一夜の星に願いを ③
---------ホテル内 お食事処 長良川---------
山下紗理奈・倉橋真奈美・椎名葉月の三人が揃うことは多分もうないだろう。そのことはお互いわかっているはずなのにどうも話が・・・。
テーブルには美濃焼のぐい呑みが伏せたまま、先付けさえも出ていない。
「もうお二人ともそんな黙ったままじゃ先に進みませんよ」と云うと真奈美は白木の入ワインクーラーにっている【MIZUBASHO PURE】を取り出し濡れた瓶をウェスで拭くと二人にぐい呑みを手に持つように促す。信楽焼の徳利に移し替え二人にぐい呑みに注いでいく。
真奈美が自分のぐい吞みに注ごうとしようとした時に葉月が
「真奈美さん手酌は、私が」と徳利を受け取り真奈美のぐい呑みに注ぐ。
「ありがとう」と真奈美が云うと葉月はゆっくり注いでいく。
「紗理奈さんや葉月さんと食事する何ってちょっと光栄です。こんな機会なかなかないでしょうし先の大会もうちの稲倉がちょっとあんなことになってゆっくり話する時間も取れませんてせんでしたしなんか遅まきながら私達の慰労会と云うことですかね理事長?」と真奈美
「あの大会は素晴らしかったよ、けして楽な戦いではなかったけど選手はもちろんだけど采配も見事だったと想うけどまぁうちのバカ娘があんなことぐらいで・・・」
「いいんですかそんな事云って、二代目妙義山ですよ初代は誰でしたっけ?」と真奈美は笑いながら
「初代妙義山にはまだまだ及ばないわ」と紗理奈
「さすが初代のお言葉は重いですね」と真奈美
「馬鹿にしているだろう真奈美」
「いえいえとんでもございません大阪の大会で完膚なきまでに敗北させられた身としてはとてもとても」
「アマチュアの時の勝ち逃げが許せなくてねぇようやくリベンジできていい冥途の土産になったわ」
「よく云いますよ全く」
料理は焼き物に、当然に郡上の鮎の塩焼き。「やはり、鮎は、ふつうの塩焼きにして、うっかり食うと火傷するような熱い奴を、ガブッとやるのが香ばしくて最上である」とあの美食家北大路魯山人も云っていたほどに、そしてわたも飲んべいにはたまらない。
「紗理奈さんが葉月さんの才能を見抜いて女子大相撲に入門させたことは日本の女子大相撲の分岐点だったかもしれませんね、これだけの名力士を発掘したと云うか失礼ながらあの当時の葉月さんの相撲の成績からは想像はできなかった隠れていた才能を見抜いたと云うか」と真奈美はちらっと葉月を見る。
葉月はその問いには答えず表情も変えずあゆのわたで日本酒を・・・・。
「才能何って大したことじゃない!才能を生かすも殺すも稽古と本人の強い意志と努力があって初めて才能は開花する。私は葉月にそれを感じたただそれだけだったんだよ!」と紗理奈もぐい呑みで一気に日本酒を・・・。
「ですってよ葉月さん。才能何って人に見出だしてもらわないとわからないものだと、私は才能ののうは脳みその脳だと想っているんです。うちの相撲部員達に学業をおろそかにするものは相撲をさせないのはそう云うことなんです。【文武両道】他校からすれば寝言のように聞こえるでしょうが頭を使えないものはダメです。紗理奈さんを目の前に云うのもあれですが相撲養成所みたいなことはしたくないんです。その意味では女子大相撲には貢献できていませんが・・・」と真奈美は真剣な表情で
「本当に久しぶりにアマチュア相撲を見て初めて新相撲と呼ばれていたあの時代を思い出したよ。私はもう学生ではなかったが、そこで真奈美と対戦して見事に初代優勝の称号を持っていかれた死にたいぐらいに悔しかった」と云いながらもどこか緩い表情ではある紗理奈。
「こんなこと云うんだからとても女子大相撲何っていけないわよね、想像しただけでも恐ろしいは」と真奈美も緩い表情で・・・・・。
そんな二人の会話は多少なりとも葉月の気持ちも和ませていた。
「私を理事長がスカウトしてくれなければ私の人生はどうなっていたのか・・・・・」と葉月の表情が曇る。
「どうなってもないよおまえなら何をやっても成功していただろよ、だからわたしの目にとまった。私はおまえが精神的に弱っているところ狙った。葉月にとっては屈辱だったろうけどなでもなぁ・・・」
「紗理奈さん今そんな話は、もうそう云う話はなしです全く。紗理奈さんお酒注ぎますから出してください」真奈美が酒を注ぐ。同じく葉月にも・・・・・。
二人の間を取り持つ緩衝材の役目をになっているのが真奈美というところなのだ。料理が次々と運ばれ進んでいく、会話もまぁそれなり・・・・。
最後に抹茶と上生菓子で・・・・・。
