四股名を受け継ぐ者へ ②
-------ホテル ロビー----------
三人は食事を終えてすでにチェクアウトも済ませ迎えの車を待っている。
「協会の車で送っていただくわけには」と真奈美
「気にしないでいいよそんなの、最初から名古屋まで送ってもらうつもりだったんだから」と紗理奈
「すいませんなんか」
「葉月が東京まで送ってくれるって云うから断る理由もないし、心配事は東京まで平穏無事に帰れるかが心配だけど」と紗理奈は苦笑しながら
「どういう意味ですか?一応単独でここまで運転してきたんですから、全く」と葉月
フロントの時計は午前九時を少し回ってる。喫茶でコーヒーを口にしながら雑談程度の話もまた楽し、日曜日のホテルは思いのほか人も多い、ましてや郡上踊りのシーズンだからなおさらなのかもしれない、こんな時間を三人とも想像すら今まですることもなかった。子供のようなくだらない意地の張り合いだったのか?そんな時、女子大相撲協会中部ブロックの広報である新崎一花が入ってきた。
「おはようございます」と理事長に挨拶をしそのあとふたりに・・・、本来なら紗理奈と真奈美を乗せ名古屋駅と真奈美の自宅マンションまで送る予定だったが、葉月の運転で一緒に東京まで帰ることは一花と云うか協会関係者からすると意外ではあるが・・・・。
「一花悪かったなわざわざ郡上まで、真奈美だったら高速バスで帰ってもらおうかなと思たけど、私が無理矢理泊めさせたから・・・わるいが自宅まで送ってやってくれ」
「わかりました。倉橋さんそれじゃ車のほうへ」と云うと一花は真奈美のボストンバッグを手に持ち車のほうへ歩いていく。
「それじゃお言葉に甘えて送らせてもらいます東京まで長いですから色々話でもしながら、ダメですよ言い争いとか特に理事長は」と苦笑する真奈美
「なんだいその云い方は、子供に言い聞かすような」と紗理奈
「釘を刺しておかないとそれと葉月さんもですよあなたも負けず嫌いだから」
「私も怒られた・・・大丈夫ですよ私は理事長よりは気は強くないし私は引くタイプなので」と葉月
「はぁ~どの口がだよ」と紗理奈
「またこんな機会作りましょうよ!今度は東京かそれとも北海道とか?」
「おまえが一番楽しそうだなぁ真奈美」
「楽しかったですよ本当に」
「そうか・・・私も楽しかったよ」と紗理奈は嬉しいそうな表情で真奈美を見る。
「私も本当に楽しかったです。また是非!」と葉月も真奈美を見る。
紗理奈と葉月はお互い顔を見合わせ何やら含み笑いと云うか・・・・。
「なんですか二人で?あーなんか感じわるい!」と真奈美は憮然とした表情で
「東京まで長いから仲良くしないとな」と紗理奈
「まぁー耐えられなくなくなったらサービスエリアに置いてきますから」と葉月
「理事長、捨てられないように」と真奈美はニヤニヤしながら
「大丈夫だよ、車中で寝るからそうすればいらん事云わなくて済むだろ」
「それが得策です。じゃーこれで」と真奈美は正面玄関から協会の車でホテルを後に・・・。
紗理奈と葉月も真奈美を見送ると駐車場のほうへ歩いていく、夏の日差しは容赦なく肌を刺す。青い空に綿雲が「ぽっ・ぽっ」と浮いているの如何にも夏である。
葉月はCX-5のリアハッチを開け自分と紗理奈の荷物をいれるとエンジンを掛けエアコンのスイッチを入れるとドアを閉めた。
「車内熱いんで涼しくなるまで」と葉月
「あぁ・・・葉月、ちょと寄りたいところがあるんだけど時間あるか?」
「えぇ、半無職みたいなもんですから」と葉月
「そうか・・・じゃー悪いけど」
-------東海北陸自動車道 車中----------
真奈美を乗せた白のアルファードは一路名古屋へ、新崎が運転し真奈美は二列目のキャプテンシートにオットマンに両足を委ねまるでVIP気分で・・・・。
「如何でしたか三人の時間は?」と一花
「楽しかったわよ理事長とは大阪でのトーナメント以来だけど、あの時はどこかお互い見合ってしまってたから、今回は変に気負うこともなかったしね」と真奈美
「葉月さんは?」
「うんぅ・・・最初こそは何か堅苦しい雰囲気もあったけど食事のあと郡上踊りに参加してね」
「郡上踊り?」
「ホテルで浴衣と下駄を貸して貰ってね、それで会場までバスで送迎してもらって」
「へぇー皆さんでですか?」
「そうよ、紗理奈さんと葉月さんはうちの部員達にレッスンしてもらってね」
「倉橋さんは?」
「私はみっちり練習してきたからなのに!」
「練習?」
「瞳に木札を持っていかれて!」
「彼女、個人戦で負けましたね?」
「踊りの練習にリソースを注ぎ過ぎて自滅よ何考えてるのよ全く!戦犯者よ!」と真奈美はまたふつふつと・・・・、団体優勝を逃した怒りなのかはたまた木札を貰えた怒りなのか・・・・。
車は木曾川を渡り愛知県に入る。元々女子大相撲とは距離を置いていたこともあり中部ブロックの協会関係者とも会わざること以外は関係も持たなかった。実に大人げないとは想いながらも・・・。
