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女力士への道  作者: hidekazu
それぞれの想い・それぞれの願い

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郡上の夏 ④

 昼食を挟んでの午後は個人戦がスタートする。団体戦である意味での大活躍だった海藤瑞希はマネージャーとして二人のサポートに入る。中量級にエントリーしている吉瀬瞳は相撲場の近くの広場で念入りに四股を踏みながら体を慣らしていく。


「相変わらずきれいに四股踏むね瞳は」


「バランスの取れた力士は女子大相撲でもきれいに四股を踏むしね、でも瑞希もまんざらではないかったよ、ちょっと感動した」


「何云ってんだが、四股とかすり足とかは今だから云うけど部でみんなが来る前にちょっとやっていたんだ恥ずかしいけど、選手に未練があってといかそう云う意味じゃなくてマネージャとしても土俵の砂の感覚は感じていたかったから・・・」


「瑞希・・・」


「私にとっては郡上見たいな全国大会に大学生で出れる何って想ってもいなかったから、ましてや団体戦で決勝何ってまぁー西経の二大エースにおんぶにだっこだったけどね」


「最後の決勝で私が負けたのは正直悔しかった、なんとしても三人で優勝したかったのに・・・」


「瞳、そう云う話はやめようよ、後味悪くなるだけだし瞳がみんなに頭を下げて私をメンバーに入れてくれたことも・・・高校時代にもしそんなことされたら私は瞳を殴っていたと想う、でも今は素直に瞳の想いを受け入れることはできた。相撲を全うしたって感じだよ本当に」


「瞳・・・」


「はい、中量級の選手は相撲場へ、ハイ」と瑞希は瞳の両肩を押し出した。


中量級は瞳の独壇場で瞳の鋭い立ち合いから一気の相撲は瞳の真骨頂、スビートに卓越した技術が加わった相撲は見る者を圧倒する。決勝も実業団大会では無敵の中量級選手の南原を下し見事優勝。いつも以上に動きが良かったのはライバルであった瑞希と同じ土俵に立てたから・・・それに尽きる。秋のリーグ戦も視界良好。



 土俵を下り外に出るとマネージャとして瑞希がタオルとスポーツドリンクを渡す。


「お疲れ、相変わらずの強さだけどますます動きに磨きがかかったと云うかなんか大学で終わりって云うのは正直もったいないって感じたけど」と瑞希


「私は最初から大相撲とか実業団でとか考えていなかったしとにかく大学で燃え尽きようって想っていたから、最高の形で終われればそれでいいって」


「ちょっと残念のような気もするけどそう云うところは瞳らしいから・・・」


 試合の方は各階級が進んでいき、最後のクラスである一般無差別級が始まる。このクラスには、稲倉映見、石川さくらをはじめとしてアマチュア最強クラスが集いここから将来の女子大相撲入門者の試金石の一つとも云われている。


 当然、注目は先の女子プロアマ混合団体世界大会でアマチュアとして活躍した二人であることは間違いないのだがそれ以外にも「打倒!稲倉・石川」を狙ってきている猛者は虎視眈々と二人を狙ってきている。ただ・・・・。


「瑞希先輩、ちゃんと浴衣用意してきました?」と映見


「あたりまえじゃない、私、新調してきたから」と瑞希


「瑞希先輩が郡上へ来た目的はそれですよね?」


「そうねぇ、郡上の大会に来るたびになんか日帰りではもったいないと想っていたしどうせ夏休みなんだから急いで帰る必要もないのになんで?とは想っていたし確かに相撲の大会で来ているとはいえ、本当は相撲より・・・って映見、なに!」


「なに!って私何も云ってませんよね?」


「映見ねぇだいたいあなたはこのたいか・・・すいません映見は団体戦は負けなしだったよね、さすがと云うか・・・悔しいけど・・・・」


「いやいや悔しいの意味が分からないんですけど?」


「映見・・・」


「なんですか?」


「今日は忘れられない日になった私にとって、稲倉映見と云う西経の女王の凄さを改めて知った。瞳も含めて、凄いメンバーで団体戦を戦えたことに・・・ありがとう」と頭を下げる瑞希、それほどまでに瑞希にとってはこの大会は生涯忘れられない大会だと・・・。


「いやだなぁー瑞希先輩、それは私じゃなくて主将に云う話じゃないですか私は何も・・・でもそう云っていただけると光栄です。でもそれぐらいの素直さがあれば彼氏と別れずに済んだのに・・・ね」


「そうね、もっと自分に素直になってそして相手の事をもう少し理解しようと云う気持ちがあれば私も今頃、っておい!なんで映見にそんな事云われなきゃいけないのよ!あんたさぁー、そう云うところが鼻につくのよ!だいたい・・・」


「瑞希先輩、やっぱりそうでなくちゃ」と映見


「もういいわ全く・・・でもね、さっき云ったことは本当の気持ちだから映見は自分を信じて周りの雑音は気にしなくていいから本当に迷ったときは、監督や部の仲間がいるんだから雑談でもいいから相談して、それに来年はあなたが四年になるんだから、当然主将になるべきだと想っている。そこにさくらも加わるのよ!西経黄金時代はさらに続く・・・


 瞳はどちらかと云うときっちりするタイプだったからそれでも以前の縦社会だった相撲部から大分変ったと想う・・・映見は色々苦しいこと続きだったし上級生から標的にされたことも多々あったから・・・だから余計にあなたには主将として部を引っ張っていってほしいと想っている。本来は主将が云うべきことなんだろうけど、一応瞳の参謀として、瞳は私がいないと何もできないから、あぁ見えて意外とダメなのよ瞳って・・・男にふられたくせして未だに頑として私がふったとか云う姿勢がよくないのよ」


