四股名を受け継ぐ者へ ④
紗理奈は車を駐車場を入れる。車から二人が降りた姿は・・・・反社?かごときの姿。女性としては長身で体格が良くその二人がGUCCIのサングラスを掛け歩く姿は、さすがは元絶対横綱の貫録か?
二人が会場に入るとその姿を見た人達は一瞬固まってしまったようになるほどの威圧的存在感、もちろん本人達はそんな気はさらさらないのだが周りはそうは想っていないようで・・・・。
その姿を見た「お仕着せ」を着た一人の女力士が二人の前に立ちふさがるかごときに二人が初代妙義山と元葉月山とは知る余地もないのだが・・・。
「すいません今日は女子大相撲協会の実技講習会でして・・・」と女力士
「わかってるよ、興味本位で見学しに来てないから」と紗理奈はサングラスをしたまま
「そうですか・・・わかりました。失礼ですが学校関係者それとも実業団の方でしょうか?」
「璃子が来てるのか・・・」
「璃子?長谷川部長とお知り合いですか?」
土俵上では女子大相撲技術指導部 部長 長谷川璃子が直々に十和桜と講習に来ている選手達と組ませて実技指導をしているのだ。
「知り合いって程ではないけど・・・」と紗理奈は平然と嘘を云う
「・・・・」(紗理奈さんなんでそんな嘘?まさか遊んでるわけじゃないですよね!?)
葉月からしたら気が気でない・・・。
「あんたの四股名は?」と紗理奈
「月光花です。でもファンの方とは云えあんた呼ばわりはされたくありませんいくら私が三段目でも聞き方があると思いますが」とサングラスを掛けたままの紗理奈を睨みつける。
「月光花か、いい四股名だ。たしか青森の戸倉農業高校だよな」
「えっ・・・」
月光花は驚いた出身地はおろか高校まで知ってることにたかが三段目の力士なのに・・・・。
「目標としている力士は?」と矢継ぎ早に聞く紗理奈。
「あっぁはい、十和桜関です。今は付き人していますので」
「十和桜か・・・可愛がってもらってるか?」
「はい!稽古は厳しいですが相撲以外では色々可愛がってもらっています。十和桜関も色々ありましたし今日も見学者の方からヤジも飛ばされていましたが我慢されていました声をかけられな程に、逆に私の方が・・・・」
「月光花!」と紗理奈
「あっはっはい」
「おまえが力士として上を目指すのなら十和桜がどうこれからもう一度三役に帰り咲くのかよく見とくんだそれと、付き人して十和桜をどう気分よく相撲をさせ結果を出せるかよく考えて行動しろ!一見相撲と関係ないことも知れないがこれからの自分の力士人生において必ず役に立つ、その意味では十和桜の付き人になれたのは運がよかったと想え、色々可愛がってもらえ,それと、勝ち星が欲しいのはわかるが変化は我慢して封印しろ!あんな相撲していたら幕内では通用しない十和桜関にお願いして押しでも四つでもきっちり可愛がってもらえわかったか!」
「わかりました。でも失礼ですがあなたは女子大相撲とど云う、私の出身高校を知ってる何って、私は大した成績も高校時代は残していませんし・・・なにより私の相撲見ていなければ」と月光花はさっきまでの威嚇でもしていたかのような視線ではなくなにかおしえを被るかのように・・・。
「いいから早くいけ!三段目ごときがこんなところでサボってそんなの幕内に上がってからだ!」
「あっぁはい!失礼します!」と一礼して慌てて土俵下に戻って行った。
葉月はサングラス越しに紗理奈を見る。
(この人はいつもそう、全力士の顔・四股名・出身高校すべて頭に入ってるどころか取り組みすべてが頭に入っている。紗理奈さんなら親方として指導者として優れた力士を何人も輩出できたはずなのに、この人はその道を取らずあくまでも協会としての仕事に専念している。それでも私にだけわけは稽古をつけてくれた私の所属部屋を超越してまでも・・・・。女子大相撲の鬼ではあるけれど本当は誰よりも女子大相撲の母のように・・・そろそろ優しいおばーちゃんになってもいいんじゃないんですか?)
