一夜の星に願いを ⑤
「痛っ、何なのよ映見はもう!」
瞳が借りた町家の八畳間に三人は川のように横になり瞳・瑞希・映見の並びで寝ていたのだが瑞希はおもいっきり映見に叩かれたのだ。
「ふざけんなよ映見!」と瑞希が云ったところで映見は夢の世界なのか現実の世界?
「和樹・・・もう・・・キャ・・」と一人違う世界に・・・・
「女三人で泊まりのこの状況で彼氏のそれも・・・あぁぁ腹が立つ!」と瑞希はおもわず映見の鼻をつまんでしまった。「グゥーブーブブ・・・クゥ」と動物の鳴き声なのかはたまた奇声なのか?
「映見はしあわせそうね」と云いながら額に掛かっている髪の毛をはらってあげる。そんな映見を見ながら横に視線を向けると寝ているはずの瞳がいないことに気づく、(トイレ?)
瑞希はタオルケットを掛け布団の上に仰向けになる。しばらく天井を見ながら瞳が戻ってくるのを待ったが戻ってこない。
(トイレにしては遅い?)
瑞希は布団から出るとトイレに行ったがいない
(どこに行ったんだろう?)
瑞希はキッチンへそこにもいない、キッチンの脇の襖を開けると四畳半の部屋があるがそこにもいない、瑞希はその部屋から広緑へ出るとそこにいたのだ。瞳は一人籐の椅子に座りながら眼下に流れる吉田川を眺めながらテーブルには郡上八幡天然水 踊り子サイダーが置かれグラスに半分注がれている。
「横見たらいないからトイレにもいないし・・・・」と瑞希
「ゴメンなんか目が冴えちゃって、映見は熟睡?」
「映見?あぁ彼氏と夢の中よ・・・もう映見に叩かれて目が覚めてしまって寝相悪すぎよ全く」
「だから壁際にしたのよ真ん中とか寝かしたら両サイド被害被るから」
「はぁ、あのねわたしは被害にあっているんですけど!」
「ゴメン・・・サイダー飲む」
「そうね、なんかもうもう寝れそうもないし」
「じゃー持ってくるわ」と云うと瞳は隣のキッチンへ、来年になれば二人とも大学を卒業しそれぞれの道へ、ましてや瞳が青年協力隊として海外に行くことには驚きだった。外資系のコンサルと接触していたのは三年生のはじめぐらいに瞳から聞いていたのに、それが相撲の指導絡みでって・・・。
瞳は外資系の企業でキャリアアップして起業を考えているって云っていたのに・・・・。一度青年協力隊のことを聞いたこともあったが、「少し自分の事を見つめ直したいから異国の地で相撲をきっかけに無駄な時間かもしれないけど」・・・・。瑞希はそれ以降この件は聞くことはなかった。
瞳はキッチンから踊り子サイダーとコップを持って椅子に座る。そのサイダーのラベルには踊り子が描かれている。郡上八幡には鍾乳洞が点在しており、石灰岩質の地形で磨かれたミネラル豊富な天然水で仕込んだ優しい弱炭酸のサイダーなのだ。瞳がコップにサイダー注ぐと微細な泡が弾けていく。
「木札貰うところはさすがと云うか」と瑞希
「監督にすごい睨まれたのは何なの?」
「狙っていたのよガチで」
「木札を?」
「相撲場で隠れて練習していてそれを不幸にも私に見つかって」
「だったら最初から云ってくれればいいのに・・・」
「私がちらっと三人で郡上踊りに参加することを云った時は「(* ̄- ̄)ふ~ん」何って云ってたくせしてその時から練習してたんでしょう?」
「負けず嫌いが・・・」
「監督云ってたわよ、団体戦で負けたのは踊りの練習のし過ぎで負けた瞳のせいだって、戦犯者だってよ」と瑞希
「戦犯って・・・・」
「瞳が木札を貰ったから怒り倍増でしょう多分」
「なにそれ」
高校の時は、瞳とこんな会話をすることさえなかった。大学で選手としてではなくマネージャーとして相撲に係わることになったことは、本音では後悔したこともあったがスポーツ心理学を学んでいる瑞希としてはこの選択は間違えではなかったと云うより監督に拾われたのだけど・・・・。
「瞳と知り合えたことは色々意味で忘れられないそれと監督に拾ってもらわなかったら」
「監督は、自分の目にかなった人物にしか声はかけない瑞希に声をかけたのはマネージャーとしての素質を見抜いたから実際、私の足りない部分を陰でフォローしてもらっていたのは事実だから」
「えっ何急に、そんなこといままで云った事ないじゃん」
「特に、一年・二年の事にわたしいつの間にかないがしろにしてたのよ、そこを瑞希が彼女達の思っていること代弁して私にアドバイスしていたことにいつの間にかイラついていて、試合の事や映見の事そして自分自身のことばかりで主将としてやらなきゃいけないことに気が回らなくて・・・・」