「倉橋監督、稲倉の・・・」
「ねぇ、その倉橋監督って云うのやめない真奈美でいいわよ」
「あぁ・・わかりました。朋美も名前で呼ばすんですか?」
「朋美?あいつは倉橋監督よ当然でしょ、上下関係ははっきりさせないと島尾に関しては!」と何気に語気が強くなる。
運転している一花の肩が若干小刻みに動いたことを真奈美は見逃さなかった。
「一花、なんかおかしい?」
「えっぇぇ・・・・まぁー・・・そうでしょうね・・・」と失笑してしまう一花
「どうせ、大相撲関係者からは良いふうには見られてないんだからいいけど・・・何がそうでしょうねよまったくいい加減にしてよ本当に・・・・まぁーそんな話はいいとして、理事長がわざわざ郡上にきたのわは何?」
「聞かなかったんですか?」
「聞いたけど上手くはぐらかされた。それと葉月さんも、これって偶然?」
車は名神高速道路に入りすぐに一宮ICから名古屋高速へ入る。
「詳しくは云いませんでしたが娘さんである妙義山関に郡上に行って見るべきだと云われたそうです。
」
「横綱に?」
「その意味では葉月さんも多分妙義山関に同じような事を云われたのではないかと、そうでなければ二人が偶然にとは・・・」
「そう云うことか・・・」
「それと、稲倉のことに関心があるようで・・・」
「映見の事?」
「理事長は彼女は本気で女子大相撲に来る気があるのかと?真奈美さんは当然そのつもりですよね?」
「正直云うと迷ってる」
「えっ・・・」と一花はおもわず声をあげてしまったのだ。真奈美はその声に特段反応することもなく車窓から見える名古屋城を眺めている。車は都心環状線へ降り口の東別院まではもうすぐ。
「映見は医師になるために西経にはいった。付属高校は相撲で入ったけど医学部は実力で入ったそこに相撲は加味されてない最後は国家資格を取得しなければ医師にはなれないんだから・・・協会のあなたに云うのもなんだけど25歳が入門の上限って云うのは妥当だと思うは、四年生の大学で女子相撲をしてる選手の大半は相撲で大学に入ったようなものが多いんだから云い方は不適切だろうけどね、それを考えたら映見は凄いわ。留年しかかったこともあったけどここまでちゃんと学業をこなした上の相撲の成績、たいしたものよ」
「医学部でなければ、来年春場所には入門できるのにってことですよね?」
「ある意味運がないのかな・・・」
「そんな云いかたって」
「私はいい意味で云ってるのよ、少し考えればわかる話よ医師と力士の二刀流なんて選択はないのよ、それとも協会は入門条件を緩めてくれるのそれとも映見のために特例措置でも設けてくれるの?」
「それは・・・・」
「二兎を追う者は一兎をも得ず。If you run after two hares, you will catch neither.西洋のことわざなのよね,映見の選択は一択しかないのよ自ずと答えは決まってるけど」
車は東別院の出口を降り大津通を金山駅へ戻る形にしばらく走り車は名古屋テレビの向かいのマンション裏手に停車した。
「どうもありがとう、今度よかったら二人で食事でもしましょう、じゃ」と云うと真奈美はドアノブに手をかける。
「倉橋監督」と一花は真奈美を凝視する。
「なにーそんな目で」
「私の想っていたのとは違っていたと云うか・・・」
「何が?」
「倉橋監督なら稲倉のために、医師免許と女子大相撲力士への道をどう両立させるかを考えていらっしゃると想いましたが・・・正直がっかりしたと云うか・・・」
一花は一瞬云いすぎたと想ったが
「もし私が、あなたや朋美のように若ければ全力でどうすれば映見の二つの願いをかなえることができるのかを模索するでしょうけど今の私はそんな賭けみたいなことはしたくないのよ、映見の力士姿を見たい一方でもう相撲はいいんじゃないかなって、力士になるために一発勝負に賭けて勝てるほどあまくない、だったら医師免許の合格に全力を注ぐ、それが当たり前じゃない?女子大相撲の関係者は先の大会での活躍を見て映見の力士待望論を云う声がもれ伝わってくる。現金なものね・・・・あなたとこんなこと議論しても仕方がないから・・・・それじゃ」と云うと再度ドアノブに手を掛ける
「理事長はなにか考えているようですよ、少なくとも口には出されませんが稲倉にチャンスの機会を最良の選択を・・・少なくとも後ろ向きの倉橋監督とは・・・」
真奈美の表情が厳しくなる。
「あまり自分勝手な妄想を如何にも理事長の想いみたいな風に云うのは広報として如何なもんかしらね、私からしたら即刻首ね!自分の立場をわきまえるべきね!」と厳しい言葉を一花に投げつけ車を降りると車には見向きもせず自宅マンションの裏口から中へ・・・。
エレベーターホールでエレベーター来るのを待つ真奈美は苛立ちを隠せない
(稲倉にチャンスの機会を最良の選択を・・・そんな選択はないわ!手のひらを返したように・・・そんな話は一言も出なかったわ!ふざけんな!)