土俵上では中・高校生・実業団選手に十和桜が相手になり女子大相撲技術指導部部長 長谷川璃子が解説を加えながら講習を進めていく。
そんな様子を見る二人にとってもアマチュア選手の時代があった。絶対横綱の二人だが高校時代は個人・団体とも優勝をしたことがないのだ。
「来年から相撲部屋が地域別から自由化ではないが大相撲と同じ相撲部屋としての形になる。当然、力士の数も本割の場所数も増える。女子大相撲は更に飛躍する年になることは間違えない」と紗理奈
「もう私は・・・」と葉月
「おまえに考え直せとはもう云わない、お前の道を私が決めるような事はしない、ただお前が最後にやるべき,いややらなければならんならないことがある」
「やるべき事?」
「稲倉のことはどう思ってる?」
「映見の事って・・・入門の事ですか?」
「本当は真奈美に聞くべきだったんだが聞きそびれてね」
「本人は医師資格を取った後に大相撲入りを考えているようです。ただそんな甘いもんじゃない、医師の試験は極端な話何回でもチャンスはあるでも入門資格は映見の場合は国家資格試験前年の女子大学生選手権か日本選手権しかチャンスはありません。それも10月下旬と12月です、それで年明けの二月に試験です現実的に不可能です。試験後に世界選手権大会がありますが、それとて日本選手権で優勝しなければ代表にはなれません私はそんな無謀な事までして女子大相撲入門を考えるのは馬鹿だと・・・」
「正論と云うかそれが現実だよな、五年・六年は医療実習・卒業試験・そして医師国家試験、そんな中で全日本での優勝を考えての稽古なんてやってる時間なんかあるわけがないから」
「だったら答えは出ていますよね?」と葉月
土俵上では講習生達が一礼をし一旦休憩に入るようだ。
「ただ、医師国家試験後にラストチャンスがないわけでわない」と紗理奈
「ラストチャンス?」
「それは・・・」とそのあとの言葉を云おうとした時、土俵下から十和桜と長谷川璃子が上がって来たのだ。
(なんなんだよこれから大事な話をするのに璃子は!)と紗理奈は口に出さずも
「理事長、まずはサングラスを取っていただけませんか?葉月さんも」と璃子
二人は一瞬顔を見合わせるとサングラスを外した。璃子は一段下がった観客スペースから二人を下から見上げるように見る。
「郡上大会に行かれていたのは聞いていましたから、でも木曾に来るなんてそれも葉月さんまで・・・」
「来ちゃいけないのかい」と紗理奈
「そんな事は云ってませんが突然来られても・・・」
「抜き打ち検査だよ、協会のトップとしての」と紗理奈平然と嘘を云う。
璃子はそんな紗理奈を横目で見ながら視線を葉月に、
「ずいぶんお痩せになって、葉月さんはもうこんな場所には来ないと想ってましたが?」
「もうわ・・・」
「私が郡上に誘ったんだよ!それだけだ」
「・・・・」
紗理奈が何故そんな嘘を云うのかわからないが・・・・。
「でもまぁぁ理事長が来られたのは偶然とは云えよかったです」と云うと璃子は十和桜を呼んだ。璃子の横に立ち二人に挨拶をする。
「今日、本当に偶然なんですが十和田富士さんがいらしゃてます」
「えっ・・・」紗理奈は一瞬驚いた。
十和桜の母である十和田富士は引退後、ほとんど表に出てくることがなかった。十和桜が入門した時もましてや十和桜が問題を起こした時も・・・。そんな十和田富士が突然とも云うべき相撲関連の会場に顔を出してきたことは紗理奈にしてみれば驚きなのだ。
紗理奈は会場を見回すと向かいの土の西側観客席にシートを張って土俵を見ている女性が一人いることに気づいた。
「十和桜、どうしてお前の母が来ているんだ?」
「理事長、私もまったく知らなかったので」と十和桜
「十和桜、十和田富士さんと話がしたいのだがいいか?」
「あっ・・はい!」
十和桜は紗理奈を十和田富士のいる観客席の方に案内する。いつになく緊張する紗理奈。十和田富士が引退後は殆ど会うことはおろか連絡も取ることもなく今迄きてしまた。それがこんなところで会うことになるとは考えたこともなかった。十和田富士との幕内昇進の大一番で大怪我を負わせてしまったことに十和田富士は紗理奈である当時の妙義山に対して逆に気を使うような態度だったが十和田富士としての引退後・・・・。力士同士そんなこと気にしていたら力士などやってられないそんなことはわかっていたのに!
