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女力士への道  作者: hidekazu
勝利の意味

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20/324

プロ志望  ②

 稲倉恵美と吉瀬瞳はエアバスA330で台湾から中部国際空港へ飛行中。台湾でおこなわれた世界女子相撲選手権大会で無差別級に稲倉恵美。軽量級に吉瀬瞳が出場し結果は映見が4位入賞・瞳は2位表彰台。

 

 重量級は先日、映見が代表選考会で破った神崎絵里が出場し見事1位表彰台。映見は出場選手の中で唯一メダルを逃してしまった。この大会は二年おきに開催される大きな大会なのだが過去において各階級でメダルを逃すことはなかったのだが・・・・。


 映見は組み合わせに恵まれなかったと云えばそれまでだがひざの故障もあり準決勝でブルカリアの力士に破れ三位決定戦でも身長186 cm体重165 kgロシアの巨漢力士ポロアンナに完全なる力負け。本来なら体重110㎏弱の映見からすれば80㎏以上の重量級が適正階級なのだが各階級のメダルをと考えて敢えて130㎏の神崎を重量級に据え神崎を破った稲倉を無差別にと云う作戦だったが思いのほか映見の動きが悪すぎたのだ。それとそれ以上に心配なのは相撲に対しての情熱がなくなってしまったこと。代表選考の一件も何あそこまで選手自身が云う必要はなかったと瞳は想っていた。映見の指摘は間違いではないが云い方があるだろうと・・・・。


 高校時代は最初の一年は情熱を失いかけていたようなこともあったが三年には主将で先頭になって部を引っ張っていたことを大学に進学して映見とは離れてしまったが物凄くうれしかった。瞳が主将時代に部の意識改革を見事に受け継いでくれた。でも大学に入り本文である医学部の方が忙しくなると同時に相撲に対する情熱が失われたどころが女子大相撲の存在意義があるのかと平気で相撲部のなかで云ってみたり・・・女子相撲部から女子大相撲入りを目指している者からすれば浮いた存在になっていたのだ。それ以上に勝負に対して勝ちだろうが負けだろうが感情の起伏がないのも気にはなっていた。


 現主将に「映見はどうするんだ」と云われたのは相撲に情熱を失ったものを部には置いとけないと云うのが主将の本音なのだ。それは間違いなく部の結束を壊してしまうから。


 世界選手権から二週間後、岐阜商科大学の武田裕子からさくらの謝罪と出稽古の件で返事をすることなった。世界選手権前に提案はされていたが世界選手権が迫っていたので終わった後にと云うことで返事が延びていたのだ。


 瞳は今まで監督には選手会であった石井さくらとの一件は話していなかったが世界選手権が終わり一段落したところで選手会の一件と石井さくらの出稽古の話を切り出した。


「要件はわかった。石川さくらの件は高校側と話してくれ」

「監督、そうではなくてうちの部で石井さくらの稽古を受け入れたいんです」

「うちで・・・・」倉橋は怪訝そうな顔を

「高校には申し訳ないですが役不足です。石井さくら相手では・・・」

「瞳、何考えてる?」

「映見相手に稽古させませんか」

「映見を?」

「監督は石川さくらには興味があると思いますが」

「瞳・・・」

「石井さくらも映見と稽古ができるとなれば来ないはずはないと思います」

「映見は断るだろうな高校生相手に」

「当日まで部の全員と映見には一切伏せておきます」

「・・・・」

「石川さくらと映見は何かしら繋がってるような気がするので」

「・・・・・」

「それでは監督、石井さくらをうちの部で稽古させるでよろしいでしょうか?」

「瞳の好きなようにやってくれ」

「わかりました」


 吉瀬は後日、裕子に連絡を入れとりあえず大学でさくらと会うことにたいして一つ条件をつけた。


「石川さくらが本当に私と西経に謝罪の意志があるのなら石井さくら一人で来るように」

「えっ・・・それは」

「大学に一人で来ることに何か問題でも」

「さくらを・・・・」

「裕子さん。私がさくらさんに何かするとでもおもってるとかじゃないですよねぇ」

「そんなつもりは・・・・」

「西経を愚弄されたうえに相撲で勝負しろなんって云われた身からしたらとても許せる話ではないです。もし謝罪の意志が本当にあるのなら今まで私と連絡をつける方法はいくらでもあったはずです。それをしないで出稽古うんぬんなんって正気ですか?」

「吉瀬さんの云っていることはわかりますがまだ彼女は高校生なんです。その彼女を一人で西経の相撲部に一人でいかすのは・・・」

「わかりました。じゃ出稽古の話は白紙にします。でも私と西経に謝罪したいと云うのなら私に直接電話をするように云ってください。番号教えて結構ですのでそれじゃ」と云って電話を切る。


(彼女は必ず電話をかけてくる必ず)・・・・そして3日後。


 吉瀬は部の稽古が終わり着替えを終えるとスマホを確認。すると着信の知らせが入っている。見慣れない番号が・・・。裕子から彼女の番号は教えてもらっていた。彼女からだと・・・。


 吉瀬は正門近くの学生用ラウンジで授業で配られたプリントの確認をしていた。しばらくして映見が入ってくる。瞳の真向かいに座る。世界選手権での敗北後映見は部での立場が低下したと云うか稽古も手抜きではないが気迫がなくなっているようにしか見えなかった。そのことは部員達の士気にも影響する。監督が何も云わないことに瞳自身直接聞いたこともあるが監督は「自分が一番わかってるはずだ。映見がまだ部にいるのは色々迷ってるのだろう。映見が部を辞めたいのなら慰留するつもりもない」と云われてしまった。


