砂の女王 ②
葉月は沙羅から借りた相撲用レオタードと廻しを絞め現れた。少しレオタードも廻しもゆとりがあるがそこは元力士、様になってる。葉月はゆっくり四股を踏んでいくが現役当時のようにはいかなのは致し方ないとは云えそれでも体幹の強さは健在と云ったところか・・・・すり足・四股・股割と短時間だがやっていく。
沙羅は光の横で葉月の動作を見ている
「葉月山さんの時に見たかったです。でも力士を辞められても四股とか凄い綺麗です」と沙羅
「そうだな、でも沙羅あの絶対横綱の葉月山さんと稽古ができるなんてもう絶対ないぞ」と光
「本当はガチンコで相撲をしてみたいんですけど・・・」と沙羅は真面目な顔で
「ガチンコって、相手は引退したとはいえ元力士で絶対横綱なんだぞ沙羅」
「でも今の私ならまぐれでもありかなって・・・」
葉月は四股をやめ二人を見る
「なんですか、二人でひそひそ話見たいに」と葉月は顔の汗を拭く
光はチラッと沙羅を見ると・・・・。
「なんか沙羅が本気モードの相撲がしたいそうですけど」と光
「本気モード?」葉月は一瞬何を云っているのかと云う表情で
「先生、もう・・・」と沙羅
「なんか・・・いまの葉月さんなら「チョロイ」とか・・・・」
「・・・・・!?」と葉月の表情が変わったような・・・
「せ、先生、そんな事云ってないじゃないですか!」と怒りながらどこか動揺している沙羅
「云ってなかったけ?」
「云ってませんよ、あぁもうやめてくださいよ全く」と沙羅
葉月はニヤニヤしながら沙羅を見ると・・・・。
「私も舐められたものね・・・って云いたいところだけどさすがに中学生とは云え無理かな」と葉月
「本当に私「チョロイ」とか云ってませんから!」
「云ってなくてもそれに近いことは云ったでしょ?」といつの間に沙羅のそばまで来て下から目線で・・・。
「・・・・・」沙羅はその視線に固まってしまった。沙羅の横でその様子を見ている光は心の中で・・・。
(おいおい、絶対横綱とあろう方が中学生相手にそんなプレシャーかけなくても、負けず嫌いと云うか大人げないと云うか・・・)と思っていたら葉月の視線は光に・・・。
「先生、何か云いたそうな表情ですけど」と今度は光に下から目線で
「えっ・・・いや・・とにかく後はお任せしますので」
「なんかしっくりこないですけど・・・じゃやろか沙羅さん」
「はい!」
体格的には葉月は沙羅とはいい勝負には見えるが体重差だけは如何ともできない葉月よりプラス30kgというところで素人目にはもしガチンコをしたら敵わないましてや現役引退後相撲らしきことは何回かはしたが・・・。
葉月は沙羅を組ませ、廻しの掴み方から始まり上手・下手の切り方またその逆もしかりなどなど細かいテクニック的ことを体験される。細かいことと云うか何か小手先のことを沙羅も光も感じていた。
「なんか詰まらそうな感じね」と葉月
「いぇそんなことは・・・」と沙羅
「今日私が教えた細かいことは今はそんなに考えなくてもいいわ中学生ぐらいまではおもいっきり相撲をとるただがむしゃらにやり切るそれでいい。
でもね、高校に上がればがむしゃらの相撲は通じなくなるその時に、今日私が教えた事を思い出して欲しいのよ、プロの女子相撲が何故無差別でアマはなぜ階級制なのか?小兵力士が何故巨漢力士に勝てるのか、そこには知恵とか技とか力以外の要素は大きいの、心技体の心と技で8割勝負は決まると思ってる,沙羅さんは体格的に恵まれているそれだけで大きなアドバンテージになるけどそれもそうわ長くは続かないわ。
まぁそんなところかな、私はアマチュア選手に相撲の事とか殆ど教えたことがないから私の意図としているところが伝わっていないかもしれないけど、色々相撲というものは奥が深いのもいのよ・・・さて、それじゃ最後はあなたのご希望を叶えてあげるわ」
「ご希望?」
「ガチンコ勝負よ」
「えっ・・・」
「えっ、じゃないわよ!まったく」
葉月は改めて四股踏み、鉄砲柱で鉄砲を何回か繰り返す。
(さすがに上手いなと光は改めて葉月に感心する)
ただ張り手を繰り返すイメージのある鉄砲だがそんな単純なものではなくただ手を突くのではなく、腰や足など、身体全体を使って行うことが、鉄砲を行う上での重要なポイントなのだ。攻める場合の足の運び方や手の動かし方を稽古するのが鉄砲なのだ。
「沙羅、葉月さんの鉄砲よく見とけ、腕・腰・足の動きちゃんと調律されたように動く、相撲はバランスなんだ力だけで押し切れるのはせいぜい中学生までだな」
「葉月さんに云われました。高校に上がればがむしゃらの相撲は通じなくなるその時に、今日私が教えた事を思い出してって」と沙羅
「そうか・・・沙羅、今日は忘れれない日になるな・・・ところで葉月山に勝てそうか?おい・・・」と光はニヤニヤしながら
「ここはがむしゃらに行きます。得意の四つでがっぷりで余計な事は考えず」
「そうだな、相手は元絶対横綱だ今自分のできる相撲をする、そうすれば葉月さんは答えてくれるよ、きっと・・・・。」
