぬまで付き合うつもりでいるよ、お互いの生き方を尊重しあいながら・・・まぁそんなところだよ」


「濱田光も歳を取ると温和になるんですね」と霧島は苦笑しながら


「みんなに嫌われたくないんで・・・じゃ帰るわ」


「どっかで食事でも」


「あぁこの後、人と会う約束があって悪いんだけど」


「女性とか?」


「霧島、そういう勘は仕事で使え」


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光は聖路加国際病院の脇を抜け有楽町線新富町駅へスマホを左耳にあてながら歩いていく。


「あぁ、濱田ですもう着いたんですか?」


「えぇ、駐車場入ってすぐのところに止めたのですぐわかると思います」


「了解しました。今、新富町の駅なんで20分ぐらいで行けると思います」


「わかりました」


 相手は椎名葉月。名古屋から市川の葉月の自宅に到着後、光は仮眠したあと外出して行ったのだ。葉月は光の外出後、久々にトレーニングルームに入り四股を踏み、股割をしすり足、鉄砲と自分の中でもうやらないと決めていたのに・・・。つい濱田さんの相撲クラブで稽古をつけるなどと調子の良いこと云って・・・・。


 葉月はシャワーを浴びて身支度を済ませ車を走らせる。濱田は夢の島公園第一駐車場(南)を指定してきた。新木場駅のすぐそばだしそこからだったら大井競馬場まで一本道だからだそうで、葉月は指定された午後1時30分より30分も早く来てしまったのだ。遅れてはいけないと云うこと以上に濱田光と云う人物に興味があったから・・・恋愛感情とかではなく何か友情関係と云うか何か気兼ねなく楽しい時間を過ごせるようなそしてなんでも話ができそうな気がして・・・・。そんなことを想っているとサイドウインドをノックする音が・・・。葉月は慌ててドアロックを解除する。


「待ちました?」と乗り込む光


「いいえ、私がちょと着くのが早すぎて、じゃ車出しますね」と葉月は出口の方向へ、


「あっ、この香り・・・・」


「えっ、何か?」


「これって、モルトンブラウンのリリー&マグノリアブロッサム のジェルソープですよね?」


「えっ・・・よくわかりますね」


「真奈美がこのシリーズ使っていて・・・」 


「真奈美さんも使われているんですね」


「ちょと試しに使ったらえらい怒られて」


「それはダメですよ」と葉月は笑いながら


「「あなたにはよくて青箱がお似合いよ!」って」


「青箱もいい石鹸ですよ!」


「真奈美は拘り強いから・・・全く」


「アマチュア女子相撲の女帝ですから」


「私は今は真奈美のヒモなんで・・・・」


「ヒモ?」


「ヒモ男に狙われやすい女性の特徴3つって知ってます?」


「さぁ」


「高収入・母性愛・恋愛依存その3つです」


「はぁ~・・・」


「この3つの要件を満たしているんですよ!でもねー」


「でも?」


「非情に気難しい、名牝でありながらとにかく気性が荒かったスイープトウショウみたいなもんでしってます?」


「フォーティナイナーを経由したミスタープロスペクター系の父エンドスウィープ、そして母はタバサトウショウ(その父ダンシングブレーヴ)という、スピードと底力の双方を備えたトウショウ牧場の最後の砦と云ってもいい馬でしたよね」


「・・・・・」


「えっ、なんか間違えてます?」


「ちょと葉月さんの馬の知識と云うか想像を超えてるので・・・」


「力士辞めてから少女だった頃のように競走馬の虫が騒ぎ出して、ちょくちょく中山へ、血統の知識は子供の頃からの事なので」


「中河部牧場の嫁としては、ちょっと心配だな」


「えっ、何がですか?」


「牧場の主導権とか裏で旦那に指示しそうで」と光


「あぁ、そこは自重するつもりですから」


「自重?なんか真奈美に似てますぜ」


「私は真奈美さんの生き方嫌いじゃないんで」


「はぁ~んそうすると遅かれ早かれ離婚ですね」と光はニヤニヤしながら


「・・・・・それは嫌です!」と葉月もニヤニヤしながら


CX-5は湾岸トンネルを抜け大井中央陸橋に上がり右折すると左手に大井競馬場のスタンドが見える。


「大井競馬場って来たことあります?」


「いいえ、現役時代は競馬場には行かなかったので」


「意識的にですか・・・」


「・・・・・・」葉月は答えなかった。


第一駐車場に車を止めスタンド方向に歩いていく。


 葉月はライム(LIME) のトートバッグを右手に持ち、光は手ぶら?


