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女力士への道  作者: hidekazu
女力士への道 ①

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206/324

砂の女王 ③

 葉月が相撲場の白木壁に身を委ねていると光が沙羅を送って帰ってきた。


「すいません遅くなりまして」と光


「いいえ、こうゆう場所は久しぶりなんででもなんか羨ましいですね今のアマチュア選手はこんな整った場所で稽古ができるなんて」


「OB・OGはブーブー云ってますけどね」と光は笑いながら


「そんなことを云われてもね」と葉月も笑いながら


「まったくですよ本当に・・・ところでこれから東京にお帰りですか?」


「えぇ、どこかで仮眠しながら帰ろうかなって」


「そうですか、ちょっと話でもしたいなとおもったりしたんですけどね」


「話?相撲ですか?」


「あぁぁ・・・馬の」と光は頭を掻きながら・・・・


「馬の話って・・・・」と葉月もヤニヤしながら・・・・。


「時間が時間ですし食事でも?」


「そうですね・・・これからだと市川に帰るのも夜明け前だしどこかで仮眠しないと・・・」


「だったら真奈美のところに泊まればいい」


「真奈美さんのところって一緒に住まれてないんですか?」


「えぇ、私も真奈美も色々ありますしまぁなんだろな偶にどちらかに泊まりに行くって感じなんで、付かず離れずってところです。まぁなんだろな・・・とりあえず食事しましょうその後のことは後で」


「わかりました」


葉月は光のステップワゴンの後ろに付いていく、踏切を渡りとんかつ店に入る。



 店内に入りテーブル席に座る


「もうちょっと洒落た店にするべきなんでしょうけどすいません」


「いいえ、味噌カツとか好きですよ」


「あぁよかった。ここ値段の割にはうまいんで、あっ値段の事は云いませんよね普通・・・」と光


「値段と釣り合いがとれてるかは重要ですからね、意外と私うるさいんですよ」と葉月


「それとここは、値段の割には旨いと思います。それから、ご飯・味噌汁・キャベツのおかわりOKですから」


「一応、ダイエットしてるんで・・・・一応」と葉月


「ですよねー・・・・」とバツが悪い光


 そんなどうでもいい会話をしながらの食事だがとてもお互い初対面と云う感じがしないのは、どこか気が合うのかもしれない。


 葉月からしたら真奈美の旦那であることが根拠のない安心感、光からするとあの椎名牧場の娘と云うことがこれまた根拠のない親近感に繋がってるのかもしれない。


「でも、沙羅との相撲を見て葉月山の強さの秘密の一つがよくわかりました」


「秘密って、私は全力でしたよやっぱり中学生には負ける訳にはいかないとただそれだけで」


「身長もそれなりにあって足も長い、そんな力士は重心が高いから沙羅のように自分より低い身長の相手の懐に入るのもなかなか厳しいからそこから押し上げるの無理、だから上から引き上げるようにするのだけどそれは重心が高くなり不安要素になるその時、普通の人なら頭を下げて重心を下げようと頭を下げたりするのだけどあなたは高い位置をキープしたままぐいぐい押し上げる。頭を下げて重心を下げても前のめりに重心が掛かれば相手の思うつぼ、この体制から葉月山が負けるときは頭が下がった時…ですよね?」


「・・・・」葉月は自然と笑みを浮かべた


「何か、おかしいですか?」と光


「さすが、真奈美さんの旦那さんってところですかね」と葉月はクスクス笑いながら


「あなたの四股を見た時に膝が異常に開いて腰が前に出ているのを見て、葉月山の強かった理由の秘密の一つがわかったと・・・」


「私が幕内に昇進した時、私の師匠から腰高の事を指摘され試行錯誤したことがあったんです。そのことで成績も低迷してしまって、そんな時、私のファン倶楽部に入って頂いていた大学教授の先生が光さんと同じようなことを云われて、「そこを直したらあなたは終わるって」工学部で私に色々資料を渡してくれたのはいいんですが数式がいっぱい書いてあって相撲より数学の勉強する羽目になって・・・そう云えば真奈美さんも高校時代そんな事をされたとか云ってましたけど?」


「あぁそんなこともありましたね、まぁ真奈美は5%も理解できなかったでしょうが」


「いいんですかそんなこと云って」


「でもね、真奈美はよく勉強してましたよ、起業に際してその後も私のサポートをあれだけやってくれたのに私の気持ちに真奈美をおもいやる余裕がなくてね・・・」


「でも今は?」と葉月


「今はね高校生の時ぐらいの付き合いでいいのかなって、籍は入れましたけど恋人ぐらいの感覚でいいのかなって、他人には理解できないでしょうけどね。ってそんな話じゃないでしょ」と光


「真奈美さんが離婚されて再婚しなかったのは光さんの想いが」


「もう私に束縛されず好きに生きてくれればそれでいいんです、逆に私が束縛されるんじゃないかとドキドキなんですけどね」


「よく云いますよ全く」


名古屋味噌カツを食べながら結局相撲の話をしてしまうのは悲しいさが・・・でもないけど相手が元菜月山でかつ理論的に相撲の話ができるとなれば光的には楽しくないわけがない。


「真奈美さんと相撲の話とかされないんですか?」


「真奈美からしてくれば話ますけどこっちからはしませんよめんどくさいんで」


「面倒くさいって・・・・」


「聞き上手の話し下手に徹しないといけないんで」と光


「・・・・・・」


(どこが!)と葉月


(意外と喋るなって、いやいやせっかくなんだから馬の・・・・)