「映見、率直に云うけど最近のあなたの部に対する姿勢と云うか相撲に対する姿勢目に余るものがある」

「・・・・・」

「下級生に対しても真剣に本気にやってあげなきゃ意味がない。正直云って大学に入ってからのあなたには不満がある。来年は私が主将になるけど正直今のあなたを部に籍を置くのがいいことなのか迷っている」

「少し疲れてるんです。大学に入って授業も大変なんです。それと相撲に対しての熱が冷めたと云うか」

(熱が冷めただと・・・映見わざと云っているの)

「少し相撲と距離を置きたい・・・・」とか細い声で・・・・。

「映見・・・」

正直映見から「少し相撲と距離を置きたい・・・・」なんて云うとは想ってもいなかった。

「わかった。映見しばらく部から離れていいよ。一週間ぐらい時間あげるから部のこと考えてそのうえで相撲に情熱が見いだせないなら退部しても構わない。部があなたを縛る権利はないのだから」とそれだけ云うと瞳はラウンジを出る。映見は座ったまま動こうとはしない。ちらっと映見をみる。小さくなっている映見を・・・。


 さくらから電話があって3日後、瞳は自分の方から電話入れた。本来なら翌日にも折り返し電話をすべきだったのだが映見の事なので考え事をしているうちに日が経ってしまったのだ。

 日曜日、午前9時。瞳は自宅の部屋から電話を入れる六回目の発信音の後にさくらは出た。


「石川さくらさんの電話でよろしいでしょうか」

「はい」

「西経大三年の吉瀬です。すぐ折り返し電話をするべきだったんですがすいません」

「いいえ・・・あの」

「今、自宅ですか?」

「えっ・・そうですが」とさくらが云った後少し間をおいて

「もし宜しければこれから会いませんか?」

「えっ・・」

 

 さくらと今日会おう何って考えてもいなかったがとっさに口に出てしまった。


「御免なさいねぇいきなりで、気にしないで・・・」

「いいですよ。謝罪するんだったら電話でと云うのはやっぱり失礼だし」

「大丈夫なんですか?」と瞳

「はい」

「それじゃこれから岐阜に行きます。ランチでも食べましょ。後ほど電話しますそれじゃ」


 瞳自身驚いている。なんで急に石井さくらに会ってみたいと思ったのか?


LINEが入る。映見からだった。


 「これから会えませんか?」


瞳はすぐに折り返す


 「ごめん今日はこれから人と会わないといけないので」と素っ気なく


 いつもだったら電話をするところだが今は映見と何を話すかと云うより気持ちは石井さくらと会うことでいっぱいなのだ。いや、本当は映見と今日食事をしながらと考えていた。ランチの場所も予約してた。でも今は・・・。


 春日井の自宅から岐阜へそこからバスで岐阜城眼下の材木町へ。バスから降りるとすでにさくらが待っていた。


「なんか急に会いたい何って云ってしまって本当に大丈夫だった?」

「はい大丈夫です」と云いながら相当に緊張している様子だが・・・

「なんか相当に緊張させてるかな?」と瞳は笑いながら

「あの・・・どこからいらしたんですか?」

「春日井よ」

「春日井から・・・わざわざ私に会うためにですか?」

「そうよ。それにちょっとあなたに興味があったから」

「・・・・・」

「ごめんなんか脅しに聞こえるわねぇ」

「あのぉ先日の・・・・」

「その話はランチの後でもいいんじゃないかしら」そう云うと瞳は長良川の方に歩き出す。

板塀の古い街並みを歩いていく。

「どこへ?」とさくら

「長良川のそばにある文豪屋っていう懐石料理の店」

「懐石????・・・・あのー」

「何?」

「私そんなに・・・・」

「あなたを無理やり誘ってしまったんだからランチは私が奢らせてもらうからあんまり変なことは心配しないで」と・・・


 古い街並みを抜け小さい橋を渡るとその先に板張り黒い壁に囲まれている。建物が見えてきた。入り口は店ではなく見た目は普通の木造二階建ての建物だが入り口にはメニューらしきものが吊るしてある。店内に入ると大正・昭和チックという感じで古民家が醸す重厚な雰囲気にハッとさせられる。


 二人は店内を抜け二階の座席席に通された。六畳ほどの和の空間。床の間には有田焼の大皿とあゆが二匹泳いでいる掛け軸がそして眼下には長良川の緩い流れが・・・。


       二人は畳用のちよっと大柄なソファーに向き合う形で座る。

 

「さくらさん。あなたと出会うことができたのも何かの縁。今日は少なくとも相撲はなしで」

「相撲?」

「また私が勝ったら可哀そうだから」と笑いながら

「・・・・・」さくらも声には出さなかったが顔は笑っていた。


(なんで私はこの子に興味があるのだろうか?) 


 瞳は白のグラスワインとさくらはダブルベリージュースを手に持ち「それじゃ乾杯」とグラスを上げる。

 吉瀬瞳 大学3年 21歳 石井さくら 高校2年17歳 周りの客には姉妹ように見えているのかも知れない。

 



 



 


 


 





 




 

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