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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの想い・それぞれの願い

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郡上の夏 ⑥

「さすがね映見」と椎名葉月はささやくように


 チノパンにネイビーのコットンツイードジャケットをさりげなく、TALEXのドライビング用サングラスをかけ観戦していた。土俵からは若干遠かったがそれでも彼女にしてみれば稲倉映見・石川さくらの一戦を見れただけで十分なのだ。


(今から戻れば、日付が変わる前に家に帰えれるか・・・・)


関係者席にいる山下紗理奈は倉橋真奈美と島尾朋美と何か談笑のような感じだが、そこに加わるつもりもない・・・・。


相撲場から駐車場へ歩いてく。時刻は午後四時前、八月の郡上の空は真っ青に日差しは夏真っ盛りと云う感じて゛肌を刺すように熱く鋭い・・・。


「椎名さん!」と後ろから呼ぶ声


(京子さん・・・)


「よかった人違いじゃなくて」と女子相撲関係のフリーライター中島京子だった。


「お会いするのって高大校以来ですね」と葉月


「まさか郡上に来られている何って」


「私もこんなところまで来るとは想ったこともなかったんですが・・・ちょっと行ってみてもいいのかなって・・・」


「どうでした?」


「何か中学生・高校生の頃ってこんな感じのようなところでやっていたなぁーって、規模とか観客とか全然違いますが何か一番相撲が楽しかった頃に帰ってきたような気がしました」


「あぁぁ、稲倉と石川の・・・」


「あぁぁすいませんそうですよね、そうですねぇ、ふた・・・すいませんもうそう云う話は」と云うと葉月は駐車場に向かおうとするが・・・


「そんなに嫌ですか相撲の事を話すのは」


「もう女子大相撲とは縁を切ったので」


「スポーツ雑誌に女子高校生が主人公の連載小説書いてらっしゃいますよね?」と京子


「・・・・・・」


「連載小説書いたり市川からわざわざ郡上まで来ますか?何しに来たんですか相撲とは関わらないと云っている方がおかしいでしょ?」


「今は、色々お世話になった方のあいさつ回りやら残務整理を郡上に来たのは富山に用事があってその帰りに寄っただけです、小説は前から約束していたものなので・・・・」と云うと足早に逃げるように駐車場のように歩いてく葉月。別に逃げるような理由はないのに・・・・。


 駐車場のほうに足早に歩いていく葉月の胸の内は自分にもよくわからなかった。純粋にアマチュアの相撲、いや映見とさくらの相撲を見たかった・・・それと、純粋に勉強と相撲に邁進していたあの頃をもしかしたら見れると想ったからあの時の自分をダブらせて、でもそんなことはあるわけはないのだ!引退して相撲とはと云っておきながら・・・。


 葉月はCX-5のドアを開け乗り込もうとした時、若い女性の声が・・・・。


「葉月さん!」とその若い女性は走って来たのか息は切らせながら、膝に手を当ててしまった。


「一花さん」女子大相撲協会中部ブロックの広報である新崎一花。


 理事長が来ていれば誰かしら関係者が来ているとは想ったが・・・。


「久しぶりね・・・」と葉月はにこやかな表情を繕おうとするが。


「山下紗理奈が葉月さんと食事がしたいそうです」


「・・・・」


「私は気づきませんでしたが山下紗理奈はすぐに気づいたそうです。体系がまるっきり変わられてもサングラスをされていても・・・・」


「もう女子大相撲とは関係がないのだから今更会う必要もないでしょ?ましてや理事長と会ってどうしろと」


「理事長ではなく山下紗理奈として会いたいそうです、それでもだめですか?」


「新崎さん悪いのだけど・・・」と云って車に乗り込もうとした時、


「葉月山も地に落ちたもんだね!日本のいや世界のアマチュア力士から尊敬され今でも尊敬の念が堪えない女力士、その実態は性根の腐った女力士でありながら表面だけ繕って・・・元絶対横綱でございます。笑わせるな!」と中島京子は椎名葉月の目に視線を合わせ微動だにしない。それは立ち合いように・・・。


 葉月はその視線に耐え切れず視線をずらしながら車に乗り込もうとした時、【ビシャ】と頬を叩く音、京子が葉月を引っ叩いたのだ。


睨み返す葉月、それを真正面からその視線を受けて立つ京子。そして協会関係者である一花は戦慄に似たようものを・・・。


「なんだいその目は!女子大相撲がここまでになったのは葉月山の功績が大きい、色物と云われていた女子大相撲をここまでにしたのはあんただろうが!でも所詮は色物、性根の腐ったあんたにお似合いの世界だけどな」と京子が云うと、葉月はおもわず首元をを摑まえてしまった。


 京子はそんなことをされても全く動じない。まるで喧嘩なれでもしているほどに冷静なのだ。


「殴るかい、私が先に手を出したんだから構わないよ!」


「・・・・・」葉月は何も答えず京子から手を放す。


 側でこの状況を見ていた一花はほっとはしたが・・・。


「新崎、理事長はどこの店で待ち合わせる予定なんだ」と京子


「えっ、はい郡上八幡のホテル雪花園です。今日はそこに御泊まりになりますので・・・」


 京子は葉月の顔を見ながら・・・


「郡上八幡のホテル雪花園だ。車のナビで行けるでしょ、相撲はあなたの人生を変えた、屈辱だったろうけど・・・でも、いまのあなたがいるのは女子大相撲のおかげであることは紛れもない事実。妙義山があなたをスカウトしていなかったらあなたも死んでいたんじゃないのかい!