「女性って荷物多いんですね?」


「まぁ色々、タブレットPCが入っているので」


「タブレットPC?」


「北海道に戻るまでに執筆やら色々あって競争馬の血統やらその他の事もJRAのデータベースに繋げればわかりますし」


「なるほどね、まぁ常識でしょうね勝馬投票券も競馬新聞もネットですからね、ちょっと待ってください競馬新聞買ってきますんで」


「えっ・・・」


「どうも、紙の新聞の方が落ち着くんで・・・はぁい」


光は近くの売店に新聞を買いにく、葉月は近くに見えるパドックへ・・・・。葉月はパドックで馬を見るのが好きだ。確かにコースを疾走するのが競走馬本来の姿かもしれないが・・・。テレビで武豊が


 「パドックなんか見ても、(馬券が)当たるわけないじゃないですか」


 葉月からすると武豊の云っている意味は理解できる。それでもパドックで見るとすればこうも云っていた


 「1頭の馬を追いかける縦の比較をすべき」


 葉月はその意味も理解できる、そしてもひとつあるとしたら馬の何気ない仕草・・・・。


 力士を辞め初めて行った秋の天皇賞での事、東京競馬場メモリアルスタンド5階の指定席から観戦していた葉月、今日のメインの一番人気「ハヤヒデ」は圧倒的一番人気の1.3倍、菊花賞・天皇賞(春)・宝塚記念に勝ち尚且つ連をはずしたことがない4歳の時に年度代表馬にもなった名馬。当然葉月もこの馬に注目していたのは当然である。葉月は席を外れ売店へコーヒーを買いに行き席に戻る時にふとコースの反対側の景色に目がとまり何気にガラス越しから下を見た時に厩舎のようなものが目に留まる。そこは出走馬の馬体検査、蹄鉄の検査、馬体重の測定を受ける装鞍所(そうあんじょ)だったのだ。装鞍所への立ち入りは、公正確保のために当該競馬に従事する者、出走馬の厩舎関係者および開催執務委員長が特に許可した者に限られるとされている


(ハヤヒデ・・・)


 葉月は上から装鞍所で待機している「ハヤヒデ」を発見し見入っていたのだが、そこに三人の厩舎関係者と思しき人物が「ハヤヒデ」を掻っ込んで何やら話し込んでいる。ハヤヒデはなにやら左前脚を気にしてるようにしきりに足を動かす、そんな様子を上から見ながら直感で思った。


(左前脚に何かしらの問題があるの?)


パドックではないこの場所は馬も人間も本音を出せるのかもしれない・・・。そして、パドックに入り周回するハヤヒデは装鞍所で見せていた脚を気にする素振りは全く見せず威風堂々と圧倒的一番人気と云う感じではあるが、葉月にはとてもそんな気持ちでは見れないでいた。本馬場からの返し馬も至って普通に、向こう正面ではハヤヒデを歩かす騎手はしきりに足元を見ているように葉月には見えた。


(ジョッキーは何かしら気になっているんだわ・・・・)


 レースはいつも通り先行したが、最終コーナーから最後の直線にかけて一度も先頭に立つことなく5着と初めて連をはずしたのだ。ハヤヒデに騎乗していた騎手は下馬し馬は馬運車に乗せられて退場する事態に、その後、左前脚に屈腱炎を発症していることが判明し全治1年以上と診断されたのだ


 「パドックで跨った瞬間、いつもと違うと感じた」「道中は脚の異常は感じなかったが、反応がすごく悪かった。ボキッといかなかっただけよかったよ」と云うレース後のジョッキーの談話を苦々しく思ったが騎手とすればそこで騎乗拒否などと云う選択はない。


 装鞍所でハヤヒデがしきりに左前脚を気にしていたことが今でも頭から忘れられない。勝負の世界、馬も人間も同じなのだ。強い馬ほど大きいレースが近づくと自分で飼葉の量を調整すると云うそれは元葉月山も同じこと。そして、調子が悪かろうと大勢の人前ではそんな素振りは絶対に見せず試合の場へ・・・。


 ハヤヒデは天皇賞(秋)を最後に引退。葉月にとっては忘れられない天皇賞(秋)なのだ。


「葉月さん・・・」


「あぁ、濱田さん」


「なんか馬を見ていると云う雰囲気ではなかったですけど?呼んでも上の空って感じで」


「すいませんなんか競争馬見ていると色々考えてしまう癖があって・・・」


「まぁ色々あるでしょう・・・暑いですからスタンドの方に熱中症になりそうですよ」


「わかりました」


 場内の気温計は34度を表示している。時刻は午後2時20分、第1レースの出走時刻は午後2時50分、ナイター競馬の始まりだ。

 


 


 









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