「あのー瑞希先輩・・・」と映見は小声に・・・


「瞳はみんなから信頼を得て頼りにされているそしてあぁー見えて意外と姉御肌なのよでもねぇ頑固なのよね、そこはちょっと折れてあげればいいことを頑として曲げないと云うか・・・そりゃ男だってさぁ勘のいい奴はあぁー瞳にちょっと我慢させたかなーっとか想うわけよ、それが頑として譲らないからかわいくない女とか想われてしまうわけよ、私は譲れば済むのなら私が我慢すれば、ようする・・痛ぁー・・・あっ瞳」


「私が我慢すれば・・・・それでもふられるあなたは私より最悪な女ってことでいいかしら、何度も云いたくないのだけど一応云っとくけど、私と話が同じレベルかそれ以上の男でないと私は嫌なのもちろん・・・セックスも・・・」


「瞳・・・・」と瑞希


「なるほど・・・」と映見


屋外スピーカーから無差別級の選手は相撲場に集合の案内が入る。


「じゃー行ってきますかね、主将の大胆発言も聞けましたので」と映見


「大胆発言って?」と瞳は真面目な顔で


「あんた今云ったでしょ、忘れたとか云わせないわよ」と瑞希


「ふられるあなたは私より最悪な女ってこと?」


「そこじゃねぇーよ!」



-----------相撲場---------------



一般無差別ラスは高校生以上なら誰でもOKの本当の意味での無差別クラス。注目は稲倉映見と石川さくらであるけれど他の選手も女子大相撲を視野に入れている選手も多くそこは単なる学生リーグや実業団でやっている一選手としてはまた違う一面を持っている。特に実業団から女子大相撲の路線としてはある意味変則的ではあるが、実業団で活躍し主要な全国大会で優勝できれば上位クラスから女子大相撲がスタートができる利点がある。その意味で郡上大会はその前哨戦の位置づけなのだ。


 映見にとってのこの大会の位置づけは後半戦のリーグ戦及び全国大会の前哨戦であると同時に妙義山との海外遠征が自分の気持ちをどこまで変えてくれたのか?結果として出せるのか?映見取ってはそこなのだ。タイから木曜日の夜に帰国して実質的には中二日の強行出場は少し無理があることは確かだがそれは承知の上で同行したのだそこに言い訳は通用しない。


 女子大相撲を目指すものからすると稲倉映見や石川さくらは女子大相撲から優遇されている見たいなことを云う者も少なくない。それは、女子大相撲としてではなく、横綱百合の花や妙義山から一目置かれて実際にプロアマ混合世界大会で実績を出しての事であってそれに難癖をつけるのはどうかと想うが、そこには西経の倉橋と云う名も難癖の対象なのだ。西経で女子相撲がしたいと云う選手は倉橋に指導を受けたいのだが他校からすると【文武両道】などと云って結果を出す倉橋が面白くないと想っている者もいる。新興の女子相撲部などはその傾向にあるのは確かなのだ。そのことが無意識のうちに西経女子相撲部部員にとって逆の意味でのモチベーションにもなっていると云うのは皮肉だが・・・。



 そして、この郡上大会には今まで一度も来たことがない二人が来ていた。一人は女子大相撲理事長・山下紗理奈。来た理由は色々あれど倉橋真奈美にぜひアマチュアの大会にも見に来てほしいと云われたことがなんとなくこの郡上に行く気にさせたのだ。前日に名古屋で相撲関係者や支援者への挨拶を含め名古屋に一泊し翌朝中部支部の関係者と車で郡上へ。ただ今回はあくまでもプライベートと云うことで来賓扱いはしないと云うことで観戦することにしたのだ。ただ席だけは用意されているが・・・。


 そして、もう一人は元絶対横綱・葉月山こと椎名葉月。代表監督をやめ完全に女子大相撲からは身を引いた葉月。それでも相撲でお世話になった関係者周りだのやるべきことはしているのだ。また、遠藤美香の旦那である勝からうまく丸め込まれて、女子相撲と競走馬関連の二本の執筆を断り切れず書くことに雑誌への連載だから穴もあけられず何かと忙しい日々を送ってる。そんな葉月も、この郡上に来る気になったのは妙義山の一言。


「郡上八幡行ってみてください、葉月さんが一番純粋に相撲をとっていた頃に戻るように」



 葉月はそれでも行くことに迷っていたが、当日の午前0時過ぎふと目が覚めてしまいどうしても寝付けなくなってしまい。午前二時に市川を車で出ることに、都心を抜け東名・新東名高速をひた走るCX-5。途中、駿河湾沼津サービスエリアで休憩しその後は一気に郡上へ。スピーカーから流れるBrice Davoli の音楽は葉月のお気に入り。


 東の空が白みだす、女子大相撲にいた時代こんな景色を見ることはなかった。正確には落ち着いた気持ちで見れることがなかった。女力士として一歩を踏み出したあの十八歳の春・・・、初めて見た都会の【朝ぼらけ~】は、その先への期待より絶望感が支配していた。あれから時が過ぎそれが間違えであったことを・・・・。


 車は新東名から東海自動車道へ入り北上する。はるか遠くに見える稜線は葉月の胸を躍らせる。


 



 




 



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