 両親や弟を失ったそして牧場も失った苦しみは私にはわかるはずもないよ、ただ云えるとすれば妙義山はあなたの命を救った恩人であること、あなたは認めないだろうけど・・・。あなたが女子大相撲の裏方として引っ張ってくれないことは落胆ではあるかもしれんがそうなることぐらい予見はしていただろうあの方なら・・・だったらそれでいいじゃないか!あなたが自ら二人の間にかかっている橋を落とす必要があるのかい!」


 京子は高大校で葉月と二人きりで昼食を共にした時に感じた印象は、極限まで薄いガラスのような元力士・・・本当の葉月山は物凄く繊細な心の持ち主でありけして精神的には強くないのかもしれない、でもそんな自分の弱さを撥ね退けてきた。本当は女子大相撲の世界で生きていけるようなタフさはなかったのかもしれない、ただ逆境に立ち向かい女子大相撲で生きていくしかなかった・・・・ただそれだけが生きていく方法だった。


 京子は取材があるから相撲場に戻ると一花に告げると足早に相撲場の方へ、葉月は深く深呼吸した後に車に乗り込む。フロントウィンドウ越しに見える一花の表情は何か云いたそうだったが葉月は車を走らせ駐車場をあとに・・・。


 一花は葉月のCX-5が駐車場から出ていくのを見届ける。


(葉月さん・・・理事長は絶対横綱・葉月山を心から尊敬されています。自分がスカウトしたからどうだとかそんなことは一切思っていません。今日はあくまでも山下紗理奈であり初代妙義山としてそこには理事長という気持ちは一切なく・・・郡上に来たのは偶然ですか?理事長は来ることを知っていたような感じも受けますが・・・)


-----------相撲場------------------


大阪でおこなわれた女子大相撲トーナメントでの【栄光の名力士対決】以降紗理奈と真奈美は顕著に連絡を取りあうわけではないが以前ほどの緊張感はなくなっていた。


「さすが、世界大会での活躍そのままだな二人とも」と紗理奈


「えぇ、あの大会は無謀なものだと想っていますし、もうやめていただきたいと云うのが正直な気持ちです。でもアマチュア二人にとっては極限の大会だったでしょうけど間違いなく得られない経験をしたのは彼女らのこれからの相撲に良い意味ではよかったと想います。理事長の決断は間違えではなかったとは想いますが、もう売られた喧嘩はみたいなことは・・・」と真奈美が云うと紗理奈は僅かにふいてしまうような表情を、


「何がおかしいんですか?私は真剣に」


「売られた喧嘩って、基本は売られた喧嘩何って買うべきではない、喧嘩を売ってくる方にメリットはあっても買う方にはデメリットはあってもメリットなんかないって云うのが普通だけど私は、日本の方にこそメリットがあると踏んだから受けたんだ」


「メリットって・・・」


「ロシアは女子相撲大国と云っていい競技人口含め日本に勝ち目はないと云われている。でも相撲の質については日本の方が上だとプロアマ問わず、だから喧嘩を買って博打に買ったそんなところかな、その意味ではアマチュアの活躍なくして日本の優勝はなかったが真奈美の云うとおり無謀であったしまんまとロシアの条件を飲んでしまったことをお前に怒られてもしかたがないが女子大相撲も国際化の波は避けられない、世界ツアーの開催は日本潰しのアピールに最も最適なステージと踏んでいるロシアにとっては前哨戦見たいな位置づけだったんだよあの大会は、そのロシアが負けた。絶対的エースのアンナでクリミア出身の彼女で勝つことにロシアとしての意味があったんだがなでも彼女にしてみればあの相撲がほんの僅かなロシアに対する抵抗だったんだろう」


「何か聞いていますか。ロシアの相撲連盟からも名前が消えていますし、経営していた会社の件も・・・」


「彼女なら覚悟の上でのあの相撲だったんだろう、あとは彼女の決断次第だロシア人として生きていくことを誓うのか・・・厳しい云い方かもしれないがなあ」


 そんな話をしていると、新崎が戻ってきて何かしら紗理奈に耳打ちをした。紗理奈は何度か頷きながら、真奈美は若干紗理奈から離れてその様子を何気に見ている。


 土俵の側では各階級の写真撮りと取材記者のインタビューを受けている。当然その中には中島京子の姿も・・・・。


「真奈美」


「はい」


「もう直接帰るのかい?」


「えぇ、部員達は今日は郡上八幡に泊まるそうですが私は・・・」


「明日何か予定でもあるか?」


「予定ですか?いえ特には・・・」


「今日、郡上八幡に泊まるんだが真奈美・・・どう?」


「どう?って泊まらないかってことですか?」


「・・・・まぁ」と真奈美から視線を少し逸らしながら


「・・・わかりました。いいですよ、紗理奈さんのお誘いをお断りするのもなんですし」


「特に、無理はしなくていいから・・・」


「じゃやめましょうか」と真奈美はニヤニヤしながら


「えっ・・・」


「冗談ですよ全く、でも誰かと会われるとかないんですか?」

 

「ちょっと予定していた人が無理そうでね?真奈美なら相手してくれるかなって?」


「なんかしかたなく私でいいか・・・見たいに聞こえますが?」


「相変わらず・・・鋭いね」とニヤニヤする紗理奈


「わかりました。今日は学校のミニバンで来てるので先に帰るように行ってきますので」


「悪いな、宿まで新崎が送ってくれるそうだから」


「わかりました」と真奈美は部員達のいる選手控室へ・・・。


 関係者席には紗理奈と一花が座りながら



「紗理奈さんいいんですか葉月さん来られたら?」


「真奈美ならいいんじゃないか」


「でも・・・」


「あいつは来ないよ、たぶん・・・・」



(愛莉(妙義山)が郡上に行くように云ったのは私と葉月を合わすため・・・・何かおかしいとは想ったが、葉月も愛莉に何か云われたか)









 

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