三人に揃っての食事というのは、それぞれ想うところはある。女子大相撲の基礎を作った山下紗理奈・女子大相撲歴代最強であり世界からも愛された葉月山・日本の女子アマチュア相撲の指導者として先頭に立つ倉橋真奈美。今までこの三人が同じ空間にいることはほとんどなかった。そこにはそれぞれ相手に対して意味もない齟齬の様なものがあったのは事実。それが尾ひれをつけたように世間には見られてしまっていたてのも三人にとっては余計に疑心暗鬼になっていたのだ。
「なんか三姉妹って感じしません」と真奈美
「三姉妹?」と紗理奈
「口うるさくてぶっきらぼうだけど本当は妹想いの長女・紗理奈。もっと素の自分を出したいのにそのことを拒みいつのまにか壁を作ってしまう三女・葉月ってところですかね?」と真奈美
「おまえが抜けているじゃないか真奈美はなんだい?」と紗理奈
「私ですか?そうですね、長女と三女の間をなんとか取り持とうとして神経を使う気立ての良いついでに頭も切れる次女・真奈美ってところですかね、ハイ」と真奈美は云うと抹茶を一気に飲み干す。
「なんだそりゃ自分は随分あれなんだな、葉月、真奈美には気をつけろこいつの腹の中はどす黒いものが渦巻いてるから何思ってるかわかりゃしないこの女は」
「真奈美さんの自己評価はその通りですが、どこか感情的で切れやすいところもあるのかなーって逆ギレされたら収拾つかなそうな怖さが」と葉月
「逆ギレ?こんなに気弱な私が・・・葉月さんあなたは私の本当の姿を知らないわ」
「気弱だぁどんだけ面の皮が厚いんだよお前は」と紗理奈は半ば呆れたような表情をしているが・・・。
「それはお互い様ですよ、理事長・・・」
本当はもっと早くこんな機会をいくらでも持てたはずなのに・・・。
そんな話をしているとホールスタッフの女性が話しかけてきた。
「もしよろしければ山を下りた大手町で今日は郡上踊りがありますが如何ですか?もしあれでしたら浴衣と下駄のご用意も致しますが」
「郡上踊りか・・・お二人はどうです?」
「真奈美行きたいなら行ってきなよ私はホテルにいるから・・・」
「そんな事云わないで行きましょうよ紗理奈さん葉月さんは?」
「あぁー・・・行きますよ私も、盆踊りなんかなんか子供の頃の記憶しかないんですけど」
「さすが葉月さん話が早い、それに実はうちの三人が郡上踊りに参加するらしいしちょっとそれも見てみたいし、で理事長は?」
「二人が行くならしょうがないか・・・」としぶしぶ云いながらも
「じゃあ決まりですね。じゃあすいませんがお願いします」
「わかりました。フロントに浴衣と下駄を用意してありますので選んでいただいてお部屋の方で着替えてください、八時に玄関から車を出しますので他のお客様もいらっしゃいますのでご一緒に帰りはまた迎えに行きますので」
「わかりました」
フロントで元力士のふたりと元アマチュア選手の三人は浴衣を選び部屋で着替えをして改めてロビーで見せ合うことに・・・・。
紗理奈は、濃い青色地に、水色の流水模様。水の流れの合間から、2種の水車と笹の葉が見える柄を
葉月は、落ち着いた雰囲気の紺色地に、ごく薄い黄土色のラインで全体に描かれた芍薬の花と葉をあしらった柄を・・・。
「改めてなんだいその柄は」と紗理奈はおもわず真奈美を見て口走ってしまったのだ
「えっ何か?」と真奈美は意味がわからない
真奈美は、淡いミルキーピンクの布地にピンクのバラをあしらったどちらかと云うと若い女性向けと云うか・・・・。
「おまえはいくつだっけ?私と大差ないだろうが、なんだいピンクの地にピンクのバラって十代・二十代の娘じゃあるまいし」
「気持ちは二十二歳なんですいません」と真奈美
「けっ、付き合ってられないわまったく」
「真奈美さんお似合いですよ、多分、三人が見たらわからないじゃないんですかね?」と葉月はニヤニヤしながら・・・。
「ありがとうね、多少はね気もひけたのだけどここは思い切って可愛いくいこうかなって」と真奈美も自分で笑ってしまったがそれでも本人は結構気に入っているのだ。
「皆さんお集まりになられましたので出発いたします玄関前の車にご乗車ください」とスタッフの声が、止められているマイクロバスには十数人が乗り込んだ。
バスは、郡上八幡城下のホテルをでると曲がりくねった山道を下っていく。バスは安養寺 宝物殿の手前でUターンして停車。
「十一時にこの場所に来ますので遅れないようにお願いいたします」とスタッフが云うと宿泊客はバスを降りて大手町の会場へ向かう。祭りばやしの音色は如何にも盆踊りと云った感じで・・・。
>夜風が君の髪をなで、月がぽっかり浮かぶころ、
「郡上のナァ〜」の唄声と、 三味に太鼓に笛の音が、
川の瀬音に重なって、郡上おどりの夜がひらく。
ゆれる提灯、ゆかたの影、 響く手拍子、げたの音。
忘れかけてた日本の夏。 心おどる夢一夜。
郡上八幡観光協会HPより引用