「はい!。でも勝ちに行きます体格的には私の方が身長も下ですけど少なくとも力負けはないと思うので」
「いいじゃないか沙羅のその気持ち、でも相手は超一流だからな」
「わかってます」と沙羅は頬を両手で叩き気合を入れる。
葉月は土俵に上がりいつでもどうぞと云う感じで沙羅を見ている。沙羅も土俵に上がる
光にとっては想像すらしたことがない取り組みに心が躍る
「じゃ私が合図します。見合って見合って……、はっけよい!」と云うと両者一気に当たる。葉月は左差しから、下手まわしを掴むが右の上手を沙羅に阻まれ掴むことに上手が取れない苦しい状況、沙羅は左で下手をつかみに行くが葉月に左腕を抱え込まれてしまって掴めない、ここで両者、膠着状態かと思ったが葉月は強引に沙羅の左腕を抱え込んで引っ張り上げるようにしながら前へ怒涛の如く出て行く。
(なんて強引な・・・沙羅の足が浮かさるかのようにそのことで沙羅が押され負けている)と光
沙羅は体勢を低くしなんとか押し負けを食い止めようとするが止めきれない。
「沙羅!回り込め」
光は葉月山の腰の位置が高いことを見逃さなかった。そのことは葉月山が現役当時も云われていたことなのだ。女子大相撲の解説者など必ず出る言葉に「葉月山の腰高の事が必ず出てくる」しかし、本人は修正する気は全くなく結果的には長きに渡り絶対横綱として国内外での活躍したのだ。
沙羅は頭を下げ体勢を下げ葉月が沙羅は引っ張り上げられなくしようとするが・・・・
(ダメ!全然食い止められないそんな馬鹿な)
沙羅にしてみれば腰高の葉月なら簡単にバランスを崩して投げられると考えたがそうはさせてくれなかった。
(あれだけ腰高でありながら微動だにしないなんって・・・)
光の記憶からは葉月の現役時代この体制から負けたことは少なかった。負けるパターンは決まて頭が下がてしまった時だった。
(頭の位置か・・・・なるほどね)
この状態で頭を下げたら葉月の体勢は前屈みになってしまい不安定になってしまうのだ。
葉月は沙羅を沙羅に引っ張り上げ押し込むともう沙羅に挽回できる余力は全くなく土俵の外に押し出される、呆然となる沙羅、葉月はその場で膝を砂の上に膝まついてしまった息を荒げ激しく体が上下する如何にも力を出し切ったと云う感じで・・・。
葉月の前に沙羅が右手を差し出す。
「ありがとう」と葉月は沙羅の手を借り立ち上がる、少しよろめいてしまったがなんとか立ち上がった。
「あぁぁ、完敗です・・・・」と沙羅
「いくら引退したといえ中学生に負けるわけにはいかないんで全力出し切ったは大人げなく」と葉月は笑いながら
二人は抱き合う
「今日はありがとうございました」と沙羅
「あなたは恵まれた体格と才能を持ってるのだからそれをもっと磨いていくことよ」と葉月
「わかりました」
二人は相撲場を出て更衣室へ、光は荒れた土表を竹ぼうきで慣らしていく。
(まさか、引退したとはいえ絶対横綱の相撲が見られるとはね・・・)と光はさっきの一番を思い出す。
葉月は沙羅を上へ引き上げて動かして引き上げることで地面との足裏の摩擦抵抗を減らして沙羅を動かしやすくして押し込む、そのために自然と腰高の構えで、相手を引っ張り上げるようにして前に出る形になる、そのことは葉月自身も不安定な体勢になるのだがそこを葉月は頭をあえて高く上げることでバランスを取る、もし頭が下がれば自然と重心は前のめりになり沙羅の思うつぼ、そこを葉月は強靭な体幹を伸展する筋群の強さで上半身を支え股関節を中心にした柔軟な下半身が体全体を支える。
光は、葉月が四股を踏んでいる時にふと気づいたことがあったのだ。膝が外によく開き、腰が前に出ていることで上体が前かがみにならないことを・・・。
(持って生まれた素質かそれと厳しい稽古・・・多分本人はわかってるんだろなーだから外野の【腰高】の批判の声に一切耳を貸さなかった・・・絶対横綱たる者自分のことは自分でしかわからないか・・・)
女子大相撲のレベルの高さを上げたのは葉月山がいたからこそ・・・。
そんなことを考えていると葉月と紗理奈が着替えて戻ってきた。
「沙羅さんと色々相撲の話とかできて楽しかったです」と葉月
「葉月山さんと相撲を取れたことは私の一生の宝です」
「大袈裟ね全く、でもね私の今できる相撲はできたかな、最初は負けてもしょうがないかと思たけど中学生の全国クラスと云え元絶対横綱のプライドとして負けるわけにはいかないって、沙羅さんに花をもたしてもよかったけどね」と笑みを浮かべる葉月
そんな話をし、光は沙羅を自宅まで送ることになっていた。
「葉月さん、時間あります?」と光
「えぇ、暇してる身なんで」
「じゃここで待っていて下さい沙羅を自宅まで送ってきますんで20分ぐらいで戻ってきますので」
「わかりました」
相撲場にひとりになった葉月は相撲場全体を見回す。葉月にとっても相撲をしていて楽しかったのは中・高校の時代だった。そして自分の人生を決定づけた函館での妙義山との稽古思い出す。
(自分でもよくここまでこれたと思う本当に相撲に拾われてここまでこれたのに・・・なのに私は・・・)