「私は、瞳の女房役としてやるつもりでマネージャーになったんだから当然でしょ、それと監督は私がスポーツ心理学を専攻したこと知った上でマネージャーに・・・構内で出会ったのも偶然だったのか今考えると上手く嵌められたのかなって」
「でも、郡上で瑞希と団体戦で組めたことはちっと夢のようだったけどね、でも決勝まで行って勝ちきれなかったのは私の責任だわ」
「瞳、そう云う話はしないって云ってるでしょうまったく、勝負だけに拘らない、【文武両道】それが西経の相撲魂でしょ、負けは次の扉開けるための考える大切な時間、負けがなければ次の成長はないのよ」と瑞希は自信満々に・・・・。
「瑞希の言葉からそんなの出るんだちょっと見直した」
「少し倉橋節が入っているけどね」
「そう思った」
二人は顔を見合わせ笑みを浮かべる。テーブルになぜか置いてある目覚まし時計の針は三時三十分を指している。眼下の吉田川のせせらぎは月夜の明かりに照らし出されキラキラと輝く。流れる水の音は夜明け前の静けさを邪魔にしないように静静と流れる。
「一つ心残りのことがあってね」
「心残り?」
「来年、さくらがはいってくるじゃない、映見とさくらのダブルエースと云うかその中に私もいたかったと云うか」
「留年すればいいんじゃないの」と瑞希は笑いながら
「映見の主将も見て見たいし、留年は勘弁だけど」と瞳も笑いながら
「今日の映見ある意味完璧と云うか何か余裕があったような気がしたけど」と瑞希
「東京での大会以降絶不調だったけど妙義山さんとの遠征から帰って間開けずに別人見たいになってるし」
「映見は妙義山さんや百合の花さんに一目置かれている。女子大相撲は映見の入門を切に望んでいることはわかるけどまずは医師免許でしょ・・・」と瑞希
「映見のことだから当然二つ獲りに行くでしょ」
「二つって、医師免許はともかく女子大相撲は条件が厳でしょ?入門前の日本選手権優勝か世界大会三位以内って・・・」
「映見が自分から云ったんだからやるでしょましてや一回しかチャンスはない、それがものにできなければ自動的に女子大相撲の道は絶たれる。はっきりしてるわ」
「瞳って映見が女子大相撲に行くことにあまり賛成はしてなかったよね?」
「映見には向いていないと想ったから特に大学に入ってからの映見には何か相撲自体にもう興味がなくなっつてしまったように見えたし本人もそんなこと云っていたし性格的にプロ向きではないと・・・でも初参加した高大校の敗北は映見にとっても西経女子相撲部にとっても大きな転機だった」と瞳
「そうだね、私も含めてどこか慢心があった。実力的には断トツの違いがあったはずなのに・・・」と瑞希
「決勝の時、映見が僅かだけど震える程緊張していたのよ、あんな映見初めて見て・・・」
「そんなこと気づかなかった・・・」
「映見にはわかっていたのかもしれないだからこそ絶対に勝たなきゃいけないって、でも最後はさくらに力負け、これで映見も終わるのかなって・・・でも幸か不幸か混合団体戦に選ばれたそして監督は映見がもっとも尊敬する元葉月山、そして今日も・・・、映見の浴衣って葉月山さんが着ていたのと同じ柄だった葉月さん驚いた表情してらしたけどね、葉月さんと映見は何か運命づけられたものをお互い感じてるんじゃないかと想うのよ、映見、最近いい意味でずぶくなったと云うか自分のペースで安定的にできるようになったじゃない、いままではなにか気負いがあったけど今はちょっとと云うところもあったけどね」と瞳
「大体さぁー三人で泊まりなのに夢のなかで彼氏とHしてる夢とか見るか?」と瑞希
「いいんじゃないの映見って意外と美人だし」と瞳
「でも、あの寝相はねぇー、意外とセックスとか激しそうだし「モォウー」とか雄たけびあげてそうだし」
「牛じゃないんだし」と瞳
「牛と云うより闘牛でしょう?」
「闘牛って人間の相撲と同様、前頭から横綱まで番付があるんだって」
「へぇーじゃー映見は横綱?もっと云えば絶対横綱!なんかやばそう」
「彼氏って相撲やってたって云ってなかったけ?」と瞳
「あぁぁそう云えばそんな事云ってたわ、でも相手が映見じゃさぞかし・・・・」
そんな無駄話をしていると、さっきまで二人が寝ていた八畳間のふすまが突然すごい勢いで開いたのだ。そこには仁王立ちの映見が!
