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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの想い・それぞれの願い

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郡上の夏 ⑤

 一般無差別級クラスは、淡々と試合が試合が進行し決勝戦へ、ファンの期待通りと云うか出来過ぎと云うか・・・稲倉映見と石川さくらの決勝戦。団体戦では対戦相手に恵まれず一回戦敗退と云う結果にはなったが、個人戦は自分として落ち着いて相撲がとれ、強豪の大学・実業団選手を破り見事決勝へ。


 対する稲倉映見もリーグ戦での不調が嘘のような動きで決勝に進出。映見自身は妙義山とのアジア遠征の疲れがないと云えば嘘になるがそんな事よりも何より気持ちが充実していることが今の映見にとっては嬉しくてしょうがないのだ。ましてや対戦相手はライバル・・・と云うのは【まだ早いわ、さくら】と内心は想ってはいるが油断ならぬ相手。


(高校選手権で勝って調子に乗っているからね、さくら調子に乗ると何するかわからないからあの子は・・・さすがに猫騙しなんかしないだろうけど)とかいろいろ考えながらも早く対戦したくてうずうずする映見。


(妙義山さんと遠征に行っていたのはちょっとズルいけどでも映見さん調子戻っている見たいだし、高大校決勝以来また映見さんと対戦出来る何って・・・ここで勝って秋の全国選手権でもう一回勝って西経に行くんだ!初めての本気の勝負!覚悟してください!)とこの大会に懸けるさくらも万全な状態。


土俵下には二人が準備万端出番を持つ。今は、マネージャーとして映見に付き主将の瞳が隣にいるにも関わらず映見にアドバイスをしているのだ


「石川さくらの相撲は高大校の時より明らかに上手くなっている。特に左右差してからの出足一気は映見でも相当注意しないとやられる。でもここは慌てないほうがいい組むことに専念して変に受けに回ると苦しくなるから」


「・・・・」


「うん、何? 私なんか間違えている・・・・」と瑞希


「私も同意見です。さくらのパワーで一気に来られると正直受けきれるかと云う不安はあったんで瑞希先輩も同じ考えなら意識していきます」と映見


 主将の瞳は腕を組みながら二人の話を聞いているとその隣に珍しく倉橋監督がいるではないか、


「瑞希、いいアドバイスだわ。映見の弱点ちゃんと把握しているあたりはそれでも些細な弱点だけど偶に顔をのぞかせるからね、映見は押し込まれることが弱点、組んでしまえば万全なんだけど・・・島尾の事だからそこはすでに対策練ってきているはず。私もそれなりに考えていることはあるけど、ここは三人で考えなさい。今日は私はあくまでも観戦者のつもりだから・・・」と云うと真奈美はスーッと離れていく。


 三人は土俵から離れていく真奈美を見ながら


「監督もそんなに気になるんだったらここにいながらアドバイスすりゃ云いものを」と瑞希


「あれが倉橋真奈美だから・・・」と瞳


「一気に押し込まると正直そこから跳ね返すのが・・・」と映見


「ただ、さくらの相撲見ていて想ったんだけど、確かに瞬発力は上がっていると想うけどスタミナは落ちているような気がする。一気呵成の爆発力はあるんだけど最初の一撃に失敗するとそこからの長い相撲は意外と苦しそうな場面もあったし・・・」と瑞希


「さすがね瑞希、私も瑞希と同意見。だからこそ組むことに専念した方がいいそこから時間をかければ盤石だと想う今の映見なら」と瞳


「西経の相撲部に監督いらないんじゃないんですかっていつも思うけど」と映見


「うちの監督が出てくるときはよっぽどのピンチの時だから」と瞳


「監督は西経女子相撲部のアイコンだから」と瑞希


「アイコン?アイコンじゃなくて魔除けの置物?と云うか鬼瓦!」


「映見!それはいくらなんでも・・・・ハマりすぎてナーイス」と瑞希が云うと三人で顔を見合わせて笑ってしまった。


 西経の強みは部員達が個々で自主性を持ちチームとしてその個の力を一つに練ってまとめていく。監督の役割など大したことはないのだ、ただいるだけでそれで十分なのだ。監督に一から十まで聞いて来るようじゃ選手としてと云うより社会人としてやってはいけない、監督が出なければならない場面は本当の大ピンチ以外は出る幕はない!それは倉橋真奈美の監督としての信条だから・・・。確かに相撲部の座敷で部員達の稽古を見ている姿は魔除けの人形みたいなものなのだ。