元十和田富士は、紗理奈と娘の十和桜が自分の方に歩いて来ることに気づくと立ち上がり軽く会釈をするとにこやかな表情で紗理奈を見ている。紗理奈の感情が込みあがるがあくまでも平常心を装う。そして対面・・・。
「鬼の妙義山は健在ってところだね、その表情.何も変わってないね現役力士の時と」と十和田富士は笑みを浮かべて
「十和田富士さん・・・」
「十和田富士何って云うのは紗理奈ぐらいだよ全く」と鼻でわらいながら・・・。
--------東側 観客席----------
璃子は葉月の横に立ち西側の二人の様子を見ている。
「理事長にとては十和田富士さんはライバルであったと同じくらいお互い精神的に頼りにしていた仲だったけど、幕内昇進がかかったあの取り組みでの大怪我は十和田富士さんの運命を決定づけたその後は関脇がせーいっぱいだった。勝負も怪我も時の運だけど・・・・」と璃子
「本当だったら引退後は指導者や協会に残って活躍されるチャンスはいくらでも」と葉月
「そんな話はあったけど十和田富士さんは記者会見すらせず引退してその後は全く表も裏も出てこなかった。娘である十和桜が入門した時ですら一切出てこなかった。みんな裏では云っていたよ十和田富士は、まだ妙義山との一件を根に持っているのかって妙義山とはうわべの付き合いだったんだろうって」
「そんな云い方・・・」
「一度、理事長を囲んでのプライベートでもないんだが懇親会見たいのが盛岡であってねその時にサプライズゲストで十和田富士さんを呼んでみないかって話になってね、まぁ来られなかったんだけどそのことは別に想定していたことだから気にはしていなかったのだけど、偶々ある役員が十和田富士さんに声を掛けたことをポロっと懇親会の席で云ってしまって理事長が収拾がつかないほど激高してねそれ以降もう十和田富士さんの話は御法度に・・・」
「そんな話はじめて・・・」
「講習会の前に理事長との事悪いとは想ったけど聞いてね、ご本人は恨んではいないと嘘になるけど引退後は相撲から身を引く事は決めていたそうだ。ただ考えていた以上に体の衰えを感じたらしい、当然そのきかっけはあの大怪我の一戦だろうけどな、それに妙義山の幕内昇進後の大活躍は本人の前ではそんな表情は見せずも辛かったらしい、その意味では静かに女子大相撲から去りたかったって、そしてそれわ妙義山が私を忘れて相撲道に邁進してほしと云う想いも、まぁ他人がどうのこうのいう話でもないし、いまリアルで二人が会っているんだから」
「そうですね」
「ところでなんださっきのあの恰好は、サングラスを掛けたまま入ってきて場の雰囲気が一瞬固まってたじゃないか、どっかの女組長が子分連れていちゃもんでも付けに来たのかと想たわまったく」
「・・・・」葉月は返す言葉が出てこなかった。
「ブラックシスターズって感じで・・・あぁぁ怖い怖い」
「あのねぇ・・・」
「でも偶然とは云え葉月が理事長を連れて来てくれたことは感謝するよ、これで少しでも紗理奈さんの棘のようなものが取れれば・・・・でも妙にはまってたよな、ちょとサングラスを見せて」
「あぁ、はい」と葉月は璃子にサングラスを手渡す
「ふーんGUCCIのサングラスか高いんだろう?」
「それ程は・・・」
「まぁ葉月なら金持ってるだろうからな、ちょと掛けてもいい?」
「えっ、あぁどうぞ」
璃子はおもむろにサングラスをかけると葉月の方を見ながら
「どう?」
「・・・・お似合いです」葉月は一瞬言葉に詰まったが何とか・・・と想ったが
「いま、鼻で笑ったろう?」
「えっ・・・」
西側観客席では、紗理奈と元十和田富士(安田美紀)が対面で見合ったまま二人とも次の言葉が出ない、しばらくして口火を切ったのは美紀だった。
「親愛なる者との突然の再会はあるもんだな、私にとっては友人を超越した恋人見たいな人だから紗理奈は・・・・まぁ結婚はしたくはないが」と豪快に笑いながら・・・
紗理奈にとってその豪快な笑い声で十分。現役力士として活躍していたあの頃と・・・。