瞳は平然としていたのにたいして瑞希は大声をあげてしまうほどの驚きようで・・・・。
「映見!開けるならあけるって云ってよびっくりするじゃない!死ぬかと思ったわまったく」と瑞希
「私の事云ってましたよね!」と語気を強める映見
「別に悪口云っていたわけじゃないし」と瑞希
「闘牛が何とかで私が絶対横綱でなんたらかんたら!」
「いいや別ににね・・・恐ろしほどの地獄耳」
「瑞希先輩!私の事が・・・うらやましいのはわかりますが・・・」と映見
「はぁ~?映見私に喧嘩売ってんの?」
「瑞希、映見の方が一枚上手よ」と瞳
「かぁー!」
「映見、サイダー飲む?」
「はい、主将」
「今持ってくるわ」と云うと瞳はキッチンへ・・・。
「口でも映見に負けるとわ・・・」と瑞希
「瑞希先輩に鍛えられましたんで」
「かぁー!むかつくこの女!」と映見の首を絞める真似をする瑞希、こんなことができるのもあと僅かなのだ。
郡上の空には無数の星がキラキラと輝く。三人は籐の椅子を横に並べ・・・・。
「映見、次期主将として女子相撲部をたのむわよ!」
「主将・・・」
「来季はさくらが入ってくる。ある意味西経女子相撲部最強の布陣になる。そのことは当然他校のマークも厳しくなるだろうけどそこは映見が上手く統率力を発揮して引っ張って行って精神的苦しみを克服した映見なら大丈夫だから自信を持って、それと・・・・絶対女子大相撲は途中で諦めたらダメよ!途中であきらめたら一生後悔する。泣いても笑っても勝負は一回だから!」
「主将・・・」
「葉月さんと何か話した?」と瑞希
「雑談程度で・・・」
「今日、葉月さんがわざわざ郡上に来た目的にさくらや映見に何か伝えたかったたとえ会わずとも・・・なんかそんな気がした」と瑞希
「瑞希先輩・・・」
「映見が女子大相撲に入門できたら映見は【葉月山】の四股名を使うべきだわ!それは力士としての映見の覚悟として!」
「葉月山の四股名は・・・」
「私も瑞希の意見に賛成する。絶対横綱葉月山の四股名を継ぐ者は選ばれし者しか継ぐことはできない、わたしには映見しか浮かばない」と瞳は映見に強い視線を・・・・。
三人は満天の星が輝く郡上の空を見ながら何を願うのか?
『星に願いを』(When You Wish upon a Star)
星に願いをかけるとき
あなたが誰かなんて関係ない
心の底から願えば
何でもきっと叶う
もしあなたの心が夢の中にあれば
どんな願いも 願い過ぎなんてない
あなたが星に願う時
夢見る者がそうするように
運命は優しい
愛すべき人々の
密かな願いを
優しく叶えてくれる
それは青天の霹靂
運命は歩み寄り あなたの心を見通す
あなたが星に願う時
夢はきっと叶う