「これより一般無差別級決勝を行います。両者土俵へ」と審判が二人を土俵に上げる。


二人が土俵に上がると参加していた選手達が一気に土俵周りに押し寄せる。中学生から大人までこの一戦はやっぱり見たいのだ。


 二人は土俵に上がると四股を踏み始めるとその度に歓声が上がる。全国大会ではあるがそれは町や村の相撲大会と同じような近さなのだ。


 仕切り線の前で立ちながらお互いを見合う。


(さくら、世界大会以来だね、高校選手権の試合は動画で見させてもらった。個人・団体の優勝はさすがと云うかますます上手くなっているし強くなっている。私はちょっと気持ち的に苦しい時期があったけど、もう大丈夫。迷いは払しょくまではいかないけど私も女子大相撲に行くつもりでこれからも相撲を続ける。もちろん医師の国家資格をとること大前提、国家試験落ちたから女子大相撲に行く何って選択はないから・・・)


(映見さんとこうしてまた試合ができるなんって・・・リーグ戦で何か苦しんでいたから郡上には来ないんじゃないかと想ってましたけど、来たと云うことは万全なんですね!高大校では勝ちましたけどあれは映見さんが本調子でなかったことは肌で感じていました。でも、世界大会での映見さんを見た時に正直、格が違うと・・・・でもそのあとリーグ戦は・・・、でもこの大会に来たと云うことは・・・・、私もあの大会以降進化しているつもりです。映見さん勝負です!)


「両者、仕切り線の前に」


「見合って・・・はっけよい!!」


 二人とも腰を下げ臨戦態勢


 二人とも両手を着き立ち合い成立。


 一気にさくらが猪突猛進と云う感じで押し込んでいく、映見はその速さに対応できず完全に受け身の体勢に・・・。


(くぅぅぅ、あれほど頭に入れていたのに)と映見


(よし、ここからどちらか差せればこの勝負私の勝ちです)とさくら


 さくらは左が入ると強引に前に出ていくそれに対して映見は右から小手を打ったがさくらには全く通用せずさくらは更に前に出てくる。映見は完全に防戦一方で早くも土俵際まで追い詰められてしまった。さくらは一気にハズで映見を追い込む。映見絶対絶命!


明星陣営は選手達もさることながら島尾監督自身も大熱狂で我を忘れての大絶叫。対して西経は瞳と瑞希が映見に声援を送る一方で倉橋は遠くから腕組みをしながら戦況を静かに見持っている。厳しい表情で二人の取り組みを見てはいるものの内心はそこまで焦ってはいなかった。


(今のさくらの勢いは脅威ではあるけどそこから半歩下がりながらどちらかでさくらを起こしながら巻き返しなさい、多分それでもさくらは強引に出てくるでしょうけどそこは我慢よ、いまのさくらは前に出ることだけ集中しているけどそんな相撲は長く続かないわ!)と真奈美


「さくら!とにかく前へ前へ休んじゃダメよ!!」と島尾監督の絶叫が・・・・。


 さくらはとにかく前に出ることだけを一心不乱に、映見は苦しい状態に追い込まれる。観客達も高校生のさくらがまたもや高大校の再現かと想われたが、映見はそこをうまく左から巻き返したのだ。場内の観客達から落胆の声も漏れたがもう一度仕切り直しに・・・・。しかし、それでもさくらは攻める。下手をとり寄る寄る、がぶり倒すかごとく映見を土俵際に再度追い込む。


(くうぅぅぅ、ここまでしぶとく攻めてくるとはちょっと甘かったか・・・)と映見


 俵に足がかかる映見の体勢はまるでイナバウアー状態に左足の裏は俵にのるも五本の指は砂にめり込みまるでアンカーを打つように、映見は劣勢な状態ではあるがまだ心の余裕は持ち合わせている。そんな映見の耳にさくらの悲鳴のような息遣いが・・・。


「はぁはぁはぁ・・・はぁー」とさくらの息遣いが一気に乱れてきた。あれだけ前出ることに集中していたさくらの動きが止まったのだ。


映見は必死にさくらの廻しを左手で探るがなかなか廻しまで手が届かない。


(くぅ。左が欲しいのに・・・さくらの息が戻る前に勝負をつけなきゃ、戻られたらやっかいだわ)


 息が乱れ、額に大粒の汗をかいているさくらに比べ映見はさほど疲弊はしていないにせよ、映見もここまで団体戦を含めれば十番以上はしているのでそれなりに疲れはある。ましてや妙義山との海外遠征直後でのこの大会、それでも感覚的には疲れを感じていないのは気持ちが充実しているからだから余裕がある。リーグ戦での不調は映見自身の気持ちの問題だったから・・・・。


(はぁぁ・・・映見さんの方が疲れているはずのに、まだまだ余裕があるって感じですか?くぅ、次が動かない・・・)とさくらは追い込んでいるはずなのに余裕がまったくないのだ。


 さくらは意をけっし息も苦しいが勝負に出て強引に引き付けて前に出ていく


(よっし!これでもらいました!・・・・・えっ!)