 時刻は午後8時。葉月の自宅の市川まで休憩含めて6時間弱とか云うところだが、今日は朝早かったし不安だが・・・。


「それじゃそろそろ」


「葉月さん」


「はい」


「もし、ご迷惑でなければ東京まで乗せて行ってくれませんか?」


「えっ、」


 翌日、東京に行くのは確かなのだが・・・・。


「もし、よければ・・・私が運転してもいいですしそうすれば仮眠しながら帰れますし」


「でも・・・」


「ご迷惑でなければ・・・・」


「とんでもないです、正直云うと若干不安だったので・・・」


「じゃーいいですか?」


「大歓迎です。で東京へはお仕事か何かで?」


「午前中は仕事関連で午後は大井のナイターに行って見ようかなっと」


「大井のナイターって、馬ですか?」


「さすが馬娘!」


「ナイター競馬って行った事ないなー」と葉月


 光はその姿をじっと見る。


「な、なんですか?」


「私も行きたいわ「ブルルル」・・・・と馬娘は云いました」と光


「・・・・・」


「あれ?」


「大丈夫ですか私を誘って」と葉月


「私がおかしなことを実行しようとしたらボコボコにされるのは目に見えるので」


「わかりました。その誘いに乗ります」


「さすが、話が早い」と光はスマホでなにやら・・・・しばらくスマホをいじり・・・。



「プライムシートの両端取れましたのです。いやー楽しみだなー」


「私と行って楽しいかどうかわかりませよ」


「中河部牧場の若奥様の馬を見る資質を見れるので楽しみで・・・」


「まだ、籍は入れてないので・・・・一応」


「そうなんですか・・・馬娘で云うとメジロラモーヌですかね」


「メジロラモーヌ好きですよ」


「メジロラモーヌの理想馬体重って知ってます?」


「理想馬体重ですか?確かいつも450か60でしたかね?」


「答えは嫉妬するほど理想的です」


「・・・・・・はぁ?」



 そんな二人は、まず丸の内、光のマンションで二時間ほど仮眠し葉月のCX-5で名古屋を出る、時刻は午前1時。名古屋高速都心環状線に入り新東名高速道路へ、大型トラックの魚の群れの中を違う魚のように縫うように素早く抜けていく。運転は光で・・・。


「葉月さんって東京のどちらにお住まいで?」


「東京ではないんです、市川で法華経寺と云うお寺の近くに・・・」


「法華経寺、あぁ近くに東山魁夷の記念館がありますよね二回ぐらい行きましたかね・・・と云うより中山の近くじゃないですか、歩いていける距離だし・・・好きなんですね」


「はぁ?、別に中山が近いからあそこに住んでいるわけじゃ・・・大相撲元横綱の美瑛富士の自宅だったんです、ちっと縁があって買うことになって・・・」


「美瑛富士か・・・まだまだやれたのにね、多いんだよね力士の突然死って」


「けして体格的には恵まれてなかったから色々無理をしていたのだと・・・」


「ごく普通の体型のスポーツマンが力と技を競い合うところに、相撲本来の姿があるように思いますけどね、身長180弱は別としても体重160って云うのが大相撲の平均らしいけどまともじゃないと思いますよ、そのことで命を縮めるくらいなら力士なんてやめた方がいい!云い方はあれだけど相撲を引退した後の事を考えたらやってることはまともじゃない、「太く短く」が力士だと云うのならそれ以上は云いませんけど・・・」


「同意できるところもありますが無差別であるからこそ面白いのでそこは」


「「小よく大を制す」は「柔よく剛を制す」古代中国の老子の思想をもとにした『三略』の中の有名な一節。それが転じ武術武道でよく使われている言葉です。柔道の技で相手の力を巧みに利用して小さい人でも大きい人を豪快に投げ飛ばす。でもそれだって限度がある。大相撲にもおなじことが云えますけどね女子相撲の海外選手は尚更その傾向が強い、でもそれでも体格的に劣る日本人女性力士が活躍できているのは男子力士も見習うべきでしょうね」


「日本の女性力士スピードと技さらに云えば土俵際での攻防、それでも対抗できる身体能力は必然ですけど私はそれが日本の女子相撲の神髄かな・・・とは思っています」


光の運転するCX-5は少々オーバースピードと云えるハイペースで飛ばし早くも駿河湾沼津SA手前まで


 光はふと葉月を見るとすでに夢の中へ・・・・・。


(おいおい、そんなのありかよ)と想いながらもその寝顔はまるで少女のように・・・・。(意外と可愛いいじゃねぇかおい)



 CX-5は東名・首都高環状線を半周し7号線へ京葉道原木ICへ・・・。


「あぁぁすいませんつい安心して寝てしまって、沼津くらいですか?」


「・・・江戸川渡りましたけど」


「江戸川?・・・えっ・・・えぇ!すいません本当に!本当にすいません!」


「さすがに起こすのも気が引けるぐらい寝てらしたんで」


「じゃここまでノンストップで?」


「だいぶ飛ばしゃいましたけど・・・」


 時刻は午前4時30分,「朝ぼらけ」がぴったりと云う感じで・・・・。


 

「原木IC降りたらそのまま東中山の跨線橋を超えた所にコンビニありましたよね?そこで替わってください」


「わかりました」


「ほんとは途中で降ろしてももらおうかと想ったんですけど・・・まだ早いんで葉月さんの自宅でちょと横にならしってもらっていいですか?」


「もちろんですよ!」


「すいません」


 光にとっては全く想定外のことになったが・・・・。

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