(さくら、その程度で私に勝てると・・・甘いわよさくら!)


 さくらが我慢しきれず強引に前に出てきたのを見逃すほど映見は甘くなく、土俵際ではあったが映見は半歩左足をさげで俵にのせるとさくらの体勢に僅かだが勢いがつき僅かだが体勢が崩れた、そこを映見は左で突き落としたのだ。


土俵に倒れこんださくらはおもわず拳を作って土俵を叩いてしまった、そこまで悔しかったのだ。その姿を上から見る映見は冷静に声をかけることなく仕切り線の前に戻る。さくらも立ち上がり仕切り線の前に、口を真一文字に悔しい表情を露わにしているがうつむき加減にしているので映見からはよく見えなかったが、それでもさくらがこの大会に賭けていたのはわかるほどに・・・。


 お互い礼をして土俵を下りる。映見はさくらに気を使っているわけではないが至って冷静に、たいしてさくらは悔しさを露わにして島尾朋美監督の元へ、


「惜しかったわね」と朋美


「完敗です、やっぱり映見さんは格が違いました・・・悔しい・・・」と若干涙声にも聞こえるが・・・


朋美はさくらを優しく抱いてあげた。僅かに震えるさくらの体を包み込むように・・・。


「映見さんとさくらの差はまだまだあるわね、さすがはアマチュア女王ってところね、いいところまで勝負できたけど・・・でもさくら、来年からは西経よ映見さんといくらでも稽古ができる。でもその前に全日本選手権があるけどね」


「監督・・・・」とさくらは朋美の顔を真っ直ぐに見る。目は赤くはれているように見えるがそれでもどこか納得したような表情ではある。


 そんなさくらの後ろに映見がやって来たのだ。


「さくら」と映見は至って普通に・・・。


「・・・・」さくらは映見を見る。その映見の表情は勝ち誇ったでもなくかといって慰めてやると云う顔でもない。


「私の弱点うまくついてきたよね、自分でも自覚していたんだけどちょっとさくらの動きが考えていたよりよかったんで慌ててしまって」


「映見さん・・・」と弱々しい声のさくら


「さくら、この後は秋の全国大会だね、当然私の対策を練ってくるだろうけど私はそれを凌駕する策を練ってくるから、今日はあくまでも前哨戦だからお互い探り合って本番は秋だからね!覚悟しときーいやさくら!」


「もちろんです!」となんとか笑顔になったさくら


「島尾監督」と映見


「はっはい・・・」


「さくらが西経の付属に推薦をされていながら行かなかったのは私のせいなんです。今思うと自分が何か西経で勝ち続けることで浮いてしまっていたと云うかだからさくらには・・・・、さくらが西経に来ていたらもっと相撲も上手くなっていたかもしれません。そのことは、さくらに謝らなければいけないのか知れません。ただ、今のさくらが私と対等の相撲がとれるのはOGである島尾監督だからだと・・・素晴らしいですね師弟対決とかできるなんって・・・」


「稲倉・・・・」


「さくら!来年の春楽しみにしている。私も主将としてやるつもりでいるから・・・いじめがいがある後輩が入ってきて…楽しみよ・・・と云うか入れるんですかさくらは?」と島尾監督に聞く映見


「そうねぇー現状から行くと、相当やばいかも!」とニヤニヤしながら


「えぇーそんな・・・」


「さ・く・ら・・・やばいわね、あんた」


「・・・・」と無言のさくら


「まぁー冗談はさておき、西経にさくらが行ったら稲倉さんさくらをお願いね、まだまだお子ちゃまだからさくらは」


「はい!それでは島尾監督失礼します」と一礼すると瞳と瑞希の元へ・・・・。


「さくら、西経に行ったら稲倉をはじめいろいろな人に相撲の事はもちろんだけどそれ以外の事いっぱい教わりなさい」と云うと朋美は再度さくらを抱きしめる。


(倉橋監督、さくらは私が育てた最高傑作です稲倉映見にはまだ及びませんか゛・・・・さくらをお願いします)と朋美ははるか遠くにいる倉橋真奈美に視線を合わすように・・・・。

















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